御伽ヒロイック学院 ーラノベ主人公科ー

もみじ

文字の大きさ
11 / 43
第一章 脱ホームレス、立ち直りへの道

同僚の女の子がしつこく携帯の番号聞いてくる

しおりを挟む
 真暗な教室に一人ポツンとうつむく男。
 都留岐が部屋のあかりをつけた。

「糾先生まだいたんですか?もう皆帰りましたよ」

 正義は顔を両手で覆って項垂うなだれる。あの後学院長すら巻き込む大事件に発展したのは言うまでもない。

「名古屋君の能力に当てられたのですから仕方ないですよ。おとがめ無しで良かったじゃないですか?普通なら懲戒免職ちょうかいめんしょくですよ」
「都留岐先生はあの能力にどう対処してるんだ?声を聴いただけで怒りが込み上げてくるんだが・・・」
「まず話を聞かない事です。そして本当に耐えられなくなったら教室を出る。そうする他に対処法はありません」
「そうか、あんたちょくちょく外に出てたもんな」
「あのですね、別にそう言う理由ではずしてたんじゃありませんから・・・」

 都留岐は苦々しく笑った。

「じゃあオレ帰るわ・・・」
「ちょっと待って下さい」

 都留岐は正義を呼び止めるとポケットの中から携帯電話を取り出す。

「糾先生の携帯番号教えて下さい」
「は?」

 ふさいでいた心が一気に吹き飛ぶ。正義はあせった。
“携帯なんて持ってねぇよ!”
そう心の中で叫んで後退あとずさる。

「な・・・何だよいきなり。オレ達昨日会ったばかりだろ?電話番号を交換する間柄にしちゃぁまだ早すぎやしねぇか?」
「何勘違いしてるんです?また遅刻されたらたまりませんからね。次寝坊したら電話して起こしてあげるんです」
「大丈夫だって、もう遅刻しねぇよ」
「初日にいきなり遅刻した人の言葉を信用すると思います?」
「ですよねぇ~・・・」

 最もな意見に正義は反論する事も出来ず、只々ただただ顔を引きつらせる。

「実はその・・・オレ、携帯持ってない」
「今時携帯持ってないんですか?なら家電で結構です」
「それが家電もない」
「馬鹿言わないで下さい。携帯も家電も無いなんてどうやって外部と連絡取ってるんですか?」
「都留岐先生、電話ってそんなに大事か?」
「当たり前です!良いから電話番号教えて下さい」
「だから無いって」
「何故かたくなに教えてくれないんです?分かりました。なら家の場所教えて下さい。起こしに行きます」
「はひっ?」

 正義は奇声を上げて狼狽うろたえた。それは不味まずい。ホームレスとバレればそれこそ懲戒免職である。

「やだなぁ都留岐先生、オレ学院長の息子だぜ?一緒に暮らしてるに決まってるだろ?」
「糾先生この付近に住んでるって言ってましたよね?学院長先生いつも車で来てますけどこの近くに住んでるんですか?」
「親父はもう歳だからな、数分歩くのも億劫おっくうなんだろ」

 実際父が住んでいる屋敷はオトヒロから車で30分の所にある。歩けば1時間以上は掛かった。調べればすぐ分かってしまう事だが今更後には引けず、正義は嘘に嘘を重ねて逃げるように教室を出る。

 翌日の帰り、都留岐は釈然しゃくぜんとしない面持おももちで正義の前に立った。

「糾先生、学院長先生と一緒に住んでいると言っていましたよね?」
「おう、それがどうした?」
「学院長先生いつも新宿方面から来るのに糾先生は何で反対方面から来るんです?」
「糾先生先生・・・もしかして一緒に住んでるって嘘ですか?」

 正義の背筋がピンと伸びる。

「う、嘘なもんか、それはその・・・ほら、あれだよ、ちょっとは運動しないと体がなまっちまうからな。トレーニングも兼ねて遠回りしてるんだよオレ」
「本当ですか?」
「本当だよ」

 都留岐はねばるような視線を送る。
“魔法少女の癖に探偵並に鋭いヤツだな”
そう思いながら正義は壁をうように都留岐の物言いたげな目から逃げた。

 そしてさらにその翌日の帰り、都留岐は不快な面持ちで正義の前に立った。

「糾先生嘘つきましたね」

 正義は言葉の意味を全く理解できず只々ほうける。

「昨日家に電話しました」
「え!?もうしたの?」

 固まる正義。

「そしたら糾先生実家には住んでいないと言われました、どういう事ですか?」
「いや、それはその・・・」

 正義の額から冷たい汗がしきり無しに流れる。最早もはや言い逃れなど出来ない。だがここで全てを白状したら再び無職に逆戻りである。それだけは何としても阻止しなくてはならない。

「あれだ、実は今とんでもなくボロいアパートに住んでて恥ずかしくて言えなかったんだ」
都留岐は疑うような目で正義を見た。もう信頼など微塵みじん欠片かけらも無い。そう思えるくらい彼女の目は冷めきっていた。
「おい、仮にも魔法少女が人を疑ったらいけねぇよ。簡単にだまされるのがお前等の持ち味だろ?ちょっとは信じろよ」
「魔法少女も時がてば大人になるんですよ」
「十六のくせによく言うぜ」
「兎にも角にも糾先生の住んでいるそのアパートに連れていって下さい。でなければ信用しません!」
「そうか、分かった・・・だったらしっかりついて来いよ」

 正義は荷物を手に取り一目散に走り出す。

「糾先生!?」

 都留岐は慌てた。まさかこの土壇場どたんばでまだ悪足掻わるあがきするとは思っていなかったからだ。彼女も鞄を手に取りその後を追いかけた。

 逃げる正義に都留岐は一層不信感をつのらせる。

「糾先生待ちなさい!」

 大きな声で叫ぶ都留岐。
 正義は後ろを振り向くと驚嘆きょうたんの顔を浮かべる。予想に反して相手の足が速い。いや、自分が遅いのか?十年ものホームレス生活で体は鈍りに鈍り、ものの数分走っただけで息が喘鳴ぜいめいを上げる。
 どんどん距離を詰められ正義は狭い路地に逃げ込んだ。ゴミバケツを蹴り飛ばし中の物を地面に散らす。すると都留岐はそれにつまづいて転んだ。
 「はぅっ」と情けない声を上げる。その物音に反応して正義は振り返った。うつ伏せに倒れる少女を見て足を止める。
 ここで彼女に歩み寄れば全て水の泡である。一時の良心と人並みの人生を天秤てんびんには掛けられない。今まで散々人を救ってきたのだ。今日くらい自分のために他人を見捨ててもいいではないか?正義は自分にそう言い聞かせて唇を噛む。そして断腸だんちょうの思いで再び走り出した。

「許せ都留岐!」

 そう正義が呟くと遥か後方から「この薄情者はくじょうものぉぉぉ!」と言う大きな声が響き渡った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

「魔物の討伐で拾われた少年――アイト・グレイモント」

(イェイソン・マヌエル・ジーン)
ファンタジー
魔物の討伐中に見つかった黄金の瞳の少年、アイト・グレイモント。 王宮で育てられながらも、本当の冒険を求める彼は7歳で旅に出る。 風の魔法を操り、師匠と幼なじみの少女リリアと共に世界を巡る中、古代の遺跡で隠された力に触れ——。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。 九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。 同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。 不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。 古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

処理中です...