179 / 202
3学年 前期
第178話
しおりを挟む
「ピモ!」
「ッ!!」
周囲を警戒しつつ数十分歩いた後、伸は樹の上にいるピモの存在に気付き、小さい声で話しかける。
主人を見つけたピモは、嬉しそうな表情で樹から降りて駆け寄ってきた。
「見つけたか?」
主人の服をよじ登り、ピモは伸の肩に座る。
探知をしているので近くに魔物がいないことは分かっているが、ゴブリンの巣が近くにあるかもしれない。
そのため、伸は指示をしておいたゴブリンの巣を発見したのか、ピモに小声で問いかけた。
「キキッ!」
ピモの案内を受けながら、伸は声や音を立てないように移動する。
綾愛たちは、そんな伸の後に無言で付いて行く。
少しして、ピモが小さく鳴いてある方向を指さした。
「あそこか……」
ピモが指さした方向を望遠鏡で眺めると、伸たちのいる場所の崖下から300mほど離れた所に数体のゴブリンがいるのが見えた。
そのゴブリンたちの近くには、洞窟の入り口のような物が存在していた。
そのことから、伸はその洞窟がゴブリンの巣となっているのだと判断した。
「……う~わ! 結構いるわね……」
「それだけ上位種がいて、深い巣って事かしら……」
入り口付近にいるゴブリンたちは、敵を発見するために置かれている見張りなのだろう。
その見張りの数が普通じゃない。
ちょっとした上位種が誕生してできた巣穴ならば1・2体の見張りを置く程度なのだが、発見した巣穴の周辺には十数体の見張りが全方位を警戒している。
それだけ、巣穴の中にはゴブリンが潜んでいるということなのだろう。
巣穴と見張りの数を確認した綾愛と奈津希は、その感想が思わずこぼれた。
「どうしますか? ここからだと、中までは探知できないですけど……」
巣と思わしき洞窟を発見することはできたが、内部がどうなっているのか分からない。
正大と麻里の探知できる距離は、ここから洞窟の入り口まで。
中がどうなっているのか分からない状況では、討伐をするのか、それとも救援を呼ぶのかの判断ができない。
そのため、正大は伸や綾愛たちに判断を仰いだ。
「討伐か救援かの選択の前に、まずは探知ね」
「えっ?」
対抗戦で戦う姿を見て、麻里は綾愛に憧れた。
自分の理想とする姿そのものだったからだ。
上長家次期当主である兄の佳太から、何となくといった感じで八郷学園への入学を勧められた時、麻里はすぐにその提案に乗った。
憧れの存在である綾愛を、間近で見ることができるからだ。
そんな綾愛から、少しでも技術を取り入れようと何度も試合映像を見たため、実力はある程度知っているつもりだ。
自分よりも全ての面において勝っているため、自分よりも探知できる距離は広いかもしれない。
しかし、そうは言っても、発見した巣穴の全貌を見ることまではできないだろうと思っていた。
そのため、まるで探知できるような綾愛の言葉に、麻里は思わず声をもらした。
「お願いね!」
「「えっ?」」
先程の言葉で、麻里だけでなく正大も綾愛が巣穴の探知をおこなうのだと思っていた。
しかし、その綾愛は伸の背中をポンと叩いて頼み込んだのを見て、2人は思わず「なんで?」とツッコミを入れたい気持ちだった。
「……分かったよ」
「「えっ?」」
正大と麻里がツッコミを入れようとする前に、伸は綾愛からの頼みを受け入れる。
綾愛ならもしかしたら探知できるのではないかと思っていたが、自分でやるのではなく伸に頼んだ。
それを伸が受け入れたということは、この距離から巣穴の探知ができるということだ。
鷹藤道康との試合に勝利し、綾愛の婚約者であるという情報から、多少なりとも実力があるとは思っている。
しかし、対抗戦二連覇中の綾愛に比べたら、実力は落ちると思っていたため、今度は伸が頼みを受け入れたことに驚きの声を上げた。
「2人共見とけよ」
伸としては、なるべく自分の実力を知られることは避けたい。
しかし、去年の夏合宿と年末の対抗戦後に現れた魔人の集団を倒した時に、正大と麻里の兄たちには知られている。
ならば、隠していても正大と麻里に知られるのは時間の問題だ。
それに、見張りの数からも分かるように、巣穴の中には相当な数のゴブリンが存在している可能性が高い。
放っておいたら、一月もしないうちに近くの村に攻めかかってくるかもしれない。
そうなる可能性があるにも関わらず、自分個人のためだけに放置するわけにはいかない。
そのため、2人の指導も含めて、自分の力の一端を見せることにした。
「2人の探知は全方向に均等に向けているだろ? この場合のような時には一方向に向けてだけ魔力を広げればいいんだ」
探知術は、薄く周囲に広げた魔力に触れた敵の位置や数を見つけることで戦闘準備を整えることができるため、魔闘師を目指すなら覚えなくてはいけない技術だ。
正大と麻里のように周囲に均等に魔力を広げることで、どこから攻められても問題ないように対処するのが基本の型だ。
しかし、今回のようにどこを重点的に探知すればいいか分かっている場合、伸の言うように一方向に延ばせば、全方位を探知する時よりも長い距離を探知することができるのだ。
「フッ!」
「…………」
説明した通り魔力を伸ばし、伸はゴブリンの巣穴の中を探知し始める。
台藤地区・三矢野地区の名家である2人は、仕事で忙しい両親からではなく、指導員から魔術の基礎を教わっていた。
そういった指導員たちは、基礎を重点的に教えることが多いため、応用的な技術を教わることはなかった。
そのため、伸の説明と実戦を見た正大と麻里は、なるほどと納得した。
「まぁ、2人ならすぐにできると思うけどね」
正大と麻里を見ていて気付いたが、入学したての頃の自分と同じように基本はできているが、応用ができていないように綾愛は感じていた。
そこに気付いた伸も、2人に探知術の応用法を伝えることにしたのだろう。
応用とは言っても、魔力操作の技術がある程度あればできることだ。
2人なら基礎ができているため、綾愛はそんなに難しくないことだと伝えた。
基礎ができていなければ応用をする事なんて難しい。
そのため、指導員による基礎重視の教えも、あながち間違いではないということだ。
「…………まずいな」
後輩2人が綾愛の言葉に納得している間、伸は黙って巣穴を探知していた。
そして、その予想外の探知結果に、思わず感想を呟いたのだった。
「ッ!!」
周囲を警戒しつつ数十分歩いた後、伸は樹の上にいるピモの存在に気付き、小さい声で話しかける。
主人を見つけたピモは、嬉しそうな表情で樹から降りて駆け寄ってきた。
「見つけたか?」
主人の服をよじ登り、ピモは伸の肩に座る。
探知をしているので近くに魔物がいないことは分かっているが、ゴブリンの巣が近くにあるかもしれない。
そのため、伸は指示をしておいたゴブリンの巣を発見したのか、ピモに小声で問いかけた。
「キキッ!」
ピモの案内を受けながら、伸は声や音を立てないように移動する。
綾愛たちは、そんな伸の後に無言で付いて行く。
少しして、ピモが小さく鳴いてある方向を指さした。
「あそこか……」
ピモが指さした方向を望遠鏡で眺めると、伸たちのいる場所の崖下から300mほど離れた所に数体のゴブリンがいるのが見えた。
そのゴブリンたちの近くには、洞窟の入り口のような物が存在していた。
そのことから、伸はその洞窟がゴブリンの巣となっているのだと判断した。
「……う~わ! 結構いるわね……」
「それだけ上位種がいて、深い巣って事かしら……」
入り口付近にいるゴブリンたちは、敵を発見するために置かれている見張りなのだろう。
その見張りの数が普通じゃない。
ちょっとした上位種が誕生してできた巣穴ならば1・2体の見張りを置く程度なのだが、発見した巣穴の周辺には十数体の見張りが全方位を警戒している。
それだけ、巣穴の中にはゴブリンが潜んでいるということなのだろう。
巣穴と見張りの数を確認した綾愛と奈津希は、その感想が思わずこぼれた。
「どうしますか? ここからだと、中までは探知できないですけど……」
巣と思わしき洞窟を発見することはできたが、内部がどうなっているのか分からない。
正大と麻里の探知できる距離は、ここから洞窟の入り口まで。
中がどうなっているのか分からない状況では、討伐をするのか、それとも救援を呼ぶのかの判断ができない。
そのため、正大は伸や綾愛たちに判断を仰いだ。
「討伐か救援かの選択の前に、まずは探知ね」
「えっ?」
対抗戦で戦う姿を見て、麻里は綾愛に憧れた。
自分の理想とする姿そのものだったからだ。
上長家次期当主である兄の佳太から、何となくといった感じで八郷学園への入学を勧められた時、麻里はすぐにその提案に乗った。
憧れの存在である綾愛を、間近で見ることができるからだ。
そんな綾愛から、少しでも技術を取り入れようと何度も試合映像を見たため、実力はある程度知っているつもりだ。
自分よりも全ての面において勝っているため、自分よりも探知できる距離は広いかもしれない。
しかし、そうは言っても、発見した巣穴の全貌を見ることまではできないだろうと思っていた。
そのため、まるで探知できるような綾愛の言葉に、麻里は思わず声をもらした。
「お願いね!」
「「えっ?」」
先程の言葉で、麻里だけでなく正大も綾愛が巣穴の探知をおこなうのだと思っていた。
しかし、その綾愛は伸の背中をポンと叩いて頼み込んだのを見て、2人は思わず「なんで?」とツッコミを入れたい気持ちだった。
「……分かったよ」
「「えっ?」」
正大と麻里がツッコミを入れようとする前に、伸は綾愛からの頼みを受け入れる。
綾愛ならもしかしたら探知できるのではないかと思っていたが、自分でやるのではなく伸に頼んだ。
それを伸が受け入れたということは、この距離から巣穴の探知ができるということだ。
鷹藤道康との試合に勝利し、綾愛の婚約者であるという情報から、多少なりとも実力があるとは思っている。
しかし、対抗戦二連覇中の綾愛に比べたら、実力は落ちると思っていたため、今度は伸が頼みを受け入れたことに驚きの声を上げた。
「2人共見とけよ」
伸としては、なるべく自分の実力を知られることは避けたい。
しかし、去年の夏合宿と年末の対抗戦後に現れた魔人の集団を倒した時に、正大と麻里の兄たちには知られている。
ならば、隠していても正大と麻里に知られるのは時間の問題だ。
それに、見張りの数からも分かるように、巣穴の中には相当な数のゴブリンが存在している可能性が高い。
放っておいたら、一月もしないうちに近くの村に攻めかかってくるかもしれない。
そうなる可能性があるにも関わらず、自分個人のためだけに放置するわけにはいかない。
そのため、2人の指導も含めて、自分の力の一端を見せることにした。
「2人の探知は全方向に均等に向けているだろ? この場合のような時には一方向に向けてだけ魔力を広げればいいんだ」
探知術は、薄く周囲に広げた魔力に触れた敵の位置や数を見つけることで戦闘準備を整えることができるため、魔闘師を目指すなら覚えなくてはいけない技術だ。
正大と麻里のように周囲に均等に魔力を広げることで、どこから攻められても問題ないように対処するのが基本の型だ。
しかし、今回のようにどこを重点的に探知すればいいか分かっている場合、伸の言うように一方向に延ばせば、全方位を探知する時よりも長い距離を探知することができるのだ。
「フッ!」
「…………」
説明した通り魔力を伸ばし、伸はゴブリンの巣穴の中を探知し始める。
台藤地区・三矢野地区の名家である2人は、仕事で忙しい両親からではなく、指導員から魔術の基礎を教わっていた。
そういった指導員たちは、基礎を重点的に教えることが多いため、応用的な技術を教わることはなかった。
そのため、伸の説明と実戦を見た正大と麻里は、なるほどと納得した。
「まぁ、2人ならすぐにできると思うけどね」
正大と麻里を見ていて気付いたが、入学したての頃の自分と同じように基本はできているが、応用ができていないように綾愛は感じていた。
そこに気付いた伸も、2人に探知術の応用法を伝えることにしたのだろう。
応用とは言っても、魔力操作の技術がある程度あればできることだ。
2人なら基礎ができているため、綾愛はそんなに難しくないことだと伝えた。
基礎ができていなければ応用をする事なんて難しい。
そのため、指導員による基礎重視の教えも、あながち間違いではないということだ。
「…………まずいな」
後輩2人が綾愛の言葉に納得している間、伸は黙って巣穴を探知していた。
そして、その予想外の探知結果に、思わず感想を呟いたのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
47
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる