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チョコレートのとりこ
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年が明けて一月二日の午後、わたしはリゼさんのお店の前をウロウロしていた。お正月だから今日はお店はお休みだ。だけど、どうしてもリゼさんに会いたくて来てしまった。
「…でも、お店がお休みなのに『占って』って言うのはやっぱり図々しいよね…」
おみやげの入った紙袋の持ち手をギュッと握りしめ、わたしはきびすを返す。
「鈴奈ちゃん!」
後ろから声がして振り返ると、二階の窓からリゼさんが身を乗り出していた。
「明けましておめでと~!遊びに来てくれたの?」
白い歯を見せてニッと笑うリゼさんを見たら、安堵で泣きそうになってしまった。
「う、うん!でも…急に大丈夫?」
「大丈夫!大丈夫!今、開けるね!」
リゼさんの姿が見えなくなり、すぐにお店のドアが開いた。早くスマホが欲しいよ。スマホで連絡ができたら、リゼさんに聞いてから遊びに来られるのに。
「明けましておめでとう、リゼさん。急に来てごめんね」
「いいの、いいの。休みだから。暇だったし来てくれて嬉しいよ」
リゼさんはいつものワンピース姿ではなく、なんかおしゃれなモコモコのルームウェアを着ていた。あれだ、なんだっけ…ジェラなんとかっていうお店の服だ。いいなぁ、わたしも大人になったらあんな可愛い部屋着買いたいな。
「今日は塾お休みなの?」
「ううん、三時からある。『正月特訓』っていうやつ」
「お正月なのに特訓!!大変だね」
リゼさんがお湯を沸かしに行こうとしたので、わたしはおみやげを渡した。
「わぁ!どら焼き!!嬉しい、ありがとう!」
「昨日お父さんが親戚にたくさんもらったの。このお店の美味しいから持ってきた」
リゼさんはドラえもんが大好きなので、その好物もしかりだ。
「じゃあ、緑茶だ~」
リゼさんはキッチンに走っていった。わたしはいつもの椅子に座って、テーブルの上に広げっぱなしになっているタロットカードを眺める。本格的に教えてもらうのは先だけど、リゼさんと話している中で少しずつどのカードがどの意味を持つか覚えてきた。
「お待たせ~」
リゼさんは緑茶とどら焼きをわたしの前に並べてくれる。そして「ヤダ出しっぱなしだった」と言いながらカードを集めてケースにしまった。
「昨日、新くんの誕生日だったんだ」
「え、元旦?」
「そうなの、新くんの名前は『新年』から取ったんだって」
リゼさんはどら焼きを頬張りながらうなずく。
「それで、クリスマスのお返しに誕生日プレゼントを渡すことにしたの。紺色のシャーペン」
「いいねぇ、喜ぶと思うよ」
リゼさんはにっこりと微笑んでくれた。
「…あと、お返事もしようと思ってる」
口にしたら急に緊張してきて、言葉が続かない。リゼさんは向かいから手を伸ばして、わたしの手を優しくなでてくれた。
「…返事するっていうか、返事を待ってって言うだけなのに、なんだか怖くて…。ちゃんと伝えられるか、自信がないの」
「うんうん、分かるよ」
「…ねぇリゼさん、お休みなのに申し訳ないんだけど、占ってもらうのはダメ?」
「ん?」
リゼさんは目を丸くする。わたしは、やっぱり図々しかったかなと後悔した。
「全然良いけどさ、何を占うの?」
「え、そんなに不思議?…えっと、わたしが新くんと付き合ったらうまくいくか知りたい…」
「なんで?」
リゼさんはますます不思議そうになる。な、なんでって…。付き合い始めたらどうなるかって、外国の人は気にならないポイントなのかな?
「え…えっと…付き合うのって怖くない?」
「どういうことが?」
「友達は、ずっと友達でいられるじゃん。でも、付き合って別れたら何かこう…もう終わりっていうか…」
リゼさんは腕を組んで黙り込む。なんかうまく言えなかったから、伝わらなかったかもしれない…。言い直すべきかなと口を開きかけた時、リゼさんは言葉を返してくれた。
「鈴奈ちゃんは、新くんと仲が悪くなっちゃうのが怖いんだね」
「…そう、なのかな?」
リゼさんはケースからタロットカードを出して、絵が見えるように並べていった。
「今日は、特別に鈴奈ちゃんが選んでいいよ!」
「う、占いじゃない!!」
リゼさんはあははっと大きな声で笑った。
「そうだねぇ。でもやってみてよ。どれがいい?鈴奈ちゃんと新くんの恋を占って、出てきてほしいカードはどれ?」
わたしはじっとカードを見つめる。 どれが一番いいか分からない。
「ん~、一枚って難しいかもね?じゃあ三枚選んで」
「三枚…」
わたしは選んだカードを手に取り、リゼさんに渡す。
「世界、太陽、恋人かぁ…良いカードだね」
「選べるなら、みんな良い意味のカードを選ぶでしょ?」
「そんなことないよ~、キモイ豚みたいな男との恋を占って恋人のカードが出たらリゼさんは泣く」
わたしは笑ってしまう。確かにそうかも。
「鈴奈ちゃんは新くんとの幸せな未来を望んでるってことだね」
リゼさんは「世界」のカードをひらひらとさせる。
「良いカードも出たし、お返事頑張れそう?」
リゼさんは頬杖をついてわたしを見つめる。
「占ってないじゃん、選んだだけで…」
「フフッ。そうだけどさ~、未来は変わるから鈴奈ちゃんの気持ちが大事なんだよ」
「え?」
「友達も恋人も絶対なんてない。お互いに努力して気持ちを伝え合ったり思いやりを注ぎ合ったりしなかったら、ずっと仲良くなんてできないんだよ」
「………」
そうだ。わたしはもう知っている。友達だって、家族だって、きちんと話してお互いのことを知らなかったらうまくいかないって。カリンのことで、嫌というほど思い知ったんだった。
「だから、新くんとずっと仲良しでいたいなら、二人でちゃんと話をしないとね。もちろん、その形は友達でも恋人でもどっちでも良いと思う。付き合って別れてもずっと友達って人もいるし。結婚しても離婚する人だっているよ」
「そっか…」
人と人との関係は、努力次第。その言葉を心のなかで何度も噛みしめる。きっと、一生大切にすべきものだと思ったから。
「頑張る。よく考えて、ちゃんと返事するって話す。…どうしても新くんがわたしと別の中学校に行きたいなら、手続き締切までに返事する」
「うん、頑張って」
「あの、でも…」
「ん?」
「いつもの、占いの後にリゼさんがくれるチョコレートが欲しいの。あの、ちゃんと占いの代金はお支払いしますので!」
リゼさんはクスッと笑ってチェストを開けると、キラキラした包みにくるまれたチョコレートを一つ渡してくれた。
「今日は占ってないからお金はいいよ。チョコは、どら焼きのお返しね」
「ありがとう!コレを食べると勇気が出るんだ」
「それは良かった」
わたしはチョコレートをぎゅっと握りしめる。
良かった。
コレがあれば…コレを新くんと話す前に食べれば、わたしはちゃんと頑張れる。なずなちゃんと話した時みたいに、発表会の時みたいに。
そうだ、今日は保留をお願いするだけだけど、付き合うかどうかちゃんと返事する時にも、占ってもらってこの魔法のチョコレートをもらおう。
わたしはすっかりリゼさんのチョコレートのとりこになっていた。
なくてはならない甘い魔法。
失うことなんて、考えたくもなかった。
「…でも、お店がお休みなのに『占って』って言うのはやっぱり図々しいよね…」
おみやげの入った紙袋の持ち手をギュッと握りしめ、わたしはきびすを返す。
「鈴奈ちゃん!」
後ろから声がして振り返ると、二階の窓からリゼさんが身を乗り出していた。
「明けましておめでと~!遊びに来てくれたの?」
白い歯を見せてニッと笑うリゼさんを見たら、安堵で泣きそうになってしまった。
「う、うん!でも…急に大丈夫?」
「大丈夫!大丈夫!今、開けるね!」
リゼさんの姿が見えなくなり、すぐにお店のドアが開いた。早くスマホが欲しいよ。スマホで連絡ができたら、リゼさんに聞いてから遊びに来られるのに。
「明けましておめでとう、リゼさん。急に来てごめんね」
「いいの、いいの。休みだから。暇だったし来てくれて嬉しいよ」
リゼさんはいつものワンピース姿ではなく、なんかおしゃれなモコモコのルームウェアを着ていた。あれだ、なんだっけ…ジェラなんとかっていうお店の服だ。いいなぁ、わたしも大人になったらあんな可愛い部屋着買いたいな。
「今日は塾お休みなの?」
「ううん、三時からある。『正月特訓』っていうやつ」
「お正月なのに特訓!!大変だね」
リゼさんがお湯を沸かしに行こうとしたので、わたしはおみやげを渡した。
「わぁ!どら焼き!!嬉しい、ありがとう!」
「昨日お父さんが親戚にたくさんもらったの。このお店の美味しいから持ってきた」
リゼさんはドラえもんが大好きなので、その好物もしかりだ。
「じゃあ、緑茶だ~」
リゼさんはキッチンに走っていった。わたしはいつもの椅子に座って、テーブルの上に広げっぱなしになっているタロットカードを眺める。本格的に教えてもらうのは先だけど、リゼさんと話している中で少しずつどのカードがどの意味を持つか覚えてきた。
「お待たせ~」
リゼさんは緑茶とどら焼きをわたしの前に並べてくれる。そして「ヤダ出しっぱなしだった」と言いながらカードを集めてケースにしまった。
「昨日、新くんの誕生日だったんだ」
「え、元旦?」
「そうなの、新くんの名前は『新年』から取ったんだって」
リゼさんはどら焼きを頬張りながらうなずく。
「それで、クリスマスのお返しに誕生日プレゼントを渡すことにしたの。紺色のシャーペン」
「いいねぇ、喜ぶと思うよ」
リゼさんはにっこりと微笑んでくれた。
「…あと、お返事もしようと思ってる」
口にしたら急に緊張してきて、言葉が続かない。リゼさんは向かいから手を伸ばして、わたしの手を優しくなでてくれた。
「…返事するっていうか、返事を待ってって言うだけなのに、なんだか怖くて…。ちゃんと伝えられるか、自信がないの」
「うんうん、分かるよ」
「…ねぇリゼさん、お休みなのに申し訳ないんだけど、占ってもらうのはダメ?」
「ん?」
リゼさんは目を丸くする。わたしは、やっぱり図々しかったかなと後悔した。
「全然良いけどさ、何を占うの?」
「え、そんなに不思議?…えっと、わたしが新くんと付き合ったらうまくいくか知りたい…」
「なんで?」
リゼさんはますます不思議そうになる。な、なんでって…。付き合い始めたらどうなるかって、外国の人は気にならないポイントなのかな?
