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第1層 出会い
第2話 異世界からの接続
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市庁舎の地下から地上へ上がると、足は自然と換金所へ向かった。
ダンジョン課の隣にある小さな窓口――市が運営し、魔石と素材を現金化できる安全な場所だ。
薄橙の夕日がガラスに映り、待合の床には長い影が延びていた。
壁には「魔石の取り扱いにご注意ください」と、少し事務的な注意書き。
列に並び、ポケットから魔石を出してトレイに並べる。
受付の職員は慣れた手つきで一つひとつを検分し、端末に金額が積み上がっていく。
「スライム由来の魔石、12個ですね。合計で……3,960円です」
金額は現実的だ。派手さはないが、確かに積み上がっていく数字。
時給換算すれば、コンビニよりずっといい――それが、俺が探索を“副業”にしている理由だ。
魔石の価値はモンスターの強さと純度に比例する。
スライムは最弱クラス。だから安い。
それでも、戦って稼ぐのは、ちょっとした達成感がある。
「ありがとうございます。またのご利用を」
現金を財布へしまい、沈みかけた太陽の下をゆっくり歩く。
石造りの第1層での手応えが、指先にまだ微かに残っていた。
* * *
家に帰ると、ちょうど夕食の時間だった。
じいちゃん、ばあちゃん、両親、兄2人――いつもの顔が食卓を囲み、俺の席だけが空いている。
味噌汁の香り、テレビのニュース、箸の小さな音。
そのどれもが、安心できる音だった。
「おかえり、ナオヤ。今日は遅かったね」
母さんが味噌汁をよそいながら言う。
俺は「ただいま」と言って席に座った。
「ダンジョンか? 最近よく行ってるな」
長兄が言う。
社会人になった今は通っていないが、大学時代にはダンジョンに通っていた経験者だ。
「うん、スライム退治。ちょっと稼げた」
「レベルは?」
「2。結構体の調子いいんだよね。兄ちゃんは?」
「同じ2だ。大学の頃は週末に通って上げたけど、就職してからは行ってない」
「あ、2だったんだ。んじゃ俺と同じか」
「あぁ、2でも十分役に立つしな。2以上は結構時間かけないと難しいだろ。就職活動もあったしさ」
母さんがふと箸を止めて言った。
「そういえば、良太もダンジョン行ってたのに怪我してなかったわよね」
「何度か打ち身はあったけど、ケガはダンジョン出ると治るからね」
「えっ、あら、そうだったの?」
「そうだよ、ニュースでも散々やってるじゃん。
ダンジョンから出れば全部元通りになる。傷も、服の破れも。まるで巻き戻しみたいな感じ。まぁでも痛いのは痛いんだよね」
「そうなの、直哉も気をつけなさいよ」
「うん、まだ第1階層だから安全だよ。でも俺は第2階層とかそれ以上も行ってみたいんだよね」
「ケガは治るし、死んでも生き返るとは言うけど、気をつけろよ」
「そういえば兄ちゃんは死んだことあるの?」
「いや、ない。俺は第1階層しか行ってないから、ケガしても打ち身程度だったしな。でも友達で第2階層に行ったことあるやつがいてさ。一度行って大けがして、それからもうダンジョン行かなくなってたな」
「ニュースでもトラウマになる人がいるってやってたよね」
ばあちゃんが茶碗を手にしながらうなずいた。
「昔はそんなのなかったのにねぇ。今の若い子は大変だよ」
「ばあちゃん、ダンジョンは昔からあるよ。制度が整ったのが最近なだけ」
「そうなの? でも、死んでも生き返るって、なんだか不思議ねぇ」
「実際、死ぬわけじゃないからね。意識が飛んで、転送されるだけ。体は無傷で戻ってくる」
「でも、痛みはあるんでしょ?」
「あるある。俺も1回、スライムに跳ね飛ばされて背中打ったときは、しばらく動けなかった」
「それでも、外に出たら治るのよね?」
「うん。ダンジョンの外に出た瞬間、全部リセットされる。打ち身も、擦り傷も、服の破れも。まるで何もなかったみたいになる」
「それって、魔法みたいね」
「いまだに原理は不明みたいだけど、ダンジョンはそういうもんなんだってさ。」
家族の会話は、ダンジョンも日常の延長だと教えてくれる。
怪我は治る。死んでも転送される――そういう“ルール”が、もう当たり前になっている。
「でも、気をつけなさいよ」
母さんがそっと味噌汁を差し出してくれた。
「うん。まだ第1層だから安全だよ。でも、第2層やその先も行ってみたい」
* * *
夕食を終え、風呂に入って、部屋に戻る。
スマホでステータスを確認する。
レベル:2
体力:13
筋力:12
敏捷:12
器用:11
知力:10
少しずつ、だけど確実に上がっている。
朝の目覚めは良くなり、疲労の抜けも早い。授業中の眠気も減った。
俺の身体は、目に見えない何かで、少しずつ整えられている――そんな実感。
「……まあ、悪くない」
そのとき――
頭の奥で、澄んだ声が響いた。
『最適化5%完了しました。初期接続に成功。疑似人格を起動します』
「……え、誰? 脳内に住んでる系?」
『私は魔導士《エルド・フェルミナ》によって作成された、疑似人格サポートアイテムです』
「フェルミナって誰だよ。魔導士って、ファンタジーかよ」
『はい、そうです。正確にはアル・テラス大陸における高位魔導士です』
「はい、そうですって。ってか、アル・テラス大陸って何よ!?」
『状況から判断するに、こことは違う位相に存在している世界だと考えられます』
「……異世界的な?」
『端的に言えばそうです。あなたが私に触れ、承認したため、同化が成立しました』
「……承認?」
『はい、承認です。名前を名乗ったことで同意したとみなしました』
「確かに名乗った気がするけど、あれって……夢じゃなかったの?」
『夢ではありません。あなたがどのようにアル・テラスに来たのかは不明ですが、私に接触した時点で、あなたは非常に不安定な魔力体の状態でした。
わかりやすく言えば、あなたの“意識だけ”が異世界に転移していたと考えられます』
記憶の霧が少し晴れる。あの路地裏、魔法道具屋、鎖で巻かれた黒い箱――。
半透明の自分の手。触れた瞬間の耳鳴り。
「え、俺の意識だけ異世界旅行してたの?」
『はい。魔力体だったことで、あなたは私に直接接触することができました』
「同化って、怖い言い方するな……俺、大丈夫?」
『疑似人格サポートシステムと同化することで、様々なサポートを受けることができます。
サポートの内容は基本的に身体能力の強化、環境への順応、免疫力の強化などがあげられます』
胸の鼓動が少し速くなる。
期待と不安が、小さくスパークする。
「それ、なんかRPGのバフみたいだな……。俺、リアルで強くなっちゃう系?」
『はい。あなたの身体能力は、今後の行動に応じて段階的に強化されていきます。
特に魔石の使用履歴や戦闘経験が蓄積されることで、より高い適応性が得られます』
「え、じゃあ俺がスライムを倒しまくったら、筋力とか上がるの?」
『正確には、戦闘時の動作解析をもとに、レベルアップ時の身体強化を最適化します。』
「つまりレベルアップするときのステータス上昇が人より多くなるってこと?」
『はい、そうです。』
「まじか、チートだ!」
『ただし、この世界の情報が不足しているため、支援は限定的になります。情報収集を承諾してください』
「それは別に勝手にやってくれていいけど。」
『ありがとうございます。』
「でもどうやるのさ?」
『あなたが手にしている板状の媒体――スマートフォン――を通じて、周囲の情報を取得します。現在この国の常識を学習中です。』
「えっ、もう? ってか俺のスマートフォンを通じてって、どういう意味?」
『その媒体を通すことで様々な情報が収集できるようですので、使用中です。』
「パスワードかかってたよな…?」
『あなたの日常行動から取得しました。』
「まじかよ、いつの間に!? ってかちょっと待った。やっぱり情報収集だめ!」
『なぜでしょうか。私の機能が発揮できません。』
「だって、変なことするんじゃないの?勝手にSNSに投稿とかしたりとかさ。」
『問題ありません。規定によりあなたのプライバシーは尊重されます。情報収集は最適化のために限定され、外部送信は行いません。』
「…………うーーーーん、わかった、許可する!でも変な検索履歴は残すなよ!」
『承知しました。情報収集を再開します。何かご要望はありますか?』
「じゃあ……ダンジョンのことについて調べてよ。第1階層の構造とか、モンスターの出現パターンとか」
『ありがとうございます。あなたの安全と成長を支援することが、私の存在意義です。』
直哉はスマホを机に置き、ベッドに背中を預けた。
