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50 最後のひととき(ユージーン視点)
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フェリシアを送って行った後で王宮に戻ると、すぐに父上の執務室に向かった。
「戻ったか、ユージーン。すまないがブライアンと共にフェリシアの部屋を整えてやってくれ」
父上は手元の書類から顔を上げる事もなく、僕に言いつける。
「わかりました、父上。それで準備期間はどのくらい…」
「明日の朝までだ! 明日朝一番にお前にはフェリシアを迎えに行ってもらうからな。それまでにはすべての体制を整えるように。ああ、ドレスと宝飾類は最低限でいいぞ。フェリシアの好みの問題もあるだろうからな」
一瞬、顔を上げて僕を見る父上の形相は、今まで見た事がないくらい鬼気迫るものだった。
「…まったく… ハミルトンと一緒に行かせるなんて… 何かあったらどうするつもりなんだ… 私の可愛いフェリシアを…」
どうやらフェリシアがハミルトンと一緒にいるのが気に食わないらしい。
確かに未婚の女性が、独身の男と一緒だなんて醜聞ものだからな。
ましてや今まで存在すら知らなかった娘がいきなり現れたんだから、心配になるのも当然だろう。
僕だってあの可愛いフェリシアをハミルトンと一緒にいさせたくはない。
「わかりました、父上。それではブライアンをお借りしますよ」
僕はブライアンを伴って父上の執務室を後にした。
フェリシアの部屋を整えるとは言っても、ほとんどはブライアンが指示を出していた。
僕はただ単に最終確認の為にいるようなものだ。
それでも、これからフェリシアが使う部屋を僕が準備する、というのは非常にワクワクするものだった。
指示を出し終えると後は使用人にすべて丸投げだ。
おそらく徹夜仕事になるだろうが、彼等には特別ボーナスでも出してやろう。
翌朝はいつもより早目に起こされた。
これもどうやら父上の指示らしい。
寝惚け眼の僕を侍従達が身支度を手伝ってくれて、そのまま食堂へと追いやられた。
食事をしているうちに目が冷めてきて、父上が食堂に入って来た頃にはようやく覚醒した。
「何だ、まだ居たのか? さっさとフェリシアを迎えに行って来い!」
どこかソワソワとしたような父上に急かされて僕は早々に王宮を出発した。
まだ、フェリシアも食事中だと思うんだが、待ちきれないのは僕も一緒だ。
案の定、アシェトン公爵家に着くと、モーガンが焦ったような口調で僕を押し留めた。
「ユージーン様、まだ皆さんはお食事中ですので…」
「大丈夫、僕はそんな事は気にしないよ」
そのままモーガンを振り切るように食堂に向かって、その扉を開いた。
「おはよう、フェリシア。迎えに来たよ」
食堂に居た四人はびっくりした顔で僕を見つめたが、ハミルトンはすぐに僕を睨みつけた。
それを無視してフェリシアに近付いて立ち上がらせようとすると、ハミルトンが吠えた。
「おい! ユージーン! いくらなんでも無礼が過ぎるぞ!」
朝からギャンギャンうるさいな。
「仕方がないだろう。可愛いフェリシアをこんな狼のいる所にいつまでも置いておけるわけがないだろう」
「誰が狼だ! 僕はそんな真似はしないぞ!」
ちょっと僕から視線を外したって事は少しは邪な考えがあったって事かな?
