30 / 57
30 従兄弟の接触
しおりを挟む
翌日、いつものように学院に向かい、教室でクリスの到着を待っていた。
程なくして護衛を伴ったクリスが教室に入ってくる。
僕を見て少し笑みを浮かべたが、何も言わずに席に着いた。
最初の授業が終わって休憩時間になるとクリスは教室を出ようとしたところで足を止めた。
その姿を何気なく見ていた僕と目が合うと、くいと顎をしゃくって僕を呼んだ。
何事かと思いクリスの後を追って教室を出ると、そこに一人の少年が立っていた。
どことなく母上に似ているような面影を持った少年は僕を見ると声をかけようとして思い留まっていた。
どうやら身分は僕が上だと思い至ったのだろう。
彼が誰だかわからない僕にクリスがこそっと耳打ちしてきた。
「君の母親の実家の侯爵家の息子だよ」
母上の実家と言うことは僕の従兄弟に当たる人物か。母上には兄がいると聞いていたから彼はその兄の息子なんだろう。
クリスは僕に耳打ちをすると護衛騎士を連れて離れて行った。
僕はその少年に近付くと、彼に手を差し出した。
「はじめまして、ジェレミーです」
僕が手を差し出したのが予想外だったのか、その少年は一瞬キョトンとしていたが、はっと我に返ると慌てて僕の手を握ってきた。
「はじめまして、ブライアンです」
軽く握手を交わすと、ブライアンは少し言いにくそうに口を開いた。
「…あの、先日から公爵家に我が家への招待状を差し上げているのですが、一向にお返事がいただけなくて…。父から直接ジェレミー様にお伺いを立てろと言われたのですが…」
ブライアンの消え入りそうな声を聞きながら、僕は父上を思い浮かべた。
この一年は僕を貴族生活に慣らさせる為に重点を置いていたため、親戚付き合いはほとんど、いや皆無だった。
母上も社交での自分の地位を取り戻すことに必死で実家の事など考えていなかっただろう。
いずれ顔を出さなければいけないのなら、早い方がいいのかもしれないな。
僕は軽くため息を付くとブライアンに告げた。
「わかりました。父上に返事を出すように伝えておきましょう」
僕の返事を聞いてブライアンは安堵のため息をついた。
「ありがとうございます。それではこれで失礼します」
ブライアンは僕にお辞儀をすると、上級生クラスのある方へと戻って行った。
僕よりも年上みたいだな。
教室に入ろうとしたところでちょうどクリスが手洗いから戻ってきた。
「やあ、ブライアンは何だって?」
クリスは先程の人物が誰かを知っていたようだ。だからこそ僕を呼んだんだろうけどね。
「我が家に出した招待状の返事が欲しいんだって」
「なるほど。たとえ断ってもこうやって学院で顔を合わせるから、何度でも誘って来そうだな」
そもそも僕は侯爵家から招待状が来ている事を知らなかったんだけどね。とりあえず帰ったら父上達に報告しないといけないな。
休憩時間も終わり次の授業が始まった。
授業を聞きながらも僕は自分の身内について考えていた。
父上には兄弟はいないと聞いているが、父上の両親、つまり僕の祖父母については何も聞いた事がなかった。
今の屋敷に住んでいるわけではないから、何処か他の場所にいるんだろうか? それとも既に二人共亡くなっているんだろうか?
