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第三章 御伽ヒロイック学院
登校
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早朝の御伽公園。
昨晩降った雪はすっかり溶けてしまったものの、その冷感は健在だ。
「うぅぅ・・・寒!」
正義は公園のトイレで身震いする。コンビニ袋を片手に足早にハウスへ戻った。
いつもと変わらない朝、約二名を除いては・・・。
結局いくさの連れは一晩中外にいた。しかも体育座りしたまますやすや寝入っている。普通の人間なら考えられない事である。
正義は不安になって彼女の息を確かめた。
口元に指を近づけると生の息吹を感じる。
“よし、生きてる”そう確信すると、ふと頭頂の犬耳に気がつく。
“あれ?昨日こんなの着いてたっけ?”と疑問に思う正義。すぐに暗闇のせいで見落としただけだと思い込む。
それにしても可愛い・・・。
レゥと呼ばれる少女。最初は粗暴な印象を受けたが意外や意外、こんなあざとアイテムを着けるようなキャラだとは思はなかった。興味本位で触れるとその耳はピクリと指をはねのける。
“最近のオモチャは良く出来てるなぁ~”と深く感心する。
どういう仕組みで動くのか好奇心が湧いた。ちょっととってみる。
「痛ぃって!!」
レゥが大きく叫んだ。
大きな声にいくさは目を覚ます。
“バイト!”
段ボールの繋ぎ目から差す光に飛び起きるも、すぐにその必要が無い事を思い出す。
そういえば仕事辞めたんだった・・・。
携帯の時計は六時を過ぎていた。いつもなら新聞を配り終えている時間である。
後悔先に立たず。一体この先どうするのか自分で自分を責める。頭を抱えて考え込むいくさ。暫くして“寝よう”と言う結論を出す。
せっかく新聞配達の仕事を辞めたのだ。今日くらい遅起きしてやる。いくさは全力で現実逃避する。毛布を被り再び寝転ぶと何か硬いものを踏みつけた。
“痛っ!”
刺すような痛みにいくさはまた飛び起きる。脇腹を摩り踏みつけた物を確かめるとそれはオモチャのベルトだった。特殊なギミックを備えていそうな機械仕掛けのベルト。
独身男の家、もとい段ボールハウスにどうしてこんな物が置いてあるのか不思議に思う。
「朏!そこどけ!!」
するとそこへ正義が血相を変えてやって来る。
身構えるいくさ。
「先生、朝っぱらからどうしたの?」
「怪人だ怪人!そこにホープリアクター・・・変身ベルトあるだろ?そいつをよこせ!」
「これの事?」
いくさはベルトを取って見せる。
「そう、それだ。早くよこ・・・」
正義が手を伸ばすといくさはひょいとベルトを持ち上げた。
「早くよこ」
再び正義が奪い取ろうとすると今度は右に下げる。
「よこ」
さらに今度は左に反らす。
「よ」
さらに今度の今度は後ろに引く。
「おい!ふざけんなよ。すぐそこに怪人がいるんだぞ。とっととそいつをよこせよ!」
憤る正義。
その態度にいくさは憮然とする。正義を強引に押し退け外へと出た。
“一体何なんだ?”何故、こんな反抗的な態度を取るのか正義には全く理解できない。
そのもどかしさに苦虫を噛み潰したような顔を浮かべ、暫しいくさの行動を観察する。
外ではレゥが耳を大事そうに摩っていた。
「レゥ~」
いくさが呼ぶとレゥが振向く。
「へい、パ~ス」
変身ベルトが弧を描いて宙を飛ぶ。レゥはそれを受け止めた。
「何だこれ?・・・オモチャ?」
首を傾げるレゥ。
正義はあごを外した。
「おいぃぃぃぃ!!何してくれてるんだよぉぉぉぉ!!!!」
彼の声が御伽公園中に木霊する。
次から次へ、車が高架橋を高速で駆け抜ける。その重低音と振動が下の歩道にまで伝わった。
男と女、正義といくさは険悪なオーラを発しながら高架橋の下を歩く。
「朏、オレがホームレスだって事は絶対にバラすなよ」
「言わないよ。その代わりレゥの事は見逃してよね」
二人はいつの間にか協定を結んでいた。それは正義がホームレスだという事を内緒にする代わり、怪人には目を瞑ると言うものだ。もし、協定を破って正義を執行すれば正義の人生は終る。自分の人生と世界の平和を天秤には掛けられない。
昔なら考えられない事だが今の正義は悪魔の誘いに乗るほど落魄していた。
「いくささぁ~ん!」
オトヒロの玄関先でいくさを呼ぶ声。見ると二人の少女がこちらに向かってやって来る。
一人はピンクのショートジャケットにミニスカニーソックスを履いたおさげの女の子。もう一人は赤色のスカーフ、ノースリーブのシャツにジーンズのズボンを履いたサイドテールの女の子。
「男連れぇ~!!」
ピンクの子はあたふたしながら二人を両手で指さした。
赤の子はその様子を冷ややかな目で見る。
「あんた男と付き合ってるって本当だったのね。にしてもこれはないわぁ~」
人を小馬鹿にした物言いに正義の眉根が寄った。
「あ?それオレの事言ってんのか?」
「いくささんに彼氏出来たなんて超ショック~・・・もしかしてこの人と寝たの?」
「うん」といくさは正直に答える。
「おい!」と正義は一喝した。
「うひゃ~!・・・いくさマジで?」
他人の恋沙汰に過剰反応する娘達。
いきなり何て事を言い出すのか!?
