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ふぬけたわたしの一週間
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リゼさんとお別れをした後、わたしはすっかりふぬけてしまった。入試まであと少しだというのに、勉強なんてする気がしない。それどころか、ごはんも食べられなくなって、眠くて仕方なくなった。
「鈴奈、ごはんはちゃんと食べないと…」
「フルーツは?ゼリーも買ってきたよ?」
お母さんもお姉ちゃんもいろいろ気遣ってくれたけど、どうしても食欲が出ない。
「なんでそんなにショック受けてるんだ?ただの近所のお姉さんなんだろ?」
ひぃ兄にそう言われて、わたしはその通りだと思った。一緒に過ごしたのは一年にも満たないし、毎日会ってたわけでもない。だけど、理屈では説明できない悲しさがわたしをのみ込んで溺れてしまいそうだった。
「…わかんないけど、悲しいの」
わたしがまたボロボロ泣きだしてしまったので、ひぃ兄はお姉ちゃんにひっぱたかれた。
無理して学校と塾には行っていたせいか、三日経ったら熱が出た。三十九度近い高熱のなかでみる夢は、悲しいものばかりだった。
占い館に行くのに、建物自体がなくなってリゼさんが戻ってこない夢。新くんに「もう待ってられない」と呆れられちゃう夢。試験を受けに行くのに、一問も解けない夢。
「…ちがう…全部嘘だ」
リゼさんはもう一回日本に来るって約束したし、新くんだって待ってくれるって言った。
でも入試は?
一問も解けないなんてことはないだろうけど、試験直前でこんな熱なんか出して、ラストスパートもかけられなくて、受かるの?
「…せっかく…頑張ってきたのに…」
何を考えても涙が出る。浅い眠りに落ちては悪夢にうなされて起きてを繰り返して、さらに三日が過ぎた。
また嫌な夢をみて朝の五時に目が覚めた。外はまだ暗い。まだ熱は高いみたいで、頭がクラクラした。解熱剤を飲めばいいんだけど、ごはんが食べられないと胃に悪いからダメらしい。座薬は絶対に嫌だ。
「明日…試験なのに…」
リゼさんに会いたい。そう思ったらまた涙があふれてきた。
ふわふわの袖で涙をぬぐってほしい。いつものテーブルで占いをして「明日は絶対大丈夫だよ」って言ってほしい。レディグレイの紅茶が飲みたいよ。
「本当だったら、今日は学校帰りに占い館に寄って明日の試験がどうなるか占ってもらうはずだったのに…」
そうつぶやいた瞬間、リゼさんの言葉を思い出した。
「自分で占ってみてね」
わたしはのろのろとベッドから降りて、最後に塾に行った日からほったらかしにしていた塾バッグを開けた。ペンケース、テキスト、プリントの束…水筒は見なかったことにする。
「…あった、わたしのタロットカード…」
リゼさんがくれた可愛い猫のタロットカードは、あの日と変わらず塾バッグに眠っていた。
「…でもまだ、占い方まだ教わってないよ…」
「今日はワン・オラクルで占いましょーか」
また、頭の中にリゼさんの言葉が蘇る。一枚選んで引くだけの占い方なら、わたしにもできる。
わたしはタロットカードを何度も丁寧にシャッフルして、1枚ずつ床に並べていった。
目をつぶって深呼吸。
一枚を選んで、めくる。
「…えっ」
出たのは塔のカードの正位置だった。
「これ、失敗の意味を持つカードだ」
雷が落ちて火が出ている塔は、下の方が崩れている。脱出したのだろうか、猫が二匹塔から飛び降りてる姿も描かれていた。
「…明日、試験失敗するんだ…」
ぽたぽたと涙がこぼれ落ちて、慌てて後ろに下がった。リゼさんにもらった大切なカードを濡らしたくない。
「あっ!」
