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A day after the day-2 占い師のアイスクリーム②
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夕方のアイスクリームショップは、驚くほどすいていた。いつもならこの時間帯は、学校帰りの高校生ですごく混んでいるのに。
「何にしよっかな~♪うーん、うーん、イチゴもいいし、チョコも捨てがたい…あっ!ドラえもんとコラボしてるじゃん!あたし、このすっごい青いアイスをシングルのコーンでお願いします。」
オーダーの仕方。
店員さんはくすくす笑ないながらアイスクリームをすくっている。
「あなたは何にする?なんでもいいよ!」
占い師はニコニコしながらメニューを指さした。
「じゃあ、キャラメルリボンをトリプルで!あ、カップでお願いします」
「よくばり」
「なんでもいいって言ったじゃないですか。ダメなんですか」
「ダメじゃないよ。欲は生きる原動力だからね」
その言葉にドキッとして、私は詳しく聞きたくなった。でも、店員さんの「おまたせしました」という言葉でタイミングを失ってしまう。
「おいし~い」
店内のイートインスペースに向かい合って座るとすぐ、占い師はすっごい青いアイスに思い切りかぶりついた。かき氷を食べた後の舌みたいに、唇が青く染まっている。なんて残念な美人なんだ。
私もキャラメルリボンを口に運ぶ。名前のとおり、あまーいキャラメルの味がリボンみたいに口のなかでほどけていく。食べたいと思いながら死んでしまうと思っていたから、感動もひとしおで、私は夢中になってパクパク食べた。
「…この一週間は、何してたの?」
占い師は目を少しふせながら、短く質問をした。にくたらしいくらい長いまつげが頬に影を落としている。
私は順を追って正直に話す。最初は占いを信じてないけど気になって怖くなってしまったこと、なんとか生き残れないかアドバイスをもらいにいったこと、もう投げやりで遊びまくってお小遣いを使い果たしたこと。そして、最後の日はなんとか生き残ろうとあがいて、両親も協力してくれたことまで話した。
「そっかぁ。濃い一週間だったねぇ」
「本当ですよ!アドバイスがもらえたらこんなことになっていなかったのに!」
私はあの日現れた酔っ払いに怒りを感じた。
「まぁでも、あたしがアドバイスしたとしてもおんなじだったよ」
「どういうことですか?」
占い師はフフ、と笑い、私の食べかけのアイスを指さした。
「あなたってさ、とっても潔いよね。アイスの種類、すぐ決めたじゃん。あたしならあれもこれも食べたいなって迷うし、トリプルにするなら味を変えるよ」
「…ダメですか?」
「ダメなんかじゃないよ。ただ、生きるか死ぬかっていう大きな決断をする時にはもっと、うだうだうだうだ悩んで欲しいってだけ」
やっぱり、私が橋から飛び降りようとしてたこと、この人は気付いていたんだ。
「ううん、違うな。悩んで欲しいんじゃない。死にたいなとか死のうかなって思うような時にはさ、ひとまずそのことを考えないようにして、たくさん眠ったり遊びまくったりしてほしい。お買い物とか、ゲームとか、好きなことして」
私はうなずく。
「そしたらさ、もっと遊びたいなとかもっと食べたいなとか、この本の続きが出るまで生きてようかなっていう、新しい希望が生まれてくるんだよ」
占い師は話しながらごそごそとカバンを漁り始めた。何してるんだろうと思ったら、私にティッシュを差し出してきた。全然気づかなかったけど、私はいつの間にか泣いていたらしい。
「そうやって、命をつないでね」
私は「命をつなぐ」という言葉にハッとした。
今すぐ死にたいと思ってたあの日、橋から飛び降りちゃってたら終わってた。
でも、「一週間後に死ぬ」と言われたら、不思議とすぐに死ぬ気にならなかった。そして、死ぬことが怖くなった。
「…ぅぐ…ありがと…」
「うんうん、いいよいいよ。…だからね、あたしは『いっぱい眠りなよ』とか『いっぱい遊んじゃいなよ』ってアドバイスするつもりだったんだ。言われなくても自分で正解にたどり着けたなんてすごい。がんばったね」
占い師はいつの間にか私の隣に来ていて、優しく背中をさすってくれた。
「………っ」
言いたいことがたくさんあるのに、全然言葉にならない。
あの日、死のうとしたのを止めてくれてありがとう。
「一週間後に死ぬ」って言って、死ぬことがどういうことなのか、考える時間をくれてありがとう。
今、話をしてくれてありがとう。
大好きなアイスを食べさせてくれてありがとう。
「………っうぐ、あり、ありが…」
「別に言葉にしなくてもいいよ。あたしはちゃんと、あなたの気持ちを受け取ったよ」
占い師はそういうと、私の頭を肩にのせてくれた。
なんの香りなのかな?
お花と、いつも飲んでるアールグレイみたいな柑橘系のにおい。
不思議なこの人にぴったりな香りは、私の心を次第に落ち着かせてくれた。
「溶けちゃった」
泣き止むと、キャラメルリボンの残りはとろりと柔らかい液状になっていた。マーブル状の模様は、まるで人生の幸不幸みたいに見える。幸せと不幸せはめちゃくちゃに入り組んでいて、いつもハッピーではいられない。
だけど、幸せがあるから頑張れる。
嬉しいこと、楽しいことを求めて生きられるんだ。
「無理して食べなくてもいいよ…ってわぁ!」
私は大きなカップをあおって、溶けたアイスをごくごく飲んだ。
占い師は「やっぱり潔いよね」と言って笑った。
アイスクリームショップを出ると、占い師は「じゃあまたね」と言って手を振った。私はまたすぐに会いに行きたいなと思う。今度は恋愛とか占ってもらいたいな、お礼に何かお菓子持って行ったら喜んでくれるかな、なんて考えながら。
だけど、その後何回紅葉橋に行っても、占い師に会えることはなかった。
アイスクリームを食べるたびに、いつかまたあの人に会いたいなと思う。
きっと、一生、そう思うだろう。 それもまた、私の命をつなぐ理由の一つだ。
「何にしよっかな~♪うーん、うーん、イチゴもいいし、チョコも捨てがたい…あっ!ドラえもんとコラボしてるじゃん!あたし、このすっごい青いアイスをシングルのコーンでお願いします。」
オーダーの仕方。
店員さんはくすくす笑ないながらアイスクリームをすくっている。
「あなたは何にする?なんでもいいよ!」
占い師はニコニコしながらメニューを指さした。
「じゃあ、キャラメルリボンをトリプルで!あ、カップでお願いします」
「よくばり」
「なんでもいいって言ったじゃないですか。ダメなんですか」
「ダメじゃないよ。欲は生きる原動力だからね」
その言葉にドキッとして、私は詳しく聞きたくなった。でも、店員さんの「おまたせしました」という言葉でタイミングを失ってしまう。
「おいし~い」
店内のイートインスペースに向かい合って座るとすぐ、占い師はすっごい青いアイスに思い切りかぶりついた。かき氷を食べた後の舌みたいに、唇が青く染まっている。なんて残念な美人なんだ。
私もキャラメルリボンを口に運ぶ。名前のとおり、あまーいキャラメルの味がリボンみたいに口のなかでほどけていく。食べたいと思いながら死んでしまうと思っていたから、感動もひとしおで、私は夢中になってパクパク食べた。
「…この一週間は、何してたの?」
占い師は目を少しふせながら、短く質問をした。にくたらしいくらい長いまつげが頬に影を落としている。
私は順を追って正直に話す。最初は占いを信じてないけど気になって怖くなってしまったこと、なんとか生き残れないかアドバイスをもらいにいったこと、もう投げやりで遊びまくってお小遣いを使い果たしたこと。そして、最後の日はなんとか生き残ろうとあがいて、両親も協力してくれたことまで話した。
「そっかぁ。濃い一週間だったねぇ」
「本当ですよ!アドバイスがもらえたらこんなことになっていなかったのに!」
私はあの日現れた酔っ払いに怒りを感じた。
「まぁでも、あたしがアドバイスしたとしてもおんなじだったよ」
「どういうことですか?」
占い師はフフ、と笑い、私の食べかけのアイスを指さした。
「あなたってさ、とっても潔いよね。アイスの種類、すぐ決めたじゃん。あたしならあれもこれも食べたいなって迷うし、トリプルにするなら味を変えるよ」
「…ダメですか?」
「ダメなんかじゃないよ。ただ、生きるか死ぬかっていう大きな決断をする時にはもっと、うだうだうだうだ悩んで欲しいってだけ」
やっぱり、私が橋から飛び降りようとしてたこと、この人は気付いていたんだ。
「ううん、違うな。悩んで欲しいんじゃない。死にたいなとか死のうかなって思うような時にはさ、ひとまずそのことを考えないようにして、たくさん眠ったり遊びまくったりしてほしい。お買い物とか、ゲームとか、好きなことして」
私はうなずく。
「そしたらさ、もっと遊びたいなとかもっと食べたいなとか、この本の続きが出るまで生きてようかなっていう、新しい希望が生まれてくるんだよ」
占い師は話しながらごそごそとカバンを漁り始めた。何してるんだろうと思ったら、私にティッシュを差し出してきた。全然気づかなかったけど、私はいつの間にか泣いていたらしい。
「そうやって、命をつないでね」
私は「命をつなぐ」という言葉にハッとした。
今すぐ死にたいと思ってたあの日、橋から飛び降りちゃってたら終わってた。
でも、「一週間後に死ぬ」と言われたら、不思議とすぐに死ぬ気にならなかった。そして、死ぬことが怖くなった。
「…ぅぐ…ありがと…」
「うんうん、いいよいいよ。…だからね、あたしは『いっぱい眠りなよ』とか『いっぱい遊んじゃいなよ』ってアドバイスするつもりだったんだ。言われなくても自分で正解にたどり着けたなんてすごい。がんばったね」
占い師はいつの間にか私の隣に来ていて、優しく背中をさすってくれた。
「………っ」
言いたいことがたくさんあるのに、全然言葉にならない。
あの日、死のうとしたのを止めてくれてありがとう。
「一週間後に死ぬ」って言って、死ぬことがどういうことなのか、考える時間をくれてありがとう。
今、話をしてくれてありがとう。
大好きなアイスを食べさせてくれてありがとう。
「………っうぐ、あり、ありが…」
「別に言葉にしなくてもいいよ。あたしはちゃんと、あなたの気持ちを受け取ったよ」
占い師はそういうと、私の頭を肩にのせてくれた。
なんの香りなのかな?
お花と、いつも飲んでるアールグレイみたいな柑橘系のにおい。
不思議なこの人にぴったりな香りは、私の心を次第に落ち着かせてくれた。
「溶けちゃった」
泣き止むと、キャラメルリボンの残りはとろりと柔らかい液状になっていた。マーブル状の模様は、まるで人生の幸不幸みたいに見える。幸せと不幸せはめちゃくちゃに入り組んでいて、いつもハッピーではいられない。
だけど、幸せがあるから頑張れる。
嬉しいこと、楽しいことを求めて生きられるんだ。
「無理して食べなくてもいいよ…ってわぁ!」
私は大きなカップをあおって、溶けたアイスをごくごく飲んだ。
占い師は「やっぱり潔いよね」と言って笑った。
アイスクリームショップを出ると、占い師は「じゃあまたね」と言って手を振った。私はまたすぐに会いに行きたいなと思う。今度は恋愛とか占ってもらいたいな、お礼に何かお菓子持って行ったら喜んでくれるかな、なんて考えながら。
だけど、その後何回紅葉橋に行っても、占い師に会えることはなかった。
アイスクリームを食べるたびに、いつかまたあの人に会いたいなと思う。
きっと、一生、そう思うだろう。 それもまた、私の命をつなぐ理由の一つだ。
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