もしかすると僕が見つかった事を知らせてない場合もあるかもしれない。
授業が終わって帰り支度を始めていると、クリス頑張ってさっさと護衛騎士を連れて教室を出ていった。
その後を追うように僕も教室を出ていく。
今日は我が家に寄らないみたいだな。
出口に向かうとクリスの馬車は既になく、公爵家の馬車が僕を待っていた。
公爵家に戻るとバトラーが出迎えてくれた。
母上は今日も出かけているみたいだ。父上は仕事でいないから話をするのは夕食の席だな。
一人きりの昼食を終えて自室に戻ってソファーに腰掛けた。
「なあ、アーサー。父上の方のお祖父様とお祖母様ってどこに住んでいるんだ?」
アーサーが僕の懐からスーッと滑り出ると、僕の顔の前に浮かび上がった。
「アルフレッドの両親か? 私がお前に付いてこの屋敷を出る時にはまだここで一緒に住んでいたぞ」
それじゃアーサーに聞いても意味がないな。やはり父上に聞かないとわからないか。
午後からはシヴァを連れて公爵家の森を探検する事にした。
どういうふうに管理されているのかはわからないが、そこそこ強い魔獣が出てくる。シヴァも森の中を走り回るのが楽しいようだ。
夕食時、僕は両親に今日の出来事を報告した。
「侯爵家からの招待状? そう言えば来ていたみたいだな。後で返事をしようと思ってすっかり忘れていた」
こともなげに言う父上に僕はがっくりと項垂れた。忘れていたってどれだけ優先順位低いんだよ。
母上も自分の実家に帰ろうとは思わないのかな。そう思って母上を見ると何も言わずに食事を続けている。あまり関係は良くないんだろうか。
「父上。また学院でブライアンに聞かれた場合は何と返事をしたらいいですか?」
とりあえず対処法を聞いておかないといけないだろう。僕が問うと父上はちょっと考えていたが、母上に目を向けて言った。
「近いうちに訪問すると返事を書こう。ジュリアもそれでいいな」
母上は「構いませんわ」とだけ言うとまた食事を続けた。
普通は自分の実家に帰るのが嬉しいんじゃないのかな。
母上の事は置いておいて、僕は父上の方の祖父母について聞いてみた。
「ところで父上の方のお祖父様とお祖母様はどちらにいらっしゃるんですか?」
「私の両親なら領地の方に住んでいるぞ」
領地?
この屋敷だけじゃなくて、別に領地があるって事なのか?
この屋敷だって森があるから馬鹿でかいのに更に領地があるなんて思ってもみなかった。
「お祖父様達にお会いする事は出来ますか?」
母上の実家に行くのなら、父上の方の祖父母にも会ってみたい。
前世では割と濃密な親戚付き合いをしていたので、この世界での身内の稀薄さがちょっと理解出来ないな。
僕の言葉に父上は「考えておこう」とだけ言うと、食堂をあとにした。
程なくして護衛を伴ったクリスが教室に入ってくる。
僕を見て少し笑みを浮かべたが、何も言わずに席に着いた。
最初の授業が終わって休憩時間になるとクリスは教室を出ようとしたところで足を止めた。
その姿を何気なく見ていた僕と目が合うと、くいと顎をしゃくって僕を呼んだ。
何事かと思いクリスの後を追って教室を出ると、そこに一人の少年が立っていた。
どことなく母上に似ているような面影を持った少年は僕を見ると声をかけようとして思い留まっていた。
どうやら身分は僕が上だと思い至ったのだろう。
彼が誰だかわからない僕にクリスがこそっと耳打ちしてきた。
「君の母親の実家の侯爵家の息子だよ」
母上の実家と言うことは僕の従兄弟に当たる人物か。母上には兄がいると聞いていたから彼はその兄の息子なんだろう。
クリスは僕に耳打ちをすると護衛騎士を連れて離れて行った。
僕はその少年に近付くと、彼に手を差し出した。
「はじめまして、ジェレミーです」
僕が手を差し出したのが予想外だったのか、その少年は一瞬キョトンとしていたが、はっと我に返ると慌てて僕の手を握ってきた。
「はじめまして、ブライアンです」
軽く握手を交わすと、ブライアンは少し言いにくそうに口を開いた。
「…あの、先日から公爵家に我が家への招待状を差し上げているのですが、一向にお返事がいただけなくて…。父から直接ジェレミー様にお伺いを立てろと言われたのですが…」
ブライアンの消え入りそうな声を聞きながら、僕は父上を思い浮かべた。
この一年は僕を貴族生活に慣らさせる為に重点を置いていたため、親戚付き合いはほとんど、いや皆無だった。
母上も社交での自分の地位を取り戻すことに必死で実家の事など考えていなかっただろう。
いずれ顔を出さなければいけないのなら、早い方がいいのかもしれないな。
僕は軽くため息を付くとブライアンに告げた。
「わかりました。父上に返事を出すように伝えておきましょう」
僕の返事を聞いてブライアンは安堵のため息をついた。
「ありがとうございます。それではこれで失礼します」
ブライアンは僕にお辞儀をすると、上級生クラスのある方へと戻って行った。
僕よりも年上みたいだな。
教室に入ろうとしたところでちょうどクリスが手洗いから戻ってきた。
「やあ、ブライアンは何だって?」
クリスは先程の人物が誰かを知っていたようだ。だからこそ僕を呼んだんだろうけどね。
「我が家に出した招待状の返事が欲しいんだって」
「なるほど。たとえ断ってもこうやって学院で顔を合わせるから、何度でも誘って来そうだな」
そもそも僕は侯爵家から招待状が来ている事を知らなかったんだけどね。とりあえず帰ったら父上達に報告しないといけないな。
休憩時間も終わり次の授業が始まった。
授業を聞きながらも僕は自分の身内について考えていた。
父上には兄弟はいないと聞いているが、父上の両親、つまり僕の祖父母については何も聞いた事がなかった。
今の屋敷に住んでいるわけではないから、何処か他の場所にいるんだろうか? それとも既に二人共亡くなっているんだろうか?