正義は慌てていくさの口を塞ぐと武骨な顔を近づける。
「お前ふざけんなよ!協定はどうした?」
いくさは正義の手を叩き落とし頬についた手汗を拭った。
「何するんだよ、約束は守ってるだろ!?」
「前の講師は生徒とやらかして辞めさせられたんだろうが!?オレまで同じ事になったらあの怪人ぶっ殺すからな」
「先生ひどっ!話が違うよ」
「違わねぇよ!オレの人生とあの怪人の命は同価値と思え」
「信じらんない。それでも主人公?」
「何とでも言え、今のオレは手段を選ばねぇ」
いくさは不快な顔をする。
ピンクの子がいくさの手を取った。目を輝かせ恋話に興味津々な様子。
「ねぇ、いくささんエッチはしたの?」
「どうしてそういう話になるんだよピンク娘。ただ一緒に歩いてただけだろうが!」
「こんなオッサンのどこが良いんだか。あんた可愛いんだからもう少し人選びなよ」
「お前ちょいちょい失礼だな、何処のクラスの生徒だ?ろくなヒーロー目指してないだろ」
「さぁ?何のクラスかしらね。戦隊ヒーロー・・・ひょっとしたらラノベ主人公のクラスかもしれないわよおじさん」
「抜かせ!うちのクラスにお前みたいな生徒はいねぇよ」
そんな二人の問答を断ち切るようにピンク娘は正義に満面の笑みを見せつける。
「魔法少女のクラス、出席番号第二番、片倉愛、よろしくね」
正義は頭を高くして彼女達を見下ろした。
「ほぉ、お前等魔法少女のクラスだったか」
赤の娘が怒鳴る。
「愛!人がじらしてんのに即行バラしてんじゃないわよ。ちょっとは空気読めっての」
愛と呼ばれるその少女は口を尖らせた。
「えぇ~、別に秘密にするような事じゃないじゃん?」
「ところでおじさんは?」
「あれでしょ、熊田って奴でしょ?ラノベ科に三十路超えたおっさんがいるって先生から聞いた事ある」
いくさは愛の手を強引に振り払った。
「みなみ、この人は生徒じゃないよ。ラノベ主人公科の新しい先生」
「え?嘘、やばっ・・・」
とたんにかしこまるみなみ。
数々の非礼に気まずくなったのか、彼女は苦笑いする。
「二人とも勘違いしてるようだから言っておくけど私達そう言う関係じゃないから」
「冷静に考えてみなよ。こんな小汚いオッサンに惚れる訳ないじゃん。冗談止めてよね」
「それもそうだね・・・」
二人は納得して相槌を打った。
“おいおい、そんな理由で納得するなよ!”と心の中で突っ込む正義。内心傷つきながらもひとまず胸を撫で下ろす。隙を見ていくさに詰め寄る。
「良いぞ朏、だがもう二度とあんなふざけた真似するなよ。あの怪人の命はオレが握ってるんだからな」
「ベルト取られた癖によく言うよ。それに私は全然良くない」
そう言うといくさは愛の目をじっと見る。
「私がこの人と付き合ってるって何処で聞いたの?噂の出元は誰?」
「オレはおおよそ検討ついてるがな」
「何?先生心当たりあるの?」
「こいつら魔法少女だろ?そんでオレ等と関わりのある奴と言ったら・・・」
すると今度は遠くから正義を呼ぶ声。
「糾先生ぇ~!!」
「噂をすれば何とやらだ」
声のする方を見れば都留岐の姿。物々しく駆け寄ると息を切らしてその場に屈んだ。
「糾先生大変です、木村君が」
「木村?誰それ?」
正義は眉をひそめる。
「何言ってるんですか!?ラノベ主人公科の生徒ですよ」
「そんな奴いたっけか?」
正義がいくさの顔を窺うと、いくさは明後日の方角に視線を逃がす。
正義は指を折って数えた。
「高梨、岡本、高波、熊田、名古屋、朏・・・他にいないだろ?」
「朏さんの出席番号は何番ですか?」
「七・・・あ?お前ら七人いたのか!」
「木村君は入学してからずっと不登校ですから。私も見たのは入学式と前期末テストの二回だけです」
「何だそいつ、ヒーローになる気無いだろ」
「木村君は出席番号第二番です。高橋君に次ぐ実力者ですし、諦めるのは早いと思うんですけど」
「たぶんそれはあれだ、オトヒロのレベルの低さに絶望したんだろ」
いくさはいけ好かない顔で口をはさむ。
「先生達の勝手な憶測でキム兄の人格決めつけないで欲しいな。キム兄はそんないい加減な人間じゃないよ」
皆の視線がいくさに集まった。
「そういえば朏さん、木村君と同じ新聞配達の仕事してましたよね?何か知りませんか?」
都留岐の顔が目と鼻の先まで迫る。
“顔、近っ!”
相手を捕らえるような眼力にいくさは動作分析を思い出した。
ただでさえ嘘をつくのが苦手ないくさ。キム兄程ではないにせよ、元ヒーローの都留岐もそれなりの洞察眼を持ち合わせているに違いない。
いくさは悟られぬよう上体を反らして視線をかわす。
ふと、都留岐の鞄からはみ出るダックスの縫いぐるみが目に留まった。
「あ、可愛い・・・」
いくさがダックスに触れようとすると都留岐はさっと後ろに隠した。
いくさは口をへの字に曲げる。
「それで都留岐先生、一体何が大変なんだ?」
「木村君が・・・殺されました」
その言葉に外界の雑音が一瞬途絶える。
昨晩降った雪はすっかり溶けてしまったものの、その冷感は健在だ。
「うぅぅ・・・寒!」
正義は公園のトイレで身震いする。コンビニ袋を片手に足早にハウスへ戻った。
いつもと変わらない朝、約二名を除いては・・・。
結局いくさの連れは一晩中外にいた。しかも体育座りしたまますやすや寝入っている。普通の人間なら考えられない事である。
正義は不安になって彼女の息を確かめた。
口元に指を近づけると生の息吹を感じる。
“よし、生きてる”そう確信すると、ふと頭頂の犬耳に気がつく。
“あれ?昨日こんなの着いてたっけ?”と疑問に思う正義。すぐに暗闇のせいで見落としただけだと思い込む。
それにしても可愛い・・・。
レゥと呼ばれる少女。最初は粗暴な印象を受けたが意外や意外、こんなあざとアイテムを着けるようなキャラだとは思はなかった。興味本位で触れるとその耳はピクリと指をはねのける。
“最近のオモチャは良く出来てるなぁ~”と深く感心する。
どういう仕組みで動くのか好奇心が湧いた。ちょっととってみる。
「痛ぃって!!」
レゥが大きく叫んだ。
大きな声にいくさは目を覚ます。
“バイト!”
段ボールの繋ぎ目から差す光に飛び起きるも、すぐにその必要が無い事を思い出す。
そういえば仕事辞めたんだった・・・。
携帯の時計は六時を過ぎていた。いつもなら新聞を配り終えている時間である。
後悔先に立たず。一体この先どうするのか自分で自分を責める。頭を抱えて考え込むいくさ。暫くして“寝よう”と言う結論を出す。
せっかく新聞配達の仕事を辞めたのだ。今日くらい遅起きしてやる。いくさは全力で現実逃避する。毛布を被り再び寝転ぶと何か硬いものを踏みつけた。
“痛っ!”
