主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸

文字の大きさ
143 / 281
2学年 後期

第142話

しおりを挟む
「…………」

「セブ……」

 立ち上がった文康は、口から血を垂らしながらも武器を構える。
 それにより、審判もダウンによるカウントをやめた。
 接近戦勝負による決着を意識させておいての遠距離攻撃。
 文康からしたら、見事に騙されたと思ったことだろう。
 敵の思惑通りに、自分が動かされていたということだからだ。
 しかし、中身はともかく、やはり天才と言われるだけのことはある。
 了の放った魔力弾が直撃する瞬間、魔力で腹を守ることで衝撃を和らげたのだから。

「できるか?」

「…………」

「……ファイト!!」

 審判は文康に近付き、状態の確認をする。
 それに対し、文康は無言で頷いた。
 無言で了のことを見つめる文康の眼光を見て、戦う意識があると認識した審判は、試合再開の合図を出した。

「ハァ、ハァ……」

「…………」

 試合会は再開されたが、了も文康も動かない。
 了は先程の攻撃で魔力をほとんど使用してしまったため、動きたくても疲労で動けないと言った方が良い。
 それに対し、動けないほどのダメージを受けたようには思えないため、文康が動かないのは不可解だ。

“スッ!!”

「っ!! まずい!」

 動かないでいた文康が構えを変える。
 木刀を自分の腰にやり、前傾姿勢。
 まるで居合術をするような構えだ。
 それをモニターで見ていた伸は、慌てたように声を上げる。

「止めろ! 吉!」

“バッ!!”

 文康がやろうとしていることを理解した伸は、思わず了のセコンドに付いている吉井の名前を叫ぶ。
 綾愛のセコンドとして別会場の控室にいる伸の言葉が、当然吉井に届くわけもなく、モニターの文康は舞台を蹴った。

「ハーーッ!!」

「っっっ!!」

 舞台を蹴った文康は、一瞬にして了との距離を詰める。
 この試合において最速の移動速度だろう。
 今では了の十八番としている、大量の魔力を使用しての高速移動術。
 自分が使うよりもスムーズに、そして魔力を無駄なく使用しての文康の接近に、了は目を見開く。
 そして、文康は接近と共に木刀を抜き、了へ向けて薙ぎ払った。

「ゴハッ!!」

 速度を力に変えた強力な一撃により、了は吹き飛ぶ。
 そして、そのまま舞台に体を強く打ち付けた。

「了っ!!」

「「「「「…………」」」」」

 倒れて動かなくなった了を見て、伸は思わず声を上げる。
 何が起きたのか分かっている観客が少ないためか、会場も静かになっている。

「…………ダ、ダウン!!」

 あまりの高速攻撃に、審判も驚きで反応が遅れる。
 ワンテンポ遅れ、了のダウン宣告をした。

「……フンッ!」

 審判がカウントを数えだすのを確認し、文康は鼻を鳴らして木刀を下ろし、踵を返して歩き出す。
 増えるカウントを背に、そのまま舞台を下りるかのような足取りを見る所、勝利を確信しているかのようだ。

「…………」

「「「「「おぉっ!!」」」」」

「っ!?」

 無言でそのまま舞台から降りようとした文康だったが、観客のどよめきで足を止める。
 そして、何が起きたのかを確認するように、了の方へ振り返った。

「エイト!!」

「………ぐっ……ぅ…」

 カウントが進む中、了は少しずつ、それでいてフラフラとしながらだが立ち上がる。
 片腕がブラブラしている所を見る限り、骨が折れていることはたしかだろう。

「バカな……」

 審判の「ナイン!!」の言葉でとうとう立ち上がったのを見て、文康は信じられないと言った表情で了のことを見つめる。
 自分にとって最強の一撃を放った。
 それなのに、気を失うどころか立ち上がり、腕一本でまだ戦うつもりなのだろうか。

「……そうか。木刀で……」

 了の手に持つ木刀を見て、文康は彼が気を失っていない理由が分かった。
 あの高速移動攻撃を受ける際、了は咄嗟に木刀と片腕を使って受け止めるという選択肢を取った。
 だが、纏った魔力が少なかったために、木刀と腕が圧し折られた。
 それでも、衝撃を抑えたことで、気を失うまでのダメージに至らなかったようだ。

「…………フフッ!! 良いだろう!」

 衝撃を抑えたとはいえ、大ダメージには変わりない。
 それでも立ち上がるというのは、敵でありながら天晴と言って良い。
 名前も知らない雑魚だと思っていたが、文康は了の実力を認めることにした。
 天才文康に認められるなんて普通は喜ぶべきことなのだろうが、今の了にとっては最悪だった。
 何故なら、

『殺してやる!!』

 文康の心の中では、強力な殺意が沸き上がっていたからだ。
 格闘技のように、試合で相手を殺してしまっても殺人罪に問われることはない。
 それを文康は都合よく受け取り、木刀が折れ、立っているだけでもやっとの了に止めを刺すことに決め、またも先程の高速移動居合術を放つ構えをとった。

「っ!? ……タオル?」

 審判が試合開始を告げた瞬間、文康は了へと斬り込むつもりでいた。
 しかし、試合が再会されようとしたところで、舞台上にタオルが投げ込まれた。
 突然のことで文康が呆気にとられていると、審判が「勝者、鷹藤!」と文康に手を向けて勝者宣言をした。

「……すまん! 了!」

「…………そう…か……」

 タオルを投げたのは、舞台の袖で見守っていたセコンドの吉井だ。
 了が戦う気でいるのに自分が止めてしまったため、とても申し訳なさそうな表情をしている。
 タオル投入による負けを理解した了は、耐えきれなくなった、糸が切れたかのようにゆっくり倒れて気を失った。

「救護班!! 担架!! 担架!!」

 了が倒れたのを見て審判はすぐに駆け寄り、容態を確認することもなく救護班を呼び寄せた。
 救護班の者たちも用意していたのか、審判が叫んだ時には担架を持って駆け寄ってきていた。

「…………チッ!! 『殺し損ねたか……』」

 勝利をした文康は、担架に乗せられている了を見つめて思わず舌打をする。
 内心では、凶悪犯を殺す時のシミレーションのつもりでいたのに、その機会を奪われた気分だ。
 観客の誰も気付いていないだろうが、本気で了を殺すつもりだったようだ。
 そんな内心を悟られないように客に手を振った文康は、今度こそ退場しようと踵を返して舞台から降りようとした。

“ゾワッ!!”

「っっっ!!」

 舞台から降りる瞬間、突如文康に寒気が走る。
 それは、一瞬とは言え死を覚悟するような殺気だった。
 文康は冷や汗と共に観客席をキョロキョロと見渡すが、誰から発せられたのか分からない。
 去年死にかけた時のような感覚が甦った文康は、そそくさと舞台から退場していった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

プライベート・スペクタル

点一
ファンタジー
【星】(スターズ)。それは山河を変えるほどの膂力、千里を駆ける脚力、そして異形の術や能力を有する超人・怪人達。 この物語はそんな連中のひどく…ひどく個人的な物語群。 その中の一部、『龍王』と呼ばれた一人の男に焦点を当てたお話。 (※基本 隔週土曜日に更新予定)

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

処理中です...