21 / 27
DAY7-4 誰かにとって小さなこと
しおりを挟む
「そう…それで最近元気がなかったのね」
占いを聞いて悩んだこと、アドバイスをもらいに行ったけど占い師はいなかったこと、ヤケクソでお小遣いを使い果たしたこと、それでもやっぱり生き残ろうと粘っていたこと…全部を話した後、お母さんは静かにそう言った。
「バカみたいだよね、占いなんかに振り回されてさ」
私は笑ってみせたけど、お母さんは首を振って真剣な表情で私を見た。
「そんなことない」
お母さんは、少しだけ考えてから話し始めた。
「あのね、凛々。何が理由で悩んでいるかは、重要じゃないの。大切なのは、あなたが辛い思いをしているという事実だけよ。例え凛々以外の誰もが『そんな理由で悩むなんてくだらない』と言ったとしても。…凛々の気持ちや感じ方は凛々だけのものだから」
私はその言葉に驚いた。「そんなくだらないことで悩んでいたの?」とか「占いなんて当たるわけないでしょ」とか、言われると思っていたからだ。
「…頑張って死なないようにしてる凛々とは真逆だけど…」
お母さんは視線をそらすように、窓の外を眺めながら切り出した。
「お母さんは、凛々ぐらいの時、死にたくて仕方なかった」
えっ!という驚きの声を飲みこむ。早く続きを聞きたかったからだ。
「別にいじめられてたとか、受験に落ちたとかじゃないのよ?ただ、なんとなく苦しかったの。毎日学校のルールに縛られて、みんなに合わせておんなじように振る舞うのが…。そんなの甘えだって何度も自分に言い聞かせたわ。もっともっと苦しんでる人だっているって…例えば、戦争してる国に生まれた人もいれば、家が困窮しててご飯を満足に食べられない人もいる。だから、お母さんは贅沢だって思ったの」
私は黙ってうなずいた。お母さんも、私と同じような気持ちでいた頃があったんだ。
「でも、そう考えたからって、自分の気持ちが楽になるわけではなかった。…むしろ、人と比べて『自分のがマシ』って優越感に浸ってるみたいだって気付いて、落ち込んだの。ほら、江戸時代、士農工商の下にえたひにんっていう身分があったみたいに…」
「なんか話ズレてない?」
お母さんは社会科教師なのだ。
「…ゴメン」
「それで、お母さんはどうやって死にたい気持ちから抜け出せたの?」
「ある日、進路について考える授業があって、大人になったら今の自分みたいな子を助けられる人になりたいなって思ったの。そしたら、あんまりいろいろ気にならなくなった。勉強命って感じになって」
「…へ、へぇ…」
お母さん真面目だし思い込んだら一直線だからな。でも、「やりたいことを見つけた」っていうのは、私と一緒なのかな。私は買い物とかだから重みが違うかもしれないけど。
ふと気付くと、お母さんは体育座りになっていた。明らかにズーンという表情だ。
「どうしたの?」
「お母さんはそういう夢を抱いて教師になったのに、自分の娘が悩んでいるのに気付けなかったから、落ち込んでるの…」
「あはっ」
私は思わず笑ってしまう。
「気付いてくれたよ。だから今、家にいるんでしょ?」
時計を見たら、まだ四時だった。忙しいお母さんが平日のこの時間に私の部屋にいるなんて、本当に不思議な気分だ。
「気付くだけじゃダメ」
「えっ?」
「凛々、死の運命に抗うための作戦会議をするわよ!」
お母さんは昭和のアニメみたいに瞳に炎を宿してそう言った。
占いを聞いて悩んだこと、アドバイスをもらいに行ったけど占い師はいなかったこと、ヤケクソでお小遣いを使い果たしたこと、それでもやっぱり生き残ろうと粘っていたこと…全部を話した後、お母さんは静かにそう言った。
「バカみたいだよね、占いなんかに振り回されてさ」
私は笑ってみせたけど、お母さんは首を振って真剣な表情で私を見た。
「そんなことない」
お母さんは、少しだけ考えてから話し始めた。
「あのね、凛々。何が理由で悩んでいるかは、重要じゃないの。大切なのは、あなたが辛い思いをしているという事実だけよ。例え凛々以外の誰もが『そんな理由で悩むなんてくだらない』と言ったとしても。…凛々の気持ちや感じ方は凛々だけのものだから」
私はその言葉に驚いた。「そんなくだらないことで悩んでいたの?」とか「占いなんて当たるわけないでしょ」とか、言われると思っていたからだ。
「…頑張って死なないようにしてる凛々とは真逆だけど…」
お母さんは視線をそらすように、窓の外を眺めながら切り出した。
「お母さんは、凛々ぐらいの時、死にたくて仕方なかった」
えっ!という驚きの声を飲みこむ。早く続きを聞きたかったからだ。
「別にいじめられてたとか、受験に落ちたとかじゃないのよ?ただ、なんとなく苦しかったの。毎日学校のルールに縛られて、みんなに合わせておんなじように振る舞うのが…。そんなの甘えだって何度も自分に言い聞かせたわ。もっともっと苦しんでる人だっているって…例えば、戦争してる国に生まれた人もいれば、家が困窮しててご飯を満足に食べられない人もいる。だから、お母さんは贅沢だって思ったの」
私は黙ってうなずいた。お母さんも、私と同じような気持ちでいた頃があったんだ。
「でも、そう考えたからって、自分の気持ちが楽になるわけではなかった。…むしろ、人と比べて『自分のがマシ』って優越感に浸ってるみたいだって気付いて、落ち込んだの。ほら、江戸時代、士農工商の下にえたひにんっていう身分があったみたいに…」
「なんか話ズレてない?」
お母さんは社会科教師なのだ。
「…ゴメン」
「それで、お母さんはどうやって死にたい気持ちから抜け出せたの?」
「ある日、進路について考える授業があって、大人になったら今の自分みたいな子を助けられる人になりたいなって思ったの。そしたら、あんまりいろいろ気にならなくなった。勉強命って感じになって」
「…へ、へぇ…」
お母さん真面目だし思い込んだら一直線だからな。でも、「やりたいことを見つけた」っていうのは、私と一緒なのかな。私は買い物とかだから重みが違うかもしれないけど。
ふと気付くと、お母さんは体育座りになっていた。明らかにズーンという表情だ。
「どうしたの?」
「お母さんはそういう夢を抱いて教師になったのに、自分の娘が悩んでいるのに気付けなかったから、落ち込んでるの…」
「あはっ」
私は思わず笑ってしまう。
「気付いてくれたよ。だから今、家にいるんでしょ?」
時計を見たら、まだ四時だった。忙しいお母さんが平日のこの時間に私の部屋にいるなんて、本当に不思議な気分だ。
「気付くだけじゃダメ」
「えっ?」
「凛々、死の運命に抗うための作戦会議をするわよ!」
お母さんは昭和のアニメみたいに瞳に炎を宿してそう言った。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
伯爵令嬢のぼやき
ネコフク
恋愛
「違う、違うんだよなぁ・・・・・・」
目の前にいる相手に聞こえないくらいにつぶやきそっとため息を吐く。
周りから見るとたおやかに紅茶を飲む令嬢とバックに花を散らすように満面の笑みを浮かべる令息の光景が広がっているが、令嬢の心の中は・・・・・・
令嬢が過去に言った言葉が上手く伝わらなかった結果、こうなってしまったというお話。
たとえ夜が姿を変えても ―過保護な兄の親友は、私を逃がさない―
佐竹りふれ
恋愛
重なる吐息、耳元を掠める熱、そして——兄の親友の、隠しきれない独占欲。
19歳のジャスミンにとって、過保護な兄の親友・セバスチャンは、自分を子供扱いする「第二の兄」のような存在だった。
しかし、初めてのパーティーの夜、その関係は一変する。
突然降ってきた、深く、すべてを奪うような口づけ。
「焦らず、お前のペースで進もう」
そう余裕たっぷりに微笑んだセバスチャン。
けれど、彼の言う「ゆっくり」は、翌朝には早くも崩れ始めていた。
学内の視線、兄の沈黙、そして二人きりのアパート――。
外堀が埋まっていくスピードに戸惑いながらも、ジャスミンは彼が隠し持つ「男」の顔に、抗えない好奇心を抱き始める。
「……どうする? 俺と一緒に、いけないことするか?」
余裕の仮面を被るセバスチャンに、あどけない顔で、けれど大胆に踏み込んでいくジャスミン。
理性を繋ぎ止めようとする彼を、翻弄し、追い詰めていくのは彼女の方で……。
「ゆっくり」なんて、ただの建前。
一度火がついた熱は、誰にも止められない。
兄の親友という境界線を軽々と飛び越え、加速しすぎる二人の溺愛ラブストーリー。
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる