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確かに落ちたら大変だとは思ったけれど、ポットを空中で受け止めて元に戻すなんて魔法を私が使ったの?
「今のは風魔法を使ってポットを元に戻したみたいね。私も含めてここにいる人達は風魔法は使えないの。だとしたら今のはアリスがやった事になるわ」
ガブリエラさんにそう言われても私にはにわかには信じられなかった。
「私が魔法を使える?」
それって異世界転移したから、スキルをもらったって事なのかしら?
呆然としている私にガブリエラさんは気を取り直すように微笑んだ。
「アリス。先ずはお茶をいただきましょう。魔法については後で話をしましょうね」
侍女達も何事もなかったかのようにワゴンを下げて脇に控えている。
私も椅子に座り直して淹れてもらったお茶の香りを楽しんだ。
******
エイブラムは朝食を終えるとすぐにケルビーに跨って王都に向かった。
昨日の盗賊団の討伐についての報告をするためだ。
王都に入る門を過ぎて王宮へと急いだ。
王宮に着くとすぐにアンドリュー王子の執務室へと通される。
「おはようございます、アンドリュー様」
澄ました顔で挨拶をすると、書類に目を通していたアンドリューは顔を上げるとニヤリと笑った。
「おはよう、エイブラム。昨日は随分と大活躍だったそうだな。一度に三人も斬り殺したって?」
覚悟はしていたが、やはり昨日の事は既にアンドリュー王子の耳に入っていたようだ。
「女性に乱暴しようとしていたのでやむなく切り捨てただけです。どのみち死罪でしたし、討伐に生死は問われないとの事だったので問題はないでしょう?」
自分でも苦しい言い訳だとは思っているが、エイブラムはそれで押し通すつもりだった。
昨日、行方を追っていた盗賊団の一味がパーセル村にいるらしいと連絡を受けて踏み込んだが、既に村は荒らされた後だった。
それでも村の出口で連れて行かれそうになっていた女性達を取り戻し、盗賊団も捕まえた。
まだ他にも仲間がいるらしいと聞き、村の中に入ったところ、一人の女性が民家に連れ込まれるのを目撃した。
遠目だったにもかかわらず、エイブラムはその女性が連れて行かれるのを見て何故か心臓が鷲掴みにされたような痛みを覚えた。
いても立ってもいられず後を追って民家に入ると、男が女性にのしかかっているのが見えた。
「いやー!誰か助けて!」
その声を聞いた途端、エイブラムは三人の男を切り捨てていた。
助けた女性はアリスと名乗ったが、どうやら盗賊団に何処からか連れてこられたようだった。
アリス本人も自分の国が何処かわからないようなので、とりあえず自宅に連れて帰る事にした。
きっと母上もアリスを気にいるだろうと思ったのもあるが、要はエイブラム自身もアリスを手離したくはなかったからだ。
…グレンダの事が好きなんじゃなかったのか?
エイブラムは自問自答するが、何故アリスが気になるのかはわからない。
「それにしても女嫌いで通っている騎士団長が女性に興味を持つとはね。そろそろ君も結婚かな?」
なおもニヤニヤ笑うアンドリュー王子をエイブラムはギロリと睨む。
「私の事よりご自分の事を心配してください。いつまでも独り身でいないでそろそろお相手を見つけられたらどうですか? 国王陛下が二十歳の頃にはあなたが生まれていたんでしょう?」
エイブラムが苦言を呈してもアンドリュー王子は何処吹く風だ。
「そんな事を言っても、なかなかこれ、という女性に出会えないんだよ」
「だったら夜会でも開いて女性を集めればいいでしょう。国王陛下もアンドリュー王子を甘やかし過ぎですよ。いくら王妃様が…」
言いかけてエイブラムはハッとしたように口を噤んだ。
「申し訳ありません。言い過ぎました」
エイブラムが腰を折ってアンドリュー王子に謝罪すると、アンドリュー王子は薄く微笑んで手を振った。
「いや、いい。最初に私がからかい過ぎたのが悪いんだ。報告書を出したら行っていい」
エイブラムは報告書をアンドリュー王子の机の上に置くと、一礼して執務室を出ていった。
閉じた扉の前に立ち止まり、エイブラムはブルリと首を振った。
十七年経った今でも、あの日の王妃の姿をまざまざと思い出す。
ほんの数日前に会った時は嬉しそうに大きなお腹を撫でていた王妃が、青白い顔で棺に収まっていた。
生まれた王女も一歳の誕生日を迎える前に亡くなった。
立て続けに王家の女性が亡くなった事でアンドリュー王子も結婚に踏み切れないのかもしれないな。
エイブラムはアンドリュー王子の執務室を後にすると、王宮魔術師団の控室へと足を運んだ。
「失礼。グレンダはいるか?」
扉を開けてそこにいた魔術師に問うと、その人物は首を横に振った。
「グレンダさんは昨日から姿を見ていません。家にも行ったのですがもぬけの殻でした」
それを聞くなりエイブラムは王宮を飛び出し、王都の外れにあるグレンダの家に向かった。
「グレンダ、いるか!」
ドンドンと扉を叩くが、応答はない。
取っ手を回すと何の抵抗もなく開いた。
そっと扉を開けるが、先程の魔術師の言ったとおり、そこには誰もいなかった。
「グレンダ… 何処に行ったんだ?」
誰もいない部屋にエイブラムの声だけが響いた。
「今のは風魔法を使ってポットを元に戻したみたいね。私も含めてここにいる人達は風魔法は使えないの。だとしたら今のはアリスがやった事になるわ」
ガブリエラさんにそう言われても私にはにわかには信じられなかった。
「私が魔法を使える?」
それって異世界転移したから、スキルをもらったって事なのかしら?
呆然としている私にガブリエラさんは気を取り直すように微笑んだ。
「アリス。先ずはお茶をいただきましょう。魔法については後で話をしましょうね」
侍女達も何事もなかったかのようにワゴンを下げて脇に控えている。
私も椅子に座り直して淹れてもらったお茶の香りを楽しんだ。
******
エイブラムは朝食を終えるとすぐにケルビーに跨って王都に向かった。
昨日の盗賊団の討伐についての報告をするためだ。
王都に入る門を過ぎて王宮へと急いだ。
王宮に着くとすぐにアンドリュー王子の執務室へと通される。
「おはようございます、アンドリュー様」
澄ました顔で挨拶をすると、書類に目を通していたアンドリューは顔を上げるとニヤリと笑った。
「おはよう、エイブラム。昨日は随分と大活躍だったそうだな。一度に三人も斬り殺したって?」
覚悟はしていたが、やはり昨日の事は既にアンドリュー王子の耳に入っていたようだ。
「女性に乱暴しようとしていたのでやむなく切り捨てただけです。どのみち死罪でしたし、討伐に生死は問われないとの事だったので問題はないでしょう?」
自分でも苦しい言い訳だとは思っているが、エイブラムはそれで押し通すつもりだった。
昨日、行方を追っていた盗賊団の一味がパーセル村にいるらしいと連絡を受けて踏み込んだが、既に村は荒らされた後だった。
それでも村の出口で連れて行かれそうになっていた女性達を取り戻し、盗賊団も捕まえた。
まだ他にも仲間がいるらしいと聞き、村の中に入ったところ、一人の女性が民家に連れ込まれるのを目撃した。
遠目だったにもかかわらず、エイブラムはその女性が連れて行かれるのを見て何故か心臓が鷲掴みにされたような痛みを覚えた。
いても立ってもいられず後を追って民家に入ると、男が女性にのしかかっているのが見えた。
「いやー!誰か助けて!」
その声を聞いた途端、エイブラムは三人の男を切り捨てていた。
助けた女性はアリスと名乗ったが、どうやら盗賊団に何処からか連れてこられたようだった。
アリス本人も自分の国が何処かわからないようなので、とりあえず自宅に連れて帰る事にした。
きっと母上もアリスを気にいるだろうと思ったのもあるが、要はエイブラム自身もアリスを手離したくはなかったからだ。
…グレンダの事が好きなんじゃなかったのか?
エイブラムは自問自答するが、何故アリスが気になるのかはわからない。
「それにしても女嫌いで通っている騎士団長が女性に興味を持つとはね。そろそろ君も結婚かな?」
なおもニヤニヤ笑うアンドリュー王子をエイブラムはギロリと睨む。
「私の事よりご自分の事を心配してください。いつまでも独り身でいないでそろそろお相手を見つけられたらどうですか? 国王陛下が二十歳の頃にはあなたが生まれていたんでしょう?」
エイブラムが苦言を呈してもアンドリュー王子は何処吹く風だ。
「そんな事を言っても、なかなかこれ、という女性に出会えないんだよ」
「だったら夜会でも開いて女性を集めればいいでしょう。国王陛下もアンドリュー王子を甘やかし過ぎですよ。いくら王妃様が…」
言いかけてエイブラムはハッとしたように口を噤んだ。
「申し訳ありません。言い過ぎました」
エイブラムが腰を折ってアンドリュー王子に謝罪すると、アンドリュー王子は薄く微笑んで手を振った。
「いや、いい。最初に私がからかい過ぎたのが悪いんだ。報告書を出したら行っていい」
エイブラムは報告書をアンドリュー王子の机の上に置くと、一礼して執務室を出ていった。
閉じた扉の前に立ち止まり、エイブラムはブルリと首を振った。
十七年経った今でも、あの日の王妃の姿をまざまざと思い出す。
ほんの数日前に会った時は嬉しそうに大きなお腹を撫でていた王妃が、青白い顔で棺に収まっていた。
生まれた王女も一歳の誕生日を迎える前に亡くなった。
立て続けに王家の女性が亡くなった事でアンドリュー王子も結婚に踏み切れないのかもしれないな。
エイブラムはアンドリュー王子の執務室を後にすると、王宮魔術師団の控室へと足を運んだ。
「失礼。グレンダはいるか?」
扉を開けてそこにいた魔術師に問うと、その人物は首を横に振った。
「グレンダさんは昨日から姿を見ていません。家にも行ったのですがもぬけの殻でした」
それを聞くなりエイブラムは王宮を飛び出し、王都の外れにあるグレンダの家に向かった。
「グレンダ、いるか!」
ドンドンと扉を叩くが、応答はない。
取っ手を回すと何の抵抗もなく開いた。
そっと扉を開けるが、先程の魔術師の言ったとおり、そこには誰もいなかった。
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