81 / 98
81 ダンス
しおりを挟む
お兄様に手を引かれてホールに続く扉を抜けると、そこはステージのようになっていて中央にお父様が立っていた。
広々としたホールには大勢の貴族達で埋め尽くされている。
私とお兄様が姿を現した途端、すべての視線が私に注がれたように感じた。
「娘がいる事が判明した」なんて、要は浮気して出来た娘がいるって公言したようなものだものね。
そんな私を貴族達が受け入れてくれるのかしら?
ドキドキしながらお父様の側まで行くと、パチパチと拍手の音が聞こえた。
音のした方に目をやるとそこにはアシェトン公爵家のお祖父様とパトリシア、ハミルトンがいて、私に拍手をしてくれている。
それに触発されたように拍手の音が大きくなっていき、ホール全体から聞こえてきた。
流石に国王のいるこの場で、不平を言うような輩はいないわよね。
お父様に促されて、私はホールの貴族達に向かって優雅にお辞儀をした。
「さて、フェリシア。最初のダンスを私と踊ってくれるかな?」
お父様の言葉にお兄様は目を剥いていたけれど、流石にこの場でお父様に文句は言わなかったわね。
「勿論ですわ、お父様」
差し出されたお父様の手をとって、階段を降りて、ホールの中央へと進む。
周りの貴族達の好奇の目や、値踏みするような視線の中をお父様とダンスを踊る。
音楽にかき消されて聞こえないけれど、扇で口元を隠している女性達は、私の話に暇がないのだろう。
ジェシカのふりをして、アシェトン公爵家に行かなければ、こんな世界に足を踏み入れる事はなかったのだろうか?
いや、たとえあのまま平民として暮らしていても、王妃様が亡くなられた時点でお父様が私の母を捜していたのだから、いずれは王宮に連れて行かれたのだろう。
ダンスをしながら、私はふと壇上にいるお兄様に目を向けた。
少し悔しそうな顔で私とお父様を見つめているけれど、その背後に妙な黒い影が見えた。
…あれは、何?
もう一度、よく見ようと目をこらした時、不意にお父様に話しかけられた。
「フェリシアには謝らなければならないな」
「え、何をですか?」
問いかけながらも、(昨日の事かしら?)と思い至ったが、違う答えが返ってきた。
「フェリシアという存在がいた事が嬉しくてお披露目をしたが、貴族達の好奇の目に曝す事になってしまったな。本当に申し訳ない」
どうやらお父様は今のこの状況について謝りたかったようだ。
舞い上がりすぎて、他人からどう見られるかなんて、思い至らなかったみたいね。
こちらを見ている宰相の表情からして、助言したのに聞く耳を持たなかったというところかしら。
「大丈夫です。今日くらいは乗り切ってみせます。その代わり、次はありませんからね」
「勿論だ。もう二度とこんな連中の前にお前を出したりはしないからな」
お父様の言葉に苦笑を漏らしつつも、私はもう一度壇上にいるお兄様に目をやった。
けれど、先程見えた黒い影はもうそこには見当たらなかった。
…見間違いだったのかしら?
首を傾げつつも踊っていると、ホールに立っているハミルトンと目が合った。
ニコリと笑いかけられて思わず頬が赤くなる。
それに気付いたお父様が少し不機嫌そうな声を出す。
「フェリシア。私と踊っているのだから、他の男を見るんじゃない。…全く。ハミルトンを呼ぶんじゃなかったな。今からでも追い出すか?」
いやいや、いくら何でもそれは横暴でしょう。
ここはきっちり釘を刺しておかないとね。
「お父様。そんな事をしたら二度と口をききませんからね」
上目遣いでお父様を睨むと、引き攣った顔でコクコクと頷いてくれた。
音楽が止まって私とお父様がお辞儀をすると、ホール内は拍手に包まれた。
お父様とのダンスは無事に終わったけれど、お兄様とハミルトンが次のダンスをどちらが踊るかで一悶着ありそうね。
私は凄い勢いで近付いてくるお兄様とハミルトンを交互に見ながら、こっそりとため息をついた。
広々としたホールには大勢の貴族達で埋め尽くされている。
私とお兄様が姿を現した途端、すべての視線が私に注がれたように感じた。
「娘がいる事が判明した」なんて、要は浮気して出来た娘がいるって公言したようなものだものね。
そんな私を貴族達が受け入れてくれるのかしら?
