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3学年 前期
第179話
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「……ざっと数えたら3000はいるんじゃないか?」
「「「「っっっ!!」」」」
ゴブリンたちの巣の内部を探知した伸は、おおよその数を呟く。
その呟きを聞いた綾愛たち4人は、あまりの数の多さに目を見開いた。
見張りのゴブリンに気付かれないように声を出さなかったのは、全員がきちんとした状況判断をしているからだろう。
「尋常じゃないわね……」
予想以上の数に、綾愛は思わず呟く。
それ程の数のゴブリンが近くの町や村に攻めかかったら、あっという間に潰されてしまうだろう。
そのことを考えたら、そう洩らしたくなるのも分からなくはない。
「もしかして、キングかクイーンがいるの?」
元々繁殖力が高いとはいえ、弱い魔物であるゴブリンが他の魔物に殺されることなくここまで増えることができるということは、確実に上位種が存在しているはず。
しかも、上位種の中でも最上位に位置するキングかクイーンが存在しているのではないかと考え、奈津希は伸へと問いかける。
「クイーンだな」
「だからか……」
同じゴブリンの最上位種であっても、キングとクイーンでは少し特色が違う。
簡単に説明するとすれば、武力のキング、数のクイーンと言ったところだ。
今回、伸が探知をして発見したのはクイーンだった。
そのため、伸が奈津希の問いに返答すると、綾愛は納得したように頷いた。
これだけの数の繁殖力を考えると、キングよりもクイーンの可能性が高かったからだ。
「…………」
「どうしたの?」
顎に手を当てて考え込んでいる様子の伸。
それに気づいた綾愛は、何を考えているのかを問いかけた。
「……いや、どうして気付かなかったんだ?」
今回の魔物の調査・討伐の仕事は、簡単にとはいっても柊家に与する魔闘師によって事前の調査が行われている。
これだけの数のゴブリンが生息しているとなると、その時の調査で気付いていてもおかしくない。
いくら綾愛を筆頭とスルメイカの令嬢・令息たちとはいっても、学園生に任せる仕事内容ではない。
そのため、伸は疑問に思ったことを口にした。
「……そう言えばそうね」
伸の言うように、事前の簡単な調査で巣は発見できなくてもゴブリンにはかなりの頻度で遭遇していたはずだ。
それなのに異変なしと報告がされていたということになるが、柊家としてはそんないい加減な調査は許さない。
魔物に関することで危険な状態を放置すれば、人々の命を失なわれるような事件に容易に発展してしまう。
そのため、異変があればホウ(報告)・レン(連絡)・ソウ(相談)を徹底するように指導されているはずだ。
「ゴブリンたちが調査した人間に気づかれないようにしていたのかな……」
通常時とは違って上位種がいる場合、知能の低いゴブリンたちでも統率の取れた行動をとるようになる。
見張りが調査員の存在に気付き、上位種の指示によって身を潜めてやり過ごした。
なんてことがあり得るのではないか、そう予想した綾愛は呟く。
「なんにしても、これを放置するわけにはいかない」
「そうね」
これだけの数なら、調査員が見過ごすようなミスを犯したとは思えない。
そうなると、ゴブリン側が調査員をやり過ごしたという考えが浮かぶが、さらに数を増やすための時間を稼ごうと考えるなら、調査員に襲い掛かって仕留めるという選択をしなかった理由がわからない。
色々と疑問が浮かぶ状況だが、それはひとまず置いておくべきと考えた伸は、話をゴブリンの巣のことに切り替える。
同じ思いのため、綾愛も伸の提案に頷いた。
「いったん退いて、この周辺の魔闘師たちを集めた方が良いのでは?」
「それが一番妥当かもね」
ゴブリンが弱い魔物だとは言っても、あれほどの数となると脅威と言わざるを得ないため、すぐにでも討伐をするべきだ。
そのためには、こちらも数をそろえて事に当たるべきだ。
そう考えた正大の提案に、同意見の麻里が頷く。
「いい選択だ。だが……」
正大と麻里の提案を、伸は頷きつつ褒める。
しかし、すぐに反対の接続詞を呟いた。
「クイーンがいるとなると、いったん退いて魔闘師たちを集めている間にも増える可能性がある。それに、今すぐにでも近隣の町や村に押し寄せても不思議じゃない状態だ」
2人の言うように、いったん退いて魔闘師たちを集めてから討伐に向かうのが、巣を潰す確実な方法といえるだろう。
しかし、その魔闘師たちが集まるまでに、最低でも2、3日の時間を必要となる。
巣にいるゴブリンの数は、いつ近隣の町や村に向かって行動を開始してもおかしくないため、その2、3日で最悪な結果になる可能性がある。
「だから今すぐに潰す」
「いや……」「しかし……」
正大と麻里としても、伸の言いたいことは理解できる。
しかし、ゴブリンとはいえ、この5人であの数の討伐を行うのは極めて危険。
というよりも、無謀としか言いようがない。
そのため、正大と麻里は、伸の考えを否定しようと声を上げようとした。
「そうね」「そうしましょう」
「「え゛っ!?」」
伸の無謀でしかない提案を否定しようとした正大と麻里だったが、その否定がされる前に綾愛と奈津希が肯定する返事をしたため、続きをいうよりも驚きの声のほうが出てしまった。
「あそこのメイン以外に出入りできそうな隙間は2つ。……俺がメインから攻める。4人は他から逃げようとしたのを頼む」
「了解」
「……了解」
「「っっっ!?」」
空気穴としてなのか、自分たちが今見ている場所以外に出入り口にできそうな場所がある。
地面に地図を描きながら、伸はその他の出入り口の場所を4人に教える。
それを綾愛と、綾愛の反応を見る間を開けた奈津希が受け入れる。
交わしている内容が内容だというのに、3人は淡々と話を進めている。
なんでそんな風にやり取りをしているのかわからないため、正大と麻里は戸惑うしかなかった。
「私と麻里、奈津希と森川君で別れましょう」
「ちょっと待ってください! な、何言っているんですか!?」
「そうです! あの数を1人でなんて、危険すぎます!」
地面の地図で別の出入り口の場所を理解した綾愛は、すぐに伸の指示に従うように計画を進めていく。
メインの出入り口以外は、ゴブリン1体が通り抜けできるような大きさ。
その出入り口から抜け出てくるゴブリンを倒すだけなら、そこまで自分たちの負担は大きくない。
しかし、そうなるとほぼメインの出入り口を担当する伸に負担がのしかかることになる。
そんな危険なことを伸だけに任せるわけにはいかない。
そのため、正大と麻里は抗議の声を上げた。
「言いたいことは分かるけれど、今は新田君の指示に従って」
「えっ!?」「でも……」
正大と麻里の反応を見ながらも、綾愛は態度を変えることなく指示を出す。
まったく伸に抗議する気配のないため、綾愛には自分たちの知らない自信があるのかもしれない。
だからと言って常識外れの作戦のため、正大と麻里はその策を受け入れることができない。
「行くわよ!」
「ちょ、ちょっと!!」
「私たちも!」
「ま、待ってください!!」
戸惑ったままの正大と麻里をそのままに、綾愛は麻里を引き連れて行動を開始する。
それに続くように、奈津希も正大を促すように移動を開始する。
何が何だかわからない様子のまま、正大と麻里は伸とピモをその場において、それぞれ綾愛と奈津希の後をついていくしかなかった。
「「「「っっっ!!」」」」
ゴブリンたちの巣の内部を探知した伸は、おおよその数を呟く。
その呟きを聞いた綾愛たち4人は、あまりの数の多さに目を見開いた。
見張りのゴブリンに気付かれないように声を出さなかったのは、全員がきちんとした状況判断をしているからだろう。
「尋常じゃないわね……」
予想以上の数に、綾愛は思わず呟く。
それ程の数のゴブリンが近くの町や村に攻めかかったら、あっという間に潰されてしまうだろう。
そのことを考えたら、そう洩らしたくなるのも分からなくはない。
「もしかして、キングかクイーンがいるの?」
元々繁殖力が高いとはいえ、弱い魔物であるゴブリンが他の魔物に殺されることなくここまで増えることができるということは、確実に上位種が存在しているはず。
しかも、上位種の中でも最上位に位置するキングかクイーンが存在しているのではないかと考え、奈津希は伸へと問いかける。
「クイーンだな」
「だからか……」
同じゴブリンの最上位種であっても、キングとクイーンでは少し特色が違う。
簡単に説明するとすれば、武力のキング、数のクイーンと言ったところだ。
今回、伸が探知をして発見したのはクイーンだった。
そのため、伸が奈津希の問いに返答すると、綾愛は納得したように頷いた。
これだけの数の繁殖力を考えると、キングよりもクイーンの可能性が高かったからだ。
「…………」
「どうしたの?」
顎に手を当てて考え込んでいる様子の伸。
それに気づいた綾愛は、何を考えているのかを問いかけた。
「……いや、どうして気付かなかったんだ?」
今回の魔物の調査・討伐の仕事は、簡単にとはいっても柊家に与する魔闘師によって事前の調査が行われている。
これだけの数のゴブリンが生息しているとなると、その時の調査で気付いていてもおかしくない。
いくら綾愛を筆頭とスルメイカの令嬢・令息たちとはいっても、学園生に任せる仕事内容ではない。
そのため、伸は疑問に思ったことを口にした。
「……そう言えばそうね」
伸の言うように、事前の簡単な調査で巣は発見できなくてもゴブリンにはかなりの頻度で遭遇していたはずだ。
それなのに異変なしと報告がされていたということになるが、柊家としてはそんないい加減な調査は許さない。
魔物に関することで危険な状態を放置すれば、人々の命を失なわれるような事件に容易に発展してしまう。
