ぼやきと片想い

たみやえる

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ぼやきと片想い

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「なんでオレはこうなんだ」


 頭を抱えてカウンターに突っ伏した深谷しんやの肩を八海はちうみはポンポンと叩いて、空いている左手でグラスを傾けた。


 ビールは苦手なのでソルティドッグにした。


 あくまでもつきあいで頼んだだけの酒だ。変に苦くなく又は甘ったるくなければそれで良い。


 友人の結婚式、披露宴の後二次会まで付き合ったあと、戻ったホテル。飲み直そうと立ち寄った最上階のバー。なかなか雰囲気のいい店だ。客が静かなのがいい。


 ここのところ三回立て続けに結婚式が続き、同級生が家庭持ちになることに対して、この親友はかなり焦っている。


 二次会では新婦方の友人の子を狙って、かなり気合を入れてモーションをかけている様子が微笑ましかった、と八海は数時間前をおもいかえす。


(僕のことなんか気にせず女の子を持ち帰れたろうに)


 ……八海の側から離れていれば、だが。


 オンナと付き合ったのは中学の時以来絶えてない、という初心な深谷は、初めて会う女性と差し向かいで話すという緊張に耐えられないと感じたのか、八海の側を離れようとしなかったのだ。


 お陰で、深谷が話しかけているというのに、当の彼女は八海の顔ばかりチラチラと見て、深谷の存在をまるで意識していなかった。


 それが業腹ごうはらで八海は二次会の間何度口の中に広がる苦味を我慢したことか。


「お前は良いよな~。顔も良い、ガタイも良いから、何も言わなくても女が寄ってくる」


 幕を下ろしたがっている両まぶたをこすりながら、諦め八割イヤミ二割という感じで絡んでくる。自分の二の腕にのせてきた深谷の手をやんわわりカウンターに戻すとまた深谷が今度は身体ごと絡みついてきて、八海の肩に顎をのせてきた。


 この酔っぱらいめ、と言いつつ八海は振り払わない。


「バカ言え。オンナ相手は気を使うよ。ニコニコ会話してても思わぬところに地雷が潜んでいるからな」


「そうっ、そーなんだよ」

と突然声をあげるから、

「うるせぇよ」

顔を傾け、ジロリと睨むと深谷は酔いで朱に染まった頬を手でひと仰ぎし、はぁと首を垂れた。そして、オレはどうやら酉年らしいと呟いた。


「は? 深谷、僕と同い年なんだから、丑年に決まってるじゃないか」


「くそ……、いつも口が災いするんだ。酉年のオトコはおしゃべりなんだろ? 口から生まれるって言うじゃないか。きっとそうだ……、そうなんだ。どーせお前もすぐ結婚して、オレを置いてくんだ……」


「……わけわからん酔い潰れ方しやがって……」


 グラスに浮いた水滴が一筋、つぅと滴り落ちる。


「おい、起きないのか?」


「……」


軽くイビキが聞こえてくる。八海は大きなため息を吐くとくしゃりと自分の頭をかき混ぜて、自分の隣でカウンターに頬をつけ目を閉じる親友の顔をじいっと見た。



 胸ポケットの内にはホテルの部屋のキーが。



 今度こそ、使ってしまおうか……。






〈了〉
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