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歳上同居人のちょっとした憂鬱
しおりを挟むマンションのドアを後手にバタンと閉め靴を脱いでいると、エプロンをつけた冬木がスリッパをペタペタいわせながら姿を見せた。
「おかえり、洸夜」
いつもの流れで軽いハグと頬へのキスをお互いにし、リビングまでの短い廊下を歩きながらネクタイを緩めて襟元をくつろがせる。
すん、と鼻をうごめかしたオレが眉根を寄せると、先にリビングに入ってテーブルの椅子を引いて待ってくれていた冬木が、
「あ、分かるよな。普通」
と、オレの顔色を窺ってきた。
「そりゃ、匂いがちがうから……」
並べられた料理に一度目を見開いて唇の両橋を引き上げて見せると、息をつめていた冬木がホッと表情を緩める。
筑前煮に、具沢山の味噌汁、豚の生姜焼きにこんもりと添えられた針のように細いキャベツの千切り。
「カレー以外って、今日で三日目か。作るの大変だろ?」
オレは内心の苛立ちを笑顔で包み隠して、冬木が装ってくれた飯を受け取り橋を手に取る。
冬木はオレが食べ始めてからようやく自分も席につき自分の作った夕食をつつき出す。
今使っている黒の漆塗りの端も、和モダンなデザインのご飯茶碗も国政の汁椀も箸置きも、みんな一週間前には無かったものたちばかりだ。
だって、一人暮らしの間は基本弁当が外食しかしなかった。二人で暮らし始めてからは、家で作るメニューはカレー一辺倒で(サラダすら付けない)ウチにある食器はお揃いで買ったマグカップ以外だと、スプーンとカレー皿が二組あるだけだったから。
二人でイチャイチャする以外の時間の過ごし方についてはなるべくシンプルにしたくてさ。料理って色々作ると手間だし、洗い物も増えるだろ。洗濯とか風呂掃除に一定の時間がかかるのは致し方ないから、それ以外の家事にかかる時間を短縮したくて。ただ、レトルトや買ってきた惣菜じゃ興醒めだから、カレーを手作りしようって。
そう話し合ったのは冬木が大学入学と同時に同居を始めた四年前の春のこと。
それ以来、家で食べる飯はずぅっとカレー(固形ルゥのアレ。決してスパイスを同行したりはしない)だったのに。
なんで今更、という戸惑いを感じずにはいられない。
食べ終わったオレが箸を置き
「なぁ、冬木…
もしも、あの花屋の男が冬木と同じように俺の妄想が視える人間だとしたら……?
(そんなの許せるわけない)
俺のこの妄想は、
俺だけものであって、
誰かに覗き見されるなんて、
そんなこと許せるもんじゃない。
許せるのはただ一人。
冬木だけ。
冬木には視えるって知った時、俺のくっだらなくて思春期の中学生かよってほど馬鹿みたいに、はっきり言ってスケベ過ぎてしょーもないこの妄想が、冬樹とのもう一つの会話の手段になったんだ。
この特別な〈冬木と俺の会話〉に、
他のやつが入り込んでくるなんて、
嫌だ!
「洸夜、どうした? やっぱり美味しくない?」
俺の前にある皿やご飯茶碗をテキパキと片付けていた冬木が目を合わせて問いかけてくる。
いつもと違う出来事。
いつもと違うメニュー。
これは単なるイレギュラーだ。
そうさ。
単に、今回限りのハプニングなだけ……。
隣で前屈みに食器を抱える冬木の唇に、のびあがって触れるだけのキスをした。
〈了〉
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