御伽ヒロイック学院 ーラノベ主人公科ー

もみじ

文字の大きさ
19 / 43
第二章 朏いくさと小さな怪物

三日前(その6)キム兄といくさ

しおりを挟む
 真夜中、暗い部屋に携帯の目覚ましがやかましく鳴る。いくさは飛び起き、すぐさまそれを切った。ゆっくりレゥの方を見る。
 背を向けて微動だにしないレゥ。その姿にほっとする。いくさは忍ぶように部屋を出るとそっとドアを閉めた。

 午前三時、人を飲み込んでしまうほど暗い夜道を一台の自転車が颯爽さっそうと走る。凍いてついた空気がいくさの頬を刺した。辿りついた先はベニヤ板の小汚い新聞屋。いくさが自転車を止めると目の前にやつれた中年男性が立ちはだかる。
 ロンゲに無精髭ぶしょうひげを生やしたその男性は険しい表情でいくさを見た。
 いくさは申し訳なさそうに頭を下げる。
 彼はこの辺りを取り仕切る新聞屋のドン、通称店長。まだ十五のいくさを理由も聞かずに雇ってくれた大恩人である。それだけではない。奨学金制度について教えてくれたり、普通なら学生には任せない夕刊の仕事も、金に困るいくさのために無理を通して振ってくれた。それ故に普段から小生意気こなまいきないくさも彼だけには頭が上がらない。

「て、店長お早うございます・・・」
「朏さぁ~ん?昨日どれだけ皆に迷惑かけたと思ってる?」
「はい・・・すみません」
「謝れば済むってもんじゃないよ。不配(ふはい)がどれだけ店の信用を落とすか分かってるの?ただでさえ新規開拓が難しい時代なのに解約されたら朏さんのせいだからね」

 店長は持っていた新聞紙でいくさの頭をポンポン叩く。
 罪悪感に駆られ、ぐうの音も出ないいくさ。されるがままそれにじっと耐える。

「とりあえず不配分の損失は今月の給料から差し引いとくからね」
「そんな!」

 いくさの顔が悲壮ひそうに染まる。すると店長は不敵な笑みを浮かべた。

「でもまぁ今回は不配ゼロだったし、大目に見てやろうかな」

 配らなかったのに不配ゼロとはどういう事なのか?訳も分からず呆けるいくさ。

「木村に礼言えよ、連絡つかなかったお前の代わりに全部配ってくれたんだからよ」

 そう言うと店長は作業場へと戻っていった。


 キム兄はせっせとバイクに新聞紙を積んでいる。いくさはその背中をじっと眺めた。

「キム兄・・・」
「朏お早」

 何事も無かったように挨拶するキム兄。
 調子を狂わされいくさは頭を掻く。 

「お早う・・・あのさ」
「昨日は悪かった!」

 いくさの言葉をかき消すようにキム兄は深々と頭を下げた。いくさは思いもよらない展開に思わず「え!?」と声を漏らす。

「正義なんて人それぞれなのに俺心無い事言った。朏が目指す正義も立派な正義だ。だからごめん。もう笑ったりしない」
「キム兄頭上げて、もうそんなの慣れっこだよ。それに謝らないといけないのは私の方、昨日は迷惑かけてごめん」

 そう言うといくさもキム兄と同じくらい頭を下げる。

「そんな事気にするな。仲間なんだから助け合うのは当然だろ?迷惑だなんてこれっぽっちも思ってないぜ」
「でも私の身勝手でキム兄には苦労かけたし」
「なぁ朏、昨日店長から電話が掛かってきてお前の分まで配達してくれって言われた時は心底心配したぞ。ただの配り忘れって聞いた時は本当安心した。お前が無事で何よりだ」
「ごめん・・・」
「謝るなって、水臭い。俺さぁ、朏とは何の血の繋がりもないけど他人とは思えないんだよな。勿論同じ新聞奨学生ってのはあるけど、お互い親には恵まれなかったし今だって他人の何倍も苦労してる」
「キム兄って呼ばれてるだけで兄貴面するのも烏滸おこがましいけどさ、それでも朏より年上だ。だからもっと頼れよ。そんで頼ったらありがとだ」

 キム兄は親指を突き立てグーサインをする。
 紅潮こうちょうした頬を隠すかのようにいくさは下を向いた。

 正直嬉しかった。十五、六と言えばまだ親に甘えてていい年頃である。同い年の女の子が高校に通う中、いくさ一人だけが新聞の印字で手を黒く染め、毎日毎日紙の束を届けている。
体調を崩しても心配してくれる人などいない。金に困っても面倒見てくれる人などいない。どんなに助けを求めても頼っていい人などいなかった。ただひたすら孤独に耐える日々。例えそれが建前だとしても、頼れる存在と言うのは孤独ないくさにとっては救いだ。

「キム兄、だったら妹分として言わせてもらうけど・・・今日は学校来てよね。出欠不足で留年とかダサいから」
「お、おう・・・」

 キム兄の顔が引きつる。ビシッと決めていたグーサインも頼りなく曲がった。そんな夫婦漫才めおとまんざいを二人が繰り広げていると作業場の奥から店長が足早にやって来た。

「木村君ごめん、一人バッくれた。悪いけど今日そいつの分もお願い」
「良いっすよ店長」
「ちょっとキム兄!?学校は!」

 声を荒げるいくさ。

「ごめん朏、今日も休むって都留岐先生に伝えといて」

 キム兄は半ヘルを被り、そそくさとバイクに跨る。

「キム兄ぃぃぃぃ!!!!」

 いくさがキム兄の行く手を阻もうとすると店長がいくさの手を引き戻した。

「朏、お前の担当はそっちじゃない」

 そうしてる間にキム兄は軽やかに走り去る。いくさは店長の手を振り払い、キム兄の後を追いかけた。しかしその姿は遥か遠くに去った後だった。

「ゴラァァァ!木村ぁぁぁぁ!!!!学校来ぉぉぉぉぉい!」

 いくさの罵声が闇に溶ける。
 地団太じだんだを踏むいくさ、しかしその顔は不思議と和らいでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

「魔物の討伐で拾われた少年――アイト・グレイモント」

(イェイソン・マヌエル・ジーン)
ファンタジー
魔物の討伐中に見つかった黄金の瞳の少年、アイト・グレイモント。 王宮で育てられながらも、本当の冒険を求める彼は7歳で旅に出る。 風の魔法を操り、師匠と幼なじみの少女リリアと共に世界を巡る中、古代の遺跡で隠された力に触れ——。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。 九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。 同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。 不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。 古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

処理中です...