刺すような痛みにいくさはまた飛び起きる。脇腹を摩り踏みつけた物を確かめるとそれはオモチャのベルトだった。特殊なギミックを備えていそうな機械仕掛けのベルト。
独身男の家、もとい段ボールハウスにどうしてこんな物が置いてあるのか不思議に思う。
「朏!そこどけ!!」
するとそこへ正義が血相を変えてやって来る。
身構えるいくさ。
「先生、朝っぱらからどうしたの?」
「怪人だ怪人!そこにホープリアクター・・・変身ベルトあるだろ?そいつをよこせ!」
「これの事?」
いくさはベルトを取って見せる。
「そう、それだ。早くよこ・・・」
正義が手を伸ばすといくさはひょいとベルトを持ち上げた。
「早くよこ」
再び正義が奪い取ろうとすると今度は右に下げる。
「よこ」
さらに今度は左に反らす。
「よ」
さらに今度の今度は後ろに引く。
「おい!ふざけんなよ。すぐそこに怪人がいるんだぞ。とっととそいつをよこせよ!」
憤る正義。
その態度にいくさは憮然とする。正義を強引に押し退け外へと出た。
“一体何なんだ?”何故、こんな反抗的な態度を取るのか正義には全く理解できない。
そのもどかしさに苦虫を噛み潰したような顔を浮かべ、暫しいくさの行動を観察する。
外ではレゥが耳を大事そうに摩っていた。
「レゥ~」
いくさが呼ぶとレゥが振向く。
「へい、パ~ス」
変身ベルトが弧を描いて宙を飛ぶ。レゥはそれを受け止めた。
「何だこれ?・・・オモチャ?」
首を傾げるレゥ。
正義はあごを外した。
「おいぃぃぃぃ!!何してくれてるんだよぉぉぉぉ!!!!」
彼の声が御伽公園中に木霊する。
次から次へ、車が高架橋を高速で駆け抜ける。その重低音と振動が下の歩道にまで伝わった。
男と女、正義といくさは険悪なオーラを発しながら高架橋の下を歩く。
「朏、オレがホームレスだって事は絶対にバラすなよ」
「言わないよ。その代わりレゥの事は見逃してよね」
二人はいつの間にか協定を結んでいた。それは正義がホームレスだという事を内緒にする代わり、怪人には目を瞑ると言うものだ。もし、協定を破って正義を執行すれば正義の人生は終る。自分の人生と世界の平和を天秤には掛けられない。
昔なら考えられない事だが今の正義は悪魔の誘いに乗るほど落魄していた。
「いくささぁ~ん!」
オトヒロの玄関先でいくさを呼ぶ声。見ると二人の少女がこちらに向かってやって来る。
一人はピンクのショートジャケットにミニスカニーソックスを履いたおさげの女の子。もう一人は赤色のスカーフ、ノースリーブのシャツにジーンズのズボンを履いたサイドテールの女の子。
「男連れぇ~!!」
ピンクの子はあたふたしながら二人を両手で指さした。
赤の子はその様子を冷ややかな目で見る。
「あんた男と付き合ってるって本当だったのね。にしてもこれはないわぁ~」
人を小馬鹿にした物言いに正義の眉根が寄った。
「あ?それオレの事言ってんのか?」
「いくささんに彼氏出来たなんて超ショック~・・・もしかしてこの人と寝たの?」
「うん」といくさは正直に答える。
「おい!」と正義は一喝した。
「うひゃ~!・・・いくさマジで?」
他人の恋沙汰に過剰反応する娘達。
いきなり何て事を言い出すのか!?