頭の中にはまだ疑問が渦巻いていたが、それ以上に――何かが始まったという実感があった。
ダンジョン課の隣にある小さな窓口――市が運営し、魔石と素材を現金化できる安全な場所だ。
薄橙の夕日がガラスに映り、待合の床には長い影が延びていた。
壁には「魔石の取り扱いにご注意ください」と、少し事務的な注意書き。
列に並び、ポケットから魔石を出してトレイに並べる。
受付の職員は慣れた手つきで一つひとつを検分し、端末に金額が積み上がっていく。
「スライム由来の魔石、12個ですね。合計で……3,960円です」
金額は現実的だ。派手さはないが、確かに積み上がっていく数字。
時給換算すれば、コンビニよりずっといい――それが、俺が探索を“副業”にしている理由だ。
魔石の価値はモンスターの強さと純度に比例する。
スライムは最弱クラス。だから安い。
それでも、戦って稼ぐのは、ちょっとした達成感がある。
「ありがとうございます。またのご利用を」
現金を財布へしまい、沈みかけた太陽の下をゆっくり歩く。
石造りの第1層での手応えが、指先にまだ微かに残っていた。
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家に帰ると、ちょうど夕食の時間だった。
じいちゃん、ばあちゃん、両親、兄2人――いつもの顔が食卓を囲み、俺の席だけが空いている。
味噌汁の香り、テレビのニュース、箸の小さな音。
そのどれもが、安心できる音だった。
「おかえり、ナオヤ。今日は遅かったね」
母さんが味噌汁をよそいながら言う。
俺は「ただいま」と言って席に座った。
「ダンジョンか? 最近よく行ってるな」
長兄が言う。
社会人になった今は通っていないが、大学時代にはダンジョンに通っていた経験者だ。
「うん、スライム退治。ちょっと稼げた」
「レベルは?」
「2。結構体の調子いいんだよね。兄ちゃんは?」
「同じ2だ。大学の頃は週末に通って上げたけど、就職してからは行ってない」
「あ、2だったんだ。んじゃ俺と同じか」
「あぁ、2でも十分役に立つしな。2以上は結構時間かけないと難しいだろ。就職活動もあったしさ」
母さんがふと箸を止めて言った。
「そういえば、良太もダンジョン行ってたのに怪我してなかったわよね」
「何度か打ち身はあったけど、ケガはダンジョン出ると治るからね」
「えっ、あら、そうだったの?」
「そうだよ、ニュースでも散々やってるじゃん。
ダンジョンから出れば全部元通りになる。傷も、服の破れも。まるで巻き戻しみたいな感じ。まぁでも痛いのは痛いんだよね」
「そうなの、直哉も気をつけなさいよ」
「うん、まだ第1階層だから安全だよ。でも俺は第2階層とかそれ以上も行ってみたいんだよね」
「ケガは治るし、死んでも生き返るとは言うけど、気をつけろよ」
「そういえば兄ちゃんは死んだことあるの?」
「いや、ない。俺は第1階層しか行ってないから、ケガしても打ち身程度だったしな。でも友達で第2階層に行ったことあるやつがいてさ。一度行って大けがして、それからもうダンジョン行かなくなってたな」
「ニュースでもトラウマになる人がいるってやってたよね」
ばあちゃんが茶碗を手にしながらうなずいた。
「昔はそんなのなかったのにねぇ。今の若い子は大変だよ」
「ばあちゃん、ダンジョンは昔からあるよ。制度が整ったのが最近なだけ」
「そうなの? でも、死んでも生き返るって、なんだか不思議ねぇ」
「実際、死ぬわけじゃないからね。意識が飛んで、転送されるだけ。体は無傷で戻ってくる」
「でも、痛みはあるんでしょ?」
「あるある。俺も1回、スライムに跳ね飛ばされて背中打ったときは、しばらく動けなかった」
「それでも、外に出たら治るのよね?」
「うん。ダンジョンの外に出た瞬間、全部リセットされる。打ち身も、擦り傷も、服の破れも。まるで何もなかったみたいになる」
「それって、魔法みたいね」
「いまだに原理は不明みたいだけど、ダンジョンはそういうもんなんだってさ。」
家族の会話は、ダンジョンも日常の延長だと教えてくれる。
怪我は治る。死んでも転送される――そういう“ルール”が、もう当たり前になっている。
「でも、気をつけなさいよ」
母さんがそっと味噌汁を差し出してくれた。
「うん。まだ第1層だから安全だよ。でも、第2層やその先も行ってみたい」
* * *
夕食を終え、風呂に入って、部屋に戻る。
スマホでステータスを確認する。
レベル:2
体力:13
筋力:12
敏捷:12
器用:11
知力:10
少しずつ、だけど確実に上がっている。
朝の目覚めは良くなり、疲労の抜けも早い。授業中の眠気も減った。
俺の身体は、目に見えない何かで、少しずつ整えられている――そんな実感。
「……まあ、悪くない」
そのとき――
頭の奥で、澄んだ声が響いた。
『最適化5%完了しました。初期接続に成功。疑似人格を起動します』
「……え、誰? 脳内に住んでる系?」
『私は魔導士《エルド・フェルミナ》によって作成された、疑似人格サポートアイテムです』
「フェルミナって誰だよ。魔導士って、ファンタジーかよ」
『はい、そうです。正確にはアル・テラス大陸における高位魔導士です』
「はい、そうですって。ってか、アル・テラス大陸って何よ!?」
『状況から判断するに、こことは違う位相に存在している世界だと考えられます』
「……異世界的な?」
『端的に言えばそうです。あなたが私に触れ、承認したため、同化が成立しました』
「……承認?」
『はい、承認です。名前を名乗ったことで同意したとみなしました』
「確かに名乗った気がするけど、あれって……夢じゃなかったの?」
『夢ではありません。あなたがどのようにアル・テラスに来たのかは不明ですが、私に接触した時点で、あなたは非常に不安定な魔力体の状態でした。
わかりやすく言えば、あなたの“意識だけ”が異世界に転移していたと考えられます』
記憶の霧が少し晴れる。あの路地裏、魔法道具屋、鎖で巻かれた黒い箱――。
半透明の自分の手。触れた瞬間の耳鳴り。
「え、俺の意識だけ異世界旅行してたの?」
『はい。魔力体だったことで、あなたは私に直接接触することができました』
「同化って、怖い言い方するな……俺、大丈夫?」
『疑似人格サポートシステムと同化することで、様々なサポートを受けることができます。
サポートの内容は基本的に身体能力の強化、環境への順応、免疫力の強化などがあげられます』
胸の鼓動が少し速くなる。
期待と不安が、小さくスパークする。
「それ、なんかRPGのバフみたいだな……。俺、リアルで強くなっちゃう系?」
『はい。あなたの身体能力は、今後の行動に応じて段階的に強化されていきます。
特に魔石の使用履歴や戦闘経験が蓄積されることで、より高い適応性が得られます』
「え、じゃあ俺がスライムを倒しまくったら、筋力とか上がるの?」
『正確には、戦闘時の動作解析をもとに、レベルアップ時の身体強化を最適化します。』
「つまりレベルアップするときのステータス上昇が人より多くなるってこと?」
『はい、そうです。』
「まじか、チートだ!」
『ただし、この世界の情報が不足しているため、支援は限定的になります。情報収集を承諾してください』
「それは別に勝手にやってくれていいけど。」
『ありがとうございます。』
「でもどうやるのさ?」
『あなたが手にしている板状の媒体――スマートフォン――を通じて、周囲の情報を取得します。現在この国の常識を学習中です。』
「えっ、もう? ってか俺のスマートフォンを通じてって、どういう意味?」
『その媒体を通すことで様々な情報が収集できるようですので、使用中です。』
「パスワードかかってたよな…?」
『あなたの日常行動から取得しました。』
「まじかよ、いつの間に!? ってかちょっと待った。やっぱり情報収集だめ!」
『なぜでしょうか。私の機能が発揮できません。』
「だって、変なことするんじゃないの?勝手にSNSに投稿とかしたりとかさ。」
『問題ありません。規定によりあなたのプライバシーは尊重されます。情報収集は最適化のために限定され、外部送信は行いません。』
「…………うーーーーん、わかった、許可する!でも変な検索履歴は残すなよ!」
『承知しました。情報収集を再開します。何かご要望はありますか?』
「じゃあ……ダンジョンのことについて調べてよ。第1階層の構造とか、モンスターの出現パターンとか」
『ありがとうございます。あなたの安全と成長を支援することが、私の存在意義です。』
直哉はスマホを机に置き、ベッドに背中を預けた。
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