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1学年 後期
第76話
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「お久しぶりです。康義殿、康則殿」
「こちらこそ久しぶり」
「お久しぶりです。柊殿」
ある日の夜。
柊家当主の俊夫が、官林地区にある鷹藤家の邸に足を踏み入れた。
以前、兄弟モグラの魔族が出現した時、被害を受けた八郷地区と官林地区は討伐に動いた。
その時、情報提供という形で顔を合わせて以来、数か月ぶりの対面になった。
邸の一室の和室に案内された俊夫は、対面に座る鷹藤家当主の康義と、その横に座る息子の康則へと軽く頭を下げて挨拶をし、用意されていた座布団の上に正座をした。
8つの地区に分けられる大和皇国では、その地区ごとに名門な術師の家が存在している。
八郷地区なら柊家、官林地区なら鷹藤家だ。
一応その8家は平等の地位という形になっている。
一応というのは、地位的に同じようでも、勢力的には同じとは言えないからだ。
鷹藤家の場合、官林地区だけというよりもこの国においてトップという位置であるため、魔術師たちの間では他の地区の家よりも一つ上の存在に見られている。
それに引きかえ、隣の地区とは言っても八郷地区は田舎の地区という印象が強い。
伸の協力が大きいのだが、それは秘匿されているため、魔族討伐の功績を上げた柊家の人気は上昇している。
それでも長い年月トップに君臨している鷹藤家に及ばないが、それはこの場では関係ないこと。
あくまでも同等の地区代表同士の面会のため、お互い敬語での会話になった。
本来、当主への挨拶には、相手の家に殿を付けて呼ぶのが通例だが、次期当主である息子の康則もいるため、俊夫は下の名前で呼ぶことにした。
「重要な話があるということでしたが、どういったことですかな?」
鷹藤家の使用人らしき女性によってお茶と菓子が出されて1拍置いた後、康義が俊夫の訪問の用件を問いかけてきた。
当主同士の面会ということで、俊夫は当然面会のアポイントを取っている。
しかし、重要な案件ということだけしか伝えていないため、康義たちは何の話なのかは分かっていないのだ。
「今回面会を申し出たのは、我々が救援要請を出していないというのに、鷹藤家の人間による魔物の略奪行為が発覚したからです」
「なっ!?」
「……何を言っているのですかな?」
俊夫から今回面会を求めた理由が発せられると、康則は顔を赤くして慌てたような声を上げる。
康義も目を見開くが、康則とは違いすぐに冷静な表情へと戻した。
表情は冷静でも内心では抑えきれていないのか、俊夫へと問い返す言葉には若干ながら圧があるように感じる。
「自分たちの地区に現れた魔族・魔物は、その地区の魔術師が基本的に退治をおこなう。自地区で抑えられない場合は他地区へ救援を要請し、それによって他地区の魔術師が救援に向かう。それは多くの魔術師たちにより決められたルール。しかも、それを言い出したのは数代前の鷹藤家当主というのは知られていること」
康義が言うように、これは昔の魔術師たちによって決められたルールだ。
違反した場合の明確な罰則などはないが、世間における信用度は地に落ちる。
昔、同じようなことをした一族は、信用を失い魔術師としての仕事が激減したという話だ。
しかも、そのルールを作ったのが、その当時も魔術師の中で上位の位置にいた鷹藤家の人間というのは有名な話だ。
「それもあって、鷹藤家の人間と関連する者たちには、耳にタコができるくらいに違反をしないように言い聞かせている。そのため、そんな事はあり得ない」
昔に違反を犯した一族は信用を失い業界から消えていったが、嘘か真か、鷹藤家がそうなるように世間を誘導したと噂されている。
本当のことは康義にも分からないが、他家にルールを強いるには丁度いい噂だ。
そのため、鷹藤家代々の当主は注意を促してきたのだが、言い出しっぺがそのルールを破ったのでは、一族の汚点になりかねない。
「柊殿は我々を侮辱しているのだろうか?」
俊夫の発言は、鷹藤家を貶めるものともいえる。
康則がすぐさま顔を赤くしたのは、怒りから来るものだった。
人気が上がっているとは言って、虚偽の発言をされては看過できるはものではない。
そのため、これまで話していた康義は、最後に怒気を込めた問いかけをしてきた。
「証拠の映像です」