正義は慌てていくさの口を塞ぐと武骨な顔を近づける。
「お前ふざけんなよ!協定はどうした?」
いくさは正義の手を叩き落とし頬についた手汗を拭った。
「何するんだよ、約束は守ってるだろ!?」
「前の講師は生徒とやらかして辞めさせられたんだろうが!?オレまで同じ事になったらあの怪人ぶっ殺すからな」
「先生ひどっ!話が違うよ」
「違わねぇよ!オレの人生とあの怪人の命は同価値と思え」
「信じらんない。それでも主人公?」
「何とでも言え、今のオレは手段を選ばねぇ」
いくさは不快な顔をする。
ピンクの子がいくさの手を取った。目を輝かせ恋話に興味津々な様子。
「ねぇ、いくささんエッチはしたの?」
「どうしてそういう話になるんだよピンク娘。ただ一緒に歩いてただけだろうが!」
「こんなオッサンのどこが良いんだか。あんた可愛いんだからもう少し人選びなよ」
「お前ちょいちょい失礼だな、何処のクラスの生徒だ?ろくなヒーロー目指してないだろ」
「さぁ?何のクラスかしらね。戦隊ヒーロー・・・ひょっとしたらラノベ主人公のクラスかもしれないわよおじさん」
「抜かせ!うちのクラスにお前みたいな生徒はいねぇよ」
そんな二人の問答を断ち切るようにピンク娘は正義に満面の笑みを見せつける。
「魔法少女のクラス、出席番号第二番、片倉愛、よろしくね」
正義は頭を高くして彼女達を見下ろした。
「ほぉ、お前等魔法少女のクラスだったか」
赤の娘が怒鳴る。
「愛!人がじらしてんのに即行バラしてんじゃないわよ。ちょっとは空気読めっての」
愛と呼ばれるその少女は口を尖らせた。
「えぇ~、別に秘密にするような事じゃないじゃん?」
「ところでおじさんは?」
「あれでしょ、熊田って奴でしょ?ラノベ科に三十路超えたおっさんがいるって先生から聞いた事ある」
いくさは愛の手を強引に振り払った。
「みなみ、この人は生徒じゃないよ。ラノベ主人公科の新しい先生」
「え?嘘、やばっ・・・」
とたんにかしこまるみなみ。
数々の非礼に気まずくなったのか、彼女は苦笑いする。
「二人とも勘違いしてるようだから言っておくけど私達そう言う関係じゃないから」
「冷静に考えてみなよ。こんな小汚いオッサンに惚れる訳ないじゃん。冗談止めてよね」
「それもそうだね・・・」
二人は納得して相槌を打った。
“おいおい、そんな理由で納得するなよ!”と心の中で突っ込む正義。内心傷つきながらもひとまず胸を撫で下ろす。隙を見ていくさに詰め寄る。
「良いぞ朏、だがもう二度とあんなふざけた真似するなよ。あの怪人の命はオレが握ってるんだからな」
「ベルト取られた癖によく言うよ。それに私は全然良くない」
そう言うといくさは愛の目をじっと見る。
「私がこの人と付き合ってるって何処で聞いたの?噂の出元は誰?」
「オレはおおよそ検討ついてるがな」
「何?先生心当たりあるの?」
「こいつら魔法少女だろ?そんでオレ等と関わりのある奴と言ったら・・・」
すると今度は遠くから正義を呼ぶ声。
「糾先生ぇ~!!」
「噂をすれば何とやらだ」
声のする方を見れば都留岐の姿。物々しく駆け寄ると息を切らしてその場に屈んだ。
「糾先生大変です、木村君が」
「木村?誰それ?」
正義は眉をひそめる。
「何言ってるんですか!?ラノベ主人公科の生徒ですよ」
「そんな奴いたっけか?」
正義がいくさの顔を窺うと、いくさは明後日の方角に視線を逃がす。
正義は指を折って数えた。
「高梨、岡本、高波、熊田、名古屋、朏・・・他にいないだろ?」
「朏さんの出席番号は何番ですか?」
「七・・・あ?お前ら七人いたのか!」
「木村君は入学してからずっと不登校ですから。私も見たのは入学式と前期末テストの二回だけです」
「何だそいつ、ヒーローになる気無いだろ」
「木村君は出席番号第二番です。高橋君に次ぐ実力者ですし、諦めるのは早いと思うんですけど」
「たぶんそれはあれだ、オトヒロのレベルの低さに絶望したんだろ」
いくさはいけ好かない顔で口をはさむ。
「先生達の勝手な憶測でキム兄の人格決めつけないで欲しいな。キム兄はそんないい加減な人間じゃないよ」
皆の視線がいくさに集まった。
「そういえば朏さん、木村君と同じ新聞配達の仕事してましたよね?何か知りませんか?」
都留岐の顔が目と鼻の先まで迫る。
“顔、近っ!”
相手を捕らえるような眼力にいくさは動作分析を思い出した。
ただでさえ嘘をつくのが苦手ないくさ。キム兄程ではないにせよ、元ヒーローの都留岐もそれなりの洞察眼を持ち合わせているに違いない。
いくさは悟られぬよう上体を反らして視線をかわす。
ふと、都留岐の鞄からはみ出るダックスの縫いぐるみが目に留まった。
「あ、可愛い・・・」
いくさがダックスに触れようとすると都留岐はさっと後ろに隠した。
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