もしかすると僕が見つかった事を知らせてない場合もあるかもしれない。
授業が終わって帰り支度を始めていると、クリス頑張ってさっさと護衛騎士を連れて教室を出ていった。
その後を追うように僕も教室を出ていく。
今日は我が家に寄らないみたいだな。
出口に向かうとクリスの馬車は既になく、公爵家の馬車が僕を待っていた。
公爵家に戻るとバトラーが出迎えてくれた。
母上は今日も出かけているみたいだ。父上は仕事でいないから話をするのは夕食の席だな。
一人きりの昼食を終えて自室に戻ってソファーに腰掛けた。
「なあ、アーサー。父上の方のお祖父様とお祖母様ってどこに住んでいるんだ?」
アーサーが僕の懐からスーッと滑り出ると、僕の顔の前に浮かび上がった。
「アルフレッドの両親か? 私がお前に付いてこの屋敷を出る時にはまだここで一緒に住んでいたぞ」
それじゃアーサーに聞いても意味がないな。やはり父上に聞かないとわからないか。
午後からはシヴァを連れて公爵家の森を探検する事にした。
どういうふうに管理されているのかはわからないが、そこそこ強い魔獣が出てくる。シヴァも森の中を走り回るのが楽しいようだ。
夕食時、僕は両親に今日の出来事を報告した。
「侯爵家からの招待状? そう言えば来ていたみたいだな。後で返事をしようと思ってすっかり忘れていた」
こともなげに言う父上に僕はがっくりと項垂れた。忘れていたってどれだけ優先順位低いんだよ。
母上も自分の実家に帰ろうとは思わないのかな。そう思って母上を見ると何も言わずに食事を続けている。あまり関係は良くないんだろうか。
「父上。また学院でブライアンに聞かれた場合は何と返事をしたらいいですか?」
とりあえず対処法を聞いておかないといけないだろう。僕が問うと父上はちょっと考えていたが、母上に目を向けて言った。
「近いうちに訪問すると返事を書こう。ジュリアもそれでいいな」
母上は「構いませんわ」とだけ言うとまた食事を続けた。
普通は自分の実家に帰るのが嬉しいんじゃないのかな。
母上の事は置いておいて、僕は父上の方の祖父母について聞いてみた。
「ところで父上の方のお祖父様とお祖母様はどちらにいらっしゃるんですか?」
「私の両親なら領地の方に住んでいるぞ」
領地?
この屋敷だけじゃなくて、別に領地があるって事なのか?
この屋敷だって森があるから馬鹿でかいのに更に領地があるなんて思ってもみなかった。
「お祖父様達にお会いする事は出来ますか?」
母上の実家に行くのなら、父上の方の祖父母にも会ってみたい。
前世では割と濃密な親戚付き合いをしていたので、この世界での身内の稀薄さがちょっと理解出来ないな。
僕の言葉に父上は「考えておこう」とだけ言うと、食堂をあとにした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,367
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる