【完結】占い館のチョコレート

四季苺

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はじめての占い

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「いらっしゃいませ~。あっ、鈴奈ちゃんじゃん!」 

 占い館のドアを開けると、リゼさんが笑顔でむかえてくれた。家からまた走ってきたので息が苦しい。深呼吸しんこきゅうをすると、占い館にあるまじきかおりがした。 

「…なんかカップラーメンみたいなにおいがする」 

「バレた?さっき遅いお昼を食べたから~」 

「占い館はアロマとかのにおいがするってネットでみたよ」 

「うちはうち、よそはよそ!」 

 リゼさんは笑いながら窓を開けて、わたしに温かいお茶を淹れてくれた。レディグレイ。きれいな青い花びらが入った、オレンジみたいな香りのする紅茶だ。遊びに来た時にリゼさんが何度か飲ませてくれて、わたしのお気に入りになった。 

「今日は、とうとうそのチケットを使うの?」 

 リゼさんはテーブルに右肘みぎひじをついて、手のひらにほっぺたをあずけたまま、たずねる。 

「…うん、大事に取っておいたんだけど…今日使いたい。予約ない?今大丈夫?」 

 お母さんやお姉ちゃんに相談することも考えたけど、なんか違うなって思った。二人はきっと「なずなちゃんは放っておきなさい」と言うだろう。だって、それが現実的げんじつてきだ。わざわざ自分の身を危険きけんにさらすようなことしない方が良いって、わたしも分かってる。だけど、そうしたくなくてモヤモヤしてしまうんだ。 

「大丈夫。じゃあ、せっかくだからいろいろ説明しながら占おっかな~」 

 リゼさんはたばになったカードを取り出し、テーブルの上に並べて見せてくれた。 

「わぁ、綺麗きれい…」 

 リゼさんのタロットカードは、持ち主のひとみの色と同じ深いエメラルドグリーンをしていた。中心には白くかがやく大きな木の絵、周りにたくさんの星と雪の結晶けっしょうえがかれていた。 

「こっちがおもて。意味があるほう」 

 カードをひっくり返して、リゼさんは表面おもてめんの絵を見せてくれた。こっちは一枚一枚絵がちがう。とても素敵だ。 

「タロットカードはね、全部で七十八枚あるの」 

「そんなにある?」 

 わたしはテーブルに広げられたカードを数える。二十二枚しかない。 

「大アルカナって呼ばれる二十二枚と、小アルカナって呼ばれる五十六枚のカードがあるんだけど、今日は大アルカナだけを使って占うよ」 

「アルカナ…」 

 お店の入口を振り返る。裏紙うらがみにマジックで書かれた店名は裏写うらうつりしてこちらからでも見えた。 

「そう、お店の名前にした。秘密ひみつとか神秘しんぴとかって意味があるよ」 

「へぇ…」 

 リゼさんにしては真面目まじめな名前つけたなと思う。 

「アルカナの意味の大元おおもとは、『つくえの引き出し』なの。あたし、ドラえもん好きだからこの名前にした」 

「………」 

 やっぱりリゼさんはリゼさんだった。 

それからリゼさんは、全部のカードの意味を簡単かんたんに教えてくれた。 

 

 0番 愚者ぐしゃ 無鉄砲むてっぽう/空回からまわり 

 1番 魔術師まじゅつし 新しいスタート/挫折 ざせつ

 2番 女教皇おんなきょうこう 知性ちせい/冷酷れいこく 

 3番 女帝じょてい ゆたかさ/欲張よくばり 

 4番 皇帝こうてい 成功せいこう/傲慢 ごうまん

 5番 教皇きょうこう 親切心しんせつしん/せまい心 

 6番 恋人こいびと 恋愛れんあい・良い人間関係/浮気うわき 

 7番 戦車せんしゃ 猪突猛進ちょとつもうしん/暴走ぼうそう停止ていし 

 8番 ちから 意思いし/落胆 らくたん

 9番 隠者いんじゃ 自分を見つめる/孤独こどく 

 10番 運命うんめい チャンス/一時的いちじてき運気悪化うんきあっか 

 11番 正義せいぎ 安定あんてい/優柔不断ゆうじゅうふだん中途半端 ちゅうとはんぱ

 12番 るされた男 試練しれん/骨折ほね損 そん

 13番 死神しにがみ 終わり/新しいスタート 

 14番 節制せっせい 自然な流れ・純粋じゅんすい/停滞 ていたい

 15番 悪魔あくま 誘惑ゆうわく堕落だらく/束縛そくばくからの解放 かいほう

 16番 とう 崩壊ほうかい/くずれるか崩れないかの状態 じょうたい

 17番 ほし 理想りそう希望きぼう/幻滅 げんめつ

 18番 つき 不安/不安の解消 かいしょう

 19番 太陽たいよう 明るい気持ち/暗黒 あんこく

 20番 審判しんぱん 復活ふっかつ/消滅しょうめつ忘却ぼうきゃく 

 21番 世界せかい 完成かんせい/未完成 みかんせい

 

「今日のおなやみは友達関係かな~?ケンカしちゃった?」 

 リゼさんはカードを手早くきりながら、たずねる。 

「…なんでわかるの」 

「フフ。秘密ひみつ~」 

「そう、なずなちゃんとケンカしちゃったの。もう一ケ月くらい前なんだけど…ウチのクラスってボス的な女子がいて、常にターゲットを変えながら意地悪するのね。無視とか聞こえよがしな陰口とか。でも、それって一年生からずっとなの。止めさせるのが一番なの分かってるけど、どうしようもなくて…」 

 リゼさんは真剣しんけんな表情で話を聞き、時々静かにうなずいてくれた。それがすごく安心して、わたしは今までためこんでいた気持ちを一気にすことができた。 

「周りの大人だって何年も解決かいけつできてないこと、鈴奈ちゃんにどうにかしろっていうのは無茶むちゃだよねぇ」 

 リゼさんはおかわりの紅茶をそそぎながら、そう言ってくれた。 

「そうなの。わたしにはできない」 

「それでもまわりの子たちみたいに意地悪はしなかったんでしょ?鈴奈ちゃんは、決して楽な道をえらんでない。現実的げんじつてき範囲はんい最善さいぜんくしてるよ」 

 その言葉に、ブワッとなみだがあふれてくる。リゼさんは分かってくれた。それが嬉しくて、同時にくやしい。 

「…なんでっ、なずなちゃんは分かってくれないのぉっ」 

 泣いたのなんていつぶりだろう。冬兄の出発の日以来かも。その前は…もう思い出せないや。 

 一度涙があふれたら、もう止まらなかった。なずなちゃんに対するいかりや悲しさまで一緒に流れでてきてしまう。 

「自分が良ければいいなんて、わたし思ってない!なのに、なずなちゃんはわたしのこと軽蔑けいべつして、カリンにも余計よけいなこと言って!一ケ月もみんなに無視されたし!」 

「よしよし」 

 リゼさんはわたしのとなりに移動してきて、頭をかかえるようにしてせてくれた。サラサラの長い金髪がくすぐったい。でも、甘えていたくて、わたしはそのままじっとしていた。 

 わたしがさんざん泣きわめいた後、リゼさんは「さぁ、何を占おうか」と微笑んだ。そういえば、いろいろ話したけど肝心かんじんの占いはまだだった。 

「…わたしは、これからどうすればいいのか知りたい」 

「したいようにすればいいよ」 

「そうなんだけど、失敗したくないの。うまくいく方法を知りたい」 

「そりゃそうだよね、わかる。今日はワンオラクルで占いましょーか」 

 リゼさんはタロットカードをもう一度きって、横一列よこいちれつに並べた。 

「ワンオラクル?」 

「カードを一枚だけひいて、占うやり方」 

「わかりやすいね」 

 フッと空気が冷たくなった気がした。リゼさんは目を閉じて、集中している。なんだかいつものリゼさんじゃないみたい。 

全集中ぜんしゅうちゅう、リゼのかた」 

「………」 

 いや、いつも通りだった。 

 数十秒後、すらりと長い白い指が一枚のカードをえらる。くるりと返して見せてくれたそれには、がけっぷちでかれている人の絵が描いてあった。そばには心配そうな犬もいる。 

愚者ぐしゃ正位置せいいちだね」 

「正位置?」 

「カードの持つそのままの意味になる。逆位置ぎゃくいちはカードが逆さまになってることで、意味も逆になるの」 

「へぇー、じゃあ…」 

 わたしは愚者のカードをじっと見つめる。…このカードかぁ、がっかりだ。 

「バカなことをすればいいの?」 

「プハッ!…そういう意味じゃないよ。愚者のカードには『自由』とか『無鉄砲むてっぽう』って意味があるの。この人はさ、崖っぷちにいてもおそれることなく旅を続けているでしょ?」 

 リゼさんのきれいな指がおろかな青年をつつく。 

「うん」 

「鈴奈ちゃんも、無鉄砲に進んじゃって吉ってこと。新しい道が切り開けるよ、きっと」 

 わたしは、しぱしぱと目をまたたいた。一枚のカードからそんな風に意味を読み取れるなんて、不思議ふしぎだ。 

「自由にやっていいの?わたしがやりたいようにやって、本当にうまくいく?」 

 リゼさんはその質問には答えず、逆にわたしに問い返す。 

「鈴奈ちゃん、愚者のカードが出た時ガッカリしてたよね。何か、出てほしいカードがあったんじゃない?」 

「!」 

 図星をさされ、ドキッとする。 

審判しんぱん…」

「『復活』のカードだね」 

 リゼさんは優しく微笑ほほえむ。 

「うん…」 

「鈴奈ちゃんは、なずなちゃんとまた仲良くしたいって思ってる?」 

 リゼさんはカードをペラリペラリと表に返していく。十枚目くらいで審判のカードを見つけて、わたしに手渡てわたしてくれた。 

 空には大きな天使がいてラッパを吹いている。おはかから人がたくさん立ち上がってるから、生き返っているシーンってことかな? 

「このカードはキリスト教の『最後の審判』を表しているんだよ」 

 リゼさんは、加えて説明してくれた。 

わたしは無意識むいしきにこのカードが出てほしいって思ってた。つまり、なずなちゃんとの友情を望んでいたっていうこと。 

「…そうかも」 

「そうじゃないなら、そもそも悩まないかもね?だってなずなちゃんのせいで鈴奈ちゃんは一ケ月もいじめられたんだし、ざまあって思って放っておいてもいいじゃない?」 

「…うん、放っておけないの。気になるの。でも、だからってなずなちゃんに言われたことを水に流せるわけじゃない。なずなちゃんのことだけ、れないの」 

 ユイとかココとか、クラスの子に意地悪されたことはいっぱいある。でもそのことをいちいち気にしたことはなかった。話しかければ話したし、無視されたらそれまでだ。 

「なんでだろう?なんで、なずなちゃんだけ…」 

 またなみだがこぼれてくる。 

「よしよし」 

 リゼさんはセレブなティッシュでわたしの涙をふいてくれた。 

「…もったいない。もっと安いの売ってるよ」 

「お客様用だからいいの!自分のはちゃんと安いやつ買ってるよ!」 

「わたし、タダけん使ったのに」 

「じゃあ、友達だから」 

 リゼさんはにっこり笑ってそう言う。 

「鈴奈ちゃんはあたしの友達だから、話を聞きたいし泣いてたらケチらずにおセレブなティッシュで涙をふいてあげたいよ」 

  

 …友達だから…。 

  

 その言葉は、わたしの胸にストンと落ちた。リゼさんとは年がだいぶはなれているのに、友達だと言ってくれたことがすごく嬉しかった。それと同時に、自分がなんでこんなに悩んでいるのかやっと分かったんだ。 

 友達だから、特別とくべつだから、なずなちゃんが苦しんでるのを見過みすごせない。でも、だからこそ、分かり合えないことに腹が立つし悲しいんだ。 

「…やっぱり、仲直りしたい。意地いじるのはもうやめる」 

「そぉ?オトナね。あたしだったらゆるさない。ネギでなずなちゃんなぐっちゃう」 

「あははっ、何それ」 

 わたしはリゼさんがネギをまわしている姿を想像そうぞうしてす。 

おこってないわけじゃないけど、このままなずなちゃんと話したり遊んだりできなくなる方がもっと嫌だって、気付きづいた」 

「うんうん、そうだよね」 

「ただ…」 

 わたしはうつむいて手をギュッとにぎりしめる。 

「ん?」 

こわい。なずなちゃんはわたしの話聞いてくれるかな?まだわたしのこと怒ってるかな?って…」 

 リゼさんは何も言わずに立ち上がって、アンティークのドロワーボックスの前に歩いていった。これはパン屋時代にはなかった、リゼさんの家具だ。 

 たくさんある引き出しの中から、迷わず一つを選んで持ち手を引く。そして、中から取り出したものをそっとわたしの手にのせてくれた。 

「話をする前に、これを食べて」 

 手のひらでコロリところがった球体きゅうたいは、藍色あいいろのツルツルした紙に包まれていた。なんか英語みたいな文字が書かれている。 

「キャンディー?」 

「ううん、チョコレートだよ。食べると勇気が出て、最後まで頑張れる特別なチョコレート」 

 その言葉を聞いて、いくつものからかい文句もんくが頭に浮かんだ。「それって合法ごうほう?」だとか、「えー、絶対ウソ」とか。でも、全部が音になることなく消える。 

 わたしはただ、「ありがとう」とだけ伝えて、占い館を後にした。 
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