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美女とイケメンとイケメンとモブ
しおりを挟む日曜日。
案の定、嫌な予感は的中し栗原との待ち合わせ場所へ向かう俺の隣には――
「いやー、休日にアサオとデート出来るなんて! 楽しみだなぁ!」
浮かれまくってる二階堂がいた。
いやいや、何でこいつがいるんだよ! しかも別に俺とお前がデートするワケじゃねーから! お前は人のデートに無理矢理乱入して来たただの顔がいいだけの邪魔者だから!
何度来なくていいと言っても(最早来ないで下さいと懇願してたけど)聞く耳を持たない二階堂によって、俺の楽しみな気持ちは一気になくなり、寧ろ不安な気持ちでいっぱいになった。
――栗原に何て説明すればいいんだろう。
だってさ!? わざわざ友達連れて来るとか二人きりが嫌って言ってる様なモンじゃね!? 俺だったらそう思う。絶対思う。
俺はちっともそんなこと思ってないのに、今すぐこの横にいる人間を電柱に縛り付けて逃げたいくらいの気持ちなのに。
「栗原に誤解されたらどうしたらいいんだよクソがぁぁぁぁ!」
「嫌だなぁアサオ。僕らは親友にしか見えないから大丈夫だって! 付き合ってるなんて誤解されないよ!」
「そんな心配はしてねぇ!」
爽やかに笑いながら、悪気もなく俺を苛立たせる二階堂。
つーか、そもそもこんなイケメン連れて来ちゃってよかったのか?
栗原が二階堂に惚れてしまうんじゃ……!
「…………」
「……どうしたのアサオ」
「やっぱお前今すぐ帰れ。それが無理なら今すぐその顔面をちょっとだけでいいからブサイクにしろ」
「はははっ! 何を言い出すかと思うと! どっちも無理に決まってるだろう? アサオは面白いね」
はぁ。ブン殴りたい。
「……もうどうだっていいや」
やっぱり俺の人生なんてこんなモンなんだろう。うまくいくと思わせといていかない。残酷だ。上げて落とすって本当に良くないぞ聞いてんのか神様。
肩を落とし歩くのが遅くなった俺を強引に二階堂が引っ張り、待ち合わせ場所へ着くと――
「……あ、あれ?」
栗原の横に、瀧が立っていた。まさかの彼氏同伴。
栗原より先に俺に気付いた瀧が、ニヤリと笑いながら手を振って言う。
「おいおい、一分遅刻だぞ麻丘」
「あー、ゴメン……ていうか、えーっと」
何でお前がいんだよ、と思いながら栗原を見ると、栗原は気まずそうな顔をして俺を見る。
「そ、その……瀧くんも、一緒に勉強したいってなっちゃって……ゴメンね麻丘くんっ……」
あー。そ、そういうことね。
栗原も最初から別に俺と二人で会う気はなかったと……?
それともやっぱり他の男と二人で会うなんて彼氏サンが許さなかったのか?
でもそれならそんなに気まずそうにしなくてもいいのに、どうしたんだ?
「大丈夫だ栗原。なんていうか……俺も一人増えちゃったからさ」
「えっ?」
「どうも! アサオの親友です! 今日はよろしくね! ところで休日にアサオを誘ったみたいだけど君はアサオの何?」
「えっ、えっ?」
「だぁーーっ! やめろ! 栗原が困ってんだろ!」
「おいさっきからこの瀧をいないものかの様にするな! 麻丘の分際で生意気だな」
「えっ、ああ、ゴメン瀧」
「た、瀧くんっ! そんなこと言っちゃダメだよ! 麻丘くん困っちゃう」
お互いがお互いのツレをフォローしてるこの図は一体――
こうして栗原とお勉強デートだとワクワク胸を躍らせてた今日という日は、強烈キャラが二人も乱入して来たことにより、ただの美女と二人のイケメンとモブ学生Aというクセがありまくりなメンバーでの勉強会と化した。
もう帰りたい、と思うところだけど――
ちらり、と横目で栗原を見る。
――私服姿もめちゃくちゃ可愛いっっ!
ああ、それだけで今日来て良かったと思える!
