御伽ヒロイック学院 ーラノベ主人公科ー

もみじ

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第二章 朏いくさと小さな怪物

三日前(その4)目覚める怪物

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 それからいくさはアパートに戻る。築40年の木造アパートの室温は外と大して変わらない。何処からともなく入ってくる隙間風のせいで部屋は天然の冷蔵庫と化している。
怪人はこんな格好で寒くないのか?そう思いながらいくさは怪人の傷口に買ってきた消毒液を吹きかけた。

「うっ・・・」とまた怪人が呻(うめ)く。しかし今度は手足を縛っているので怖くはない。
「何だお前・・・」

 弱々しい声にいくさは気がついた。うっすらと目を開けてこちらを見る怪人。

「やっと目を覚ました」
「ちくしょ!何だこれ?」

 怪人は手足を縛られている事に気づき芋虫のように暴れ出す。朦朧もうろうとする意識の中、小さな体で必死に抵抗するも体に力が入らず怪人はあせる。
 手も足も出ない様にいくさは余裕の表情を見せた。

「大人しくしなよ、あばれたらまた傷口が開くよ」

 そう言って全身に消毒液を吹きかける。それが沁みたのか怪人の顔が歪む。

「つっ!?・・・いてぇよ、ふざけんな!お前何やってる!?」
「見て分からない?消毒してるんだよ。傷口が化膿かのうしたら大変じゃないか」
「ほら、お腹から力抜いて、これじゃあ包帯巻けないよ」
 「グルルルル・・・」と犬のようにうなって威嚇する怪人。触れれば全身に力が入っているのが分かる。いくさは怪人の傷口にガーゼを押し当て強く押さえた。

「もっと腹筋やわらかくして、まだまだ固いよ」

 苦痛の表情を浮かべる怪人。辛抱しんぼう強く待つこと10分。次第に怪人の腹部がやわらいでいくのを感じる。いくさは怪人の体を包帯で巻いた。首、腕、腿、腹、目につく深い傷全てに巻く。

「ねぇ君、名前は?私は朏いくさ、月が出ると書いて“ミカヅキ”って読むんだ。カッコいいっしょ?」

 怪人はいくさを睨んだまま答えない。

「そんな警戒しなくてもいいじゃないか?別に取って食ったりしないよ」
「だったらこの紐解けよ」
「もちろん、私に危害を加えないって約束するならね」
「フッ・・・」と怪人は鼻で笑う。
「何が可笑(おか)しいの?」
「丁度今、お前をどうやってブッ飛ばしてやろうか考えてたところだ」
「何それ?手も足も出ない癖によく言うよ」

 いくさがポンとお腹を叩くと痛みで怪人の体がくの字に折れる。「ぐっ・・・」と悲痛な声がれた。

「そうだ、お腹すいてない?」

 いくさは缶詰を取り出し、怪人の前に置く。
 つばを飲む怪人。

「やっぱお腹すいてたんだ、途中コンビニで買ってきて良かった。怪人って何食べるのか分かんなくてさ、こういうのって食べる?」

 だんまりを決め込む怪人。

「もぉ・・・何とか言いなよ」

 いくさは缶詰を開け、小皿に取り分けた。

「さあ、召(め)し上がれ」

 差し出すも、怪人はそれをじっと見つめたまま動かない。まだ警戒しているのか?無理もない。魔法少女に、人間にここまで甚振られてそう簡単に気を許せるはずがない。いくさは怪人を膝枕ひざまくらするとその頭を優しくなでた。
 ピンと張った獣耳、触れる度にいくさの手の平を力強く押しのける。両耳をつかみ、ゲームのレバコンのように上下左右操るとそれは柔弱にゅうじゃくな力であらがった。手も足も出ない状態で今怪人が動かせる唯一の部位。耳を動かすための数本の筋繊維、苦肉にもそれだけで抵抗するしかない。持てる力を振り絞り、十本の指に挑む。しかしどんなに力を込めても耳の力だけで人の手を払うのは難しい。あまりにも大きなハンデに怪人の顔がキツく歪んだ。

「やっぱ良いなぁ・・・ワンコ飼いたいなぁ」
「勝手に飼ってろよ!いい加減耳離せ、さっきからうぜぇ!!」
「そんな言い方しなくても・・・なら尻尾は良い?」

 いくさは怪人をどかすと“ゴンッ”と音を立てて怪人の頭が落ちた。

「いっ!・・・」と再び怪人から悲痛な声が漏れる。いくさは両手で怪人の尻尾を掴んだ。するとそれは陸に上がったウナギの如くウネウネと暴れ出す。

「おい!尻尾もやめろ!!」
「うはっ、超モフモフ」

 いくさは怪人の言う事などお構いなしに尻尾を蹂躙じゅうりんする。まるでシルクのような肌触り、そして毛の中に隠された一本の太い芯は縫いぐるみには無いぬくもりと力強さを感じさせる。その張りと弾力はいくさの指を押し退けるほど激しく脈打った。
 荒ぶる尻尾を強引に抑えつけ、尻尾を揉んで揉んで揉みほぐす。マッサージするように上下に引っ張っては、その心地を思う存分堪能たんのうする。

「さっ・・・触んじゃっ、ねぇ・・・敏感びんかんなん、だよ・・・尻尾は、やめれ・・・」
「昔飼ってた犬もこうやって尻尾の付け根揉むとひっくり返って喜んでたよ。ここ触られると気持ちいの?」

 いくさが付け根を強く握ると怪人は「ぁ!・・・」と小さな声であえいだ。

「ぜっ・・・全然気持ちよくねぇんだよ!」
「そう、久々だから揉み方が足らないのかなぁ?」

 いくさはさらに強くしごく。

「ひゃっ・・・ひゃめろ!」

 怪人の呂律ろれつが回らなくなる。身動きの取れない体を必死にうねらせ、拘束している紐を引き千切ろうとする。しかし両腕の上腕二頭筋じょうわんにとうきんを切断され、さらに両太腿ふともも大腿直筋だいたいちょっきんを抉られているため四肢に全く力が入らない。しかもいくさが尻尾を強く握りしめる度にゾワゾワと強烈な悪寒おかんが背筋を走り、硬直して五体に刻まれた傷口が焼き裂かれるように痛む。その堪えがたい感覚に怪人の呼吸は自然と乱れた。

「く・・・くたばれ、この、尾無し猿・・・後でぜってぇぶっ殺す!」

 もはや怪人には汚い言葉で抵抗するしか術が無い。好き放題されつつ、淡々と暴言を吐いていくさを威嚇する。

「そう言う暴言吐くのやめなよ、気持ちいなら気持ちいって素直に言えばいいのに」
 汗みどろになって横たわる怪人を見ていくさはようやく手を止める。悶えに悶えたため傷口が開き包帯から血がじんわりと滲み出ていた。息も絶え絶えで「ハァ・・・ハァ・・・」と呼吸を整える怪人。

「ごめん、やり過ぎた」

 いくさは少しふざけ過ぎたと反省する。尻尾を置き、手の平を怪人の腹部に当ててなだめる、腹筋の脈動が手を上下に揺らした。

「しばらく家に隠れてなよ、ここなら安全だよ。それに今あの黒いのに見つかったらヤバいだろ?」
「あいつを見たのか!?」

 怪人は上体を起こし、半ば身動きの取れない体でいくさに迫る。

「え?あぁ・・・さっきそこで会ったけど」
「何処にいた?今すぐそこに案内しろ!」
「無茶言うなって、りない奴だなぁ。一体どれだけボコられたら気が済む訳?あんた達怪人がいくら頑張ったところでヒーローには勝てないよ」
「・・・」
「ひょっとして・・・滅茶苦茶弱い?」
「はぁぁぁ?弱かねぇよ!」
「あはははは、虚勢きょせいもほどほどにしないと傷に障るよ、マジで。身の安全は私が保証するから今はゆっくり休みな」

 いくさは指を顔にかざしてキラッ☆っとウィンクする。怪人の怪しむ眼差しが彼女を突き刺した。

「・・・何が目的だ?言っとくがあたしは何も吐かねぇぞ」
「あれ?もしかして疑ってる?そりゃそうだよね。人間にこれだけフルボッコされたら疑心暗鬼の一つにもなるよ。私はただ君の助けになりたいんだ、それじゃダメかな?」
「そんなの信じられるかよ」
「まぁまぁ、ここは一つだまされたと思ってご飯食べな。結構出血してたし今貧血でしょ?顔色悪いぞ」

 相手の真意が読めず懊悩おうのうする怪人。
もし自分に殺意があるなら傷の手当てなどするはずがない。殺す気が無いのなら毒を盛られている可能性は低い。自白剤か?それとも睡眠薬か?あれこれ考えるも食欲が理性を圧倒する。体が目の前の食べ物を欲した。少し思いつめると怪人は背に腹は代えられないとばかりに口を開く。

「両手使えねぇのにどうやって食うんだ?」
「あっ!?ごめん。手足縛ってるのすっかり忘れてたよ」
おどけながらいくさは怪人の体を起こし、スプーンでその口に食べ物を運んだ。
「ほら、口開けて」

 怪人は何か妙な物を口に入れたような感じで不思議そうにそれを噛む。

「味っけねぇな」
「そりゃまぁ・・・ドッグフードだしねぇ」
「ぷっ!」

 怪人は口の中の物を吐き出した。

「馬鹿吐き出すなよ、勿体無い・・・」
「これ犬の餌か?何てもん食わせてんだよ!」

 時計の針は午後九時を指していた。
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