歳上同居人のさよなら

たみやえる

文字の大きさ
21 / 27
西條冬木

[4] お兄さん

しおりを挟む


 新堂さんの案内で俺たちは香水店が入っているのと同じビル内にある喫茶店に来ていた。


 時計を見ると今まさに夕方五時になろうとしている。(洸夜が帰るまでに帰れるだろうか)夕飯の支度が気がかりだった。


 適当にコーヒーを注文する。小林は図々しくもケーキを二個頼んだ。テーブルの下で小林の脚を蹴ると、

「いーじゃん、奢ってくれるんだしさ」

とけろりと言ってくる。

「光森さん可愛いよな。歳上だけどそう感じさせないピュアさがたまらないっていうか。彼氏いないかどうか聞き出したいじゃん」

と俺の耳に手を当てささやくので、俺は思わず額に手を当て横目で小林を睨んだ。


 新堂部長が「失礼……」と言いながらスマホを手に席を外すと、光森さんが俺の方に身を乗り出した。


「冬木さんは新堂部長のお知り合いでしょうか。だとしたら教えて欲しいんです。部長は……」


 言いかけた光森さんの言葉が止まる。彼女の視線をたどると、新堂部長がこちらに戻って来るところだった。


「どうした光森さん。西條君にずいぶん興味があるようだが」


 元居た光森さんの隣に座りながら新堂さんがそう言うと、彼女は不機嫌そうにそっぽを向いた。


「そんなんじゃないです。部長には関係ありません」


 新堂部長の眉がひくりと跳ね上がる。探るように見られて落ち着かない気分になる。



 光森さんは明らかに新堂さんのことについて俺に話を振ろうとしたのになぜそれを隠そうとするのだろう? (結果隠せていないから俺は新堂さんに睨まれたわけだが) ついでに言えば、さっきから小林の視線もやけに頬に刺さってきてうっとうしい。きっと小林には、光森さんが俺に興味を示しているように見えていじけているんだろう。誤解だ。


 それより、実はさっきから気になってどうしようもなかったことがある。


「部長さん……新堂さんというんですね。実は俺の恋人も同じ苗字なんです。もしかして……」


「えぇ、洸夜の兄の浩暉です」


「やっぱり……」


 以前洸夜から年の離れたお兄さんがいるという話は聞いていた。そういえばどことなく雰囲気が似ている気がする。


「改めて西條冬木といいます。以後よろしくお願いします、お兄さん」

と俺は頭を下げた。


 顔をあげると浩暉さんは苦々しい表情をしていたけれどそれには気づかないふりをする。


「君とはまだお兄さんと呼ばれる関係ではない」


 席に戻る前とは明らかに違う新堂さんの硬い声にその場の空気の温度が一気に下がる。


「今のところはそうですね。でもいずれ必ず家族になります」


「ちょ、ちょっと待て。待ってください」

と横から小林が会話に割って入る。


「冬木、お前の恋人って、彼女じゃなくて彼氏だったの?」


「あぁ」
と頷くと、今度は光森さんが、

「え、二人は初対面なんですか?」
と声を上げた。それにお兄さん……新堂部長、浩暉さんが

「そうだ」
と無愛想に答えると彼女はガックリと肩を落とした。


「部長のこと教えてもらおうと思ったのに、初対面なんですか……」


 そんな光森さんが微笑ましくて俺はついくすりと笑ってしまった。

「ご本人がいるんですから直接聞けばいいんじゃないですか」

 すると明らかに顔をこわばらせた浩暉さんが、

「光森君に言うことは何もない」

と首を横に振る。切り捨てるようなその言い方に、光森さんは涙目になってうつむいた。


 





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

処理中です...