御伽ヒロイック学院 ーラノベ主人公科ー

もみじ

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第三章 御伽ヒロイック学院

VS妖精

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 やはり生き物だった!今朝から感じていた異様な気配はこいつのものである。物音を立てたり椅子をずらして転ばせたのは間違いなくこの犬、そう思うと沸々ふつふつと怒りが込み上げる。

「お前かぁぁぁぁ!!朝から悪戯いたずらしてたのは!?」
「社に対する数々の無礼、ワタクシが黙って見過ごすと思いますの?あなたのような方にはしかるべきむくいが必要ですわ」
「報いだぁ!?ふざけんな!いくら何でもやり過ぎだろ。この手見ろ、鉛筆の芯が刺さって超痛いんですけど?」

 正義が手の平を突きつけると妖精は“クスッ”と笑う。

「あら?おつとめ中にお下品な画像を見るような不届き者には丁度いい罰です事よ」
「言わせておけば!」

 正義が捉えようとすると妖精は右へ左へと跳ね回る。鉛筆立ては倒れ、床に用紙が散らばった。素早い動きに翻弄ほんろうされる正義。左へ回り込まれた瞬間足を伸ばして進路を妨害するも、容易くかわされ机の隙間に姿を眩ます。逃がすまいとそこに手を入れるとまた痛みが走った。

「痛ってぇ!!」

 左手には噛まれた痕。一度ならず二度までも・・・ついに堪忍袋の緒が切れた。
 正義は怒りに任せて机を薙ぎ倒す。すると中から妖精が飛び出した。そのタイミングを狙って手を伸ばすも一歩届かずまた逃げられてしまう。棚、蛍光灯、正義の頭まで、ありとあらゆる物を踏み台にして逃げ回る妖精。頭を蹴られ正義はさらに怒り心頭する。

 “妖精風情がおちょくりやがって・・・目にもの見せてやる!”

 捕まえようとする手はいつしか叩くように変わり、次第に容赦が無くなっていく。正義が消しゴムを投げつけると妖精は鉛筆をバットにそれを打ち返した。
正義の額に消しゴムが当たる。後頭部が大きく後ろにのけ反った。

 “~~~!!!”

 もう謝らせるだけでは気が済まない。

 “今に見ていろクソ妖精、ネット画像のようにいじくり回して最上級の屈辱を味あわせてやる!”

 そう心に誓うと正義は窓を背に動きを止めた。妖精も出入り口付近で動きを止める。硬直する一人と一匹。お互い緊張したまま睨みあう。
 時計の針が刻々と進む。先に動いた方が負ける、そう思わせるような重たい空気。そこへ人の足音が・・・振り返る妖精。

 “ククククク・・・”と正義の口から不気味な笑いが零れた。

「やった、勝った!ワァッハッハッハ・・・お前はオレの術中にハマったのだ!!
 時計を見ろ!すでに四時を回っている。授業を終えた先生方が戻って来るころあいだ。お前等妖精は人前じゃ正体を隠すのがルールなんだよなぁ?縫いぐるみに戻って動けなくなったところを捉えてやる!
 逃げようとしても無駄だぞ。窓はオレが押さえているからその通用口からしか出られない訳だが、今飛びだしても目撃されるだけ。そしたらこの部屋の惨事を全部お前のせいにしてやる。つまり、お前は八方ふさがりになったのだ!何の考えもなしにオレがこの場所を陣取ったと思ったか?バカめ!」

 妖精は不快感を露わにする。

「あら?何をおっしゃるのかと思えば・・・あなたを倒して窓から外に出ればいいだけの事ですわ」
「やれるもんならやってみろ!」

 突進してくる妖精、正義はすかさず椅子を蹴飛ばす。妖精はそれを乗り越え飛びかかってきた。しかしそれこそ正義の思うつぼ。待ってましたと言わんばかりに近くにあったファイルで妖精を叩き落とした。どんなに動きが素早くても空中では動きが制限される。来ると分かっていれば今の正義でもカウンターを決めるのは容易い。
 妖精は倒れた机に腰を打ち付け向こう側に転げ落ちる。すると女性職員が悲鳴をあげた。
 その叫び声を聞きつけ後から島もやって来る。

「湯尾先生どうし・・・うわっ!?何じゃこりゃ!!!糾先生?一体何があったんだい???」

 島の質問に正義は冷静に答える。背広を正し、髪をセットし直した。

「いやぁね、島先生。突然珍獣が襲ってきましてね、丁度今倒したところなんですよ。見て下さいこの手、噛まれたんですよ?いやぁ~、手強い相手でした」

「珍獣?・・・」と半ば信じられないと言った様子の島。

 正義は手にハンカチを巻くとおもむろに机を退かした。妖精の尻尾が机の影からはみ出している。
 頭隠して尻隠さずとはこの事、慌てて机の下に潜ったのだろうが詰めが甘い。この部屋から逃げられない以上、遅かれ早かれ見つかってしまうというのにこういうのを無駄な悪足掻わるあがきというのだ。
 尻尾を掴み引き上げる。妖精はだらっとして動かない。まるで無機物、いや・・・縫いぐるみ。少し揺すると長く垂れた耳が左右に振れた。
 何と無様!人前では動く事さえ許されない哀れな生物。縫いぐるみではなく犬のフリならまだ誤魔化す余地はあっただろうに所詮はお子様御用達ごようたしの妖精、馬鹿の一つ覚えで縫いぐるみのフリとは芸が無い。どうやらおつむの方もお子様レベルらしい。

