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伸也、深夜での遭遇
しおりを挟む「アッ、アサシンッ……!?」
目の前で温泉に浸かっているその男は、刹那にしか見えないけどもしかしたら刹那のそっくりさんかもしれない――とかいう微かな希望は無残に打ち砕かれるほどに発せられた声はいつもの刹那の声そのままだった。
「せ、刹那、だよな? え、ちょ、待って俺今すっげーーー混乱してるからちょっと待って! お願いだから待って!」
「別に何にも急かしてねェだろ! つーか、マジか……まさか誰か来るとはな……オマエ何しに来たんだよ!」
「何ってせっかくの露天風呂だぞ!? 入らなきゃ損だろって思って!」
「おぉ! オレ様もだ! 露天風呂があんのに部屋のシャワーで済ますなんざ勿体無いの極みだよな!」
「そうそうその通り~何だよ刹那もたまには良いこと言う――じゃないんだって! お、おま、お前、男だったのかよ!」
危うくいつもとはとんでもない違和感を無視したまま普通に会話するところだった。
何度見ても、目の前にいる刹那は顔と長い髪こそいつも通りなものの、首から下が、俺が思っていたものとは全く違う。
刹那は背が高くてスタイルが良いモデル体型だから、ただ貧乳なだけかと思ってた……ら! 貧乳とかいうレベルでもなかった。完全に男の胸。俺と同じ。
刹那は黙って俺の目をじっと睨みつけたかと思うと、今度は上から下まで舐めるように俺を見て、やっと口を開いた。
「アサシンは、まぁわかってたけどガチで男だったんだなァ……つまんねェーーッ!」
「わかってたならよくないか!? 俺はありのままで普通に普通じゃない学園に通ってるだけだ!」
「あーわかったわかった。つかもうバレちゃったモンは仕方ねェ。とりあえず湯入れよ。別にオマエなんか襲ったりもしねェからさ」
刹那が気持ち良さそうな風呂の中から手招きをする。もっと焦るのかと思ったけどそれは最初だけで、刹那は案外冷静だった。俺だけが無駄に焦ってるみたいで恥ずかしい。
そもそも露天風呂に入りに来たワケだし、俺は招かれるまま温泉に浸かる。――あったか! 気持ちい! 一日の疲れを癒してくれる最高の温泉タイム!
うん。隣に刹那さえいなければ、こんな余計な望んでないハプニングさえ起きなけりゃそうなる筈だった。
「……マジで男なんだな。お前」
「おい、オレ様を隣でガン見すんな」
近くで見て第二波の衝撃が俺を襲う。何一つ身に纏っていない刹那の姿は、男にしては細いものの……普通に男とわかる。服着てないだけでこんな違う!? 制服マジックってすげぇ!
「いや、昨日――ってかついさっきまで女と思い込んでた奴と一緒に男湯入ってるって、変な感じどころか今までの人生で味わったことない気待ちだわ今」
「おぉ、オレ様のお陰で貴重な体験出来たなァ!」
最も人生でこんな体験をする人間自体多くないと思うけど。それに俺も別に望んでもない体験だし。
「――なぁ刹那、率直に聞いていいか?」
「あァ?」
「どうして女の格好してんだよ」
「……あー」
「いや、別に無理して言わなくてもいいんだけどさ。知っちゃった手前気になるっていうか……ほら、お前男のままでも全然イケメンじゃん」
女の時も、口は悪いし行動は読めないしであんまり関わりたくない部類の人間だったけど、見た目は本当にモデルみたいに綺麗とは思っていた。だから本来の男の姿でも、綺麗なことに変わりはなかった。
「オレ様さァ、早い話どっちもイケんだよ」
刹那は突然真顔でそんなことを言い出す。理解するまでに5秒くらいかかった。案外早い。
「――は? え? それってつまり、そういうこと?」
「まァそういうことだよな! んでもって、オレ様の通ってた中学は男子校だったんだよ」
「男子校!? なら中学までは普通に男子として過ごしてたんだよな?」
「そう思うだろ!? でもそこが普通の人間とオレ様の違いだ! オレ様は男子校の女子に飢えてるカワイソーーーーッなヤツらを見てらんなくて、救世主になってやることにしたんだよ!」
「救世主?」
当たり前に意味がわからない。確かに思春期真っ只中に学校のどこ見渡しても男ばっかだったら女子という存在が恋しくてたまらなくなると思うけど、今なんてどこ見渡しても男子もどきと女子もどきしかいないし……うわ、こんなこと考えてるとめちゃくちゃ本物の女子が恋しくなってきた……
「そうだ! オレ様が女装することで、周りの男どもに活力を与えてやることにしたんだ! これがまァ――意外にもすっげェウケてさ。ちやほやされまくるし、オレ様も女王様気分だったぜ」
「そういうことか――それで、村咲学園に入学してからも女子のスタイルにしようって思ったのか?」
「まァ、それはどっちでもよかったんだよ別に。でも女のカッコしてる方が面白そうだったし、実際オレ様美人だからなァ。自分でこの姿気に入っちゃってたトコもあんだよ」
ただ単に中学時代に味わった快感から女装癖に拍車がかかっただけなんじゃないのか? と思いつつも、刹那らしいといえば刹那らしい。こんな自由奔放すぎる奴今まで会ったこともなかったし、この学園にはそういう人間が結局他にもたくさんいるんだろう。
「大体わかった――つーか俺はもう刹那が好きな様に楽しく出来てんなら、それでいいと思うよ」
「アサシン……」
温泉で疲れを癒しに来たつもりが、いろいろ驚かされることばっかりで、これ以上ここにいても疲れがとれる気が全くしないと思った俺は、温泉から出ようと思い立ち上がる。部屋行ってシャワー浴び直すか……
「ちょ、ちょっと待てアサシン!」
「は!? 何だよ!?」
立ち上がって温泉から出ようとした俺の腕を焦ったように刹那が掴む。何事かと思い刹那の顔を見るとその表情はさっきまでの余裕ある顔とは違い、少しだけ気まずそうな表情をしていた。
――刹那のこんな顔を見るのは、初めてかもしれない。
「……なァ、オマエになら、オレ様の悩み言える気がするんだよ、アサシン」
「悩み――?」
刹那が!? 悩みなんてこれっぽっちもなさそうなのに!? 寧ろ人を悩ませるのを得意としてる方の人間なのに!?
そう言いたくなったけど、切羽詰まった様子の刹那を見ると口が裂けてもそんなことは言えない。てか言ったらこのまま温泉に沈められそう。
「オレ様、実は――」
「じ、実は――?」
待て。何顔赤らめて目逸らしてんだ。え、まさか……これって告白なんじゃ!? さっきどっちもイケるって言われたし……待て待て待て! 言わないでくれ! 俺は刹那の気持ちに同じように返すことは出来な――
「す、好き、なんだよ――――心のこと」
「…………心って、三鷹心? いつも一緒にいる?」
「だぁぁぁ! 他に誰がいんだよ!」
勘違いしていた自分が恥ずかしくて一回死にたくなった。刹那が俺を好きなんて自信どっから来たんだろう。学園の王子と言われる二階堂に告白されて少し調子に乗っていたのかもしれない。にしても――
「意外だな」
「なっ、何がだよ!?」
「いや、刹那が三鷹を好きって……ふーん? お前案外ああいうおとなしい子が好きなんだな」
「ううううるせェッ! 悪いか! それにオレ様はおとなしい子が好きなんじゃなくて、好きになった心がたまたまおとなしかっただけだ!」
その理屈は何だよ。そして目に見えて動揺している刹那が面白く、今だけは刹那の上に立てている感じで、普段やられっぱなしなぶん気分が良い。
「で、悩みって具体的にどんなことで悩んでんだ?」
