主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸

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2学年 後期

第141話

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「フンッ!!」

「速っ!!」

 開始早々に攻めるつもりだった了の考えを、逆に文康の方が実行する。
 一気に了との距離を詰め、上段に構えた木刀を振り下ろした。
 距離を詰める速度に驚きつつ、了は咄嗟にその場から横へ跳ぶことで、文康の攻撃を回避した。

「ハッ!!」

「おわっ!」

 逃がすつもりがないらしく、文康はすぐに方向を変え、今度は了の腹部を狙って薙ぎ払う。
 その攻撃を、了は体をくの字にする事によってギリギリ回避した。

「シッ!!」

「チッ!」

 攻撃が躱され、文康に隙ができる。
 そこを狙い、了は袈裟斬りを放つ。
 その攻撃を危険と察知した文康は、舌打ちと共にバックステップして躱した。

「……どうやら接近戦が得意なようだな?」

 これまでの相手なら、最初の攻撃に反応出来なかっただろう。
 しかし、目の前の相手は更に放った攻撃も躱し、反撃までして来た。
 金井という聞いたこともない名字をしていることから眼中になかったが、勝ち上がってくるだけの実力を有しているということだろう。
 先程の攻撃を見る限り接近戦が得意なのだろうと感じ取った文康は、了へ向けて問いかけてきた。

「……あぁ、お前にも負けないだろうな!」

 文康の問いに、了は一瞬不愉快になる。
 去年もこの大会に出ているし、ここまで勝ち上がってきている相手を何の分析もしていないということだからだ。
 つまり、優勝候補の文康にとって、ベスト16なんて興味がないということなのだろう。
 舐めているとしか言いようがない。
 しかし、了はすぐにそのことは自分にとって好材料だと判断した。
 もしかしたら、自分の得意な接近戦に持ち込めるかもしれない。
 そう思った了は、文康に煽るように返答した。

「……だったら、得意な接近戦で打ちのめす!」

「それは助かるな」

 煽ったのは正解だった。
 プライドの高い文康は、明かに不快な表情を浮かべ、了へ向けて接近戦勝負を宣言してきた。
 試合開始前から殺気立っていたが、それが文康の思考を鈍らせているようだ。
 思った通りの展開に持ち込める様子に、接近戦勝負を受けた了は笑みを浮かべた。

「ハッ!!」「フッ!!」

 木刀を向け合った了と文康は、少しの間睨み合うと同時に舞台を蹴る。
 そして、距離を詰まると攻防が開始された。

「ハァーーー!!」「ウォーーー!!」

「「「「「………………」」」」」

 了が攻撃を放てば文康が防ぎ、文康が攻めると了が防ぐ。
 細かいステップを踏みつつも、両者舞台の中央から動かない。
 息を突かせぬ攻防に、満員の観客たちは声を出せずに見入った。

「セイッ!!」

「チッ!」

 少しの間続いた互角の攻防だが、少しずつ変化する。
 両者ともに相手の攻撃を捌ききれず、掠り始めたのだ。
 了の攻撃が文康の頬を掠り、僅かに血を滲ませる。

「ハッ!!」

「くっ!」

 攻撃を躱すことで体勢を崩した文康に、了が更に攻撃をしようと一歩踏み出す。
 それに合わせるように、文康が右切り上げを放つ。
 了は咄嗟に出した足を引っ込めるが、太ももを僅かに当たる。

「シッ!!」

「ムンッ!!」

 一歩下がった了に、文康は切り上げを放った状態から、そのまま逆袈裟を放つ。
 なんとかそれに反応し、了は攻撃を受け止めた。

「ぐぐっ……!」「くぅっ……!」

 そのまま鍔迫り合いの状態になり、両者ともに押し合う。

「こいつ……雑魚のくせに……!!」

 身体の所々ミミズ腫れのようになりながら、文康は忌々しそうに呟く。
 得意の接近戦で打ちのめして心を折るつもりでいたのだが、まさか自分と互角に戦えるとは思ってもいなかったからだ。

「やっぱすげえな……」

「……今頃何を言っているんだ?」

「別に……」

 鍔迫り合いの状態のまま、了は不意に感心したように呟く。
 その呟きに、文康は今更ながら鷹藤家である自分のことを評価していることを訝しむ。
 了は、別に文康のことを評価したわけではない。
 こんな状況でありながら、別の人間のことを考えていたのだ。

「ムンッ!」「フンッ!」

 お互いが相手に押される力を利用して距離を取る。
 そして、また睨み合いを始めた。 

『接近戦なら俺の剣も通用している。つまり、お前はこいつより強いんだろ? ……』

 こんな時に了が考えていた相手。
 それは伸のことだった。
 というのも、接近戦ならあの鷹藤家の文康にも通用している。
 しかし、これまで了は伸との訓練で攻撃を当たるどころか掠ったことすらない。
 伸は逃げ回るだけで攻撃をして来ないから負けたこともないが、どう考えても自分は勝てないと思っていた。
 勝たない戦いをしていたつもりだが、負けもしない戦いをしていたことで、伸はいつの間にか了に実力がバレていたようだ。

『来年は……』

 自分どころか文康よりも強いはずなのに、伸は去年も今年も対抗戦に出場していない。
 何でか分からないが、それがなんだか納得できない。
 そのため、了は密かに、来年こそは伸を出場させてやると考えていた。

「……雑魚のくせにしつこいんだよ!!」

「うるせえよ!」

 怒りで思考が固まっているのか、文康はまたも了との距離を詰めてきた。
 何としても接近戦で了を打ち負かしたいようだ。
 それを受け入れるように、了も反応する。
 そして、またギリギリの接近戦が開始された。





「ゼエッ、ゼエッ……」

「フゥ、フゥ……」

 長い接近戦から鍔迫り合いの状態になり、またも了と文康は距離を取り合う。
 そして、距離をった2人は息を切らす。
 その息の切れ方から分かるように、了の方が体力の限界が近い。
 文康に対抗するために、身体強化に使う魔力を増やしていたことが原因だろう。

「いい加減にしろよ! 雑魚のくせに粘ってんじゃねえ!」

 しぶとい了に苛立ちつつ、文康はまたも接近戦をしようと構える。
 そして、文康との距離を詰めるために舞台を蹴った。

「…………」

“ニッ!”

 文康に対し、了は自分からは攻めかからずに待ち受ける。
 それを、体力の限界が近いから、自分から動けないのだと文康は判断しただろう。
 接近戦にこだわる文康に、了は思わず笑みを浮かべた。
 何故なら、

「ハァーーー!!」

 了の狙いは、文康を接近戦にこだわらせる事だったからだ。
 思い通りに事が運び、了はここが勝機と策を実行した。
 接近しようとする文康に、強力な魔力弾を放ったのだ。

「っっっ!?」

 この試合が始まってから、了は魔術による攻撃をして来なかった。
 そのため、了も接近戦だけで勝負をつけるつもりだと、文康はそう勝手に考えていた。
 なので、魔術攻撃には全くの無警戒。
 しかも、距離を詰めようと自分から向かって行く形になってしまった。
 了の企みに、自分がまんまとハマっていたことを気付いた時には、目の前に魔力弾が迫っていた。

“ドンッ!!”

「ガッ!!」

 バスケットボールくらいの大きさの魔力弾に、自分から突っ込む形になってしまった文康。
 回避することなどできる訳もなく、腹に直撃をくらって吹き飛ばされた。

「……ハハッ!! やったぜ!」

 作戦が成功したことに、了は笑みを浮かべる。
 魔力も体力も残り少ないため、その笑みに疲労が滲んでいる。

「まさか……」

「あの鷹藤が……」

 吹き飛んで大の字に倒れる文康を見て、会場の観客がザワザワと騒ぎ始める。
 優勝候補筆頭の文康が、ここで負けるなんて思っていなかったのだろう。

「ダ、ダウン!! ワン、ツー、……」

 審判もこの状況に驚いたのか、僅かに躊躇った後に文康のダウンを宣言し、カウントを取り始めた。

「ゼエッ、ゼエッ……」

 カウントが進む中、了は息を切らしつつそのまま10カウントまで眠っていろと文康を見つめる。

「……フッ、やっぱりな……」

 作戦が成功し、了はこのまま勝利を得られることを期待した。
 しかし、世の中思った通りに進まない。
 カウントがセブンになった所で、文康がゆらりと立ち上がったのだ。
 鷹藤家の名を受け継ぐ者が、こんなあっさり倒れるわけがないと心のどこかで思っていたためか、了は文康が立ったことにあまり驚いていないようだった。

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