【完結】フェリシアの誤算

伽羅

文字の大きさ
51 / 98

51 王宮へ

しおりを挟む
 私が立ち上がってユージーンに手を取られて歩きだすと、ハミルトンが慌てて近寄ってきた。

「僕も一緒に行こう。さあ、フェリシア」

 手を差し出してくるハミルトンと私の間にずいとユージーンが割り込んでくる。

「まだ正式な婚約者でもない君がフェリシアの手を取るのは流石にいただけないな。悪いが遠慮してもらうよ」

 ここにいるのは身内だけだからそんなに問題にはならないと思うんだけど、頑として譲らないユージーンにハミルトンが渋々折れた。

 申し訳なくってチラリとハミルトンを見やるとユージーンがさっさと私の手を引いて歩き出す。

「気にする事はないよ。正式に婚約すればいいだけの話だからね。もっとも父上が許すかどうかは疑問だけどね」

 恐ろしい事をサラリと言ってくれるわね。

 国王、もといお父様の私の母親への執着を見れば、私に対しても同じように溺愛されそうで怖いわ。

 お義母様、いえもうパトリシア様か叔母様と呼ばなくては駄目ね。

 叔母様とお祖父様も私達を見送る為に、後から着いて来ている。

 ハミルトンは私と手を繋がないまでも、すぐ隣を歩いている。

 時折、ユージーンと目を合わせて火花を散らしているけど、間に挟まれている私の事を少しは考えてほしい。

 玄関の扉を出て、そこに止まっている馬車を見て私は固まってしまった。

 昨日、乗った馬車とは比べ物にならないくらいの豪華さだ。

「…何これ…」

 真っ白な車体にあちこち金が散りばめられている。

「父上が用意させたらしいね。来る時も皆が立ち止まって見るから恥ずかしくて仕方がなかったよ。帰りはフェリシアが乗っているから余計に人目を惹きそうだな」 

 余計にって私にそんな効果があるわけないと思うんだけど、どうして誰も否定しないのかしら。

「お祖父様、短い間でしたけれど、お世話になりました。どうかお身体を大事にしてくださいね」

 馬車に乗り込む前に私はアシェトン家の人々に挨拶をした。

「フェリシアもな。もっともエリックとユージーンが過保護に構いそうだけどな。そのうち王宮に顔を出すよ」

 私はコクリと頷くと叔母様に向き合った。

「叔母様、お世話になりました。もっと叔母様とお話をしたかったです」

「私もよ。王宮には話相手になるような女性はいないから、そのうち遊びに行くわね」

「はい、お待ちしております」

 最後はハミルトンだ。

「ハミルトン様、お世話になりました。またお会い出来る日を楽しみにしてます」

 ハミルトンの目が赤いように見えるのは気の所為かしら。

 そのせいで私も鼻の奥がツンとしてきたわ。

 ハミルトンは一度、グッと唇を噛み締めた後で、フッと息を吐き出す。

「フェリシア、きっとすぐに会いに行くからね。待ってておくれ」

 一歩私に近付きかけたハミルトンの前にまたしてもユージーンが立ち塞がる。

「お前! 何で邪魔するんだよ!」

「可愛い妹を狼の手から守るのは当然だろう。まったく油断も隙もない」

「何だと、この野郎!」

 また始まったわ。

 お陰で涙が何処かへ引っ込んじゃったから、助かったけれどね。

「うるさい! いい加減にしないと水をかけるぞ!」 

 お祖父様の鶴の一声で、二人はピタッと大人しくなった。

 私はお祖父様達の後ろに並ぶ使用人達にも声をかける。

「皆さん、短い間でしたがお世話になりました」

 使用人の皆が私にお辞儀をする中、私はユージーンに手を取られて馬車に乗り込む。

 外装だけでなく、中身も豪華絢爛だわね。

 これってもしかして国王陛下用の馬車じゃないのかしら?

 座席の座り心地も昨日の馬車とは比較にならないくらいにフカフカしている。

 この馬車ならば長時間乗っても疲れないかもね。

 私とユージーンが向かい合って座ったのを確認すると、従者が扉を閉めてゆっくりと馬車が走り出した。

 私が窓から皆に手を振ると、ハミルトンは馬車に合わせて歩き出した。

「フェリシア、絶対に会いに行くからね」

 直に馬車は速度を上げてハミルトンの姿が見えなくなると、私はゆっくりと座席にもたれかかった。 

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

拾った指輪で公爵様の妻になりました

奏多
恋愛
結婚の宣誓を行う直前、落ちていた指輪を拾ったエミリア。 とっさに取り替えたのは、家族ごと自分をも売り飛ばそうと計画している高利貸しとの結婚を回避できるからだ。 この指輪の本当の持ち主との結婚相手は怒るのではと思ったが、最悪殺されてもいいと思ったのに、予想外に受け入れてくれたけれど……? 「この試験を通過できれば、君との結婚を継続する。そうでなければ、死んだものとして他国へ行ってもらおうか」 公爵閣下の19回目の結婚相手になったエミリアのお話です。

【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。

airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。 どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。 2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。 ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。 あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて… あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。

優しすぎる王太子に妃は現れない

七宮叶歌
恋愛
『優しすぎる王太子』リュシアンは国民から慕われる一方、貴族からは優柔不断と見られていた。 没落しかけた伯爵家の令嬢エレナは、家を救うため王太子妃選定会に挑み、彼の心を射止めようと決意する。 だが、選定会の裏には思わぬ陰謀が渦巻いていた。翻弄されながらも、エレナは自分の想いを貫けるのか。 国が繁栄する時、青い鳥が現れる――そんな伝承のあるフェラデル国で、優しすぎる王太子と没落令嬢の行く末を、青い鳥は見守っている。

【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される

中山紡希
恋愛
父の再婚後、絶世の美女と名高きアイリーンは意地悪な継母と義妹に虐げられる日々を送っていた。 実は、彼女の目元にはある事件をキッカケに痛々しい傷ができてしまった。 それ以来「傷モノ」として扱われ、屋敷に軟禁されて過ごしてきた。 ある日、ひょんなことから仮面舞踏会に参加することに。 目元の傷を隠して参加するアイリーンだが、義妹のソニアによって仮面が剥がされてしまう。 すると、なぜか冷徹辺境伯と呼ばれているエドガーが跪まずき、アイリーンに「結婚してください」と求婚する。 抜群の容姿の良さで社交界で人気のあるエドガーだが、実はある重要な秘密を抱えていて……? 傷モノになったアイリーンが冷徹辺境伯のエドガーに たっぷり愛され甘やかされるお話。 このお話は書き終えていますので、最後までお楽しみ頂けます。 修正をしながら順次更新していきます。 また、この作品は全年齢ですが、私の他の作品はRシーンありのものがあります。 もし御覧頂けた際にはご注意ください。 ※注意※他サイトにも別名義で投稿しています。

処理中です...