御伽ヒロイック学院 ーラノベ主人公科ー

もみじ

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第四章 素晴らしき野宿生活

ゴミをあさるなんて邪道

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 人狼、それは北欧神話に端を発する。
 その昔、軍神オーディンは来たるべき日にそなえ最初の人狼を生み出した。人の中でも特に優れた戦士を素材に創られる生物兵器。戦うためのコマ。
 彼等は“狂戦士”“ベルセルク”、“バーサーカー”等と呼ばれ、一度戦場におもむけば多くの兵士が恐怖した。
 見張るべきはその強さ。まず彼等は鎧を必要としない、なぜなら鍛えあげられた肉体がその役割を果たすからである。それは他のどんな鎧よりも優れた筋肉の鎧、斬ろうが叩こうが人の力で傷つけられるような代物ではない、故に鎧を纏う必要が無かった。代わりに粗末な獣の皮を被っていたとされている。
 発達した八重歯、百頭の馬で左右から引いても引き負けない腕力。加えて獣並みの嗅覚、まさに究極の戦士。
 しかし欠点もあり、動く物になら何にでも襲いかかったと言う伝承が残されるほど獰猛どうもうで当のオーディンですら手に余る始末。
 シグムント、シンフィヨトリ等署名な英雄がいる反面、ルーガルー、ワーウルフ、ライカンスロープなど人々を襲う化物としての一面も持つ。
 後者は魔女の呪法で化物に変えられた人間というのが通説で噛まれた人間もまた人狼になる事から前者とは全く別物の可能性が高い。しかし今となっては人狼と言ったら圧倒的に後者を指した。





 “さぁぶっ!!”

 このままでは凍え死ぬ。真夜中、いくさは目を見開いて布団代わりの新聞紙を退かした。段ボールハウスのおかげで雨風は凌げても強烈な寒さはそれを糸も容易く貫いてくる、壁に接しているだけで体温が奪われる。正義がお湯の入ったペットボトルで中を温めてもぬくいのは初めだけで時間が経ち湯が冷えてしまっては何の意味もなさない。ホームレスの知恵と豪語しても所詮はギリギリ凍死を間逃れられるための工夫、快適性など無いに等しい、これなら新聞屋のボロアパートの方がまだマシである。
 気がついたら正義に身を寄せてしまっている自分が恥ずかしい。どうしてこんな当たり前のように男と寝ているのか?レゥさえ解放されればこんな所にとどまる理由は無い、カラオケ屋、寝カフェ、寝泊まり出来る所などいくらでもあるのだ。
 いくさは正義に気づかれぬよう乱雑に置かれた荷物をあさった。携帯の小さな光を頼りに鍵を探す。大切な物と言うのは自分の傍に置きたくなるのが心理、かと言って身に着けていたら寝づらい。普段滅多に使わないがいざと言う時すぐに取り出せて尚且なおかつ邪魔にならない所、いくさならそう言った物は鞄の中にしまう。
 彼女が鞄のポケットを探っているとやはりそれはあった、だがレゥの枷の鍵である確証はない。ダメで元々、そっと抜き取り外へ出る・・・といくさは信じられない光景を目の当たりにする。

 レゥは公園のゴミ箱に頭を突っ込みむさぼるように生ゴミをあさっていた。
 自分達の置かれた立場を決して理解していない訳ではない。傍からすれば正義と同類に見えるだろう、だがそれでも彼等とは違う、違うと言い張れる。ただ今は一時的に住居を失っているだけ、ちょっと訳ありで普通の人に助けを求められないだけなのだ。金はある、仕事だって探せばすぐ見つかる、立ち直る気は十分にある。尊厳、品格、気高さの有無、それこそが自分と彼等との決定的な差なのである。なのに・・・

 その意地汚さにいくさは顔から火が出る思いで揺れる尾を引っ張った。

 思いがけない痛みにレゥは慌てふためきゴミ袋をくわえたまま体を起こす。

「この馬鹿!!」

 大きな罵声に目を覚ます正義。何事かと外を見てみればいくさがレゥの胸元を掴んでまるで狂った振り子のように激しく揺さぶっていた。腕を縛られているレゥは抵抗出来ない、されるがまま前後に振られている。

「吐け!今すぐ吐け!!今まで喰ったもん全部吐き出せ!!!」

 やんごとなき状況に正義は突かれたたように外へと飛び出しいくさを押さえつけた。

「落ちつけ朏!一体どうした、何があった?」

 いくさは今にも泣き出さんばかりの声で言う。

「レゥが・・・食べ物欲しさにゴミに手を出したんだ。身も心もホームレスになったらもうお終いだよ」

 正義がレゥの方を見るとレゥはぐずるいくさを睨んだまま答える。

「腹減ったんだ、食わなきゃ生きていけねぇ」
「さっき弁当あげただろ!?どれだけ食べれば気が済むんだ!!」
「あれっぽっちじゃ全っ然、足んねぇんだよ!」
「いい加減にしろ!・・・なぁ朏、怪人ってのは強靭な肉体を維持するために結構カロリーを消費するんだ。特にこいつの場合、体温上げないと寒さに耐えられないからその分余計に食うんだろ」

 息を荒立てる二人、しばし睨みあうと根負けしたいくさが手を放す。するとその拍子で鍵が下に落ちた。全員の視線がそこに向く。どうしてこんな所に枷の鍵があるのか?この状況ではいくさが凶暴な怪物を解き放とうとして盗ったとしか考えられない。たった二、三秒の沈黙に堪えかね、いくさは逃げるように段ボールハウスへと駆け込んだ。
 空腹からくるイライラ、環境の変化によるストレス、その他諸々の意地が複雑に絡み合って彼女達の関係は今までにないくらい悪化している。
 居場所を失ってナーバスになる気持ちは分かる。最底辺に落ちて二日目、ホームレスとしてはまだまだ未熟、不安でしょうがない時期だろう。正義にも経験がある。寒くて、ひだるくて、いやしい姿を人に見られるのが堪らなく嫌で、そんな時助けてくれたのが同じホームレスだった。
 名も知らぬ彼の事を正義は“ヤッさん”と呼んだ。
 ヤッさん曰く「人と言うのは身近なものほど愛おしいと感じてしまう」らしい。他種族より同種族、他国民より同国民、隣人よりも家族という具合にだ。ヤッさんと正義はただ同じ境遇という間柄でしかない、だが社会から排斥はいせきされた者にとってこれほど近しい存在はいないのだ。

 今ならヤッさんの気持ちが分かる、今なら敵であるレゥにすら同情できてしまう。

「ところでレゥ、ゴミ漁って何か美味いもんは見つかったか?」

 レゥは名前で呼ばれた事に驚く。

「何も・・・なかった」
「だろうな、今時ゴミ漁っても食い物なんて出てきやしねーよ。人の食いかけなんて期待するな」

 正義はレゥの漁っていたゴミ箱から空き缶を一つ拾う。

「身近なものほど見落としやすい物はない。例えばこの缶、もう一滴も残ってないが実はこれが金になる。こういうのを資源ゴミって言ってな、集めると業者が買い取ってくれるんだ。もっとも1キロで100円が良いとこ、集めるのも一苦労だ。空き缶、漫画雑誌、カード、フィギュア、一つ一つは無価値でも集めれば価値あるものになる。漁るならそういったものを漁れ」

 レゥは難しい顔で首を傾げた。

「いや、すまん。お前に金の話をしても仕方なかったな・・・これからちょっとオレに付き合わないか?腹減ってるんだろ、何か食わせてやる」
「ほんとか!?」

 目を輝かせるレゥ。感情剥き出しの尻尾からは喜びがひしひしと伝わる。



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