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口コミのご依頼 3
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十日はあっという間に過ぎた。
二枚作るので、一枚は夏用にしたらどうかとイシュタルトに提案したが、「すぐ着るから」と言われた。
結局、表地だけ変えた同じものを二枚制作した。色は山吹色と、爽やかな水色の格子柄。値段は一枚、一万四千G。前回よりも、時間があったので、美しく仕上がった。
近衛隊は、毎日、鎧を着て訓練している。
だからプールポワンも毎日着替えるのだと、ロバートが教えてくれた。
イシュタルトは、縁起が良いということで、私のプールポワンを愛用してくれているそうだ。
父の超お得意さまだったイシュタルトが、『私の』製品を気にいってくれた。
これは職人として、とても誇らしいことだ。
もっとも、父はまだ、私にオーダーを受けさせるつもりはないみたいだけど。
縫製の技術のこともあるけれど、ひょっとすると、接客的なことを心配しているのかもしれない。
今日は約束の日。
本来は私が行くはずだった防具屋への御用聞きは、父に行ってもらった。
しかし、いつ来るのだろう。
時間の約束はしていないが、たぶんそろそろだ。
かなりソワソワ、ドキドキする。
新しい製品も気にいってくれるだろうか。
「私って、単純」
思わず、自嘲してしまう。
あれほど苦手だと思っていたのに。
考えてみれば、顔が良すぎるとか、借金の保証人とか、そういうところで、勝手に苦手意識を持っていた。
借金をしたのは父だ。銀行も保証人も悪くない。
そもそも顔の良い男に忌避感があるのは、私自身の問題だ。
無理やりキスをして、無茶ぶりをするような人ではあるから、私の態度だけが悪いわけではないけれど。
それにしても。
初めてのお得意さまだ。特別に感じても不思議はない。
そんなことを考えていると、戸を叩く音に気付いた。
あれ? 今日は馬に乗ってきていないのだろうか。
馬の蹄の音は、聞こえなかった。
そういえば、この前は馬車で来たと言っていた。
それに、よく考えたら、本人が取りに来るとは限らない。
「いらっしゃいませ」
ノブを回すと、そこに立っていたのは、銀髪の見知らぬ男だった。
明らかに鍛えられた肉体で、前あきのジャケットを羽織っている。その下にはラフなシャツ、着心地のよさそうなズボンという完全な日常着だ。
おそらく、傭兵か、冒険者だろう。
「プールポワンを作りたいのだが」
「はい。どうぞ」
貴族の顧客は、父がオーダーを取りに行くけれど、傭兵や冒険者稼業の顧客は、こうして店を訪れる。
身にまとっているものの感じから見て、かなりの上客と思われた。
「今、父は留守にしております。すぐに戻ると思いますので、おかけになってお待ちいただけますか?」
私は男を店内の質素な応接セットのある接客スペースに、案内する。
「お茶をお入れいたしますので」
断りを入れてから、脇にある火元に立つ。うちには調理用の魔道具がないので、お茶を入れるのもひと苦労だ。
「ここの職人は、クラーク殿、おひとりか?」
男は不思議そうに問いかける。
「いえ──見習いですが、私も、職人をしております」
「ふうん。なるほど」
男は何かに納得したように頷く。
どうやら落ち着かないらしく、椅子に座らず店内を見て歩いている。
店内には、生地見本と、完成品見本が一応置いてはあるから、どんなものを注文するのか、思案中なのかもしれない。
男は、部屋の隅に吊るしてあった、イシュタルトの注文品のプールポワンの匂いを嗅ぐようなしぐさをした。
「これは?」
不思議そうに、指をさされたのだけれど、なにか匂う?
そんなはずはないのだけれど。
「それは私が作った、注文の品です」
「見せていただいても?」
「いえ、あのそれは」
制止しようとしたのに、男は勝手に山吹色のほうのプールポワンを手にしている。
「申し訳ありませんが、そちらは別のお客さまのものですので」
「ちょっと、着るだけだから」
彼は強引に羽織って、その姿を姿見に映す。
やや服が大きい。
イシュタルトより少し身長が低いせいだろう。
「これが欲しい」
「困ります」
オーダー品と同じものをと言うのならまだわかるが、横からかっさらうようなことをされては、私の信用にもかかわる。
「これを注文したのは、イシュタルト・リゼンベルグ副長だろう?」
「お答えできません。これ以上、横暴なことをおっしゃられるなら、お帰りください」
私は男をにらみつける。
面倒な客は、たとえお金を持っていたとしてもトラブルのもとだ。
「悪かった」
彼は服を元に戻し、頭を下げる。
「オレは、レグルス・グラインという」
「レグルス・グライン?」
名前に聞き覚えがある。
私は、首をかしげ、男の姿をもう一度見る。
銀の髪に紫の瞳。非常に整った顔立ち。
「ひょっとして、ワイバーン殺しのレグルス・グラインさんですか?」
「そうだ。割と、容姿だけでわかってもらえることが多いんだけど」
ちくりと嫌味を言われた。
銀髪で紫の瞳という超特徴的な美形であるレグルス・グラインは、有名人だ。
国王に目通りを許されるほどの有名な冒険者で、軍に乞われて、帝国軍の行事に参加したりもする。
「そんな有名人が来るとは思っておりませんし、有名人だからと言って、やっていいことと悪いことはあります」
レグルスだからつい許されてしまうことはあるのだとは思う。
だからと言って、他の顧客のオーダー品を渡すことはできない。
「うん。そうだな。君は信用できる職人だ。非礼を許してくれ。オレは君に仕事を頼みたい」
レグルスはまっすぐに私を見る。歴戦の勇者なのに、人に謝ることができる人みたいだ。
「私はまだひよっこです。先日初めて、お仕事を頂いたばかりなので」
「ふーん。だから、イシュタルトは、君の名を出さなかったのか?」
レグルスは私に顔を近づけて、まじまじと見つめる。
「いや――たぶん、違うな」
レグルスは、ニヤリと口の端を上げた。
「火球消滅させたプールポワンは君の製作だな? そこにかかっている服と同じ匂いがする」
「匂い? 匂うのですか?」
いつから、魔力付与の魔力は匂うようになったのだろう?
「――いや、本当は波動というほうが、正しいけど」
つまり、この人もイシュタルトと一緒で、魔力をかぎ分ける能力が高いってことなのだろうか?
「オレにも作ってほしい」
「でも、私は」
「君がいい。と、いうより、君じゃないとダメだ」
レグルスは、まっすぐに私を見つめた。
二枚作るので、一枚は夏用にしたらどうかとイシュタルトに提案したが、「すぐ着るから」と言われた。
結局、表地だけ変えた同じものを二枚制作した。色は山吹色と、爽やかな水色の格子柄。値段は一枚、一万四千G。前回よりも、時間があったので、美しく仕上がった。
近衛隊は、毎日、鎧を着て訓練している。
だからプールポワンも毎日着替えるのだと、ロバートが教えてくれた。
イシュタルトは、縁起が良いということで、私のプールポワンを愛用してくれているそうだ。
父の超お得意さまだったイシュタルトが、『私の』製品を気にいってくれた。
これは職人として、とても誇らしいことだ。
もっとも、父はまだ、私にオーダーを受けさせるつもりはないみたいだけど。
縫製の技術のこともあるけれど、ひょっとすると、接客的なことを心配しているのかもしれない。
今日は約束の日。
本来は私が行くはずだった防具屋への御用聞きは、父に行ってもらった。
しかし、いつ来るのだろう。
時間の約束はしていないが、たぶんそろそろだ。
かなりソワソワ、ドキドキする。
新しい製品も気にいってくれるだろうか。
「私って、単純」
思わず、自嘲してしまう。
あれほど苦手だと思っていたのに。
考えてみれば、顔が良すぎるとか、借金の保証人とか、そういうところで、勝手に苦手意識を持っていた。
借金をしたのは父だ。銀行も保証人も悪くない。
そもそも顔の良い男に忌避感があるのは、私自身の問題だ。
無理やりキスをして、無茶ぶりをするような人ではあるから、私の態度だけが悪いわけではないけれど。
それにしても。
初めてのお得意さまだ。特別に感じても不思議はない。
そんなことを考えていると、戸を叩く音に気付いた。
あれ? 今日は馬に乗ってきていないのだろうか。
馬の蹄の音は、聞こえなかった。
そういえば、この前は馬車で来たと言っていた。
それに、よく考えたら、本人が取りに来るとは限らない。
「いらっしゃいませ」
ノブを回すと、そこに立っていたのは、銀髪の見知らぬ男だった。
明らかに鍛えられた肉体で、前あきのジャケットを羽織っている。その下にはラフなシャツ、着心地のよさそうなズボンという完全な日常着だ。
おそらく、傭兵か、冒険者だろう。
「プールポワンを作りたいのだが」
「はい。どうぞ」
貴族の顧客は、父がオーダーを取りに行くけれど、傭兵や冒険者稼業の顧客は、こうして店を訪れる。
身にまとっているものの感じから見て、かなりの上客と思われた。
「今、父は留守にしております。すぐに戻ると思いますので、おかけになってお待ちいただけますか?」
私は男を店内の質素な応接セットのある接客スペースに、案内する。
「お茶をお入れいたしますので」
断りを入れてから、脇にある火元に立つ。うちには調理用の魔道具がないので、お茶を入れるのもひと苦労だ。
「ここの職人は、クラーク殿、おひとりか?」
男は不思議そうに問いかける。
「いえ──見習いですが、私も、職人をしております」
「ふうん。なるほど」
男は何かに納得したように頷く。
どうやら落ち着かないらしく、椅子に座らず店内を見て歩いている。
店内には、生地見本と、完成品見本が一応置いてはあるから、どんなものを注文するのか、思案中なのかもしれない。
男は、部屋の隅に吊るしてあった、イシュタルトの注文品のプールポワンの匂いを嗅ぐようなしぐさをした。
「これは?」
不思議そうに、指をさされたのだけれど、なにか匂う?
そんなはずはないのだけれど。
「それは私が作った、注文の品です」
「見せていただいても?」
「いえ、あのそれは」
制止しようとしたのに、男は勝手に山吹色のほうのプールポワンを手にしている。
「申し訳ありませんが、そちらは別のお客さまのものですので」
「ちょっと、着るだけだから」
彼は強引に羽織って、その姿を姿見に映す。
やや服が大きい。
イシュタルトより少し身長が低いせいだろう。
「これが欲しい」
「困ります」
オーダー品と同じものをと言うのならまだわかるが、横からかっさらうようなことをされては、私の信用にもかかわる。
「これを注文したのは、イシュタルト・リゼンベルグ副長だろう?」
「お答えできません。これ以上、横暴なことをおっしゃられるなら、お帰りください」
私は男をにらみつける。
面倒な客は、たとえお金を持っていたとしてもトラブルのもとだ。
「悪かった」
彼は服を元に戻し、頭を下げる。
「オレは、レグルス・グラインという」
「レグルス・グライン?」
名前に聞き覚えがある。
私は、首をかしげ、男の姿をもう一度見る。
銀の髪に紫の瞳。非常に整った顔立ち。
「ひょっとして、ワイバーン殺しのレグルス・グラインさんですか?」
「そうだ。割と、容姿だけでわかってもらえることが多いんだけど」
ちくりと嫌味を言われた。
銀髪で紫の瞳という超特徴的な美形であるレグルス・グラインは、有名人だ。
国王に目通りを許されるほどの有名な冒険者で、軍に乞われて、帝国軍の行事に参加したりもする。
「そんな有名人が来るとは思っておりませんし、有名人だからと言って、やっていいことと悪いことはあります」
レグルスだからつい許されてしまうことはあるのだとは思う。
だからと言って、他の顧客のオーダー品を渡すことはできない。
「うん。そうだな。君は信用できる職人だ。非礼を許してくれ。オレは君に仕事を頼みたい」
レグルスはまっすぐに私を見る。歴戦の勇者なのに、人に謝ることができる人みたいだ。
「私はまだひよっこです。先日初めて、お仕事を頂いたばかりなので」
「ふーん。だから、イシュタルトは、君の名を出さなかったのか?」
レグルスは私に顔を近づけて、まじまじと見つめる。
「いや――たぶん、違うな」
レグルスは、ニヤリと口の端を上げた。
「火球消滅させたプールポワンは君の製作だな? そこにかかっている服と同じ匂いがする」
「匂い? 匂うのですか?」
いつから、魔力付与の魔力は匂うようになったのだろう?
「――いや、本当は波動というほうが、正しいけど」
つまり、この人もイシュタルトと一緒で、魔力をかぎ分ける能力が高いってことなのだろうか?
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「でも、私は」
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