【完結】フェリシアの誤算

伽羅

文字の大きさ
43 / 98

43 退室

しおりを挟む
「フェリシア、返事は?」

 国王陛下に問われて私はハッと顔を上げた。

 どうやら返事を返さないといけなかったらしい。

「わかりました、こく…」

 国王陛下、と言おうとして思わず口をつぐんだ。周りの皆が微妙な顔をしていたからだ。

 どうやらこの返事は不適切なようだ。

「わかりました、お父様」

 その言葉を口にした途端、周りはホッと安堵の息を吐き、国王陛下、もといお父様はまたもや私を抱きしめようと身を乗り出して宰相に止められている。

「それじゃ、一旦アシェトン公爵家に戻ろうか。勿論、僕も付き添うよ」

「待て、ユージーン! どうしてそこでお前がついて来なくちゃいけないんだ?」

「王宮に来るのに王家の馬車を使っただろう? 送って行ってあげるから僕も当然ついて行くよ。それに大事な妹を他の男と二人きりにはしたくないからね」

「二人きりにしたくないなら使用人か誰かを付き添わせればいいだろう。何もお前がついて来る事はない!」

 またもや私を挟んでユージーンとハミルトンが言い争いを始めてしまったわ。

 私が止めに入ってもいいのかしら?

 困ったように周りを見回すと、宰相がニコリと私を安心させるように微笑んだ。

 ああ、この人に任せておけば大丈夫ね。

 出来る男の宰相サマは、コホンとわざとらしく咳払いをした。

「ユージーン様、ハミルトン様。そのくらいにしておかないと、フェリシア様に嫌われますよ」

 ユージーンとハミルトンは宰相の言葉にハッと我に返ったようだ。

「フェリシア、僕達は決して喧嘩をしているわけじゃないよ」

「そうそう、ちょっと意見の食い違いがあっただけだからね」

 …今更取り繕っても仕方がないと思うんだけれど、余計な事は言わない方がいいわね。

「…ホントですか?」

 ちょっと心配そうに二人を見やると二人共、コクコクと頷いてくれる。

 その仕草がそっくりでちょっと笑ってしまうけれど、流石にここで笑うのは無しよね。

 不穏な空気が霧散したところで宰相がお父様に時間切れを告げる。

「陛下、そろそろ執務に戻られませんと…」

「…はぁ、仕方がない。明日はフェリシアとの時間を取りたいからな。…それじゃ、フェリシア。明日を楽しみにしているよ。叔父上によろしく伝えてくれ」

「わかりました、お父様。お仕事頑張ってくださいね」

 ちょっと励ましてあげようと言った一言だったけれど、効果テキメンだったようで、お父様はぱっと表情を明るくした。

「勿論だ。ほら、ブライアン、何をグズグズしておる。早く仕事を続けるぞ」

 お父様は立ち上がるとまた執務机に戻って書類に目を通し始めた。

 私とユージーンとハミルトンは執務の邪魔にならないように、そっと立ち上がって執務室を後にする。

 廊下に出るとようやく妙な緊張感から解放されたような気分になった。

 そんな私の目の前に、スッとユージーンとハミルトンの手が差し出される。

 ユージーンはわかるけれど、どうしてハミルトンまでが私に手を差し出してくるのかしら。

 もう私がジェシカではないとわかったはずなのに…。

「ハミルトン、もう君の妹ではないと確定したのに、どうしてまだエスコートしようとするんだい?」

 ユージーンが私の疑問をハミルトンにぶつけるけれど、何処かからかうような響きがある。

 まるで答えを知っていて聞いているみたい。

「妹じゃないとわかってホッとしたよ。僕はフェリシアの事が好きになったんだ。だから今度正式にフェリシアに結婚を申し込むつもりだ」

 ハミルトンの爆弾発言に私は言葉を失うけれど、ユージーンはフンと鼻で笑った。

「流石に今の段階で認めるわけにはいかないな。父上に言ったら速攻首を撥ねられかねないぞ」

「やめてくれよ。とても冗談には聞こえないぞ」

「冗談じゃなくやりそうだから言ってるんだよ」

 そんな二人のやり取りは私の耳には入っていなかった。

 …ハミルトンが私を好き?

 …私に結婚を申し込む?

 …何でそんな事になってるの?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

拾った指輪で公爵様の妻になりました

奏多
恋愛
結婚の宣誓を行う直前、落ちていた指輪を拾ったエミリア。 とっさに取り替えたのは、家族ごと自分をも売り飛ばそうと計画している高利貸しとの結婚を回避できるからだ。 この指輪の本当の持ち主との結婚相手は怒るのではと思ったが、最悪殺されてもいいと思ったのに、予想外に受け入れてくれたけれど……? 「この試験を通過できれば、君との結婚を継続する。そうでなければ、死んだものとして他国へ行ってもらおうか」 公爵閣下の19回目の結婚相手になったエミリアのお話です。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。

海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。 アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。 しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。 「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」 聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。 ※本編は全7話で完結します。 ※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

公爵令嬢は嫁き遅れていらっしゃる

夏菜しの
恋愛
 十七歳の時、生涯初めての恋をした。  燃え上がるような想いに胸を焦がされ、彼だけを見つめて、彼だけを追った。  しかし意中の相手は、別の女を選びわたしに振り向く事は無かった。  あれから六回目の夜会シーズンが始まろうとしている。  気になる男性も居ないまま、気づけば、崖っぷち。  コンコン。  今日もお父様がお見合い写真を手にやってくる。  さてと、どうしようかしら? ※姉妹作品の『攻略対象ですがルートに入ってきませんでした』の別の話になります。

処理中です...