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ハイスぺ男子の秘密とは
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「えっと、ごめんなさい。今、なんて言いました?」
「俺を君のおもちゃにしてくれと言ったんだ」
右手に舌を型どったおもちゃ、左手にローター。璃湖のお気に入りたちを持った福永が真面目な顔でそう言った。
「それってどういう⋯⋯。ていうか福永さん、引いてましたよね」
「いや、俺はこのおもちゃたちを羨ましいと思っていたんだ。だから、俺がこれの代わりになる。俺を君のおもちゃにしてくれ」
ナチュラルにローターの匂いを嗅ぐのをやめてほしい。使用後は必ず洗って消毒もしているというのに、そんなに香りが残っているのだろうか。
「お願いだ。細井さんだけが俺の希望なんだ。こんなに興奮するのは、人生で初めてだから」
福永がスラックスの上から股間を押さえる。どうやら勃起しているらしい。やはり福永は璃湖が性的興奮しているときの匂いに反応しているようだ。外れてほしかった予想が当たってしまい複雑な心境になる。
それにしても、そんないかがわしい匂いをオフィスで撒き散らしていたなんて、穴があったら入りたいほど恥ずかしい。
それに気づいたのは恐らく福永だけだが、もしかして彼は超人的嗅覚の持ち主なのだろうか。
「あの⋯⋯言いたくなければもちろん言わなくて構わないのですが、そもそもEDになった原因に心当たりはあるんですか?」
それが分からなければ、解決の糸口を見つけるのは難しいだろう。璃湖の質問に、福永は頷いた。
「ちゃんと分かってる。俺、中学の時から付き合ってる彼女がいたんだ。一緒に下校したり、当時は公園で遊んだり健全な男女交際をしてたんだけど。高校生になったら⋯⋯なんとなくその先に進まなきゃいけないような雰囲気になって。俺も興味がなかった訳じゃないし、事に及ぶことになったんだけど」
言葉を切った福永が口元を押さえる。みるみるうちに顔が真っ青になっていくのを見て、璃湖は慌てふためいた。
「だ、大丈夫ですか? すみません、嫌なことを思い出させてしまって。無理して話さなくて大丈夫ですから」
「ごめん、平気。ちょっと思い出したら気分が⋯⋯。ちょっと待って、今落ち着くから」
おもちゃを手に持って、福永はすうっと大きく息を吸い込んだ。異様な光景に引いてしまうが、顔色が良くなっていくのを見て目を丸くする。
「ふう、落ち着いた。それで、いざ彼女のあそこを触ろうとして顔を近づけたら⋯⋯吐いたんだ」
「吐いたって。もしかして、匂いがダメで?」
決してローターを鼻先から離さずに、福永はコクリと頷いた。なるほど、彼の行動はそのときのことを思い出さないための自衛のようだ。非常に複雑な心境だが、仕方がないと無理やり自分を納得させる。
デリケートゾーンの匂いは千差万別で、ホルモンの周期によっても変わると聞いたことがある。その関係なのか、よほど強烈な匂いの持ち主だったのか。
「それで気まずくなって別れたんだけど。その子、すぐに新しい恋人を作ってさ、そいつとは問題なくセックスできたんだって」
それをわざわざ福永に教えにきたのだという。あなたがおかしいのだと、わざわざ侮辱の言葉を添えて。ショックだったのは分かるが、なかなか気性の荒い女性だったようだ。
だが、そのときの福永は別に彼女の言葉に傷ついたりしなかった。彼女とはたまたま相性が悪かっただけ。そう思っていたのだが……。
「そのあとにできた彼女も、全員ダメだったんだ。男性経験がある子もいたけど、他の男とはそんなことにならなかったって。それならあの子の言う通り、俺がおかしいって気づいた。そうしたら、エロいこと考えるとあの匂いを思い出すようになって、勃たなくなった」
福永にそんなトラウマを植えつけてしまった匂いとは、果たしてどんなものだったのだろう。やはり福永は、超人的な嗅覚の持ち主なのだろうか。
だが、本人は特にそう感じたことはなく、日常生活で特に支障をきたすこともないという。
「だからびっくりしたんだ。きっと細井さんなら大丈夫。これは俺にとって最後のチャンスなんだ。だから、頼む、お願いだ。俺を君のおもちゃにしてくれ」
再び土下座する福永の後頭部を、困った顔で見つめる。十二年も反応しなかったものが勃ったのだから、それに縋りつきたくなるのは当然だ。だが⋯⋯。
