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2学年 後期
第143話
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「大丈夫かな? 金井君……」
「たぶん大丈夫だろ……」
モニターを見ながら問いかけてきた綾愛に対し、伸は私見を述べる。
勝者の文康が去った舞台上では、了が救護班によって治療を受けている。
担架に乗せてすぐに器具の揃った治療室に運ばれるのかと思っていたが、その場で治療魔法をかけている所を見ると、そこまで深刻な怪我を追っている訳ではないのだろう。
「吉の判断が速かったからな……」
昨日の夜、了のセコンドに付く吉井に注意を促していたのは正解だったようだ。
彼がタオルを投げていなかったら、了はもっと危険な状態に陥っていたかもしれない。
「もしも、吉井君が止めてなかったら?」
「文康は同じ技を使って、了を殺す気だっただろう」
これまでの試合で文康は、相手選手を痛めつけるなど殺気のこもった戦いをしていた。
試合開始前に、了を目の前にした時も同じだった。
むしろ、これまでの試合以上に殺気を込めていたかもしれない。
そして、了に一杯食わされてタガが外れたのだろう。
放った高速の居合斬りは、下手をすれば木刀でも了を殺せるほどの威力だった。
それをくらっても了が立ち上がれたのは、あの攻撃を受ける寸前に超反応ともいえる速度で木刀を滑り込ませたからだ。
攻撃か所に滑り込ませたお陰で、木刀と腕は折られたが内臓までやられずに済んだのだろう。
それがなければ、了が立ち上がった後の居合術の構えと殺気から考えると、文康は了を殺していたはずだ。
「そんな……」
魔人や魔物を相手ならともかく、人間を相手に殺意を向けるなんてとても信じられない。
試合が白熱して相手に重傷を負わせてしまうことはあるが、それでも相手を殺すつもりでそのようなことになる訳ではない。
しかし、文康はそうではなく、殺意を持って攻撃をしようとしていた。
信じられないが、綾愛もどこかそんな気がしていたので、強くは否定できない。
「まぁ、もしもの時は割って入るつもりだったけどな」
今回は綾愛のセコンドのため、伸は了たちとは違う会場にいる。
距離があるため、すぐに割り込むことなど普通は不可能だが、伸の場合は転移魔術が使える。
そのため、吉井がタオルを投げずに試合再開されていたら、伸は割って入るつもりでいた。
「そんなことしたら、鷹藤だけじゃなく世界中に名前が広まっちゃったんじゃない?」
転移魔術なんて、使える人間は世界でもごくわずかしかいない。
もしも伸が割って入っていれば、それがバレることになっていたかもしれない。
そして、そんなことになれば有名になって、伸を手に入れようと鷹藤家も動き出すかもしれない。
伸と鷹藤になんの関係があるのか綾愛には分からないが、実力がバレるのを嫌っていたのは分かる。
そんなことになることは、伸にも分かっていはずだ。
「友人の命を見捨ててまで隠すようなことじゃない」
「ごめんなさい……」
転移魔術が使えるとなれば、鷹藤どころか世界中に名が知られてしまう可能性があった。
そうなると、かなり面倒なことになっていたかもしれない。
面倒事はたしかに嫌いだが、そんな事よりも友人の命の方が大事だ。
それを当たり前のように言う伸に、綾愛は申し訳なさそうに謝った。
まるで、伸がそういった選択をしないと思っていたかのような質問だったからだ。
『そうだよね。私のことも助けてくれたんだし……』
伸の日頃の態度から、一歩離れた所から他の者を見ている性格という印象がある。
良く言えば冷静、悪く言えば冷たい人間。
自分を犠牲にしてまで人助けするようには見えない。
しかし、そんな事はないことは綾愛自身分かっている。
彼女も、伸に誘拐犯から救ってもらった経験があるのだから。
「それにしても文康の態度は腹立つ。だから、ちょっとした腹いせをしておいた」
「……もしかして彼に放った殺気のこと?」
「あぁ」
今大会の文康の戦い方は目に余る。
ここまで来ると、いつもの外面が通用しない者も増えてくるだろう。
それ自体は構わないが、場合によっては了を殺していたかもしれないことを考えると、いくら伸でも我慢できなかった。
そのため、伸は憂さ晴らしとして、文康へ向けてモニター越しに殺気を送っておいた。
いくら伸でも、いつでも・どこでも・誰にでも殺気を送れるという訳ではない。
送る対象が、生放送でどこにいるのか分かっているからできたことだ。
「よく気付いたな……」
「まあね!」
いくら隣にいるからと言っても、殺気を送ったのは文康に対して僅かな時間であり、対象者でもない綾愛が気付いていたのは予想外だ。
それだけ探知能力が高いということだ。
意外そうに言う伸を見て、褒められた気がしたのか、綾愛は自慢げに胸を張った。
『あんなの向けられたら、流石に文康も委縮するでしょ……』
先程伸が放った殺気に、綾愛は実は冷や汗を掻いていた。
伸の人体操作によって、魔力を操る技術が一気に上がった。
それにより、探知する能力も上昇したのだろう。
だからこそ、伸が放った殺気に気付くことができた。
自分に向けて放たれたものではないとはいえ、伸が放った殺気はかなり濃密なものであり、隣に居るだけで嫌な汗が出てきたほどだ。
了を心配してのことだろうが、京子は伸の実力の深さを再認識した気がした。
あれほどの殺気を受けた文康は、さすがにこれまでの戦い方は鳴りを潜めるのではないかと綾愛は心の中で思った。
『吉井君のタオルは本当に正解だったわね』
綾愛の中で、吉井がタオルを投げた判断は、2つの意味で正しかったと思い始めた。
最悪の状況を想像すると、了が文康に殺されるのを止めると共に、場合によっては伸が文康を殺すのを止めたのだから。
「了のことは救護員に任せて、柊は自分の試合に集中しよう」
「う、うん!」
大会には優秀な治療班が用意されているため、彼らに任せておけば心配ないだろう。
了のことは心配だが、綾愛はもうすぐ出番になる自分の試合のことに集中するべきだ。
伸に言われたことで、綾愛は気持ちを切り替えるように軽く体をほぐし始めた。
「勝者! 柊!」
「まぁ、そうか……」
審判が、片手を綾愛に向ける。
それを見て、伸は予想通りというかのように呟く。
魔力操作の技術が上達したことで、綾愛の実力はかなり上がっている。
去年は偶然が重なったことによるとこもあるが、今年は本当の意味で優勝候補だ。
了の試合を見たことで動きが鈍らないか心配な面もあったが、どうやら杞憂だったようだ。
「たぶん大丈夫だろ……」
モニターを見ながら問いかけてきた綾愛に対し、伸は私見を述べる。
勝者の文康が去った舞台上では、了が救護班によって治療を受けている。
担架に乗せてすぐに器具の揃った治療室に運ばれるのかと思っていたが、その場で治療魔法をかけている所を見ると、そこまで深刻な怪我を追っている訳ではないのだろう。
「吉の判断が速かったからな……」
昨日の夜、了のセコンドに付く吉井に注意を促していたのは正解だったようだ。
彼がタオルを投げていなかったら、了はもっと危険な状態に陥っていたかもしれない。
「もしも、吉井君が止めてなかったら?」
「文康は同じ技を使って、了を殺す気だっただろう」
これまでの試合で文康は、相手選手を痛めつけるなど殺気のこもった戦いをしていた。
試合開始前に、了を目の前にした時も同じだった。
むしろ、これまでの試合以上に殺気を込めていたかもしれない。
そして、了に一杯食わされてタガが外れたのだろう。
放った高速の居合斬りは、下手をすれば木刀でも了を殺せるほどの威力だった。
それをくらっても了が立ち上がれたのは、あの攻撃を受ける寸前に超反応ともいえる速度で木刀を滑り込ませたからだ。
攻撃か所に滑り込ませたお陰で、木刀と腕は折られたが内臓までやられずに済んだのだろう。
それがなければ、了が立ち上がった後の居合術の構えと殺気から考えると、文康は了を殺していたはずだ。
「そんな……」
魔人や魔物を相手ならともかく、人間を相手に殺意を向けるなんてとても信じられない。
試合が白熱して相手に重傷を負わせてしまうことはあるが、それでも相手を殺すつもりでそのようなことになる訳ではない。
しかし、文康はそうではなく、殺意を持って攻撃をしようとしていた。
信じられないが、綾愛もどこかそんな気がしていたので、強くは否定できない。
「まぁ、もしもの時は割って入るつもりだったけどな」
今回は綾愛のセコンドのため、伸は了たちとは違う会場にいる。
距離があるため、すぐに割り込むことなど普通は不可能だが、伸の場合は転移魔術が使える。
そのため、吉井がタオルを投げずに試合再開されていたら、伸は割って入るつもりでいた。
「そんなことしたら、鷹藤だけじゃなく世界中に名前が広まっちゃったんじゃない?」
転移魔術なんて、使える人間は世界でもごくわずかしかいない。
もしも伸が割って入っていれば、それがバレることになっていたかもしれない。
そして、そんなことになれば有名になって、伸を手に入れようと鷹藤家も動き出すかもしれない。
伸と鷹藤になんの関係があるのか綾愛には分からないが、実力がバレるのを嫌っていたのは分かる。
そんなことになることは、伸にも分かっていはずだ。
「友人の命を見捨ててまで隠すようなことじゃない」
「ごめんなさい……」
転移魔術が使えるとなれば、鷹藤どころか世界中に名が知られてしまう可能性があった。
そうなると、かなり面倒なことになっていたかもしれない。
面倒事はたしかに嫌いだが、そんな事よりも友人の命の方が大事だ。
それを当たり前のように言う伸に、綾愛は申し訳なさそうに謝った。
まるで、伸がそういった選択をしないと思っていたかのような質問だったからだ。
『そうだよね。私のことも助けてくれたんだし……』
伸の日頃の態度から、一歩離れた所から他の者を見ている性格という印象がある。
良く言えば冷静、悪く言えば冷たい人間。
自分を犠牲にしてまで人助けするようには見えない。
しかし、そんな事はないことは綾愛自身分かっている。
彼女も、伸に誘拐犯から救ってもらった経験があるのだから。
「それにしても文康の態度は腹立つ。だから、ちょっとした腹いせをしておいた」
「……もしかして彼に放った殺気のこと?」
「あぁ」
今大会の文康の戦い方は目に余る。
ここまで来ると、いつもの外面が通用しない者も増えてくるだろう。
それ自体は構わないが、場合によっては了を殺していたかもしれないことを考えると、いくら伸でも我慢できなかった。
そのため、伸は憂さ晴らしとして、文康へ向けてモニター越しに殺気を送っておいた。
いくら伸でも、いつでも・どこでも・誰にでも殺気を送れるという訳ではない。
送る対象が、生放送でどこにいるのか分かっているからできたことだ。
「よく気付いたな……」
「まあね!」
いくら隣にいるからと言っても、殺気を送ったのは文康に対して僅かな時間であり、対象者でもない綾愛が気付いていたのは予想外だ。
それだけ探知能力が高いということだ。
意外そうに言う伸を見て、褒められた気がしたのか、綾愛は自慢げに胸を張った。
『あんなの向けられたら、流石に文康も委縮するでしょ……』
先程伸が放った殺気に、綾愛は実は冷や汗を掻いていた。
伸の人体操作によって、魔力を操る技術が一気に上がった。
それにより、探知する能力も上昇したのだろう。
だからこそ、伸が放った殺気に気付くことができた。
自分に向けて放たれたものではないとはいえ、伸が放った殺気はかなり濃密なものであり、隣に居るだけで嫌な汗が出てきたほどだ。
了を心配してのことだろうが、京子は伸の実力の深さを再認識した気がした。
あれほどの殺気を受けた文康は、さすがにこれまでの戦い方は鳴りを潜めるのではないかと綾愛は心の中で思った。
『吉井君のタオルは本当に正解だったわね』
綾愛の中で、吉井がタオルを投げた判断は、2つの意味で正しかったと思い始めた。
最悪の状況を想像すると、了が文康に殺されるのを止めると共に、場合によっては伸が文康を殺すのを止めたのだから。
「了のことは救護員に任せて、柊は自分の試合に集中しよう」
「う、うん!」
大会には優秀な治療班が用意されているため、彼らに任せておけば心配ないだろう。
了のことは心配だが、綾愛はもうすぐ出番になる自分の試合のことに集中するべきだ。
伸に言われたことで、綾愛は気持ちを切り替えるように軽く体をほぐし始めた。
「勝者! 柊!」
「まぁ、そうか……」
審判が、片手を綾愛に向ける。
それを見て、伸は予想通りというかのように呟く。
魔力操作の技術が上達したことで、綾愛の実力はかなり上がっている。
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