クローバーをあげたくて

たみやえる

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時は過ぎて 3

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 エスカレーターを降りてすぐ、三つ並んだレストチェアの一つに冬木は座った。
 すかさず隣に腰を下ろした洸夜が手を握ってくる。
 長い足を持て余し気味に座る大男(冬木のことだ)の前を後から降りてきた買い物客(買い物だけが目当てではないだろうが)が通り過ぎてゆく。ふたりの繋いだ手を気にする様子はない。すぐ違う方を向いて歩き去ってゆく。
「ほらね。誰もオレたちのことなんて気にしてない。ほんの一瞬ここで出会っただけの赤の他人。すれ違うだけの通行人だ」
「知り合いだったら、話は違うでしょ」
「知り合いやそれ以上に親しい仲ならなおさらだ。きちんとこいつはオレの大事な恋人ですって紹介するさ」
「キッパリと言う割にまだそんなふうに紹介されたことはないけどね」
 指と指を絡めたいわゆる恋人繋ぎされている互いの手を冬木は無表情に見下ろした。その冬木の額を洸夜がデコピンする。
「痛って」
 口の動きだけで〈バカ冬木〉と言ってくるのに、不機嫌だぞと分からせたくて眉根を寄せて見せると、長い指が降りてきてシワのよった眉間をもみほぐされる。
「誰にも文句を言われない実力を得た上で言いたい。オレは案外、用意周到な慎重派なんだよ」
 真剣な表情でそんなことを言われたら、冬木は怒っていられない。
 大体、不機嫌を全面に押し出していたのも半分はポーズだったのかもしれない、と自分のことなのにそう思えてきてしまう。
 人前でも洸夜が自分にイチャついてくれるのが実は相当嬉しい。
 相当……いや、かなり嬉しい。
「知ってます。洸夜は石橋を叩いてぶっ壊す派ですよね。何気に」
と返すと、洸夜はなんとも言えない表情になった。
「……」
「俺はどの洸夜のことも大好きです」
「オレもそれは知ってる」
 その後、ふたりは手を繋いだまま、ぶらぶらとウィンドウショッピングを楽しんだ。
 すると、フロアの端にあるアウトドア専門店の前で、洸夜が立ち止まった。
 小型のテントの前にカジュアルな服を着せられたマネキンが座っている。
マネキンの前に置かれたローテーブルの上にはステンレス製の小さなフライパンやランタンなどが小洒落た風情で置かれていた。
「あぁ、キャンプ用品」
「最近グランピングとか一人キャンプとか、いろいろ流行ってるって聞くよな」
「最近は飯盒はんごうなんて使わないのかな」
 首を傾げる冬木に、
「ふ……懐かしいな」
と、洸夜が微笑み返す。
「洸夜にとっては、嫌な思い出じゃない?」
 繋いだ手をぎゅっと握りしめられて冬木は握り返す。
 握っては緩めるを、何度か繰り返していると、洸夜が口を開いた。
「……俺が馬鹿なばっかりに冬木に嫌な思いをさせたことは悔やんでも悔やみきれない。でも、あの自然教室のおかげで冬木と仲良くなれたって思う。こういうのなんて言うんだっけ? 弘法も筆の誤り? 千里の道も一歩から? あれ、違うか……」
「雨降って地固まる、で、どうかな」
「わお、そっちの方が正解かも。もしかしてオレって馬鹿だったりする?」
「洸夜が馬鹿なら全人類馬鹿になる」
冬木の言葉にアハハと笑った洸夜が冬木の瞳を真っ直ぐに見る。
「買い被ってくれてるじゃん」
キリッとした洸夜のこの表情は冬木の大好物だ。ドキッとしながらも冬木は見せかけの余裕を顔に貼り付けて淡々と答える。
「ホントのことでしょ」
「気分いいなぁ。いい子いい子」



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