「どうかしたの? 麻丘くん」
「へっ?」
「いや、いきなりガッツポーズ取ってたから」
「あっ、これは、その、無意識に……」
「?」
心の中のガッツポーズのつもりが、どうやら心の中だけじゃ制御出来てなかったらしい。このままじゃ栗原に何にもないのにガッツポーズを取る無意識に何かに勝利してる変人だと思われてしまう。
「……栗原さ」
「うん、何?」
「いや、私服姿も新鮮で可愛いなーなんて……」
「えっ……」
「あ、待って俺キモいこと言った!? 言ったよな!? わわわ忘れて! うん!」
「ち、ちが……ちょっと待って麻丘くん!」
恥ずかしすぎて俺は栗原の元を逃げる様に去って、恥ずかしさを隠したくて二階堂の背中に飛びついた。栗原は俺より後ろにいるから何も隠れてないんだけどイケメンに引っ付いてとりあえずこのキモい自分を少しでもマシにしたかった。私服姿も可愛いねなんてどの口が言ってんだ! あの驚いた栗原の返事、確実にドン引きしてただろ……!
「ああ二階堂。やっぱ今日お前がいてくれて良かった。一人だったら俺死んでたよ」
「急に甘えるなぁアサオは……このまま二人で抜けちゃう?」
「それは遠慮する。あと耳元で囁くのやめろ」
俺が女子だったら今ので腰砕けてたんだろうな。そんな俺は、既にハートが砕けていた。
****
図書館に着き、席に座り各々教科書やテキストを広げた。
「大体テスト範囲は俺と二階堂と同じところか?」
「うん。多分そんなに変わらないと思う」
「ハッ。何を言っている。この瀧と栗原は有名進学校だぞ。お前達のとこよりは授業が進むスピードも……というか、麻丘の通ってる学校って確か今年設立されたとこだったよな? よくもまぁあんな前評判も何もわからない得体の知れないとこに入学したよなぁ? どんな学校なんだよ」
「えっ……! どんな学校って……」
男か女かわからない同級生と自由すぎる先生達と真実の愛を探す、それが村咲学園……なんて言えるか!
俺もよくあんな得体の知れないとこに入学したなって思ってるよ! 傷口抉ってくんなよ! 有名進学校プラス栗原と同じなんて勝ち組高校生活送ってるからってどんだけ上から目線? 羨ましくて仕方ねぇぇぇ!
「あの、二階堂くんは高校どこなの?」
「ん? 何言ってるの? アサオと同じところだけど」
「えっ、そうなんだ! でもこの前図書館で会った時、麻丘くんと違う制服着てなかったっけ……?」
「ああ。確かにそうだったな。もう一人いた不良みたいな奴はすごくだらしない着方だったが、麻丘と同じ制服だったよな――それなのにお前も同じ学校ってどういうことだ? まさか制服が二種類あるとでも? ハッ」
「そうだけど?」
「「えぇっ!?」」
さらりとそう答える二階堂に、栗原と瀧が驚きの声を上げた。
事実だけど何で二種類あるのかとか説明するのもめんどくさいししていいのかもわからない。つーか細かく言えば四種類あるしな……
「出来たばっかでまだいろいろ決めかねてるっぽくて、比較的自由な感じのとこなんだよ! なっ? 二階堂!」
「そうだね。お陰様で有名進学校なんかよりずーっと刺激的で楽しい毎日を送らせてもらってるよ!」
適当に同意を求めただけなのに、いちいち瀧みたいに嫌味を言うな二階堂! 案の定二階堂の発言にイラッとしたのか瀧の眉間に皺が寄っている。
「そうか。じゃあさぞ刺激的なお勉強をしているんだろうな。この瀧が教えてやろうと思ったが、その必要はないということでいいな?」
「うーん、苦手科目は教えて欲しいけど……僕とアサオは仲良しすぎて苦手科目が被ってるから、アサオに教えてもらえないし」
仲良しなのは関係ないと思う。
「ならば話は早い。この瀧は麻丘に勉強を教えてやろう。栗原はこの顔だけ男に教えてやれ。で、お前らの苦手科目は何だ?」
「数学だけど――ちょい待て。てか何で俺が瀧からなんだよ!?」
「不満でもあるのか?」
不満しかないだろうが!
そもそも栗原と二人でお勉強会♡ってつもりだったのにこんな展開になった挙句瀧から勉強教わるとか――地獄!
わかってるよ。瀧は俺と栗原をペアにさせたくないだけなんだろ。
でも俺だってお前とペアになって勉強したくない。
なんていくら思ったところで、実際本人目の前にそんなこと言えないチキンな俺は、瀧の提案をただ受け入れることしか出来なかった――が。
「……私が麻丘くんに教える」
今まで大人しく話を聞いていただけの栗原が突然そう言い出し、俺の方を見た。
「栗原……」
「何を言い出すんだ栗原。別にどっちが教えたっていいんだからお前が麻丘に教える必要なんて一ミリもないだろ」
おいそれなら瀧が俺に教える必要も一ミリもないよな!? あ!?
「だって、そもそも私が麻丘くんに勉強しようって言って今日誘ったんだもん。言い出しっぺは私なんだから……私が教えるの!」
栗原にしては珍しく瀧に反論している。そんな栗原を見て、瀧も戸惑っているみたいだ。
「麻丘くん、勉強始めよう!」
「あ、ああ! そうだな」
栗原はふふっと笑い、自分の意見を押し通して強引にその場を収めた。
――やっぱり優しいなぁ。栗原葉菜子。
自分が言い出しっぺだからとか、気にしなくていいのに。
俺が瀧のこと苦手なのわかって、気を遣ってくれたんだろう。
可愛くて優しくて、勉強も出来て。
「完璧だよなぁ……」
「え? 何か言った?」
「いやいや! 栗原の教え方わかりやすくて、完璧だなって!」
「もうっ。麻丘くんてば大袈裟なんだから」
大袈裟なんかじゃないんだよ栗原。大体、今この状態でがもう奇跡でしかないんだからさ。
中学の時の俺は、栗原とこうやって普通に話すことすらなかったんだから。
「栗原!」
「! た、瀧くん、どうしたの?」
「飲み物買いに行くぞ」
痺れを切らしたように、瀧が突然立ち上がったかと思うと、栗原の腕を引っ張って自販機の方へズカズカと歩き出してしまった。
「おーこわ。彼氏なんだからもうちょっと余裕持てよな瀧の奴」
「あの一人称がおかしな彼、ずっとアサオと栗ちゃんの会話気にしてて全然集中してないから僕一人で勉強してたよ」
「……あのさ、その栗原の呼び方どうにかなんない? 勝手に呼んでんだろうけど」
「どうして? 可愛くない? 栗ちゃん」
「可愛いってか何つーか……」
「あ! 響き的にはシンコと同じく若干アウトだったね! それなら栗りんにしよう!」
「あー声でけぇ! 静かにしろ」
「ところでなんだけど――アサオは栗りんのことが好きなの?」
「へっ!?」
やべ、変な声出た。
「どうなの? 返事によっては嫉妬で栗りんの歴史の教科書の偉人達の顔全部に落書きでもしちゃいそうなんだけど」
「そんな小さくてめんどい嫌がらせすんな。別に好きとかじゃなくて……中学の頃、若干淡淡な恋心抱いてたってなだけ」
「……ふーん。まぁつまり好きだったんだよね?」
「う、うるせーな! 人のプライベートな領域に土足で入り込もうとするな!」
「それアサオが言う? 僕の今まで誰も開けなかったプライベートな領域に一瞬で踏み込んで来たアサオが!」
「それは俺が好きで踏み込んだんじゃなくてお前の心のプライベートドアが自動ドアだっただけだよ!」
「あははっ! 上手いこと言うなぁ」
ケラケラと楽しそうに笑う二階堂。人の気も知らないで、本日二回目だけどブン殴りたい。
「でもさ、いいの? アサオはこのままで」
「……何がだよ」
「久しぶりに栗りんに会えたのに、このままじゃ今日一日ずっとあの一人称おかしい彼に邪魔されるよ?」
瀧な。名前覚えてやれあんな自ら名乗ってんのに。
それに自分も邪魔ということには全く気付いてないんだろうか。
「まぁ確かに、邪魔の仕方が露骨ではあるけど……でもあいつが栗原の彼氏だから仕方ないだろ」
「…………アサオ」
「何だよ」
「大丈夫。アサオには僕がいるから!」
二階堂からの言葉が予想通りすぎて、俺は思わず笑ってしまった。
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