辺境追放された「植物魔導師」の領地開拓 ~枯れ果てた死の大地は、俺の魔力で聖域(楽園)へと変貌する~

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第一章:エルフの聖女と、生きてる家

第十節:神域の完成、そして新たなる旅路へ

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​ それは、世界が「息を止めた」瞬間だった。
​ デス・バレーの夜空が、突如として不吉な漆黒に塗り潰された。星々は消え、心地よかった世界樹の燐光さえも、上空から降りてきた重苦しい「負の魔力」に押し潰されていく。
 アルトは世界樹の最上層で、その黒い渦を見つめていた。
​「……ついに、禁忌の扉を開けてしまったか」
​ 彼の呟きと共に、大地が震えた。
 北の空――帝国の方向から、生命を拒絶する「死の風」が吹き荒れる。それは植物を枯らし、土を砂に変え、生きる者の魂を凍らせる、終末の呪い。
 皇太子レオンが、自らの身を代償に召喚した古代の破壊神の欠片、『終末の黒炎(ラグナロク・フレア)』だ。
​「アルト様! あれは……普通の魔法ではありません! 周囲の精霊たちが、恐怖で消滅しています!」
​ 駆けつけたシエラが、震える声で叫んだ。
 収穫祭を楽しんでいた数千の民も、空を覆う絶望に気づき、悲鳴を上げている。逃げ場はない。あの黒い炎が地上に降り注げば、アルトが築き上げた楽園は一瞬で灰燼に帰し、世界樹さえも死に絶えるだろう。
​ だが、アルトは動じなかった。
 彼はゆっくりと世界樹の幹に両手を当て、静かに、だが深く、自らの深淵にある魔力を解放した。
​「……今まで、ずっと抑えてきた。この星の地脈が耐えられないと思っていたからね。でも、あんな『汚物』を放り込まれるくらいなら、今ここで目醒めてもらったほうがいい」
​ アルトの瞳が、黄金色に輝く。
 それは人間のものではなく、大地の意思そのものが宿った光。
​「――神域展開。始源の楽園(エデン・オリジン)、全機能開放」
​ 次の瞬間。
 デス・バレー全体を覆うように、巨大な「光のドーム」が出現した。
 ドームを構成しているのは、魔力そのものが物理化した数兆の「光の種子」。
 上空から降り注ぐ黒い炎が、ドームに触れた瞬間――激しい衝突音を立てるかと思いきや、信じられない光景が広がった。
​ 黒い炎は、ドームに触れたそばから「吸収」され、純白の「雪」へと変換されていったのだ。
​「……え?」
​ シエラは呆然とそれを見ていた。
 世界を滅ぼすはずの呪いが、アルトが展開した領域に触れることで、ただの「栄養(魔力)」に還元され、世界樹を育むための粉雪へと姿を変えている。
​「どんなに強い毒も、分解してしまえば最高の堆肥だ。……レオン殿下、君が送ってくれたこの膨大なエネルギー、無駄にはしないよ」
​ アルトが右手を空へと掲げる。
 すると、世界樹の枝が急速にうねり、空を覆う黒い渦へと向かって伸びていった。
 枝の先には、漆黒を飲み込むための巨大な「捕食花」が次々と咲き乱れ、帝国が放った呪いの全てを文字通り「食い尽くして」いく。
​ 空から闇が消え、再び月光が差し込んだ。
 しかし、そこにあったのは以前と同じ夜空ではなかった。
 
 世界樹は、今やその高さを数千メートルにまで伸ばし、枝葉はデス・バレーという枠を超えて、大陸の空全域を覆わんばかりに広がっている。
 樹の幹からは、もはや物理的な植物を超越した「神聖なオーラ」が溢れ出し、周囲の民の傷を癒やし、不安を取り除いていった。
​「……これが、神域。アルト様、貴方は本当に……」
​「ただの庭師さ。少し、庭を広くしすぎたかもしれないけどね」
​ アルトはそう言って笑ったが、その表情には決意が滲んでいた。
 
 一方その頃。
 帝国アステリアの儀式場で、レオンは自らの過ちを悟った。
 召喚したはずの破壊神の力が、何者かに強引に「奪われた」感覚。そして、自らが捧げた供物以上のものを、地脈を通じて「逆に吸い取られている」という絶望。
​「な……な……私の魔力が……帝国の魔力が、奪われていく……!?」
​ アルトが展開した「神域」は、攻め込んできた呪いの糸を辿り、その供給源である帝国へと魔力の逆流を開始していた。
 帝都にある全ての魔導具が機能を停止し、豪華な宮廷を照らしていた明かりが消える。
​「やめろ……やめてくれぇ! アルト! 貴様、何をするつもりだ!」
​ レオンの叫びに、大地を通じてアルトの声が返ってきた。
​『……レオン殿下。君たちには、しばらく「沈黙」をプレゼントしよう。君たちが奪い続けてきた大地の魔力を、本来あるべき姿に戻すだけだ。……さようなら、古い時代の人。』
​ 直後。
 アステリア帝国の周囲には、一夜にして「絶対不可侵の巨大な密林」が出現した。
 それは誰も入ることができず、誰も出ることもできない、巨大な檻。
 帝国は、世界から物理的に「隔離」されたのだ。彼らが犯した罪の代償を、自分たちが作り上げた閉鎖空間の中で償うために。
​ 夜が明け、新しい太陽の光がデス・バレーを照らした。
 そこにはもう、かつての「死の谷」の面影はどこにもない。
 雲を突き抜ける世界樹。その周囲には、豊かな水が流れる運河と、収穫を待つ奇跡の果実たちが並ぶ、世界で最も美しい「植物魔導国(フローラ・ドミニオン)」が完成していた。
​「アルト様。……帝国は隔離され、周辺諸国は貴方への忠誠を誓う書簡を送ってきています。……これから、どうなさるのですか?」
​ シエラが、アルトの隣に立って尋ねた。
 彼女の衣装は、アルトが世界樹の繊維を編んで作った、防御魔法と自己再生機能を持つ美しいエメラルドのドレスに変わっている。彼女は今や、この神域を司る「緑の聖女」として、人々の羨望の的となっていた。
​ アルトは、新しく出来上がったばかりの「空飛ぶ植物(プラント・シップ)」の苗を眺めながら答えた。
​「この国のことは、元魔導院長のゼノスさんたちに任せよう。彼はもう、僕の庭師としての修行に合格したからね。……僕は、少し出かけてくるよ」
​「出かける……? どこへですか?」
​「世界には、まだ帝国の呪いで枯れ果てた土地がたくさんある。それに、この世界樹をさらに高く育てるための『伝説の七種』を探しに行かなくちゃならない。……シエラ。君も、一緒に来てくれるかい?」
​ アルトが差し出した手。
 シエラは一瞬、驚きに目を見開いたが、すぐに満面の笑みを浮かべてその手を取った。
​「もちろんです、アルト様。貴方の行くところが、私の故郷ですから」
​ 二人は、大きな花の形をした浮遊船に乗り込み、まだ見ぬ空の向こうへと旅立った。
 
 地上では、残された人々が彼らの旅路を祝福するように、世界樹の下で新しい祭りを始めていた。
 地味だと蔑まれた「植物魔法」が、世界を救い、新しい時代の種を蒔いた。

第一章 完
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