そのため、異変があればホウ(報告)・レン(連絡)・ソウ(相談)を徹底するように指導されているはずだ。
「ゴブリンたちが調査した人間に気づかれないようにしていたのかな……」
通常時とは違って上位種がいる場合、知能の低いゴブリンたちでも統率の取れた行動をとるようになる。
見張りが調査員の存在に気付き、上位種の指示によって身を潜めてやり過ごした。
なんてことがあり得るのではないか、そう予想した綾愛は呟く。
「なんにしても、これを放置するわけにはいかない」
「そうね」
これだけの数なら、調査員が見過ごすようなミスを犯したとは思えない。
そうなると、ゴブリン側が調査員をやり過ごしたという考えが浮かぶが、さらに数を増やすための時間を稼ごうと考えるなら、調査員に襲い掛かって仕留めるという選択をしなかった理由がわからない。
色々と疑問が浮かぶ状況だが、それはひとまず置いておくべきと考えた伸は、話をゴブリンの巣のことに切り替える。
同じ思いのため、綾愛も伸の提案に頷いた。
「いったん退いて、この周辺の魔闘師たちを集めた方が良いのでは?」
「それが一番妥当かもね」
ゴブリンが弱い魔物だとは言っても、あれほどの数となると脅威と言わざるを得ないため、すぐにでも討伐をするべきだ。
そのためには、こちらも数をそろえて事に当たるべきだ。
そう考えた正大の提案に、同意見の麻里が頷く。
「いい選択だ。だが……」
正大と麻里の提案を、伸は頷きつつ褒める。
しかし、すぐに反対の接続詞を呟いた。
「クイーンがいるとなると、いったん退いて魔闘師たちを集めている間にも増える可能性がある。それに、今すぐにでも近隣の町や村に押し寄せても不思議じゃない状態だ」
2人の言うように、いったん退いて魔闘師たちを集めてから討伐に向かうのが、巣を潰す確実な方法といえるだろう。
しかし、その魔闘師たちが集まるまでに、最低でも2、3日の時間を必要となる。
巣にいるゴブリンの数は、いつ近隣の町や村に向かって行動を開始してもおかしくないため、その2、3日で最悪な結果になる可能性がある。
「だから今すぐに潰す」
「いや……」「しかし……」
正大と麻里としても、伸の言いたいことは理解できる。
しかし、ゴブリンとはいえ、この5人であの数の討伐を行うのは極めて危険。
というよりも、無謀としか言いようがない。
そのため、正大と麻里は、伸の考えを否定しようと声を上げようとした。
「そうね」「そうしましょう」
「「え゛っ!?」」
伸の無謀でしかない提案を否定しようとした正大と麻里だったが、その否定がされる前に綾愛と奈津希が肯定する返事をしたため、続きをいうよりも驚きの声のほうが出てしまった。
「あそこのメイン以外に出入りできそうな隙間は2つ。……俺がメインから攻める。4人は他から逃げようとしたのを頼む」
「了解」
「……了解」
「「っっっ!?」」
空気穴としてなのか、自分たちが今見ている場所以外に出入り口にできそうな場所がある。
地面に地図を描きながら、伸はその他の出入り口の場所を4人に教える。
それを綾愛と、綾愛の反応を見る間を開けた奈津希が受け入れる。
交わしている内容が内容だというのに、3人は淡々と話を進めている。
なんでそんな風にやり取りをしているのかわからないため、正大と麻里は戸惑うしかなかった。
「私と麻里、奈津希と森川君で別れましょう」
「ちょっと待ってください! な、何言っているんですか!?」
「そうです! あの数を1人でなんて、危険すぎます!」
地面の地図で別の出入り口の場所を理解した綾愛は、すぐに伸の指示に従うように計画を進めていく。
メインの出入り口以外は、ゴブリン1体が通り抜けできるような大きさ。
その出入り口から抜け出てくるゴブリンを倒すだけなら、そこまで自分たちの負担は大きくない。
しかし、そうなるとほぼメインの出入り口を担当する伸に負担がのしかかることになる。
そんな危険なことを伸だけに任せるわけにはいかない。
そのため、正大と麻里は抗議の声を上げた。
「言いたいことは分かるけれど、今は新田君の指示に従って」
「えっ!?」「でも……」
正大と麻里の反応を見ながらも、綾愛は態度を変えることなく指示を出す。
まったく伸に抗議する気配のないため、綾愛には自分たちの知らない自信があるのかもしれない。
だからと言って常識外れの作戦のため、正大と麻里はその策を受け入れることができない。
「行くわよ!」
「ちょ、ちょっと!!」
「私たちも!」
「ま、待ってください!!」
戸惑ったままの正大と麻里をそのままに、綾愛は麻里を引き連れて行動を開始する。
それに続くように、奈津希も正大を促すように移動を開始する。
何が何だかわからない様子のまま、正大と麻里は伸とピモをその場において、それぞれ綾愛と奈津希の後をついていくしかなかった。
応援ありがとうございます!
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