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82 事故
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お兄様とハミルトンは同時に私の前に来ると、同じタイミングで手を差し出して来た。
「フェリシア、次のダンスは僕と踊ろう」
「フェリシア様、次のダンスは僕と踊ってください」
声をかけてくるタイミングまで一緒だなんて、随分と仲が良いのね。
私がどう返事をしようかと迷っていると、二人はお互いを牽制し始めた。
「ハミルトン。ここは兄である僕に譲るのが当然じゃないかな?」
「ユージーン様、何をおっしゃいますか。フェリシア様は先程、陛下とダンスを終えられたのですから、次は身内でない僕が踊るべきですよ」
睨み合う二人の視線の間に火花が飛び交って見えるのは気の所為じゃないわね。
周りの貴族達も突然の二人の攻防に「また始まった」というような顔をしている。
その様子から見ると、普段から二人が事あるごとに競い合っている事が伺われるわ。
だけど、このまま言い争っていては埒が明かないわね。
私は仕方なくお兄様の手を取ったが、その瞬間ハミルトンが目を見開いて、ショックを受けたような顔をした。
ここはちゃんとフォローしておかないといけないわね。
「ハミルトン様とは後ほど踊らせていただきますわ」
それを聞くとハミルトンは少し表情を緩めたけれど、反対にお兄様がむくれているわ。
「フェリシア、ハミルトンなんか放っておいていいんだよ。ほら、音楽が始まるよ」
お兄様に手を引かれ、私はまたホールの中央に進んでいく。
お父様がファーストダンスを踊ったので、ホールには他の貴族達が並んで音楽が始まるのを待っている。
私とお兄様が中央に立つと音楽が始まって皆が踊りだした。
踊りながらホールにいる人達の顔を見るともなしに眺めていると、黒い影が見えてハッとした。
「フェリシア、どうかしたかい?」
私の様子がおかしい事に気付いたお兄様がそっと声をかけてくる。
「今、変な黒い影が見えたのだけど、気の所為かしら?」
「黒い影? 何処に?」
お兄様も踊りながら、辺りを見回していたが、見つけられなかったようだ。
「それらしいものは見当たらないな。憎たらしい顔の奴はいるけどね」
お兄様の言葉に思わずプッと吹き出してしまった。
「お兄様ったら…」
「そうやって笑っている方がいいよ。昨日の事で気が高ぶっているんだよ。気にしない方がいい」
お兄様はそう言って私の心を和ませようとしてくれている。
今は黒い影は何処にも見当たらないから、やはり見間違いなのかしら。
音楽が鳴っている中、時折妙な音が聞こえるような気がした。
何処から聞こえるのかしら?
それに周りで見ている人達が妙にざわついているような気がする。
私達の周りで踊っている人達も、辺りの雰囲気に怪訝な顔をし始めた。
そのうちに音楽に混じって、「ミシッ、ミシッ」という音が段々大きくなっているようだ。
「…何の音だ?」
お兄様も辺りを見回すが、それらしい音を発しているような物は見つからなかったようだ。
皆がダンスを止めて立ち止まったので、私達も足を止めると「キャアアアー!」と叫び声が響き渡った。
驚いて立ちすくんでいる私とお兄様は、ドン!と誰かに突き飛ばされた。
ガシャーン!
私とお兄様が床に倒れると同時に、今まで立っていた場所に天井のシャンデリアが落ちてきた。
「キャアーッ!」
「シャンデリアが落ちたぞ!」
「ユージーン様とフェリシア様は無事か!?」
辺りは叫び声と怒号で騒然としていた。
お兄様は倒れこんでいた床から立ち上がると、すぐに私を助け起こしてくれた。
「フェリシア、大丈夫か?」
「私は大丈夫です。お兄様は?」
「私も怪我はない。誰かが突き飛ばしてくれたお陰だが…。…ハミルトン!?」
お兄様の声に落ちたシャンデリアに目をやると、その下敷きになっているのはハミルトンだった。
「フェリシア、次のダンスは僕と踊ろう」
「フェリシア様、次のダンスは僕と踊ってください」
声をかけてくるタイミングまで一緒だなんて、随分と仲が良いのね。
私がどう返事をしようかと迷っていると、二人はお互いを牽制し始めた。
「ハミルトン。ここは兄である僕に譲るのが当然じゃないかな?」
「ユージーン様、何をおっしゃいますか。フェリシア様は先程、陛下とダンスを終えられたのですから、次は身内でない僕が踊るべきですよ」
睨み合う二人の視線の間に火花が飛び交って見えるのは気の所為じゃないわね。
周りの貴族達も突然の二人の攻防に「また始まった」というような顔をしている。
その様子から見ると、普段から二人が事あるごとに競い合っている事が伺われるわ。
だけど、このまま言い争っていては埒が明かないわね。
私は仕方なくお兄様の手を取ったが、その瞬間ハミルトンが目を見開いて、ショックを受けたような顔をした。
ここはちゃんとフォローしておかないといけないわね。
「ハミルトン様とは後ほど踊らせていただきますわ」
それを聞くとハミルトンは少し表情を緩めたけれど、反対にお兄様がむくれているわ。
「フェリシア、ハミルトンなんか放っておいていいんだよ。ほら、音楽が始まるよ」
お兄様に手を引かれ、私はまたホールの中央に進んでいく。
お父様がファーストダンスを踊ったので、ホールには他の貴族達が並んで音楽が始まるのを待っている。
私とお兄様が中央に立つと音楽が始まって皆が踊りだした。
踊りながらホールにいる人達の顔を見るともなしに眺めていると、黒い影が見えてハッとした。
「フェリシア、どうかしたかい?」
私の様子がおかしい事に気付いたお兄様がそっと声をかけてくる。
「今、変な黒い影が見えたのだけど、気の所為かしら?」
「黒い影? 何処に?」
お兄様も踊りながら、辺りを見回していたが、見つけられなかったようだ。
「それらしいものは見当たらないな。憎たらしい顔の奴はいるけどね」
お兄様の言葉に思わずプッと吹き出してしまった。
「お兄様ったら…」
「そうやって笑っている方がいいよ。昨日の事で気が高ぶっているんだよ。気にしない方がいい」
お兄様はそう言って私の心を和ませようとしてくれている。
今は黒い影は何処にも見当たらないから、やはり見間違いなのかしら。
音楽が鳴っている中、時折妙な音が聞こえるような気がした。
何処から聞こえるのかしら?
それに周りで見ている人達が妙にざわついているような気がする。
私達の周りで踊っている人達も、辺りの雰囲気に怪訝な顔をし始めた。
そのうちに音楽に混じって、「ミシッ、ミシッ」という音が段々大きくなっているようだ。
「…何の音だ?」
お兄様も辺りを見回すが、それらしい音を発しているような物は見つからなかったようだ。
皆がダンスを止めて立ち止まったので、私達も足を止めると「キャアアアー!」と叫び声が響き渡った。
驚いて立ちすくんでいる私とお兄様は、ドン!と誰かに突き飛ばされた。
ガシャーン!
私とお兄様が床に倒れると同時に、今まで立っていた場所に天井のシャンデリアが落ちてきた。
「キャアーッ!」
「シャンデリアが落ちたぞ!」
「ユージーン様とフェリシア様は無事か!?」
辺りは叫び声と怒号で騒然としていた。
お兄様は倒れこんでいた床から立ち上がると、すぐに私を助け起こしてくれた。
「フェリシア、大丈夫か?」
「私は大丈夫です。お兄様は?」
「私も怪我はない。誰かが突き飛ばしてくれたお陰だが…。…ハミルトン!?」
お兄様の声に落ちたシャンデリアに目をやると、その下敷きになっているのはハミルトンだった。
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