「え…えっと…付き合うのって怖くない?」
「どういうことが?」
「友達は、ずっと友達でいられるじゃん。でも、付き合って別れたら何かこう…もう終わりっていうか…」
リゼさんは腕を組んで黙り込む。なんかうまく言えなかったから、伝わらなかったかもしれない…。言い直すべきかなと口を開きかけた時、リゼさんは言葉を返してくれた。
「鈴奈ちゃんは、新くんと仲が悪くなっちゃうのが怖いんだね」
「…そう、なのかな?」
リゼさんはケースからタロットカードを出して、絵が見えるように並べていった。
「今日は、特別に鈴奈ちゃんが選んでいいよ!」
「う、占いじゃない!!」
リゼさんはあははっと大きな声で笑った。
「そうだねぇ。でもやってみてよ。どれがいい?鈴奈ちゃんと新くんの恋を占って、出てきてほしいカードはどれ?」
わたしはじっとカードを見つめる。 どれが一番いいか分からない。
「ん~、一枚って難しいかもね?じゃあ三枚選んで」
「三枚…」
わたしは選んだカードを手に取り、リゼさんに渡す。
「世界、太陽、恋人かぁ…良いカードだね」
「選べるなら、みんな良い意味のカードを選ぶでしょ?」
「そんなことないよ~、キモイ豚みたいな男との恋を占って恋人のカードが出たらリゼさんは泣く」
わたしは笑ってしまう。確かにそうかも。
「鈴奈ちゃんは新くんとの幸せな未来を望んでるってことだね」
リゼさんは「世界」のカードをひらひらとさせる。
「良いカードも出たし、お返事頑張れそう?」
リゼさんは頬杖をついてわたしを見つめる。
「占ってないじゃん、選んだだけで…」
「フフッ。そうだけどさ~、未来は変わるから鈴奈ちゃんの気持ちが大事なんだよ」
「え?」
「友達も恋人も絶対なんてない。お互いに努力して気持ちを伝え合ったり思いやりを注ぎ合ったりしなかったら、ずっと仲良くなんてできないんだよ」
「………」
そうだ。わたしはもう知っている。友達だって、家族だって、きちんと話してお互いのことを知らなかったらうまくいかないって。カリンのことで、嫌というほど思い知ったんだった。
「だから、新くんとずっと仲良しでいたいなら、二人でちゃんと話をしないとね。もちろん、その形は友達でも恋人でもどっちでも良いと思う。付き合って別れてもずっと友達って人もいるし。結婚しても離婚する人だっているよ」
「そっか…」
人と人との関係は、努力次第。その言葉を心のなかで何度も噛みしめる。きっと、一生大切にすべきものだと思ったから。
「頑張る。よく考えて、ちゃんと返事するって話す。…どうしても新くんがわたしと別の中学校に行きたいなら、手続き締切までに返事する」
「うん、頑張って」
「あの、でも…」
「ん?」
「いつもの、占いの後にリゼさんがくれるチョコレートが欲しいの。あの、ちゃんと占いの代金はお支払いしますので!」
リゼさんはクスッと笑ってチェストを開けると、キラキラした包みにくるまれたチョコレートを一つ渡してくれた。
「今日は占ってないからお金はいいよ。チョコは、どら焼きのお返しね」
「ありがとう!コレを食べると勇気が出るんだ」
「それは良かった」
わたしはチョコレートをぎゅっと握りしめる。
良かった。
コレがあれば…コレを新くんと話す前に食べれば、わたしはちゃんと頑張れる。なずなちゃんと話した時みたいに、発表会の時みたいに。
そうだ、今日は保留をお願いするだけだけど、付き合うかどうかちゃんと返事する時にも、占ってもらってこの魔法のチョコレートをもらおう。
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