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DAY7-4 誰かにとって小さなこと
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「そう…それで最近元気がなかったのね」
占いを聞いて悩んだこと、アドバイスをもらいに行ったけど占い師はいなかったこと、ヤケクソでお小遣いを使い果たしたこと、それでもやっぱり生き残ろうと粘っていたこと…全部を話した後、お母さんは静かにそう言った。
「バカみたいだよね、占いなんかに振り回されてさ」
私は笑ってみせたけど、お母さんは首を振って真剣な表情で私を見た。
「そんなことない」
お母さんは、少しだけ考えてから話し始めた。
「あのね、凛々。何が理由で悩んでいるかは、重要じゃないの。大切なのは、あなたが辛い思いをしているという事実だけよ。例え凛々以外の誰もが『そんな理由で悩むなんてくだらない』と言ったとしても。…凛々の気持ちや感じ方は凛々だけのものだから」
私はその言葉に驚いた。「そんなくだらないことで悩んでいたの?」とか「占いなんて当たるわけないでしょ」とか、言われると思っていたからだ。
「…頑張って死なないようにしてる凛々とは真逆だけど…」
お母さんは視線をそらすように、窓の外を眺めながら切り出した。
「お母さんは、凛々ぐらいの時、死にたくて仕方なかった」
えっ!という驚きの声を飲みこむ。早く続きを聞きたかったからだ。
「別にいじめられてたとか、受験に落ちたとかじゃないのよ?ただ、なんとなく苦しかったの。毎日学校のルールに縛られて、みんなに合わせておんなじように振る舞うのが…。そんなの甘えだって何度も自分に言い聞かせたわ。もっともっと苦しんでる人だっているって…例えば、戦争してる国に生まれた人もいれば、家が困窮しててご飯を満足に食べられない人もいる。だから、お母さんは贅沢だって思ったの」
私は黙ってうなずいた。お母さんも、私と同じような気持ちでいた頃があったんだ。
「でも、そう考えたからって、自分の気持ちが楽になるわけではなかった。…むしろ、人と比べて『自分のがマシ』って優越感に浸ってるみたいだって気付いて、落ち込んだの。ほら、江戸時代、士農工商の下にえたひにんっていう身分があったみたいに…」
「なんか話ズレてない?」
お母さんは社会科教師なのだ。
「…ゴメン」
「それで、お母さんはどうやって死にたい気持ちから抜け出せたの?」
「ある日、進路について考える授業があって、大人になったら今の自分みたいな子を助けられる人になりたいなって思ったの。そしたら、あんまりいろいろ気にならなくなった。勉強命って感じになって」
「…へ、へぇ…」
お母さん真面目だし思い込んだら一直線だからな。でも、「やりたいことを見つけた」っていうのは、私と一緒なのかな。私は買い物とかだから重みが違うかもしれないけど。
ふと気付くと、お母さんは体育座りになっていた。明らかにズーンという表情だ。
「どうしたの?」
「お母さんはそういう夢を抱いて教師になったのに、自分の娘が悩んでいるのに気付けなかったから、落ち込んでるの…」
「あはっ」
私は思わず笑ってしまう。
「気付いてくれたよ。だから今、家にいるんでしょ?」
時計を見たら、まだ四時だった。忙しいお母さんが平日のこの時間に私の部屋にいるなんて、本当に不思議な気分だ。
「気付くだけじゃダメ」
「えっ?」
「凛々、死の運命に抗うための作戦会議をするわよ!」
お母さんは昭和のアニメみたいに瞳に炎を宿してそう言った。
占いを聞いて悩んだこと、アドバイスをもらいに行ったけど占い師はいなかったこと、ヤケクソでお小遣いを使い果たしたこと、それでもやっぱり生き残ろうと粘っていたこと…全部を話した後、お母さんは静かにそう言った。
「バカみたいだよね、占いなんかに振り回されてさ」
私は笑ってみせたけど、お母さんは首を振って真剣な表情で私を見た。
「そんなことない」
お母さんは、少しだけ考えてから話し始めた。
「あのね、凛々。何が理由で悩んでいるかは、重要じゃないの。大切なのは、あなたが辛い思いをしているという事実だけよ。例え凛々以外の誰もが『そんな理由で悩むなんてくだらない』と言ったとしても。…凛々の気持ちや感じ方は凛々だけのものだから」
私はその言葉に驚いた。「そんなくだらないことで悩んでいたの?」とか「占いなんて当たるわけないでしょ」とか、言われると思っていたからだ。
「…頑張って死なないようにしてる凛々とは真逆だけど…」
お母さんは視線をそらすように、窓の外を眺めながら切り出した。
「お母さんは、凛々ぐらいの時、死にたくて仕方なかった」
えっ!という驚きの声を飲みこむ。早く続きを聞きたかったからだ。
「別にいじめられてたとか、受験に落ちたとかじゃないのよ?ただ、なんとなく苦しかったの。毎日学校のルールに縛られて、みんなに合わせておんなじように振る舞うのが…。そんなの甘えだって何度も自分に言い聞かせたわ。もっともっと苦しんでる人だっているって…例えば、戦争してる国に生まれた人もいれば、家が困窮しててご飯を満足に食べられない人もいる。だから、お母さんは贅沢だって思ったの」
私は黙ってうなずいた。お母さんも、私と同じような気持ちでいた頃があったんだ。
「でも、そう考えたからって、自分の気持ちが楽になるわけではなかった。…むしろ、人と比べて『自分のがマシ』って優越感に浸ってるみたいだって気付いて、落ち込んだの。ほら、江戸時代、士農工商の下にえたひにんっていう身分があったみたいに…」
「なんか話ズレてない?」
お母さんは社会科教師なのだ。
「…ゴメン」
「それで、お母さんはどうやって死にたい気持ちから抜け出せたの?」
「ある日、進路について考える授業があって、大人になったら今の自分みたいな子を助けられる人になりたいなって思ったの。そしたら、あんまりいろいろ気にならなくなった。勉強命って感じになって」
「…へ、へぇ…」
お母さん真面目だし思い込んだら一直線だからな。でも、「やりたいことを見つけた」っていうのは、私と一緒なのかな。私は買い物とかだから重みが違うかもしれないけど。
ふと気付くと、お母さんは体育座りになっていた。明らかにズーンという表情だ。
「どうしたの?」
「お母さんはそういう夢を抱いて教師になったのに、自分の娘が悩んでいるのに気付けなかったから、落ち込んでるの…」
「あはっ」
私は思わず笑ってしまう。
「気付いてくれたよ。だから今、家にいるんでしょ?」
時計を見たら、まだ四時だった。忙しいお母さんが平日のこの時間に私の部屋にいるなんて、本当に不思議な気分だ。
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