17 / 29
side紬:10 9月は家族を想う②
しおりを挟む
「あれっ、紬今日シフト入ってたっけ?」
夕方五時。丸の内のカフェにバイトにやってきた星野は私の姿を見て目を見開いた。
「…うん…今日、急に休む人が多くて…店長からシフト入ってって電話がきたの…」
「そか。今なんかタチの悪い風邪流行ってるらしいから、みんなそれかな~?紬も気をつけて…って!」
星野は勢い良く私のおでこに手をあてる。あまりの勢いにひっぱたかれたかと思った。
「星野…?怒ってる…?」
「いやごめん。勢い良すぎた」
星野は額を優しくさすりながら、紬も熱あるじゃんと言った。
やっぱりかぁ。
実は、朝からだるくて店長にシフト入ってって言われた時も、一度は断ったんだよね。でも、「人手が足りないから困ってる、お願い」って言われたら断れなくて、結局バイトに来てしまった。午前中からずっと忙しくて休憩もロクに取れなかったのも、悪かったかもしれない。
「うぅ…」
熱ありますよって言われると、急にしんどくなるのなんでだろう?気付かないふりしてただけで、ホントは分かってたのに。
私はずるずるとその場にへたりこんでしまった。カウンターがあるから、お客さんからは見えないはず…。それでもだめだけど…。
「やっほ~♪紬いますか~?」
「あっ!桃!」
桃…?
そういえば、桃が貸してた本を家に返しに来てくれるって言ってたっけ。バイト入っちゃったってラインしたから、カフェに来てくれたんだ…。
「か、かたじけない…」
「え?何言ってるの?紬大丈夫?店長ー!店長ー!?あの鼻毛ジジイ、またどこかでサボって…」
そこで私の意識は途切れた。
目を覚ますと、異世界…ではなく、自分の部屋のベッドに寝ていた。
「あれっ!夢!?」
バイト先で倒れてしまったはず。あれは夢だったのかと飛び起きると、星野と桃が私の部屋でくつろいでいた。テーブルにはお菓子が山盛りで、なんかドラマもついている。
「あ、起きた」
「紬~無理しちゃダメだよ~」
星野はすぐさまベッドのそばまで来て、私のおでこを触る。よく見たら枕はアイス枕に変えられている。服はバイト先の制服のまま。家でこの服装ってすごい違和感だ。ちなみに星野は私服に着替えていたけど、星野のバッグの横にはたたんだ制服があったから、ウチまで制服で来たのだろう。
「え…私どうやってここに来たの…?」
「私と桃で両側から支えて、タクシーで来たよ。紬、結構頑張って歩いてたけど、覚えてない?」
「うん…全然」
「なんか『かたじけない』とか言ってたもんね(笑)」
それも全然覚えてない。
「タ、タクシー代を…」
「それは大丈夫。無理させてごめんって、店長が出してくれたよ」
「出してくれたっていうかさぁ…星野が脅して搾り取ってたんじゃん」
「とりあえず、パジャマに着替えよう」
星野は桃の指摘を無視して、クローゼットからパジャマを出してくれた。二人とも何度も家に泊まりに来ているので、勝手知ったる我が家なんです。
「ポカリ、ポカリ」
着替えが終わると、桃がストローをさしたコップを差し出して飲ませてくれる。二人とも、面倒見が良い。さっぱりとして水分補給もしてひとごこちすると、また新しい懸念点が脳裏に浮かんでしまった。
「あっ!シフト!星野まで抜けさせちゃった!どうしよう、ごめんなさい…」
「ああ、大丈夫だよ、代わりに六時から大志が入ってくれるって言ってた。それまでは鼻…店長が頑張るって」
「今、また鼻毛ジジイって言おうとしたでしょ」
ちょっと意識が朦朧としているうちに、良くないあだ名がグレードアップしていた。
「大志にも迷惑かけちゃった…」
うなだれていると、星野がベッドの足元のほうに座りに来た。桃はそのまま、テーブルのほうにいたけど、じっとこっちを見つめている。
「ねぇ紬」
星野は私の手をそっと握り、優しく話を切り出した。
「なんか悩んでない?帰省してから、元気ないよ」
そんなことないよと言おうとしたけど、桃が「目の下のクマすごいよね」と続けたので、ごまかせそうにないと思った。
「なんか…就活のこと考えるとなかなか眠れなくて…」
「うん」
「でも、がんばらなくちゃって…」
「うん」
「でも…どうするのがいいのかわかんなくなっちゃって…ひっ…」
「よしよし」
星野はぎゅっと私を抱きしめてくれた。
いつだって優しくて、甘やかしてくれる星野。
「やっぱり嫌だよ。大志だけじゃない。星野や桃や、他のたくさんの友達と離れたくない…」
「うんうん、そしたらこっちで就職したらいいじゃん?」
「でも…おばあちゃんも大切なの…」
星野はぐすぐすと泣き出してしまった私の頭をなでた後、「詳しく教えて?」と言った。
夕方五時。丸の内のカフェにバイトにやってきた星野は私の姿を見て目を見開いた。
「…うん…今日、急に休む人が多くて…店長からシフト入ってって電話がきたの…」
「そか。今なんかタチの悪い風邪流行ってるらしいから、みんなそれかな~?紬も気をつけて…って!」
星野は勢い良く私のおでこに手をあてる。あまりの勢いにひっぱたかれたかと思った。
「星野…?怒ってる…?」
「いやごめん。勢い良すぎた」
星野は額を優しくさすりながら、紬も熱あるじゃんと言った。
やっぱりかぁ。
実は、朝からだるくて店長にシフト入ってって言われた時も、一度は断ったんだよね。でも、「人手が足りないから困ってる、お願い」って言われたら断れなくて、結局バイトに来てしまった。午前中からずっと忙しくて休憩もロクに取れなかったのも、悪かったかもしれない。
「うぅ…」
熱ありますよって言われると、急にしんどくなるのなんでだろう?気付かないふりしてただけで、ホントは分かってたのに。
私はずるずるとその場にへたりこんでしまった。カウンターがあるから、お客さんからは見えないはず…。それでもだめだけど…。
「やっほ~♪紬いますか~?」
「あっ!桃!」
桃…?
そういえば、桃が貸してた本を家に返しに来てくれるって言ってたっけ。バイト入っちゃったってラインしたから、カフェに来てくれたんだ…。
「か、かたじけない…」
「え?何言ってるの?紬大丈夫?店長ー!店長ー!?あの鼻毛ジジイ、またどこかでサボって…」
そこで私の意識は途切れた。
目を覚ますと、異世界…ではなく、自分の部屋のベッドに寝ていた。
「あれっ!夢!?」
バイト先で倒れてしまったはず。あれは夢だったのかと飛び起きると、星野と桃が私の部屋でくつろいでいた。テーブルにはお菓子が山盛りで、なんかドラマもついている。
「あ、起きた」
「紬~無理しちゃダメだよ~」
星野はすぐさまベッドのそばまで来て、私のおでこを触る。よく見たら枕はアイス枕に変えられている。服はバイト先の制服のまま。家でこの服装ってすごい違和感だ。ちなみに星野は私服に着替えていたけど、星野のバッグの横にはたたんだ制服があったから、ウチまで制服で来たのだろう。
「え…私どうやってここに来たの…?」
「私と桃で両側から支えて、タクシーで来たよ。紬、結構頑張って歩いてたけど、覚えてない?」
「うん…全然」
「なんか『かたじけない』とか言ってたもんね(笑)」
それも全然覚えてない。
「タ、タクシー代を…」
「それは大丈夫。無理させてごめんって、店長が出してくれたよ」
「出してくれたっていうかさぁ…星野が脅して搾り取ってたんじゃん」
「とりあえず、パジャマに着替えよう」
星野は桃の指摘を無視して、クローゼットからパジャマを出してくれた。二人とも何度も家に泊まりに来ているので、勝手知ったる我が家なんです。
「ポカリ、ポカリ」
着替えが終わると、桃がストローをさしたコップを差し出して飲ませてくれる。二人とも、面倒見が良い。さっぱりとして水分補給もしてひとごこちすると、また新しい懸念点が脳裏に浮かんでしまった。
「あっ!シフト!星野まで抜けさせちゃった!どうしよう、ごめんなさい…」
「ああ、大丈夫だよ、代わりに六時から大志が入ってくれるって言ってた。それまでは鼻…店長が頑張るって」
「今、また鼻毛ジジイって言おうとしたでしょ」
ちょっと意識が朦朧としているうちに、良くないあだ名がグレードアップしていた。
「大志にも迷惑かけちゃった…」
うなだれていると、星野がベッドの足元のほうに座りに来た。桃はそのまま、テーブルのほうにいたけど、じっとこっちを見つめている。
「ねぇ紬」
星野は私の手をそっと握り、優しく話を切り出した。
「なんか悩んでない?帰省してから、元気ないよ」
そんなことないよと言おうとしたけど、桃が「目の下のクマすごいよね」と続けたので、ごまかせそうにないと思った。
「なんか…就活のこと考えるとなかなか眠れなくて…」
「うん」
「でも、がんばらなくちゃって…」
「うん」
「でも…どうするのがいいのかわかんなくなっちゃって…ひっ…」
「よしよし」
星野はぎゅっと私を抱きしめてくれた。
いつだって優しくて、甘やかしてくれる星野。
「やっぱり嫌だよ。大志だけじゃない。星野や桃や、他のたくさんの友達と離れたくない…」
「うんうん、そしたらこっちで就職したらいいじゃん?」
「でも…おばあちゃんも大切なの…」
星野はぐすぐすと泣き出してしまった私の頭をなでた後、「詳しく教えて?」と言った。
0
あなたにおすすめの小説
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
フリーランスエンジニアの優しすぎる無償の愛
春咲さゆ
恋愛
26歳OLの木崎茉莉は人生のどん底にいた。上手くいかないことに慣れ、心を凍らせることで自分を守る毎日に絶望した茉莉は、雨の夜に思わず人生の終わりを願ってしまう。そんな茉莉に手を差し伸べたかっこいい彼。茉莉は、なぜか無償の愛のような優しさをくれる不思議な男性に少しずつ救われ、前を向いていく。けれど、疑ってしまうほど親切な彼には、親切であり続ける理由があって……。雨の夜の出会いがもたらした、優しくも切ない物語。
先輩、お久しぶりです
吉生伊織
恋愛
若宮千春 大手不動産会社
秘書課
×
藤井昂良 大手不動産会社
経営企画本部
『陵介とデキてたんなら俺も邪魔してたよな。
もうこれからは誘わないし、誘ってこないでくれ』
大学生の時に起きたちょっとした誤解で、先輩への片想いはあっけなく終わってしまった。
誤解を解きたくて探し回っていたが見つけられず、そのまま音信不通に。
もう会うことは叶わないと思っていた数年後、社会人になってから偶然再会。
――それも同じ会社で働いていた!?
音信不通になるほど嫌われていたはずなのに、徐々に距離が縮む二人。
打ち解けあっていくうちに、先輩は徐々に甘くなっていき……
貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳
大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。
でも、これはただのお見合いではないらしい。
初出はエブリスタ様にて。
また番外編を追加する予定です。
シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。
表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。
定時で帰りたい私と、残業常習犯の美形部長。秘密の夜食がきっかけで、胃袋も心も掴みました
藤森瑠璃香
恋愛
「お先に失礼しまーす!」がモットーの私、中堅社員の結城志穂。
そんな私の天敵は、仕事の鬼で社内では氷の王子と恐れられる完璧美男子・一条部長だ。
ある夜、忘れ物を取りに戻ったオフィスで、デスクで倒れるように眠る部長を発見してしまう。差し入れた温かいスープを、彼は疲れ切った顔で、でも少しだけ嬉しそうに飲んでくれた。
その日を境に、誰もいないオフィスでの「秘密の夜食」が始まった。
仕事では見せない、少しだけ抜けた素顔、美味しそうにご飯を食べる姿、ふとした時に見せる優しい笑顔。
会社での厳しい上司と、二人きりの時の可愛い人。そのギャップを知ってしまったら、もう、ただの上司だなんて思えない。
これは、美味しいご飯から始まる、少し大人で、甘くて温かいオフィスラブ。
俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜
小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。
でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。
就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。
そこには玲央がいる。
それなのに、私は玲央に選ばれない……
そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。
瀬川真冬 25歳
一ノ瀬玲央 25歳
ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。
表紙は簡単表紙メーカーにて作成。
アルファポリス公開日 2024/10/21
作品の無断転載はご遠慮ください。
【完結】元恋人と、今日から同僚です
紗和木 りん
恋愛
女性向けライフスタイル誌・編集部で働く結城真帆(29)。
仕事一筋で生きてきた彼女の前に、ある日突然、五年前に別れた元恋人が現れた。
「今日から、この部署に配属になった」
そう告げたのは、穏やかで理性的な朝倉。
かつて、将来や価値観のすれ違いから別れた相手だ。
仕事として割り切ろうと距離を取る真帆だったが、過去の別れが誤解と説明不足によるものだったことが少しずつ見えてくる。
恋愛から逃げてきた女と、想いを言葉にできなかった男。
仕事も感情も投げ出さず、逃げずに選び直した先にあるのは「やり直し」ではなく……。
元恋人と同僚になった二人。
仕事から始まる新しい恋の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる