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第12話
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「4ー0かよ……」
「サッカー部もだらしないな……」
「新入生の方がやりたい放題じゃねえか」
更に点差が広がったことで、観戦に来ていた他の生徒たちはヒソヒソと話し始めた。
サッカー部がフットサル部を創部しようとしている新入生と勝負するという話を聞いて面白半分に見に来たのだが、予想に反した試合内容にだらしなく映っているようだ。
この高校のサッカー部と言えば、県内ではある程度知られている強豪だ。
部費も結構手厚く支払われているのもあって、他の部としたらどれだけすごいのかというのを見に来たというのもあった。
それが、蓋を開けたらこの点差なのだから、冷やかしたくなるのも分からなくもない。
「「「「………………」」」」
そのヒソヒソ声は、たいして広くもないせいか、コートの中の者たちの耳にも入ってくる。
サッカー部の選手たちもこのようなことになるとは思っていなかったため、周りの生徒の言葉に悔しさで何も言えないでいた。
“パンッ!! パンッ!!”
「「「「っ!?」」」」
俯くコート内の4人に対し、1人の選手だけが違った。
手を叩いて、その音で4人の注目を集める。
「みんな、顔を上げてここまでのことは忘れろ!」
「西尾……」「キャプテン……」
サッカー部のキャプテンである西尾だ。
彼は4人に対して顔を上げることを要求する。
言われて初めて俯いていたことに気付き、4人は西尾の言う通り顔を上げた。
「……………フンッ!」
西尾が4人に話し始めたのを見て、顧問の猪原も立ち上がって大声を上げようとしたのをやめ、状況を変えることを西尾に任せることにして、黙ってベンチに座り直した。
「俺もそうだが、みんな彼らのことを甘く見過ぎた。彼らは1年とは言っても、かなりの技術の持ち主だと認めるべきだ!」
西尾自身、フットサルのルールとかを頭に入れないで来た。
そのせいもあって、善之らにいいようにやられたという部分がある。
しかし、それをいつまでも引きずる方が良くない。
ここから気持ちを切り替えるべきだ。
「前半もまだ終わっていないし、後半も丸々残ってる。慌てる必要はない。まずは一点ずつ取り返そう!」
「「「「おうっ!!」」」」
西尾に言われた通り、まだ前半すら終わっていない。
まだ落ち込むのは早すぎる。
そう思った4人は、先程までの沈んでいた表情から一転して、目に力がこもっている状態へと変わっていた。
「……西尾先輩か」
「んっ? サッカー部のキャプテンのこと知ってるのか?」
サッカー部の選手たちの目が変わったことに善之たちも気付く。
そうなるようにしたのは、サッカー部のキャプテンの西尾だ。
その西尾のことを見つめながら、一言呟いた海に竜一が問いかける。
「小学校の頃、何回か戦った覚えがある。とんでもなく上手いという訳でもないけど、ミスもしない選手って印象だな」
「そりゃまた面倒な相手だな……」
海は兄の陸の影響もあって、小学校の頃からサッカーをしている。
そのサッカークラブが、隣町のサッカークラブと戦った時、敵チームに西野がいたらしい。
昔のことなのに覚えているのは、それだけ印象に残る相手だったのだろう。
その時の印象を聞いた善之たちは、嫌な予感がしてきた。
「チームを引っ張るのが得意な人だ。戦った時も逆転負け食らった」
「まさにキャプテンってわけか……」
「要注意人物だな……」
この試合でも、海が言っていたように西野のミスはほとんどない。
一番最初にフットサルボールに慣れたのが西野だったように思える。
折角津田を含めたサッカー部員の心を折りかけていたのに、すぐに元に戻してしまったところを考えると、サッカー部で一番気を付けなければならないのは、彼だということを善之たちは認識したのだった。
「……どうやら、海たちの好きにできたのはさっきまでかもしれないですね」
「あぁ、サッカー部の動きがまた良くなった……」
観戦している陸と山田は同じ意見になった。
4-0になって有利だったはずの善之たちの方が、攻められている時間が長くなってきたからだ。
西尾の檄が効いたのか、サッカー部のメンバーの動きが良く、善之たちは必死に付いて行く。
“バッ!!”
「くっ!!」
ペナルティーエリアの外でパスを回し、マークをずらそうと動くサッカー部の選手たち。
そんな中、ボールを受けた瞬間に西野が一気に加速し、ドリブルでペナルティーエリアの中へと入って行く。
これまでパスばかりに対応していたこともあってか、マークに付いていた善之は止められない。
マンマークで付いていたため、西野はそのままゴレイロの勝也と1対1の状態になってしまった。
“ドッ!!”
「ぐっ!?」
善之を抜いてすぐさまシュート体勢に入った西野へ、勝也は前へ出てシュートコースを消す。
最初に善之がやったように、西野は至近距離から強めのシュートを放つ。
そのシュートに反応した勝也は、ボールへ向けて手を動かす。
しかし、ボールは勝也の手をすり抜けるようにゴールへと飛んで行った。
“ガンッ!!”
「あ~……くそっ!!」
「フゥ~……、危ね……」
ゴールに入ると思ったが、飛んで行ったボールはクロスバーへと直撃してゴールラインを割った。
その結果に、西野は悔しそうな声をあげる。
触れていなかったように見えなかったが、実は勝也の指が先程のシュートのコースを僅かにずらしていた。
シュートが入らなかったのを見て、善之たちの方は息を吐いて安堵した。
「ナイッシュ!」
「あぁ、次は決める!」
危うく失点しそうだった善之たちをしり目に、外した方のサッカー部の方は一気にテンションが上がったように見える。
「あっ!!」
勝也のスローで試合が再開され、これまでの作戦を継続するように善之たちはパスを回して時間を稼ごうとする。
しかし、竜一から海へ出した横パスを狙っていた西野が、パスカットをして一気にドリブルを開始した。
「ゴレイロと1対1だ!!」
横パスをカットされると、どうしても守る側は反応が遅れる。
優介が必死に追いかけるも追いつけず、西野はまた勝也と1対1の状態に持って行った。
「っ!!」
さっきのように前へ出て、ペナルティーラインぎりぎりまで距離を詰めた勝也。
それに対し、西野はシュートを打つ振りをして打たない。
いわゆるキックフェイントをして、縦に向かっていたドリブルを横へと変え、勝也を抜き去ろうとする。
そうはさせまいと体を横に倒して、勝也はボールへ手を伸ばす。
“パサッ!!”
咄嗟に反応したのはいいが、西野は勝也の手の上を抜けるように軽くボールを蹴り上げる。
そのボールは無人になったゴールへ弾んで行き、そのままネットを優しく揺らした。
“ピピーッ!!”
「よしっ!!」
ゴールが入って笛が鳴ると、西野は仲間へ向けてガッツポーズをする。
次は決めると言って有言実行をしたことで、サッカー部の選手たちはみんな笑顔で得点した西野を囲み、祝福するようにハイタッチをし合った。
「……本当に要注意な人だ」
「完全に勢いに乗っちまったみたいだな」
最初から完封できるとは思っていなかったが、前半はできれば失点したくはなかった。
西野一人のプレーによって、サッカー部の方は完全に少し前の暗い表情が消え失せてしまった。
しかも、観戦に来ているコート外の生徒たちも、面白くなったと言いたげに笑顔に変わったように思える。
「どうにか前半はこのまま抑えよう!」
「「「「あぁ!」」」」
善之たちからすると、これ以上前半に失点するのは避けたい。
そのため、これまでの作戦通りパス回しの時間稼ぎをしつつも、パスカットされないように横パスに注意をするように話し合った。
しかし、
“パサッ!!”
前半終了間際に、西尾のパスを受けたサッカー部の3年生が放ったシュートがゴールへと突き刺さったのだった。
「サッカー部もだらしないな……」
「新入生の方がやりたい放題じゃねえか」
更に点差が広がったことで、観戦に来ていた他の生徒たちはヒソヒソと話し始めた。
サッカー部がフットサル部を創部しようとしている新入生と勝負するという話を聞いて面白半分に見に来たのだが、予想に反した試合内容にだらしなく映っているようだ。
この高校のサッカー部と言えば、県内ではある程度知られている強豪だ。
部費も結構手厚く支払われているのもあって、他の部としたらどれだけすごいのかというのを見に来たというのもあった。
それが、蓋を開けたらこの点差なのだから、冷やかしたくなるのも分からなくもない。
「「「「………………」」」」
そのヒソヒソ声は、たいして広くもないせいか、コートの中の者たちの耳にも入ってくる。
サッカー部の選手たちもこのようなことになるとは思っていなかったため、周りの生徒の言葉に悔しさで何も言えないでいた。
“パンッ!! パンッ!!”
「「「「っ!?」」」」
俯くコート内の4人に対し、1人の選手だけが違った。
手を叩いて、その音で4人の注目を集める。
「みんな、顔を上げてここまでのことは忘れろ!」
「西尾……」「キャプテン……」
サッカー部のキャプテンである西尾だ。
彼は4人に対して顔を上げることを要求する。
言われて初めて俯いていたことに気付き、4人は西尾の言う通り顔を上げた。
「……………フンッ!」
西尾が4人に話し始めたのを見て、顧問の猪原も立ち上がって大声を上げようとしたのをやめ、状況を変えることを西尾に任せることにして、黙ってベンチに座り直した。
「俺もそうだが、みんな彼らのことを甘く見過ぎた。彼らは1年とは言っても、かなりの技術の持ち主だと認めるべきだ!」
西尾自身、フットサルのルールとかを頭に入れないで来た。
そのせいもあって、善之らにいいようにやられたという部分がある。
しかし、それをいつまでも引きずる方が良くない。
ここから気持ちを切り替えるべきだ。
「前半もまだ終わっていないし、後半も丸々残ってる。慌てる必要はない。まずは一点ずつ取り返そう!」
「「「「おうっ!!」」」」
西尾に言われた通り、まだ前半すら終わっていない。
まだ落ち込むのは早すぎる。
そう思った4人は、先程までの沈んでいた表情から一転して、目に力がこもっている状態へと変わっていた。
「……西尾先輩か」
「んっ? サッカー部のキャプテンのこと知ってるのか?」
サッカー部の選手たちの目が変わったことに善之たちも気付く。
そうなるようにしたのは、サッカー部のキャプテンの西尾だ。
その西尾のことを見つめながら、一言呟いた海に竜一が問いかける。
「小学校の頃、何回か戦った覚えがある。とんでもなく上手いという訳でもないけど、ミスもしない選手って印象だな」
「そりゃまた面倒な相手だな……」
海は兄の陸の影響もあって、小学校の頃からサッカーをしている。
そのサッカークラブが、隣町のサッカークラブと戦った時、敵チームに西野がいたらしい。
昔のことなのに覚えているのは、それだけ印象に残る相手だったのだろう。
その時の印象を聞いた善之たちは、嫌な予感がしてきた。
「チームを引っ張るのが得意な人だ。戦った時も逆転負け食らった」
「まさにキャプテンってわけか……」
「要注意人物だな……」
この試合でも、海が言っていたように西野のミスはほとんどない。
一番最初にフットサルボールに慣れたのが西野だったように思える。
折角津田を含めたサッカー部員の心を折りかけていたのに、すぐに元に戻してしまったところを考えると、サッカー部で一番気を付けなければならないのは、彼だということを善之たちは認識したのだった。
「……どうやら、海たちの好きにできたのはさっきまでかもしれないですね」
「あぁ、サッカー部の動きがまた良くなった……」
観戦している陸と山田は同じ意見になった。
4-0になって有利だったはずの善之たちの方が、攻められている時間が長くなってきたからだ。
西尾の檄が効いたのか、サッカー部のメンバーの動きが良く、善之たちは必死に付いて行く。
“バッ!!”
「くっ!!」
ペナルティーエリアの外でパスを回し、マークをずらそうと動くサッカー部の選手たち。
そんな中、ボールを受けた瞬間に西野が一気に加速し、ドリブルでペナルティーエリアの中へと入って行く。
これまでパスばかりに対応していたこともあってか、マークに付いていた善之は止められない。
マンマークで付いていたため、西野はそのままゴレイロの勝也と1対1の状態になってしまった。
“ドッ!!”
「ぐっ!?」
善之を抜いてすぐさまシュート体勢に入った西野へ、勝也は前へ出てシュートコースを消す。
最初に善之がやったように、西野は至近距離から強めのシュートを放つ。
そのシュートに反応した勝也は、ボールへ向けて手を動かす。
しかし、ボールは勝也の手をすり抜けるようにゴールへと飛んで行った。
“ガンッ!!”
「あ~……くそっ!!」
「フゥ~……、危ね……」
ゴールに入ると思ったが、飛んで行ったボールはクロスバーへと直撃してゴールラインを割った。
その結果に、西野は悔しそうな声をあげる。
触れていなかったように見えなかったが、実は勝也の指が先程のシュートのコースを僅かにずらしていた。
シュートが入らなかったのを見て、善之たちの方は息を吐いて安堵した。
「ナイッシュ!」
「あぁ、次は決める!」
危うく失点しそうだった善之たちをしり目に、外した方のサッカー部の方は一気にテンションが上がったように見える。
「あっ!!」
勝也のスローで試合が再開され、これまでの作戦を継続するように善之たちはパスを回して時間を稼ごうとする。
しかし、竜一から海へ出した横パスを狙っていた西野が、パスカットをして一気にドリブルを開始した。
「ゴレイロと1対1だ!!」
横パスをカットされると、どうしても守る側は反応が遅れる。
優介が必死に追いかけるも追いつけず、西野はまた勝也と1対1の状態に持って行った。
「っ!!」
さっきのように前へ出て、ペナルティーラインぎりぎりまで距離を詰めた勝也。
それに対し、西野はシュートを打つ振りをして打たない。
いわゆるキックフェイントをして、縦に向かっていたドリブルを横へと変え、勝也を抜き去ろうとする。
そうはさせまいと体を横に倒して、勝也はボールへ手を伸ばす。
“パサッ!!”
咄嗟に反応したのはいいが、西野は勝也の手の上を抜けるように軽くボールを蹴り上げる。
そのボールは無人になったゴールへ弾んで行き、そのままネットを優しく揺らした。
“ピピーッ!!”
「よしっ!!」
ゴールが入って笛が鳴ると、西野は仲間へ向けてガッツポーズをする。
次は決めると言って有言実行をしたことで、サッカー部の選手たちはみんな笑顔で得点した西野を囲み、祝福するようにハイタッチをし合った。
「……本当に要注意な人だ」
「完全に勢いに乗っちまったみたいだな」
最初から完封できるとは思っていなかったが、前半はできれば失点したくはなかった。
西野一人のプレーによって、サッカー部の方は完全に少し前の暗い表情が消え失せてしまった。
しかも、観戦に来ているコート外の生徒たちも、面白くなったと言いたげに笑顔に変わったように思える。
「どうにか前半はこのまま抑えよう!」
「「「「あぁ!」」」」
善之たちからすると、これ以上前半に失点するのは避けたい。
そのため、これまでの作戦通りパス回しの時間稼ぎをしつつも、パスカットされないように横パスに注意をするように話し合った。
しかし、
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