鷹藤家の2トップに睨まれ、俊夫は背中に汗を掻く。
しかし、虚偽ではない証拠もあるため、全く恐れ入るつもりはない。
発言を撤回する事無く、俊夫は着ていたスーツのポケットから1枚のメモリーカードを出して康則へ渡した。
そのメモリーカードを受け取った康則は、持っていた自分のタブレットに差し、その中に入っているファイルを開いた。
「っ!?」「文康!?」
そのファイルに入っていた映像は、康義にとって孫、康則にとっては息子の文康がオーガと戦い、倒した後その遺体を部下の者に収納させて去っていく姿が映っていた。
最初から最後まで撮られていた映像には、データを改竄した様子はない。
映像を見ていた康義と康則は、思わず顔を青くした。
「ご覧いただいたように、康義殿のお孫さんである文康殿がオーガを倒して持って行ってしまいました。この場所は官林地区に近い山奥。彼らが八郷地区に入りオーガを倒したまでは百歩譲って全然問題ありません。しかし、その場合我々に報告をするのがこれまでのルールなのですが、我々には何の報告も上がっていません」
官林地区の人間が八郷地区に入るのは問題ない。
そのことをいちいちチェックするなんておかしな話だからだ。
そして、八郷地区に入った人間が魔物と遭遇してしまうということもないことではない。
実力のある魔術師なら、いちいち援護を呼ぶこともなく倒すこともあるだろう。
それまでは別に何を言うこともない。
しかし、その場合魔物を倒したことを近くの魔闘組合に報告するのが筋だ。
この場合もそれさえしていれば問題なく済んだのだが、魔闘組合に報告は入っていない。
魔物はその素材が魔術師の武器や防具、もしくは人間の生活に利用できる資源という側面もある。
だからこそ、他地区の魔物を横取りするなということになっているはずだ。
このオーガの魔石なら、どれほどの世帯の電力を作り上げることができただろうか。
そう考えれば、魔物の横取りというのが正しいというのは分り切ったことで、先程の俊夫の言い分が正しいと言える。
「……怒気をぶつけて申し訳なかった」
「いいえ」
2人は項垂れ、康義は心底申し訳なさそうに俊夫へと頭を下げた。
この国の魔術師界においてトップである鷹藤家の当主をに頭を下げられ、俊夫は密かに喜んだ。
しかし、そんなこと表情や態度に出す訳もなく、その謝罪を受け入れたのだった。
「こちらこそ久しぶり」
「お久しぶりです。柊殿」
ある日の夜。
柊家当主の俊夫が、官林地区にある鷹藤家の邸に足を踏み入れた。
以前、兄弟モグラの魔族が出現した時、被害を受けた八郷地区と官林地区は討伐に動いた。
その時、情報提供という形で顔を合わせて以来、数か月ぶりの対面になった。
邸の一室の和室に案内された俊夫は、対面に座る鷹藤家当主の康義と、その横に座る息子の康則へと軽く頭を下げて挨拶をし、用意されていた座布団の上に正座をした。
8つの地区に分けられる大和皇国では、その地区ごとに名門な術師の家が存在している。
八郷地区なら柊家、官林地区なら鷹藤家だ。
一応その8家は平等の地位という形になっている。
一応というのは、地位的に同じようでも、勢力的には同じとは言えないからだ。
鷹藤家の場合、官林地区だけというよりもこの国においてトップという位置であるため、魔術師たちの間では他の地区の家よりも一つ上の存在に見られている。
それに引きかえ、隣の地区とは言っても八郷地区は田舎の地区という印象が強い。
伸の協力が大きいのだが、それは秘匿されているため、魔族討伐の功績を上げた柊家の人気は上昇している。
それでも長い年月トップに君臨している鷹藤家に及ばないが、それはこの場では関係ないこと。
あくまでも同等の地区代表同士の面会のため、お互い敬語での会話になった。
本来、当主への挨拶には、相手の家に殿を付けて呼ぶのが通例だが、次期当主である息子の康則もいるため、俊夫は下の名前で呼ぶことにした。
「重要な話があるということでしたが、どういったことですかな?」
鷹藤家の使用人らしき女性によってお茶と菓子が出されて1拍置いた後、康義が俊夫の訪問の用件を問いかけてきた。
当主同士の面会ということで、俊夫は当然面会のアポイントを取っている。
しかし、重要な案件ということだけしか伝えていないため、康義たちは何の話なのかは分かっていないのだ。
「今回面会を申し出たのは、我々が救援要請を出していないというのに、鷹藤家の人間による魔物の略奪行為が発覚したからです」
「なっ!?」
「……何を言っているのですかな?」
俊夫から今回面会を求めた理由が発せられると、康則は顔を赤くして慌てたような声を上げる。
康義も目を見開くが、康則とは違いすぐに冷静な表情へと戻した。
表情は冷静でも内心では抑えきれていないのか、俊夫へと問い返す言葉には若干ながら圧があるように感じる。
「自分たちの地区に現れた魔族・魔物は、その地区の魔術師が基本的に退治をおこなう。自地区で抑えられない場合は他地区へ救援を要請し、それによって他地区の魔術師が救援に向かう。それは多くの魔術師たちにより決められたルール。しかも、それを言い出したのは数代前の鷹藤家当主というのは知られていること」
康義が言うように、これは昔の魔術師たちによって決められたルールだ。
違反した場合の明確な罰則などはないが、世間における信用度は地に落ちる。
昔、同じようなことをした一族は、信用を失い魔術師としての仕事が激減したという話だ。
しかも、そのルールを作ったのが、その当時も魔術師の中で上位の位置にいた鷹藤家の人間というのは有名な話だ。
「それもあって、鷹藤家の人間と関連する者たちには、耳にタコができるくらいに違反をしないように言い聞かせている。そのため、そんな事はあり得ない」
昔に違反を犯した一族は信用を失い業界から消えていったが、嘘か真か、鷹藤家がそうなるように世間を誘導したと噂されている。
本当のことは康義にも分からないが、他家にルールを強いるには丁度いい噂だ。
そのため、鷹藤家代々の当主は注意を促してきたのだが、言い出しっぺがそのルールを破ったのでは、一族の汚点になりかねない。
「柊殿は我々を侮辱しているのだろうか?」
俊夫の発言は、鷹藤家を貶めるものともいえる。
康則がすぐさま顔を赤くしたのは、怒りから来るものだった。
人気が上がっているとは言って、虚偽の発言をされては看過できるはものではない。
そのため、これまで話していた康義は、最後に怒気を込めた問いかけをしてきた。
「証拠の映像です」
鷹藤家の2トップに睨まれ、俊夫は背中に汗を掻く。
しかし、虚偽ではない証拠もあるため、全く恐れ入るつもりはない。
発言を撤回する事無く、俊夫は着ていたスーツのポケットから1枚のメモリーカードを出して康則へ渡した。
そのメモリーカードを受け取った康則は、持っていた自分のタブレットに差し、その中に入っているファイルを開いた。
「っ!?」「文康!?」
そのファイルに入っていた映像は、康義にとって孫、康則にとっては息子の文康がオーガと戦い、倒した後その遺体を部下の者に収納させて去っていく姿が映っていた。
最初から最後まで撮られていた映像には、データを改竄した様子はない。
映像を見ていた康義と康則は、思わず顔を青くした。
「ご覧いただいたように、康義殿のお孫さんである文康殿がオーガを倒して持って行ってしまいました。この場所は官林地区に近い山奥。彼らが八郷地区に入りオーガを倒したまでは百歩譲って全然問題ありません。しかし、その場合我々に報告をするのがこれまでのルールなのですが、我々には何の報告も上がっていません」
官林地区の人間が八郷地区に入るのは問題ない。
そのことをいちいちチェックするなんておかしな話だからだ。
そして、八郷地区に入った人間が魔物と遭遇してしまうということもないことではない。
実力のある魔術師なら、いちいち援護を呼ぶこともなく倒すこともあるだろう。
それまでは別に何を言うこともない。
しかし、その場合魔物を倒したことを近くの魔闘組合に報告するのが筋だ。
この場合もそれさえしていれば問題なく済んだのだが、魔闘組合に報告は入っていない。
魔物はその素材が魔術師の武器や防具、もしくは人間の生活に利用できる資源という側面もある。
だからこそ、他地区の魔物を横取りするなということになっているはずだ。
このオーガの魔石なら、どれほどの世帯の電力を作り上げることができただろうか。
そう考えれば、魔物の横取りというのが正しいというのは分り切ったことで、先程の俊夫の言い分が正しいと言える。
「……怒気をぶつけて申し訳なかった」
「いいえ」
2人は項垂れ、康義は心底申し訳なさそうに俊夫へと頭を下げた。
この国の魔術師界においてトップである鷹藤家の当主をに頭を下げられ、俊夫は密かに喜んだ。
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