 正義は妖精を島に見せた。

「こいつですよこいつ、この部屋を荒らした犯人は」

 島はまだ疑いの目を向けている。

「・・・それ、都留岐先生の私物だよねぇ?僕にはただの人形に見えるけど?」
「まぁ見てて下さいよ」

 そう言うと正義は左拳を目一杯めいいっぱい握りしめた。
 尻尾はいびつに変形し、あらぬ方向へ捻じ曲がる。

 “さぁ、痛みに耐えきれず今に叫びだすぞ。その化けの皮剥いでやる!”

 ・・・

 静かな時が流れる。

 “!?・・・何故だ、何故叫ばない?痛くないのか??そんな訳がない。これだけ強く握りしめているのだ。尻尾の骨なんてぐしゃぐしゃだ”

 尻尾の感触の無さたるや、まるで本当の縫いぐるみのような柔らかさに正義は一抹の不安を覚える。
 “いや、ハッタリだ。あまりに生物からかけ離れた触感で一瞬焦ったが、妖精を地球生物の物差しで測るのは間違い。危ない危ない・・・危うく騙されるところだった”

 正義は右手を大袈裟にかざした。悪魔の手が妖精に迫る。

 “クフフフㇷ・・・この状態でなおもその犬面を保っていられるか?この指でちょいと突けばお前も晴れて嫌われ仲間、都留岐に避けられるような生活はさぞかし辛かろう・・・さぁ化けの皮が剥がれるぞ、今に泣いて謝るぞ。そのスカした態度、ギタギタにしてやらないと気が収まらん!”

 正義の右人差し指が一センチ、五ミリ、一ミリと近づいて行く。
 島達は正義の奇行に戸惑いつつもそれを注視した。

 〇. 五ミリ・・・〇.一ミリ・・・正義の指が震える・・・

 “なにぃぃぃ!!!何故だ?何故微動だにしない!?能力汚染に侵されても良いのか?意地を張ってこの先の人生・・・いや、犬生けんせいを棒に振るというのか?侮っていた、まさか子供に媚びへつらうような生物にここまでの覚悟があったとは・・・良いだろう、触ってやる。お前にもオレと同じ苦しみを味あわせてやる!!”

 緊張で息が乱れ、呼吸が小刻みに途切れる。額からは冷たい汗が流れた。

 “触ってやる、触ってやるぞぉぉぉ~!!!”

 指が妖精の頬にぐにゅりとめり込んだ。

 “触ったぁっ!”

 痺れを切らした島は正義の手から妖精を奪い取る。
 「あっ!・・・」と情けない声を出す正義。
 島は妖精を手荒に扱う。逆さにしたり右前脚を引っ張ったり色々探りを入れると再びそれを正義に返した。

「うん、ただの縫いぐるみだね」

 呆気にとられたまま正義は縫いぐるみを受け取る。

「縫い・・・いや、そんな事より島先生、オレの能力汚染が」
「能力汚染?あぁ、あの右手に触れると移るっていうあれ・・・何とも無いみたいだけど?」

 島は軽く体を動かすと何食わぬ顔でそう答えた。

「そんなバカな、ありえませんよ。ちゃんと確認して下さい」
「僕が変わりないって言ってるんだから変わりないよ」

 “ありえない、妖精の右前脚に触れて何とも無い筈が・・・まさか!?知らぬ間に妖精と本物の縫いぐるみが入れ替わっていたぁ~!!!”

 正義の視界から消えた一瞬、机の影で妖精は身代わりの縫いぐるみと入れ代わっていたのである。妖精は縫いぐるみのフリをすると言う心理を突いたトリック、妖精に馴染のない人間が一目でそれを見破るのは難しい。素人が気づかないのも当然である。

 “だが、ならば妖精はまだこの部屋にいる!”

 正義は妖精を探し始めた。

「それは偽物。確かにいるんです、まだこの部屋に!」

 机の隙間、ゴミ箱、ありとあらゆるところをあさるも妖精の姿はどこにも見当たらない。

「いない、いない、いない・・・何処にもいなぁぁぁい!!!」

 もし、窓から出ようとすれば島達が気づくし、通用口から出ようとすれば正義が気づく。奴がまだこの部屋にいる確信はあった。だがその確信のせいでさっきは墓穴を掘ってしまった。本当に出ていかなかったか?常に通用口に注意していたか?島達だって縫いぐるみに気を取られて窓など見ていなかったかもしれない。そんな疑念が正義を追いつめる。

「ハメられた!」

 苦し紛れにそんな言葉を吐き捨てる。島達の冷たい視線が正義の背中に突き刺さった。

「まぁ、むしゃくしゃして物にあたった・・・なんて思ってないけどとりあえずかたそっか、この部屋」
「片付ける?皆で??」

 島は仏のような顔で正義のネクタイを引っ張った。

「君が・・・一人で」
「本当なんです、信じて下さぁ~い!オレじゃないんですぅぅぅ~!!」

 正義は泣いた。




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