ハイスぺ男子は私のおもちゃ ~聖人君子な彼の秘めた執着愛~

幸村真桜

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果たしてこれはwin-winなのか

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 次の日、璃湖はそわそわと落ち着かない気持ちで部屋をぐるぐると歩き回っていた。朝から何度も時計を見ているが、ちっとも進まない。

 服装はこれで大丈夫だろうか。あまりラフでも失礼かと思い、綺麗目のシャツワンピースにしたのだがおかしくないだろうか。

 デートでもないのだからそんなことを気にする必要はないのだと気づき、意味もなく手で髪をとく。

 ああ、あんな所にほこりが落ちている。念入りに掃除したはずなのにどこから出てきたのか。それを片付けながら、小さくため息をつく。朝からずっとこんな調子だ。 

 ようやく時計の針が約束の午後一時を指したところで、緊張がピークに達した。それと同時にインターフォンの音が部屋に鳴り響き、璃湖は大きく肩を震わせた。

「ほ、本当に来た」

 口から心臓が飛び出してしまうほどドキドキしているが、あまり待たせてもいけないと玄関に向かう。

 ドアを開けると、璃湖の顔を見た福永が柔らかい笑みを浮かべた。いつもと違う雰囲気の私服姿の福永を見て目を丸くする。

「おはよう、細井さん。よく眠れたかな?」

「お、おはようございます。ええ、はい。おかげ様で⋯⋯。ど、どうぞ中へ」

 いつも分けている前髪を下ろしているだけなのに、こんなに印象が変わるのか。いつもより幼く見えるのがなんだかツボにはまってしまい、ドギマギしてしまう。


「ありがとう。お邪魔するね。あ、これ、俺の好きな洋菓子店のケーキと焼菓子」

「わあ、こんなにたくさん。嬉しいです! せっかくなので、一緒に食べませんか?」

 そのつもりだったと笑う福永に、少しだけ緊張がとけた。

 昨日と同じ位置に座る福永を盗み見しながら、璃湖はコーヒーの準備をする。

 それから福永が差し入れてくれたケーキとクッキーを皿に載せてコーヒーと一緒にテーブルに置く。

「どうぞ。コーヒー、ブラック派でしたよね。お口に合うか分かりませんが」

「ありがとう。いい香り、ケーキとよく合いそうだね」

 爽やかに微笑む福永に胸が撃ち抜かれる。そういえば、昔から漫画やゲームでもサラサラ黒髪ヘアの男性キャラが好きだった。

 それを見目麗しい福永がしたらそれはもう、好みドンピシャすぎる。

 だが、自分のような地味な女を福永が相手にするはずはないのだ。落ち着けといい聞かせ、マグカップを口に運ぶ。

 福永のお気に入りだという洋菓子店のケーキは、とても美味しかった。中でも特にチーズケーキがおすすめだという。

 それを璃湖がいただいたのだが、今まで食べたチーズケーキの中で一番美味しい。感動を覚えたほどである。

 福永が二番目にお気に入りだという、ショートケーキも一口もらい、これにも感動する。すぐに溶けてなくなってしまうほどのスポンジが唯一無二である。

 クリームも甘すぎず、これは何個でも食べてしまえそうだ。季節のタルトも絶品だと聞かされ、後で食すのが楽しみになる。

 あっという間に食べ終えて、幸せな気持ちでコーヒーを飲む。なんて優雅なティータイムなのだろう。

「それで、俺を細井さんのおもちゃにしてほしいっていう話なんだけど」

 突然、そう言った福永に璃湖はコーヒーを盛大に吹き出した。ゲホゲホとむせる璃湖に福永が近づき、背中を撫でる。

「大丈夫? ああ、服にシミが⋯⋯。脱いだ方がいいね。どうせその予定だったし」

「えっ、ちょ、ちょっと、福永さん!?」

 ブラウスのボタンを外し始める福永を璃湖は焦って押し止める。

 まだ到着して三十分も経っていない。いや、そういう問題ではないだろう。

「こ、こういうのはよくないと思うんです」

「でも、試してみないと分からないよね」

「試すって……」

 戸惑う璃湖を見て、福永がすっと目を細めた。突然変わった空気にビクリと身を震わせる。

「細井さん、このままおもちゃしか知らなくて本当にいいの?」

「え?」

「だっておもちゃは所詮機械だよ? お気に入りの舌のおもちゃだって、なんのぬくもりも感じないでしょう? 本来、セックスは愛し合う者同士が行うものなんだから、人間の熱とか、濡れた粘膜とか……そういうの一生体験できなくていいの?」

 妖艶な笑みを浮かべる福永に迫られて、璃湖はゴクリと唾を飲み込んだ。童貞のくせに、なんなんだこの色気は。

 確かにあの子たちに熱はない。やはり人と機械では違うのだろうか。正直とても興味はある。

 だが、だからといって福永をおもちゃに、というのは倫理的にまずいであろう。欲求と理性の狭間で揺れ動く璃湖に、福永が畳みかけてくる。

「それに、自分だけでは見つけられない新たな性感帯を見つけられるかもよ。怖がってた中イキも絶対に経験させてあげる」

 甘さの滲んだ声が脳に響く。それを想像したらゾクゾクとしたものが背筋に走り、下腹部がきゅんと疼いた。秘奥から蜜がトロリと溢れ、ショーツを濡らす。

「ふふ、エッチな匂いがしてる。俺にされているところ、想像した?」

 図星を突かれて璃湖はかあっと赤くなった。快楽に従順すぎる己の身体が憎い。そしてそれを嗅ぎつける福永の嗅覚が怖い。

「だ、だってそんな……」

「はあ……細井さんの匂いにあてられて勃ってる。でも、細井さんの気持ちも分かるんだよ。好きでもない男にこんなこと言われても引くよね」

「そ、そんなことはないです。協力したいって気持ちはあるんですよ。でも、おもちゃになる云々はどうかと」

「そうだよね。俺に触られるのなんて嫌だよね」

 悲しげな表情を浮かべて福永はシュンとうなだれてしまった。いつも朗らかな彼の初めて見る姿に璃湖は慌ててしまう。

「ち、違うんです。福永さんのことはもちろん、会社の先輩として尊敬しています。触られるのが嫌という訳じゃないんです。そうじゃなくて……」

「じゃあ、試してもいいよね」

「えっ」

 突然押し倒されて、璃湖は戸惑いの声をあげた。覆いかぶさるような体勢で璃湖を見下ろす福永にドキリとする。

 これはまずいと思うが、身体が石のように固まってしまい動くことができない。そうしているうちに、福永の右手が璃湖の左胸に触れた。

「……っ!」

「嫌?」

 不安げな福永に聞かれて、首を横に振ってからハッとする。なにを受け入れようとしているのか。どうも福永のこの悲しげな表情に弱い。これが母性本能というものなのだろうか。

「よかった。嫌じゃないなら、試すだけでもダメかな。お願い、それで無理なら諦めるから」

 捨てられた子犬のような顔をしないでほしい。福永の未来のために、ここは文字通りひと肌脱ぐべきだろうか。

 それに、心の奥にある好奇心を抑えきれない。機械と生身の男に違いはどのくらいあるのだろうか。

 福永の言っていた人のぬくもりや濡れた粘膜はどんな快楽を与えてくれるのだろう。そんな欲求に負けて、璃湖は小さく頷いた。

「わ、分かりました。でも、本当に少しだけですよ」

 口にしてから少しとはどのくらいだろうと考える。直接はいくらなんでもまずいだろう。

 でも、それではおもちゃとの違いを確かめられない。どうすればいいのかと迷っていると、返事を聞いた福永がガバリと璃湖のことを抱きしめた。
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