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果たしてこれはwin-winなのか
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しおりを挟むなんだか食欲をそそるいい香りがする。それに反応してぐうっとお腹が鳴った。空腹感と共に目を覚ました璃湖は、お腹を擦りながら起き上がった。
「あ、起きた?」
ノートパソコンに向かって作業していた福永が璃湖に向けて柔らかい笑みを浮かべる。そこで先ほどまでのあれこれを思い出し、全身に火が点いたように熱くなった。
「ごめん、張り切りすぎちゃった。身体、大丈夫?」
「だ、大丈夫です」
どうやらイキすぎて失神してしまったらしい。一生の不覚である。璃湖に向かって優しい笑みを浮かべている福永は、璃湖も知っているいつもの彼だ。
なんだか夢を見ていたみたいだ。しかし、散々啼かされて睡眠までとったせいか、心も身体もとてもスッキリしている。とても素晴らしい体験だったが、知りたくなかったような気もする。
「あ、服は目隠ししたまま直したから安心してね。下は……履ける状態じゃなかったからそのままでごめん」
そういえば服を乱したままだったと自分の身体を見下ろすと、しっかりとワンピースのボタンが閉じている。そして丁寧に畳まれているショーツを見つけ、真っ赤になった。
「うぅ、お、お手数おかけして申し訳ありません」
それを背に隠しながら、謝罪の言葉を口にする。愛液で湿ったLLサイズの下着を福永に畳まれたなんて恥ずかしくてたまららない。
羞恥でモジモジしている璃湖に、福永は微笑んだ。部屋の中に風が吹いたかと錯覚するほど爽やかである。先ほどまで璃湖を執拗に嬲っていた人と同一人物とは思えない。
「あの……とても美味しそうな香りがするんですけど、なんの匂いですか?」
「ああ、夕飯に近くのトルコ料理屋でいろいろテイクアウトしてきたんだ。あとで一緒に食べようね」
気になっていたことを聞くと、福永はそう答えた。璃湖が眠っている間に買ってきたらしい。気になっていたが、ひとりで行く勇気がなかったお店なのでとても嬉しい。なんだか至れり尽くせりで申し訳なくなってしまう。
それにしても、すごかった。“連続イキ”というものを経験したのは初めてである。すごく良かった。
こんなことを知ってしまったらもうひとりですることに戻れなくなってしまうではないか。
そういえば、福永が持っていったおもちゃたちはどうしたのだろう。その疑問を口にすると、ピタリと動きを止めた福永が璃湖を見てにっこりと笑った。
「あれはもう必要がないと思うから、俺が預かっておくよ」
「え! 困ります!」
ひとりでエッチなことをするというのは最早、璃湖の生きがいなのだ。あの子たちがいないと困ってしまう。
なんとしても返してもらわなければと口を開こうとしたが、福永の顔を見てピシリと固まった。先ほどと同じように笑っているのに、目が笑っていないことに気がついたからだ。
「どうして? 俺がいるのに、あれが必要? あんなにイキまくってたのに、まさかまだ機械がいいなんて言うの? 俺の方がいいって泣いてすがってきたの、もう忘れちゃった? それとも、まだ足りなかったのかな」
笑みを浮かべたままパタリとパソコンを閉じた福永に身の危険を覚え、慌てて首を横に振る。
「め、滅相もございません! あの、すごく、すごく良かったです!」
だから、こちらににじり寄るのをやめて欲しい。そんな璃湖の願いが通じたのか、福永は姿勢を元に戻して再びパソコンを開いた。
「それなら良かった。じゃあ、あれは必要ないよね」
さすがにこれ以上の口答えはできず、璃湖は渋々うなずいた。
いつも優しい福永にこんな強引な一面があるなんて意外だが、ちょっとドキドキしている自分がいる。これがギャップ萌えというヤツなのだろうか。
「休日なのに、お仕事ですか?」
「いや、違うよ。細井さんの感じるところをまとめてるんだ。どこもかしこも敏感で、おもちゃとしてとてもやりがいを感じるよ」
パソコンをいじっている福永から返ってきた予想外の答えに璃湖は頬を引きつらせた。彼の勤勉なところは尊敬しているが、それを発揮する場面が間違っている気がする。
一体、どんなことが書いてあるのか。とても気になるが内容を確かめる勇気はない。
「それから契約書も作っておいた方がいいと思うんだ。細井さんからの条件は、なにかあるかな?」
「条件ですか……」
なにかあるだろうかと考えるが、具体的には思いつかない。結局、璃湖が出したのは『痛いことはしない』だけだ。
福永からはおもちゃは使わない、購入もしない。ひとりでエッチをしない。契約期間中は恋人は作らないということをお願いされ、そんなに難しくない条件だったので璃湖はそれを了承した。
そして頻度は二日に一度。最初は毎日と言われたが、そんなに来てもらうのは申し訳ないと断った。だが、毎日していた璃湖が週一、二回では満足できないだろうと言われ、その結論に落ち着いた。その通りすぎるので、まったく反論もできない。
「それから、俺が来る日は食事を一緒に食べてほしい」
意外な提案だったが、断る理由もない。なんの迷いもなくうなずくと、福永がほっとしたように笑った。ひとりで食べるより、誰かと食べた方が美味しく感じることもある。福永が璃湖との時間を楽しいと思ってくれるなら、それはとても嬉しいことだ。
「じゃあ、これで大体OKかな。後から気になることがあったら遠慮なく言ってね。それじゃあ、改めて……」
パソコンを閉じた福永が璃湖のことを床に押し倒した。驚く璃湖のワンピースをめくった。しまった、ショーツを履いていなかった。
ハッと福永の方に手を伸ばすと、彼はしっかり目を閉じていた。律儀だと感心するが、ちゅうっと陰核を吸われ璃湖の身体が大きく跳ねる。
「んあぁっ、急に、なにを……」
「だって、ここまだエッチな匂いしてるから」
「うっ、だってそれは……ああっ」
確かに思い出し濡れしてしまったが、今は食べ物のスパイシーな匂いが部屋に充満しているのになぜ分かるのだ。
止めなければと手を伸ばすが、敏感な芽を舌全体でベロリと舐め上げられて力が抜ける。気持ちがいい。機械の規則的な動きとは違う触れ方が深い快楽を璃湖に与えてくれる。
契約に同意しておきながら、恋人でもない男性とこんなことをしてはいけないという思いが未だに頭の片隅に残っている。
だが、そんな背徳感さえ快感のスパイスになっていることに気づき、璃湖は抗うのが馬鹿らしくなった。
璃湖は気持ちがいいことが好きだ。恐らく人より性欲も強い。
それを福永はすでに知っているし、璃湖のそんな部分を受け入れてくれている。そもそもこれは彼のための治療なのだ。その副産物を受け入れることに、なんの問題があるのだろう。
そんな結論に達した彼女は、ふっと身体の力を抜いて彼に身を任せた。そんな璃湖の変化に気づいたのか、足の間にいる福永がふっと笑った。
「改めて……これからよろしくね、細井さん」
そう言った福永が、花芽にちゅっとキスをした。一体、どこに話しかけているのか。
そう文句を言いたかったが、口から漏れたのは「あんっ」という何とも情けない喘ぎ声だった。
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