「福永さんの治療に協力したい気持ちはあります。でもおもちゃにするというのは⋯⋯」
「俺じゃ、細井さんを満足させられないってこと?」
「いや、そういうことではなくてですね。福永さん⋯⋯?」
彼が見たこともないような冷たい目で床に転がっているバイブを見ていることに気がついて、ゾクリとしたものが背筋に走る。
だが、璃湖の呼びかけに顔をあげた彼はいつもの福永だった。
「⋯⋯そうだよね。こんなことOKできないよね」
悲しさを隠すように笑みを浮かべた福永の言葉に胸がズキリと痛む。彼を助けたいなら、その提案を飲むべきだったのだろうか。
いや、無理だ。彼をおもちゃの代わりにするなどできるはずがない。
「性能が分かってないんだもん。まずは、おもちゃ以上ってところを見せないといけないよね」
「へ?」
にっこりと笑った福永を、璃湖はぽかんとした顔で見つめる。彼は一体、なにを言っているのだろう。
「細井さん、明日はなにか用事があるかな?」
「いえ、特にないですが⋯⋯」
質問の意図を理解しないまま答えると福永はおもちゃを袋にしまい、なぜかそれを手に持って立ち上がった。
「じゃあ、明日の午後一時にここにくるね。俺もいろいろと準備があるから」
「え? ちょっと待ってください。それどうするんですか?」
「ああ、これはお借りするよ。教材にするからね。変なことには使わないから安心して」
にっこりと笑った福永がなんでもないことのようにそう言って袋を鞄にしまい立ち上がった。呆気に取られていたが、彼が玄関に向かうのに気づいて慌ててその背中を追いかける。
「じゃあ、お邪魔しました。今日は疲れているところありがとう。また、明日、よろしくお願いします。ゆっくり休んで、おやすみ」
上手く言いたいことが整理できないでいるうちに、福永はさっさと部屋を出て行ってしまう。閉じた扉をしばらく見つめていた璃湖が、その場にヘナヘナと座り込む。
一体、なにが起こったのか。福永は本気で璃湖のおもちゃになるつもりなのだろうか。それはつまり、あんなことやこんなことを福永にされるという訳で⋯⋯。
想像するだけで全身に火が点いたように熱くなる。
明日、どんな顔で福永を迎えればいいのか。途方に暮れながら、璃湖はしばらくその場所を動くことができなかった。
「俺を君のおもちゃにしてくれと言ったんだ」
右手に舌を型どったおもちゃ、左手にローター。璃湖のお気に入りたちを持った福永が真面目な顔でそう言った。
「それってどういう⋯⋯。ていうか福永さん、引いてましたよね」
「いや、俺はこのおもちゃたちを羨ましいと思っていたんだ。だから、俺がこれの代わりになる。俺を君のおもちゃにしてくれ」
ナチュラルにローターの匂いを嗅ぐのをやめてほしい。使用後は必ず洗って消毒もしているというのに、そんなに香りが残っているのだろうか。
「お願いだ。細井さんだけが俺の希望なんだ。こんなに興奮するのは、人生で初めてだから」
福永がスラックスの上から股間を押さえる。どうやら勃起しているらしい。やはり福永は璃湖が性的興奮しているときの匂いに反応しているようだ。外れてほしかった予想が当たってしまい複雑な心境になる。
それにしても、そんないかがわしい匂いをオフィスで撒き散らしていたなんて、穴があったら入りたいほど恥ずかしい。
それに気づいたのは恐らく福永だけだが、もしかして彼は超人的嗅覚の持ち主なのだろうか。
「あの⋯⋯言いたくなければもちろん言わなくて構わないのですが、そもそもEDになった原因に心当たりはあるんですか?」
それが分からなければ、解決の糸口を見つけるのは難しいだろう。璃湖の質問に、福永は頷いた。
「ちゃんと分かってる。俺、中学の時から付き合ってる彼女がいたんだ。一緒に下校したり、当時は公園で遊んだり健全な男女交際をしてたんだけど。高校生になったら⋯⋯なんとなくその先に進まなきゃいけないような雰囲気になって。俺も興味がなかった訳じゃないし、事に及ぶことになったんだけど」
言葉を切った福永が口元を押さえる。みるみるうちに顔が真っ青になっていくのを見て、璃湖は慌てふためいた。
「だ、大丈夫ですか? すみません、嫌なことを思い出させてしまって。無理して話さなくて大丈夫ですから」
「ごめん、平気。ちょっと思い出したら気分が⋯⋯。ちょっと待って、今落ち着くから」
おもちゃを手に持って、福永はすうっと大きく息を吸い込んだ。異様な光景に引いてしまうが、顔色が良くなっていくのを見て目を丸くする。
「ふう、落ち着いた。それで、いざ彼女のあそこを触ろうとして顔を近づけたら⋯⋯吐いたんだ」
「吐いたって。もしかして、匂いがダメで?」
決してローターを鼻先から離さずに、福永はコクリと頷いた。なるほど、彼の行動はそのときのことを思い出さないための自衛のようだ。非常に複雑な心境だが、仕方がないと無理やり自分を納得させる。
デリケートゾーンの匂いは千差万別で、ホルモンの周期によっても変わると聞いたことがある。その関係なのか、よほど強烈な匂いの持ち主だったのか。
「それで気まずくなって別れたんだけど。その子、すぐに新しい恋人を作ってさ、そいつとは問題なくセックスできたんだって」
それをわざわざ福永に教えにきたのだという。あなたがおかしいのだと、わざわざ侮辱の言葉を添えて。ショックだったのは分かるが、なかなか気性の荒い女性だったようだ。
だが、そのときの福永は別に彼女の言葉に傷ついたりしなかった。彼女とはたまたま相性が悪かっただけ。そう思っていたのだが……。
「そのあとにできた彼女も、全員ダメだったんだ。男性経験がある子もいたけど、他の男とはそんなことにならなかったって。それならあの子の言う通り、俺がおかしいって気づいた。そうしたら、エロいこと考えるとあの匂いを思い出すようになって、勃たなくなった」
福永にそんなトラウマを植えつけてしまった匂いとは、果たしてどんなものだったのだろう。やはり福永は、超人的な嗅覚の持ち主なのだろうか。
だが、本人は特にそう感じたことはなく、日常生活で特に支障をきたすこともないという。
「だからびっくりしたんだ。きっと細井さんなら大丈夫。これは俺にとって最後のチャンスなんだ。だから、頼む、お願いだ。俺を君のおもちゃにしてくれ」
再び土下座する福永の後頭部を、困った顔で見つめる。十二年も反応しなかったものが勃ったのだから、それに縋りつきたくなるのは当然だ。だが⋯⋯。
「福永さんの治療に協力したい気持ちはあります。でもおもちゃにするというのは⋯⋯」
「俺じゃ、細井さんを満足させられないってこと?」
「いや、そういうことではなくてですね。福永さん⋯⋯?」
彼が見たこともないような冷たい目で床に転がっているバイブを見ていることに気がついて、ゾクリとしたものが背筋に走る。
だが、璃湖の呼びかけに顔をあげた彼はいつもの福永だった。
「⋯⋯そうだよね。こんなことOKできないよね」
悲しさを隠すように笑みを浮かべた福永の言葉に胸がズキリと痛む。彼を助けたいなら、その提案を飲むべきだったのだろうか。
いや、無理だ。彼をおもちゃの代わりにするなどできるはずがない。
「性能が分かってないんだもん。まずは、おもちゃ以上ってところを見せないといけないよね」
「へ?」
にっこりと笑った福永を、璃湖はぽかんとした顔で見つめる。彼は一体、なにを言っているのだろう。
「細井さん、明日はなにか用事があるかな?」
「いえ、特にないですが⋯⋯」
質問の意図を理解しないまま答えると福永はおもちゃを袋にしまい、なぜかそれを手に持って立ち上がった。
「じゃあ、明日の午後一時にここにくるね。俺もいろいろと準備があるから」
「え? ちょっと待ってください。それどうするんですか?」
「ああ、これはお借りするよ。教材にするからね。変なことには使わないから安心して」
にっこりと笑った福永がなんでもないことのようにそう言って袋を鞄にしまい立ち上がった。呆気に取られていたが、彼が玄関に向かうのに気づいて慌ててその背中を追いかける。
「じゃあ、お邪魔しました。今日は疲れているところありがとう。また、明日、よろしくお願いします。ゆっくり休んで、おやすみ」
上手く言いたいことが整理できないでいるうちに、福永はさっさと部屋を出て行ってしまう。閉じた扉をしばらく見つめていた璃湖が、その場にヘナヘナと座り込む。
一体、なにが起こったのか。福永は本気で璃湖のおもちゃになるつもりなのだろうか。それはつまり、あんなことやこんなことを福永にされるという訳で⋯⋯。
想像するだけで全身に火が点いたように熱くなる。
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