俺は腰を下ろして、また温泉に浸かることにした。刹那の話にも死ぬほど興味あるし、どんどんこの状況が楽しくなっている自分がいるのも事実だ。
「いや、最初はフツーに愛と心と仲良くなって、毎日遊んで、楽しかっただけなんだけど……いつの間にか心のこと好きになって、それからどんどん後ろめたくなってきてさ」
「後ろめたいって、何が?」
「わかんだろォが! あの二人は完全にオレ様を女友達と思ってんだよ! 騙してるみたいで、ヤな気持ちになるっつーか……」
刹那がまともなこと言ってんのが逆に変。怖い。
「そんなこと言ったって、学園のルール的にオーケーなんだから別に騙してるも何もないと思うけど――それに、四ツ谷と三鷹が女とも限らないだろ? 現にお前は男だったんだし。もし三鷹が男だったらどうすんだよ」
「いい。そんなの関係ねェよ――好きだからな」
「――――刹那」
そう言う刹那の顔は今まで見たことないくらい真剣で……何だろう。今日は見たことない表情一気に見すぎちゃってる気もするけど。
それに、悔しいけど、刹那がめちゃくちゃカッコ良く見えた。
「心を守れる男になりたい……最近すっげェそう思うようになって来て、でも女として出逢ってるし、今の三人の関係も崩したくねェし、どうしたらいいんだよ……」
「――ありのままの自分の姿でぶつかればいいと思うぞ」
「……あァ?」
「お前ら三人の関係ってそんなヤワじゃないだろ。刹那が男だったってだけで変わるような関係なのか? 俺はそうは思わないけど」
「いや、でも――」
「いつもの勢いはどこ行ったんだよお前は! 三鷹を守れる男になりたいなら、その気持ちそのままぶつけろよ。それに――男の俺から見て、今のお前イケてると思うぜ」
「……アサシン!」
ウジウジしてる刹那なんて刹那じゃないだろ。逆に気持ち悪いからやめてくれ。猪突猛進なのがこいつの悪いとこでもあり――いいとこでもある。
「やっぱオマエに相談して良かった! さすがオレ様のマブダチになれただけあるな!」
ガッと首に腕を回され、その勢いで散ったお湯を顔面で浴びる。刹那は俺の顔面を水とかお湯で攻撃するのが好きだなおい。それにマブダチになった覚えは未だにないんですけど?
「おまっ、近いって! ひっつくなよ!」
「んだよアサシン。オレ様が男ってわかってからツレないなァ」
「当たり前だろ! 生憎俺は男にひっつかれて喜ぶ人間じゃないんだ!」
「じゃァ誰にひっつかれたら嬉しいんだよ」
「……そりゃぁ可愛い女子! リアル女子! 本物の女子!」
「……オマエ何でこの学園入ったんだ?」
「俺が一番聞きたいよそれに関しては」
何も知らないで入学したなんて、アホすぎて刹那に言ったら一生ネタにされそうだから絶対に言わない。
「あーー何かスッキリした! オレ様はそろそろあがるけど、アサシンは?」
「俺はもうちょっと堪能するよ――ていうかさ、気になってたんだけどこういう事故で性別バレしちゃった場合って、俺達校則違反になんのかな?」
「わかんねェけど、バレたらヤバそうだな――まァ、バレなきゃ大丈夫だろ。どちらにせよ、今日のことは二人だけの秘密だかんな!」
そう言って刹那は最初から最後までタオルを巻くことなく男湯から出て行った。
ま、刹那の言う通りか。俺と刹那だけの秘密にしとけば心配することなんてない。
刹那が男ってことも衝撃的だったけど、刹那が三鷹を好きっていうことにも衝撃を受けた。
なんだかんだこんな学園でもみんなちゃんと――
「青春してんだなぁ……」
露天風呂に浸かり、上を見ると綺麗な星空。
星空を眺めながら、俺の口からはそんな言葉がぽつりと漏れた。
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