お祖父様の執り成しで僕も一緒にお茶をいただく事になった。
叔母様が父上の恋人への溺愛ぶりを憂いていたけれど、たとえその何分の一かでも母上に向けられても、母上が僕に愛情を向ける事はなかっただろう。
あの人にとって父上以外はどうでもいい存在だったのだから、父上が僕に愛情を向けると余計に僕を敵対視して来たのだ。
ふとフェリシアの視線を感じ取って横を向くと、心配そうな目を僕に向けている。
僕なんかよりフェリシアの方が苦労して生きてきたはずなのに、こうして僕を気遣ってくれるなんて、なんて優しい子なんだ。
フェリシアを安心させたら、いつの間にかまたハミルトンとの舌戦が始まってしまった。
ひとしきり言い合った後で、僕は冷めたお茶を飲み干して立ち上がった。
「さあ、フェリシア。名残惜しいだろうけれど、出発しようか」
フェリシアは僕の手を取るとゆっくりと立ち上がった。
「戻ったか、ユージーン。すまないがブライアンと共にフェリシアの部屋を整えてやってくれ」
父上は手元の書類から顔を上げる事もなく、僕に言いつける。
「わかりました、父上。それで準備期間はどのくらい…」
「明日の朝までだ! 明日朝一番にお前にはフェリシアを迎えに行ってもらうからな。それまでにはすべての体制を整えるように。ああ、ドレスと宝飾類は最低限でいいぞ。フェリシアの好みの問題もあるだろうからな」
一瞬、顔を上げて僕を見る父上の形相は、今まで見た事がないくらい鬼気迫るものだった。
「…まったく… ハミルトンと一緒に行かせるなんて… 何かあったらどうするつもりなんだ… 私の可愛いフェリシアを…」
どうやらフェリシアがハミルトンと一緒にいるのが気に食わないらしい。
確かに未婚の女性が、独身の男と一緒だなんて醜聞ものだからな。
ましてや今まで存在すら知らなかった娘がいきなり現れたんだから、心配になるのも当然だろう。
僕だってあの可愛いフェリシアをハミルトンと一緒にいさせたくはない。
「わかりました、父上。それではブライアンをお借りしますよ」
僕はブライアンを伴って父上の執務室を後にした。
フェリシアの部屋を整えるとは言っても、ほとんどはブライアンが指示を出していた。
僕はただ単に最終確認の為にいるようなものだ。
それでも、これからフェリシアが使う部屋を僕が準備する、というのは非常にワクワクするものだった。
指示を出し終えると後は使用人にすべて丸投げだ。
おそらく徹夜仕事になるだろうが、彼等には特別ボーナスでも出してやろう。
翌朝はいつもより早目に起こされた。
これもどうやら父上の指示らしい。
寝惚け眼の僕を侍従達が身支度を手伝ってくれて、そのまま食堂へと追いやられた。
食事をしているうちに目が冷めてきて、父上が食堂に入って来た頃にはようやく覚醒した。
「何だ、まだ居たのか? さっさとフェリシアを迎えに行って来い!」
どこかソワソワとしたような父上に急かされて僕は早々に王宮を出発した。
まだ、フェリシアも食事中だと思うんだが、待ちきれないのは僕も一緒だ。
案の定、アシェトン公爵家に着くと、モーガンが焦ったような口調で僕を押し留めた。
「ユージーン様、まだ皆さんはお食事中ですので…」
「大丈夫、僕はそんな事は気にしないよ」
そのままモーガンを振り切るように食堂に向かって、その扉を開いた。
「おはよう、フェリシア。迎えに来たよ」
食堂に居た四人はびっくりした顔で僕を見つめたが、ハミルトンはすぐに僕を睨みつけた。
それを無視してフェリシアに近付いて立ち上がらせようとすると、ハミルトンが吠えた。
「おい! ユージーン! いくらなんでも無礼が過ぎるぞ!」
朝からギャンギャンうるさいな。
「仕方がないだろう。可愛いフェリシアをこんな狼のいる所にいつまでも置いておけるわけがないだろう」
「誰が狼だ! 僕はそんな真似はしないぞ!」
ちょっと僕から視線を外したって事は少しは邪な考えがあったって事かな?
お祖父様の執り成しで僕も一緒にお茶をいただく事になった。
叔母様が父上の恋人への溺愛ぶりを憂いていたけれど、たとえその何分の一かでも母上に向けられても、母上が僕に愛情を向ける事はなかっただろう。
あの人にとって父上以外はどうでもいい存在だったのだから、父上が僕に愛情を向けると余計に僕を敵対視して来たのだ。
ふとフェリシアの視線を感じ取って横を向くと、心配そうな目を僕に向けている。
僕なんかよりフェリシアの方が苦労して生きてきたはずなのに、こうして僕を気遣ってくれるなんて、なんて優しい子なんだ。
フェリシアを安心させたら、いつの間にかまたハミルトンとの舌戦が始まってしまった。
ひとしきり言い合った後で、僕は冷めたお茶を飲み干して立ち上がった。
「さあ、フェリシア。名残惜しいだろうけれど、出発しようか」
フェリシアは僕の手を取るとゆっくりと立ち上がった。
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