動いた風圧でカードが1枚舞った。膝でにじにじ移動して拾い上げると、それは「愚者」のカードだった。
「これ、最初に占ってもらった時に出たカードだ」
なずなちゃんとケンカしちゃって、どうしたらいいか分からなくなった時、リゼさんに占ってもらったっけ。
「『バカになれってこと?』ってきいたら、リゼさん笑ってたっけ…」
リゼさんの笑顔を思い出して、少し気持ちが落ち着いた時にハッとした。
「タロットカードにはいろんな意味があるんだった…」
愚者のカードも、「自由」とか「無鉄砲」って意味があった。わたしはランドセルからクロームブックを引っ張り出して、塔のカードの意味を調べる。
「築いてきたものが壊れる暗示…。でも、執着を手放せば新しい未来へ進める可能性もある…。新しいものを生み出すには、今あるものを壊さなければいけないから…」
執着。
今、わたしはリゼさんに執着をしている。リゼさんと離れたのが寂しくて苦しくて泣いてばかり。でも、ここで切り替えなくちゃ。切り替えて、ちゃんと試験に、未来に向き合えたら明日はうまくいくのかもしれない。
わたしはパジャマの袖でごしごしと顔をぬぐうと、丁寧にタロットカードを集めて箱に戻した。そして、フラフラする足で階段を下りていく。
「鈴奈!大丈夫なの?」
早起きなお母さんはもうキッチンで朝ごはんの支度をしていた。
「うん…解熱剤飲みたいからゼリーちょうだい」
お母さんはうなずき、桃のゼリーを出してくれた。それと、りんごのジュースも。
わたしはまずりんごのジュースを一口飲んだ。ヒリヒリするのどに染み込んでいくような気がして心地が良く、その後はがぶがぶと二杯一気に飲んだ。
ゼリーをスプーンですくうと、手がプルプル震える。
正直、まだ食べたくない。
でも、いつだったかリゼさんは未来は変わるって言ってた。今の、ぐじぐじ情けないままのわたしで試験に挑んだら、きっと今まで重ねてきた努力は無駄になってしまうだろう。
でも、ここから変われば…
わたしはスプーンを口に押し込んで飲み下す。お母さんが心配そうに見つめているけれど、止めたりはしなかった。なんとかゼリーを半分食べたところで、お母さんが解熱剤を渡してくれたので、水で流し込む。
「明日は、車で送って行くね。もし具合が悪くなっても、お母さんがすぐに迎えに行けるようにずっと会場近くで待機してるから」
「…うん…ありがとう…」
その後はまたベッドに戻った。あれほど続いていた悪夢は嘘のようにどこかにいって、久しぶりによく眠ることができた。
「鈴奈、ごはんはちゃんと食べないと…」
「フルーツは?ゼリーも買ってきたよ?」
お母さんもお姉ちゃんもいろいろ気遣ってくれたけど、どうしても食欲が出ない。
「なんでそんなにショック受けてるんだ?ただの近所のお姉さんなんだろ?」
ひぃ兄にそう言われて、わたしはその通りだと思った。一緒に過ごしたのは一年にも満たないし、毎日会ってたわけでもない。だけど、理屈では説明できない悲しさがわたしをのみ込んで溺れてしまいそうだった。
「…わかんないけど、悲しいの」
わたしがまたボロボロ泣きだしてしまったので、ひぃ兄はお姉ちゃんにひっぱたかれた。
無理して学校と塾には行っていたせいか、三日経ったら熱が出た。三十九度近い高熱のなかでみる夢は、悲しいものばかりだった。
占い館に行くのに、建物自体がなくなってリゼさんが戻ってこない夢。新くんに「もう待ってられない」と呆れられちゃう夢。試験を受けに行くのに、一問も解けない夢。
「…ちがう…全部嘘だ」
リゼさんはもう一回日本に来るって約束したし、新くんだって待ってくれるって言った。
でも入試は?
一問も解けないなんてことはないだろうけど、試験直前でこんな熱なんか出して、ラストスパートもかけられなくて、受かるの?
「…せっかく…頑張ってきたのに…」
何を考えても涙が出る。浅い眠りに落ちては悪夢にうなされて起きてを繰り返して、さらに三日が過ぎた。
また嫌な夢をみて朝の五時に目が覚めた。外はまだ暗い。まだ熱は高いみたいで、頭がクラクラした。解熱剤を飲めばいいんだけど、ごはんが食べられないと胃に悪いからダメらしい。座薬は絶対に嫌だ。
「明日…試験なのに…」
リゼさんに会いたい。そう思ったらまた涙があふれてきた。
ふわふわの袖で涙をぬぐってほしい。いつものテーブルで占いをして「明日は絶対大丈夫だよ」って言ってほしい。レディグレイの紅茶が飲みたいよ。
「本当だったら、今日は学校帰りに占い館に寄って明日の試験がどうなるか占ってもらうはずだったのに…」
そうつぶやいた瞬間、リゼさんの言葉を思い出した。
「自分で占ってみてね」
わたしはのろのろとベッドから降りて、最後に塾に行った日からほったらかしにしていた塾バッグを開けた。ペンケース、テキスト、プリントの束…水筒は見なかったことにする。
「…あった、わたしのタロットカード…」
リゼさんがくれた可愛い猫のタロットカードは、あの日と変わらず塾バッグに眠っていた。
「…でもまだ、占い方まだ教わってないよ…」
「今日はワン・オラクルで占いましょーか」
また、頭の中にリゼさんの言葉が蘇る。一枚選んで引くだけの占い方なら、わたしにもできる。
わたしはタロットカードを何度も丁寧にシャッフルして、1枚ずつ床に並べていった。
目をつぶって深呼吸。
一枚を選んで、めくる。
「…えっ」
出たのは塔のカードの正位置だった。
「これ、失敗の意味を持つカードだ」
雷が落ちて火が出ている塔は、下の方が崩れている。脱出したのだろうか、猫が二匹塔から飛び降りてる姿も描かれていた。
「…明日、試験失敗するんだ…」
ぽたぽたと涙がこぼれ落ちて、慌てて後ろに下がった。リゼさんにもらった大切なカードを濡らしたくない。
「あっ!」
動いた風圧でカードが1枚舞った。膝でにじにじ移動して拾い上げると、それは「愚者」のカードだった。
「これ、最初に占ってもらった時に出たカードだ」
なずなちゃんとケンカしちゃって、どうしたらいいか分からなくなった時、リゼさんに占ってもらったっけ。
「『バカになれってこと?』ってきいたら、リゼさん笑ってたっけ…」
リゼさんの笑顔を思い出して、少し気持ちが落ち着いた時にハッとした。
「タロットカードにはいろんな意味があるんだった…」
愚者のカードも、「自由」とか「無鉄砲」って意味があった。わたしはランドセルからクロームブックを引っ張り出して、塔のカードの意味を調べる。
「築いてきたものが壊れる暗示…。でも、執着を手放せば新しい未来へ進める可能性もある…。新しいものを生み出すには、今あるものを壊さなければいけないから…」
執着。
今、わたしはリゼさんに執着をしている。リゼさんと離れたのが寂しくて苦しくて泣いてばかり。でも、ここで切り替えなくちゃ。切り替えて、ちゃんと試験に、未来に向き合えたら明日はうまくいくのかもしれない。
わたしはパジャマの袖でごしごしと顔をぬぐうと、丁寧にタロットカードを集めて箱に戻した。そして、フラフラする足で階段を下りていく。
「鈴奈!大丈夫なの?」
早起きなお母さんはもうキッチンで朝ごはんの支度をしていた。
「うん…解熱剤飲みたいからゼリーちょうだい」
お母さんはうなずき、桃のゼリーを出してくれた。それと、りんごのジュースも。
わたしはまずりんごのジュースを一口飲んだ。ヒリヒリするのどに染み込んでいくような気がして心地が良く、その後はがぶがぶと二杯一気に飲んだ。
ゼリーをスプーンですくうと、手がプルプル震える。
正直、まだ食べたくない。
でも、いつだったかリゼさんは未来は変わるって言ってた。今の、ぐじぐじ情けないままのわたしで試験に挑んだら、きっと今まで重ねてきた努力は無駄になってしまうだろう。
でも、ここから変われば…
わたしはスプーンを口に押し込んで飲み下す。お母さんが心配そうに見つめているけれど、止めたりはしなかった。なんとかゼリーを半分食べたところで、お母さんが解熱剤を渡してくれたので、水で流し込む。
「明日は、車で送って行くね。もし具合が悪くなっても、お母さんがすぐに迎えに行けるようにずっと会場近くで待機してるから」
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