ドキドキしながらお父様の側まで行くと、パチパチと拍手の音が聞こえた。
音のした方に目をやるとそこにはアシェトン公爵家のお祖父様とパトリシア、ハミルトンがいて、私に拍手をしてくれている。
それに触発されたように拍手の音が大きくなっていき、ホール全体から聞こえてきた。
流石に国王のいるこの場で、不平を言うような輩はいないわよね。
お父様に促されて、私はホールの貴族達に向かって優雅にお辞儀をした。
「さて、フェリシア。最初のダンスを私と踊ってくれるかな?」
お父様の言葉にお兄様は目を剥いていたけれど、流石にこの場でお父様に文句は言わなかったわね。
「勿論ですわ、お父様」
差し出されたお父様の手をとって、階段を降りて、ホールの中央へと進む。
周りの貴族達の好奇の目や、値踏みするような視線の中をお父様とダンスを踊る。
音楽にかき消されて聞こえないけれど、扇で口元を隠している女性達は、私の話に暇がないのだろう。
ジェシカのふりをして、アシェトン公爵家に行かなければ、こんな世界に足を踏み入れる事はなかったのだろうか?
いや、たとえあのまま平民として暮らしていても、王妃様が亡くなられた時点でお父様が私の母を捜していたのだから、いずれは王宮に連れて行かれたのだろう。
ダンスをしながら、私はふと壇上にいるお兄様に目を向けた。
少し悔しそうな顔で私とお父様を見つめているけれど、その背後に妙な黒い影が見えた。
…あれは、何?
もう一度、よく見ようと目をこらした時、不意にお父様に話しかけられた。
「フェリシアには謝らなければならないな」
「え、何をですか?」
問いかけながらも、(昨日の事かしら?)と思い至ったが、違う答えが返ってきた。
「フェリシアという存在がいた事が嬉しくてお披露目をしたが、貴族達の好奇の目に曝す事になってしまったな。本当に申し訳ない」
どうやらお父様は今のこの状況について謝りたかったようだ。
舞い上がりすぎて、他人からどう見られるかなんて、思い至らなかったみたいね。
こちらを見ている宰相の表情からして、助言したのに聞く耳を持たなかったというところかしら。
「大丈夫です。今日くらいは乗り切ってみせます。その代わり、次はありませんからね」
「勿論だ。もう二度とこんな連中の前にお前を出したりはしないからな」
お父様の言葉に苦笑を漏らしつつも、私はもう一度壇上にいるお兄様に目をやった。
けれど、先程見えた黒い影はもうそこには見当たらなかった。
…見間違いだったのかしら?
首を傾げつつも踊っていると、ホールに立っているハミルトンと目が合った。
ニコリと笑いかけられて思わず頬が赤くなる。
それに気付いたお父様が少し不機嫌そうな声を出す。
「フェリシア。私と踊っているのだから、他の男を見るんじゃない。…全く。ハミルトンを呼ぶんじゃなかったな。今からでも追い出すか?」
いやいや、いくら何でもそれは横暴でしょう。
ここはきっちり釘を刺しておかないとね。
「お父様。そんな事をしたら二度と口をききませんからね」
上目遣いでお父様を睨むと、引き攣った顔でコクコクと頷いてくれた。
音楽が止まって私とお父様がお辞儀をすると、ホール内は拍手に包まれた。
お父様とのダンスは無事に終わったけれど、お兄様とハミルトンが次のダンスをどちらが踊るかで一悶着ありそうね。
私は凄い勢いで近付いてくるお兄様とハミルトンを交互に見ながら、こっそりとため息をついた。
33
あなたにおすすめの小説
拾った指輪で公爵様の妻になりました
奏多
恋愛
結婚の宣誓を行う直前、落ちていた指輪を拾ったエミリア。
とっさに取り替えたのは、家族ごと自分をも売り飛ばそうと計画している高利貸しとの結婚を回避できるからだ。
この指輪の本当の持ち主との結婚相手は怒るのではと思ったが、最悪殺されてもいいと思ったのに、予想外に受け入れてくれたけれど……?
「この試験を通過できれば、君との結婚を継続する。そうでなければ、死んだものとして他国へ行ってもらおうか」
公爵閣下の19回目の結婚相手になったエミリアのお話です。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。
海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。
アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。
しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。
「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」
聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。
※本編は全7話で完結します。
※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
公爵令嬢は嫁き遅れていらっしゃる
夏菜しの
恋愛
十七歳の時、生涯初めての恋をした。
燃え上がるような想いに胸を焦がされ、彼だけを見つめて、彼だけを追った。
しかし意中の相手は、別の女を選びわたしに振り向く事は無かった。
あれから六回目の夜会シーズンが始まろうとしている。
気になる男性も居ないまま、気づけば、崖っぷち。
コンコン。
今日もお父様がお見合い写真を手にやってくる。
さてと、どうしようかしら?
※姉妹作品の『攻略対象ですがルートに入ってきませんでした』の別の話になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる