メサイアの灯火

ハイパーキャノン

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運命の舵輪編

絶対熱の極意

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 申し訳御座いません、先の話の前書きでお話させていただきました、“脳に付いての考察”なのですが、一部訂正がございます。

 “0.2%~0.3%の違い”、と言うのは動物と人間の脳みその違い、では無くて天才と凡人の(要するに人間同士の)、“脳を活用している領域の差”でした(更に言わせていただきますと“0.2%~0.3%の差”、では無くて実に“2%~3%の差”でした)、誠に申し訳御座いません。

 ちなみに動物の脳と人間のそれとでは、“似通った部分もあるモノの基本的に全く違う”のだそうです(先に述べさせていただきました通り、神経伝達系や大脳新皮質系統が、動物と比べて人間は特に発達しており、そしてその結果として愛や感情、言語、計算等の所謂(いわゆる)“高次元領域情報”とでも言うべきモノを処理できるようになっているのだとか)、ただし先程も言わせていただきました通り、常人はその脳の持つ本来の力の10%も生かすことが出来ていないそうです(うろ覚えで申し訳ないのですが確か、かの“アインシュタイン”をもってしても僅か13%程度だそうです)。

 ちなみに“霊能力者”ですとか“超能力者”と呼ばれる方々の脳を調べてみると脳波がΘ波=シータ波やγ波=ガンマ波、果てはδ波=デルタ波の領域まで活発化している事が解って来たのだそうです(ちなみにシータ波=Θ波とは、睡眠に入る時や麻酔投与時以外にも瞑想やヨガで極度に“集中”した際に表れる脳波とされています、即ち“集中力”こそが己の脳を活性化させると同時にその持てる肉体の力を最大限に発揮させうる要素、と現代科学でも見られているのです)。

 ではこれに対して“意識力”とは何なのか、と申しますとそのままの意味です、即ち“意識する力“であり、もっと解りやすく言ってしまいますと“己の感性が届く範囲、認識出来る領域全体”、“物事や存在を、認識出来る能力”そのものを指します。

 これは集中力とも密接に関わっているのですが普段、無意識的な内に人間は“自分自身を認識”、即ち“意識”して生きていますし(“生”を認識しているわけです、そしてだからこそ私達は生きて行く事が出来るわけです)、またそれ以外にも外からの刺激に対して“これは何々だ”と認識して判断を下していますが要するに物事を感じて認識する力こそが“意識力”なわけです。

 これが高まりますと所謂(いわゆる)“超能力的な世界”ですとか“見えない世界”とも繋がる事が出来るようになります(そう言う世界を認識して、感じ取る事が出来るようになるからです)、そして更に言わせていただきますと、そう言った世界に働く“波動”、もしくは“事象の力”と言ったモノを理解する事が出来た人だけが“霊能力”ですとか“超能力”、もしくは“魔法の力”と言ったモノを発現させる事が出来るようになるのです(例えば己の中に眠っている無意識的な力、なんかがその最たるモノです。それを感じて“自分にはこう言う力があるんだ”と理解、認識するからこそ、その“秘めたる力”を解放して使うことが出来るようになるのですが、ただしその為には意識をクリアな状態にして己の根源へと向け、そこに“集中”させなければなりません。雑念があると意識が散ってしまい、集中力を発揮させる事が出来ませんから)。

 そう言った意味でもやはり、脳波、集中力、そして意識力と言うのは非常に大切な事なのです。

 それともう一つ、前に“存在するモノと言うのは全て、大いなる宇宙の源から生まれ出でたる、それぞれがそれぞれたるに相応しい、そして最もバランスの取れている最高の愛の形、結晶であり、そしてだからこそそれらは必ずや保たれなければならない、守られなければならない”と言う話をさせていただきましたが、これに付随する事としてとても大切な教えをここ、日本において見付けました。

 それこそが我が国に古来より伝わる、“神々から伝わりし人として自覚するべき心構え”とでも言うべきモノでありその名を“アマツツミ”、“クニツツミ”と申します。

 この内まずは、アマツツミの方から見ていきますと、こちらは主に、人として生きてゆく為の心構えが述べられております。

 例えを申しますと、“他人が精魂込めて開墾した水田を乱暴に踏み荒らしてはならない”ですとか、または“他人が苦労して引いてきた水田の水を勝手に持ち出してはならない”、もう一つ挙げさせていただきますと“他人が必死になって作り上げた畔道(あぜみち)を軽々しく破壊してはならない”と言った事が書かれています(現代風に訳しますと、要するに“他人が苦労して得た成果を不当な手段で奪い取ってはならない”、“他人の大事にしているモノを土足で踏み躙ってはならない”、と言うことになろうかと思われます)。

 そして次に“クニツツミ”に付いてなのですが、こちらには主に“やってはいけない事”が書かれているのですが、その中の一文に、“親子は互いに犯し合ってはならぬ”、“獣と交わってはならぬ”とハッキリと定められているのです。

 この事を見ても神々様もそれぞれの存在が存在するにおいて最高の愛の形、バランスを取っている(もしくは宇宙から与えられている)、そして本来ならば人間とは、その持って生まれた至高の愛と比類無き霊性とを自覚、発揮しながら生きるべきである、そしてそれらを顕現して行く存在である、と言う事を知っていらしたのでは無いか、と思われます(と言うよりも我々よりも神々の方が遥かに宇宙の根源、真理に親しい存在であらせられますので、当たり前と言えば当たり前なのですが)。
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 メリアリアの祖先は古くはリュディア王国の首都“サルディス”、もしくは古代ギリシアにおいて高位の神官、巫女を務めており、その尊貴で霊妙なる血筋の持つ力は、時代が下っても些かも衰えたりするモノでは無かった、現にガリアにやって来るまでは彼女の実家は“アルヴの山々”を隔てた隣国“エトルリア”において代々、“宮廷魔術師”として“王権の一族”に仕え続けておりその高い霊力を駆使して法術を操っては彼等を、そして己自身を数々の難敵や厄災から守り抜いて来たのだ、そしてー。

 彼女の父親である“ダーヴィデ”(ダヴィデ:イタリア語で“寛大な人”、“偏見の無い人”、“人道主義者”と言う意味を持つ)の代になった時に所謂(いわゆる)“内ゲバ”、つまりは宮廷内における権力闘争が勃発してしまい、このまま行けば共倒れになることが解っていた為に一族の主立った者達を引き連れて知り合いのいた隣国、“ガリア帝国”の帝都“ルテティア”へと引っ越して来たのだった。

 この時、メリアリアは僅か2歳でありまだ物心も付く前の出来事だったから、詳細は覚えていないものの、それでも彼女に本格的な自我が芽生え、人としての認識、意識が覚醒する頃になるとメリアリアは普通ガリア語を話す事の出来る、可憐で愛らしい女の子になっていた(ちなみに上記の理由から彼女はちょっとしたエトルリア語も話すことが出来る)、そんな彼女が。

 4歳になった頃から、早くも己の娘に先天的な魔法の才能を見出した両親は早速、稽古を付ける事を始めた、“鉄は真っ赤に焼けている内に打て!!”が信条のダーヴィデ達はそれほど(例えば蒼太の父親である清十郎のように)苛烈な態度で娘に臨んだりはしなかったモノの、しかしやはり厳しい一面を見せる事もあって、そんな時メリアリアはだけど、その場では決して泣かなかった、彼女は基本的に、人前で涙や弱さを見せることは無かったのである。

 唯一の例外だったのが蒼太と言う少年であり、彼の前でだけはメリアリアは素直な少女のままでいることが出来たのだが(それでも泣き顔を見せたりや弱音を吐いたりと言った事は、数える程しか無かったのだが)、ではそれ以外ではどうしていたのか、と言うと、彼女は自分の部屋や屋敷の庭の木の陰等で、声を殺して泣いていた、本当に辛くてどうしようも無い時、悲しくて耐えられない時などはそうやって嗚咽と慟哭とを涙に変えて、ソッと外へと向けて排出していたのであるモノの、その一方でメリアリアは別段、両親のことを悪く言ったり思ったりはしなかった、彼女が一度で学を極められなくとも、ダーヴィデも、そしてその妻であり彼女の母親でもあった“ベアトリーチェ”(“喜びを運ぶ者”と言う意味)も決して彼女に対して理不尽に当るような事はしなかったし、出来るまでキチンと辛抱強く自身に向き合ってくれていたからだ。

 それに、普段の彼等はとても優しくて暖かかった、高い魔術の腕と見えざる世界に対する認識を持ち、かつ優れた人格者でもあったダーヴィデとベアトリーチェは忙しい中でもそれでも、親としての思いっきりの愛情を注いでメリアリアを育て、見守ってくれていたし、また両親が共働きで互いに宮廷魔術師を務めていただけあってメリアリアの家はそれなりに裕福であり、流石に巨大とまでは行かないまでも、それでもやや広い面積を誇る庭付きの、それも最新鋭の建築技法で建てられていた鉄筋コンクリート3階建ての立派な邸宅に住んでおり、そこに執事や家令、メイドと言った使用人達も加わってみんなで本当の家族のように一緒に生活を送っていたのである。

 そんな彼女の魔法の腕前は“セラフィム”に入学して以降、もっと言ってしまえば7歳位を境目にして面白いように上達していったのだがその根底にあったのが、新しく出来た幼馴染にしてボーイフレンドである“綾壁蒼太”と言う少年の存在だった、まだ彼への思いや自身の気持ちを理解していなかったメリアリアにとってはそれでも、蒼太と過ごす時間は何ものにも代え難いほどに貴重で大切なモノであり、かつ自分の心の奥底に秘されていた、少女としての本当の輝きを十全に発揮させてくれる瞬間だったのだが、それと同時に。

 彼女の心にある明確な一つの思いが、確かな渦を巻き始めたのであるモノの、それは“蒼太に置いて行かれたくない”と言う、必死なまでのそれだった、否、それはもっとハッキリと言ってしまえば“縋り付くかのような思い”とでも言い換えても良かったのであるが、要はそれほど、蒼太と言う少年の存在は、彼女にとっては得難いモノであり、無くてはならないモノだったのだが一方で。

 そんな彼の肉体的、精神的な成長具合や上達具合は著しく、かつハッキリとしたモノがあったのであり、現に日に日に頑健になると同時にその考え方も、心の持ちようも、しっかりとしたモノになって行く少年の姿を見るに付け、メリアリアは“蒼太は凄いな”と思うと同時に改めて“私も頑張らなくちゃ”と思うようになっていった、勿論、そこには“苦しいのは私だけじゃない”と言う思いも+されてはいたモノのやはり、“蒼太には負けたくない”と言う彼女の、そしてもっと言ってしまうのならば“蒼太だってもっと辛い目にあってるんだから、こんな事で挫けてどうするの!?”と言う彼女の向上心と言うか、負けず嫌いな一面が良い方向に向けて発揮されて来た、その結果であった、それに加えて。

 彼女は実質、“ブレイクスルー”と呼んでも差し支えない程の、爆発的な魔法力の伸びを、その才能の底上げを記録した事が、それも二度に渡ってあったのであるがその内のどちらも、両親には知らされていない、もしくは知覚できない事柄であった。

 一回目は蒼太と共に、“ヒュドラのヴェルキナ”と戦った時、追い詰められた局面において、蒼太の事を守ろうとした時の事であり、そして二回目はー。

 それはハッキリと言ってしまえば、“戦闘”に関する事柄では全く無かったモノのただし、確かに“自身の命”や“命運”、そしてなにより“蒼太への愛”に関する事であったのだが、その正体と言うのがー。

 大人になって再会した彼に滅茶苦茶なまでに抱かれ続けて責められ続け、心臓も何度か止まり掛ける程の、凄絶なる連続極烈無限絶頂へと陥ってしまっていた時の事だった、その時は既に、蒼太によって“命そのものを一体化させて互いに循環させ合う術”を施されていたために、実際問題として彼女が力尽きてしまう状態に陥ってしまう危険性は無かったのであるがそれでも、その深くて比類無い程に激しい行為に一種のトランス状態、要するに“極限状態”に陥ってしまっていた彼女はしかし、尚も彼の事を一途に思い、どこまでもどこまでも執拗なまでに求め続けていたのである、そしてー。

 その熱烈さが、ある一定の領域を超えた瞬間、まるでそんな彼女の真幹からの意思と願いとに反応するかのようにして、その深淵なる無意識の奥深くに眠っていた、更なる“命の灯火”が一気に高々と燃え上がって来たのであり、それを感じて自覚した途端、メリアリアは新たな能力(ちから)に目覚めると同時にそれを体得したのであった、そしてそれこそがー。

 “絶対熱の極意”と呼ばれる、彼女が今まさに解き放とうとしている最終闘法であり“真なる奥義”そのモノであった、それは一応、両親からも“自身の持てる煌めきを、極めた者のみが扱うことの出来る技”として幼き頃から教え自体は受けて来てはいたのだが、ただしー。

 その余りにも凄絶無比なる威力から、“余程の事が無い限り使用は厳禁”とされていたのであり、しかしメリアリアはこの期に及んで遂にその封印を解き放つ事を決意したのであるモノの、そもそもこの絶対熱と言うのは宇宙が生成された際に発生した、“全ての物質、存在の熱量”を合計した熱エネルギーの値であり、その総量は実に摂氏“14溝2000穣度”と言う凄まじいまでの高温であって、しかもこの領域になると物質の構成中核たる原子、分子がその極烈過ぎる運動量のために存在する事ができずに自己崩壊してしまうのであり、即ち“絶対熱”とは単に物質を焼き尽くすのに留まらない、それどころかそれをその存在ごと消失させてしまう、文字通りの最終局的魔法であり、ありとあらゆる閃光、炎熱、爆裂現象の、そのいずれもを遥かに超えた、超熱呪文であったのだ。

「・・・・・っ!!!!!」

「うっ、おおおおおお・・・っ!!!!?」

 カインとメイルとが、あからさまに狼狽するモノのそれほどまでに“それ”は凄まじかったのであり、“始原の恐怖”とでも言うべきモノを二人にもたらしていたのであった。

 “それ”は視認する事が出来ないモノの、しかし確かに存在している“何か”であって、それがメリアリアを包みつつもその背後で渦を巻き始めていた、周囲には“陽炎”のようなモノが立ち上っておりしかし、その正体が宇宙誕生の熱量そのものである、と言うことまでは、流石の二人も思いもよらなかったのだ。

「な、何なのよ、これは・・・っ!!!!!」

「何だってんだよ、一体・・・っ!!!」

 二人の驚愕と畏怖は続くモノのメリアリアはいっかな、それに構うことは無かった、彼女の意識の中にあったのは、たった一つの確かな思い、即ち“蒼太を守る”、それだけであった。

 蒼太は言った、“この世界から脱出する為にはどうしても神人化して、神威を振るうより他に方法はない”、と、そしてー。

 その為には、自分が命懸けで自分に、もっと言ってしまうのならば、その根源たる最奥部分のそのまた深淵に潜んでいる“神の部分”に祈りを捧げなければならないとー。

「その間の防備はお願い、任せた」

 蒼太は自分にそう言ってくれたのであり、それは取りも直さず自分の命を、命運を、その全てを彼女に託してくれた、と言うことである、それならばー。

(何としてでも、応えたい!!)

 メリアリアは心の底からそう思った、“自分の最愛の大切な人を、何があっても傷付けさせはしない”、“何としてでも守り抜いて見せる”ー。

 それこそが彼女をして心の底からの決意をさせ、難敵二人へと向けて立ち向かう勇気を授けて彼女自身を奮い立たせていたのであったが、それは彼氏に対する絶対的な信頼の為せる業であり、確かなる愛情の発露でもあった。

「ち、ちょっと。嘘でしょ・・・っ!!?」

「地面が、消えていっちまってる・・・っ!!!」

 カイン達がなおも後退りするモノの、轟音と共に渦を巻く“それ”は地面をも容赦なく削り取ってしまっており、しかも削り取られたアスファルトの破片はそのままボロボロと崩れ落ちるように消失して行ってしまった。

「・・・なにが起きているんだ、一体!!」

「あれは・・・。“炎”なの?」

 カイン達が尚も戸惑うモノの、“それ”は例えるのならば“透明な炎”とでも言うべきモノであり、炎焼そのものは全く確認されていなかったがしかし、確かに二人は全身でその強烈なまでの“熱さ”と何より、途轍もない程の“エネルギー”を感じ取っていたのであり、現に二人とも、この距離からでも頬や唇、そして瞳がピリピリとして痛いくらいだ。

「・・・・・っ!!」

「・・・そんな虚仮威(こけおど)しがっ!!」

 “通じるかぁっ!!”とカインは堪らなくなって腰から剣を引き抜いてはその切っ先にまで妖気を伝わらせてそのままー。

 メリアリアに向けて強化された“ヴァハー・ズ・ガーレ”を数発、立て続けに撃ち放つがそれがしかし、彼女に届く事は決して無かった、メリアリアが自身の前に、中心に向かってどこまでも極集約して行く球体状にまで凝縮された、透明なる轟炎の小さな火球を数個体出現させては衝撃波に向けて撃ち放ち、そしてそれらを一瞬の内に踏み躙るようにして拡散させ、一つ残らず“蒸発”させ尽くしてしまったのだ。

「ちいぃぃ・・・っ!!」

「ならこれはどうっ!?」

 忌々しそうに歯軋りを行う恋人に代わって今度はメイルが前に出ると、それと同時に上空へと向けて手を翳してはその先の空間に、自身の妖気をもミックスさせた、比類無き炎熱の集合体、所謂(いわゆる)“地獄の業火”の、そのまた巨大な火炎球を出現させるとそれを、直ちにメリアリアに向けて投げ付けるモノの、しかし。

「・・・・・っ!!!」

「う、うそだろっ!?おい・・・」

 それすらも、些かも彼女へと到達する事は決して無かったし、なによりかによりその脅威となる事も、当たり前だが全く無かった、“それ”が“迎撃不可能圏内”へと到達する遥か以前にメリアリアは自分の前方へと向けて、永遠に渦を巻き続ける自らの分身たる透明なる精火焔の、その燃え盛る分厚い炎の壁を出現させてはメイルの爆炎を粉砕してその上。

 まるで“飲み込むようにして”吸収し、跡形も無く消失させてしまったのであるモノのそもそも、メリアリアの誇る絶対熱の超焔はただ単に熱いだけのそれでは無くて、彼女の心の奥底に宿る“大いなる不滅の霊性”の放つ、その意思と根願とによって発現、精製されているモノであった、そしてそのためー。

 そこには彼女自身の魂の煌めき、所謂(いわゆる)“霊力”が宿っていた訳であって、その崇高なる蒼太への愛が、祈りの思念がふんだんに練り込められていたのであるが、もっと言ってしまえばそれは、5次元以上にまで進化した存在だけが初めて放つことが出来る、純粋なる光のエネルギー、即ち“高次元の光聖”そのものであって、それがして、彼女の操る絶対熱に更なる輝きと力を与えてもはや“天性の炎”とでも呼んでも差し支えないモノにまで昇華、進聖させていたのだ、そしてそれらがー。

「くそぅ、こうなりゃ・・・っ!!」

「もう一度、“合体技”を!!」

 カインやメイル達の扱う“煉獄火焔”や妖気の弾丸、衝撃波等を悉く弾き返して浄化、消滅させてしまっていたのであり、そしてそんな未知なる力と状況とに、二人は困惑しつつもそれでも、尚も抵抗を、諦めようとはしなかった、カインの呼び掛けに応じてメイルが叫ぶと二人は互いに手を取り合ってその場で軽い“瞑想”に耽り、その集中力と感性とを、極限まで研ぎ澄まして行くモノの、すると直後に彼等の身体やその周囲からは混沌たる妖気の混じった不気味に輝く魔法力が放出されて行き、それは上空で滞空すると、その場に巨大な“積乱雲”を発生させ始めた。

 ハッキリと言ってそれは“自然の摂理”を捻じ曲げた上に、無理矢理生成された“歪みの塊”、偽りの“スーパーセル”そのものであったのだがしかし、それのもたらす事象自体は本物以上のモノがあって、しかもそれは不快な湿気と不純物の混じり合った水分の莫大なまでの凝縮体であった、その上。

「どうだ、小娘っ!!お前達の天球を取ったぞ!?」

「闘いにおいて後背、頭上を取られる事が何を意味するのかを、知らない訳では無いでしょうっ!?」

 しかも、とメイルは続けた、“この雨雲には私達の攻撃的意識と妖力とをふんだんに混ぜ込んであるの!!”と。

「当たれば皮膚は焼け爛れ、万物は溶けて朽ち果てて行くわ!!」

「湖一個分にまで成長させた、害意と妖気を含んだ“濃硫酸の雨”だ、防げるモノならば防ぎ切ってみせろっ!!」

 そう言うと二人は両手を一旦、天に翳すとそれを地上目掛けてーもっと言ってしまえば蒼太とメリアリアの居る場所目掛けて一気に振り下ろして見せるが、するとその途端に。

 薄暗く曇った空模様が一気に怪しいモノへと変わり、上空からはポツポツと、何やら水滴のような物が滴り落ち始めるモノのそれは人体にも、そして他の自然物にも造形物にも非常に有害なモノだった、その正体は紛うこと無き“硫酸の雫”そのものであり、しかもその中でも最も凄惨な溶解力を誇る、“濃硫酸の雨”が今や、頭上を完全に覆われてしまった蒼太とメリアリアへと向けて、一斉に襲い掛かろうとしていたのである。

「どうだ小僧、小娘っ!!」

「この世界そのものと一緒に、溶け果てなさいっ。永遠に!!」

「・・・・・っ!!」

 そんな二人の言葉を聞いたメリアリアはしかし、何一つとして慌てる所か、むしろ却って“なんだそんなもの”とでも言うかのような表情で空を見上げると右手をバッと遙かなる天空へと突き出して見せた、するとその途端に。

 彼女を取り囲むようにして展開していた“見えざる炎”が一気に遠く上空にまで燃え広がって行き、そこに渦巻いていた“害意の雲”を、カインとメイルの創り出した、蒼太とメリアリアに対する“殺意の塊”を一瞬と経たずに完全に消し去って見せたのだ。

「・・・・・っ!!?」

「そ、そんなぁ・・・っ!!!」

「・・・お前達が幾ら誇ろうとも。私の前では全くの無意味」

 そう呟いたメリアリアの瞳はいっそ、凍えるほどに冷たくて、容赦ない輝きを放っていたモノのそれは普段、彼女が蒼太に見せるモノとは全く真逆の、女性が心底唾棄すべき対象へとのみ向ける、絶対零度の凄絶な眼差しー。

 命の放つ煌めきの、その一切を認めない、存在それぞれが持っている、本来の意味と大切さとを完全に否定するモノであり、それをカインとメイルは向けられた訳であって、その視線が突き付ける、無慈悲で無愛想で、心そのものを刺し貫くかのようなある種の気迫に圧倒された二人は徐々に、その場から後退の一途を辿っていった。

「・・・くっ。畜生がああぁぁぁっ!!!」

「来たれっ、“障気”よっ!!」

 後が無くなったカインに代わってメイルが叫ぶとその背後には、一瞬にして何時ぞやのように、モンスター達の大群がその姿を現していた、その数は優に“千”を超えており、その後も更に増大して行くモノのそれでも、メリアリアは全くと言って良いほど動じなかった、それどころかむしろ。

 その両手に、“茨の聖鞭”を構えて仁王立ちし、自身の彼への願いを込めた、宇宙創成の“見えざる炎”をより激しく燃えたぎらせていたのだ。

「くううぅぅぅ・・・っっ!!!」

「ちくしょうがっ、まだまだだあぁぁぁー・・・っ!!!」

 妖力を放出し尽くした相棒兼恋人に代わって今度はカイン自身がモンスター達を召喚させるがそれでもメリアリアはいっかな反応を示さずに、ただそこに気力と気迫を充満させたまま静かに、それでいて堂々と立ち尽くしていたのだ。

「くううぅぅぅ・・・・・っっ!!?ハアッ、ハアッ、ハアッ、ハアッ。ハアアァァァ・・・ッ!!!」

「はあっ、はあっ、はあっ。はあ・・・っ!!ふははははははっ。どうだ、小娘!!」

 未だに肩で息を付いているメイルに代わってまだ何とか余力の残っていたカインが叫ぶがメリアリアが辺りを見渡してみると、カイン達の背後には自分達を三日月状に取り囲むようにしてモンスター達の大群が出現し、殺気を放っていた。

 その数、凡そ“3千”と言ったところか、中々に強力な障気を放っていたモノの、しかし。

「如何に貴様と言えども、これだけの数・・・!!」

「纏(まと)めて相手には、決して出来まいっ。死ねぃっ!!」

 そう叫んだと同時に二人は先程の“濃硫酸の雲”と同じようにその右手を蒼太とメリアリアへと向けて突き出し、まるでモンスター達に対して“襲い掛かれ”とでも言うかのような仕草をするモノの、するとそれと同時に。

 凶悪なる異形、モンスターの群れは一斉に二人へと向けて突進を開始した、そこにいたのは一つ目の巨人サイクロプス、暴虐の妖精トロル、猪人間オーク、下等妖魔ゴブリン、そしてー。

 土で出来たオーガであるゴーレムと、墓場から無理矢理蘇らされたのであろう、有形無形のゾンビ達の群れだった、そこへ向かってー。

 メリアリアは容赦なく突っ込んでいった、そしてその手にした聖鞭で、身に纏った霊光の絶対熱でー。

 当たるを幸いに、彼等を容赦なくなぎ倒していった、全身に光るオーラを纏い、その身を大活性化している彼女の身体能力と攻撃特性は凄まじく、ほんの僅かでも鞭や熱エネルギーの軌道に触れた魔物達は有無を言わさず浄化されて行き、光の粒子へと帰って行ったがそれでも少しも、メリアリアが、その峻烈極まる責め手を少しも緩める事など皆無であった、彼女の鞭が、或いはその霊妙たる絶対熱のエネルギー波が振るわれる度に少なくとも100を超えるモンスターの群れが穢れと憎しみから解き放たれては根源の輝きを放ちながらも宇宙そのものへと還って行ったのだ、そしてー。

 僅か3分足らず間にその場に召喚されたモンスター達は、一匹残らず天へと召され、その障気も完全に、消え失せてしまっていたのであるが、しかし。

「・・・・・っっ!!!!?し、信じられねぇっ!!」

「う、うそようそっ。こんな事がぁ・・・っ!!」

「・・・・・・」

 狼狽を見せる二人に対してメリアリアはしかし、全く息を付いていなかった、正直に言えば彼女がこの、“光炎たる女王位”即ち“フルバーストモード”でいられる時間は蒼太から教えてもらった“オーバードライヴ超過活性”を使用したとしても実質、30分にも満たないモノの、それでも。

「・・・・・」

(あと、20分弱・・・)

 メリアリアは思うがその時間は彼女は、誰よりも(当然、蒼太よりも)強い、そして鋭い“身体能力”と“攻撃特性”を発揮出来る訳であって、その持続時間はまだまだ、余裕とも言える活力を彼女にしてもたらしていたのだ。

 しかし。

「・・・・・」

(幾らこの“バーストモード”とは言えども。現状で時空間を切り裂くには無理がある。“エマ”や“クレモンス”がいてくれていたら、出来たでしょうけど・・・)

 そう思うとメリアリアは思わず唇を噛み締めるモノのもし、ここに彼女達の内どちらかがいてくれたなら、自分が協力してエネルギーを流し込み、“時空を切り裂く力”、或いは“亜空間を飛び越える能力”を顕現してもらって何の苦もなく現実世界へと帰還する事が出来ていた筈だったのである、しかし。

「・・・・・」

(二人とも、“セイレーン”のカウンシルにいるからなぁ・・・っ!!)

 と、メリアリアは千里四方も離れた場所にいる戦友へと思いを馳せるが彼女達の内、“エマ”とは主に空間や次元に関することを得意とし、反対に“クレモンス”は時間や超常的な現象に対して一家言持った人物であった。

 二人とも彼女より3歳程歳が上で基本、無口ではあったモノの、その性質は大らかで公明正大、現にまだ、カウンシルに入ったばかりで右も左も解っていなかったメリアリアに対して色々な決まり事や伝統などを、オリヴィア等と共に丁寧に説明してくれていたモノだ。

(今更かもだけど・・・。蒼太をもっと、カウンシルに連れてきてあげていれば良かった。蒼太ならきっと皆に好かれただろうし、エマやクレモンスとも打ち解ける事が出来ていたかも知れない。そうすれば・・・)

 とそこまで考えた時だった、自身を取り囲む混沌の濃度が一気に濃くなったように感じてそれと同時に。

 カインとメイルの妖力が、先程までとは比べ物にならない位にまで高まって行く。

 それだけではない、天地の別が無くなって運動の法則も働かなくなり、メリアリアの身体はまるで、無重力の中へと投げ出されてしまったかのように宙に浮き上がってしまうが、しかし。

「・・・・・っ!!?ふ、ふはははっ。ふはははははははははははっ!!やった。やったぞ、メイル!!」

「ここが、“真なるトワイライトゾーン”・・・っ!!確かに今までの“表層部分”とは全然違うわ、妖力の高まりを感じるもの・・・っ!!」

 そう叫ぶと二人は再び手を取り合って何事か、呪いの言葉を口にするモノの、するとそこには。

 先程までのそれを上回るほどのモンスター達の大群が出現しており蒼太とメリアリアとを十重二十重にと取り囲んでいたモノの、そこから発せられる殺気と言うか凶暴性は、心なしか幾分増しているかのように思われる。

「くうぅぅぅ・・・っ!!ハアッ、ハアッ、ハアッ。ハアァァァ・・・ッ!!」

「はあっ、はあっ、はあ・・・っ。くっ、だ、大丈夫かよ、メイル・・・ッ!!」

「ハアッ、ハアッ、ハア・・・ッ!!え、ええ、平気。大丈夫よ・・・」

 互いに声を掛け合うと息を整え、改めてメリアリアへと向き直る二人であったがどうやら彼等はまたもや魔物の群れを呼び寄せた様子であり、そしてその為だろう、肉体的にも精神的にもしこたま消耗している事がハッキリと見て取れた。

「はあっ、はあ・・・っ。く、はははははっ、残念だったな、小娘っ!!」

「ハアッ、ハアッ、ハアァァァ・・・ッ!!ふうぅぅぅ・・・っ。ここはね、メリアリア。私達の創り出した空間の中なのよ?」

「・・・・・っ!!?」

(二人の妖力が、みるみる回復して行く・・・っ!!)

 メリアリアが警戒するモノの確かに、彼等はそれまでは完全に消耗し尽くしていた筈だったのであり現にあれほど激しく息も切らしていたと言うのに、それが落ち着くと同時に瞬く間にその全身から妖気が漲って来ていた。

「この中ではね、私達は無尽蔵に妖気を使うことが出来るの。・・・例えどれ程大技を連発したとしてもね」

「この世界に満ち満ちている妖力が、直ぐさま癒して回復させてくれるってわけさ。どうする?小娘。今呼び出したモンスターの群れは、さっきまでとは比べ物にならない位に数が多いぞ?」

 “それに”とカインは付け加えた、“この中の空気はお前達にとっては猛毒と同じモノだ”と。

「この“妖気”と言うか“障気”と言うか・・・。“オーベロン”と“タイターニア”と化している俺達にとっては別段、外の世界のモノと変わりはしないがしかし、それでもお前達にとっては話は別だ。お前は確かに、多少の“抵抗”は出来ているようだがな・・・」

「それだって、そんなに長くは持たないわ。貴方の“光炎エネルギー”もここでは無尽蔵に発揮する事なんて出来ないもの・・・」

 カインの言葉にメイルもまた同調するモノの確かに、そこに充満していたモノは所謂(いわゆる)“夢の残滓”とでも言うべき人々の切り捨てられた心の欠片、そのものであったと言って良く、絶望、失望、落胆等の、ありとあらゆる否定の想念のエネルギーで満たされ尽くしていた。

 もっと言ってしまえばそれは要するに、“形を為す事が出来なかった思い、願いの集合体”であってそれ故、どこまでもどこまでもただひたすらに、歪みと虚無とに満ち満ちている、不安定で曖昧な、寂しさと冷たさのみが際限なく募り来る“狭間の世界”そのものだったのだ。

「・・・・・」

「さっきも言ったが・・・。俺達はこの世界から無尽蔵にエネルギーを吸収して力に変えて行く事が出来るが・・・。お前達はどうかな?小僧、小娘!!」

「回復も、済ませた事だし・・・。そろそろこちらから行くわっ!!」

 そう叫ぶと同時にメイルは右手をサッと上げるとそれを、メリアリアと蒼太目掛けて振り下ろして見せるがすると再びー。

 それに呼応するかのようにしてモンスター達の大群が一斉に二人へと向けて、襲い掛かって来るモノのそれを、メリアリアはたった一人で迎え打ち、一歩も引かずに応戦した、それもこの運動の法則などが微塵も意味をなすことの無い、足場自体もあやふやな亜空間の中でである。

「・・・・・っっ!!!?、!?!?!?」

「な、なんで・・・っ!?」

 その凄まじいまでの奮闘振りに、思わずカインもメイルも絶句してしまうモノのそれほどまでにメリアリアの動きは機敏で鋭く、かつ華麗にして無駄の無いモノだったのだ。

 自身の願いにより発現させた高次元の輝きを放つ“絶対熱の透明な炎”を己と鞭とに纏わり付かせたままの状態から、まるで駆け抜ける嵐のような猛烈さと素早さとでモンスター達の大群の中を突っ切りつつも当たるを幸いに薙ぎ倒して行く。

 鞭が振るわれる度に、その前方にいた者達は、或いは彼女が通り過ぎて行くその途次(みちすがら)に存在していた、人外の数多の有象無象の輩達は皆、片っ端から肉片となり、或いは体を消失させられ、そのまま光の粒子となって“大いなる宇宙の源”へと立ち還って行くモノのこの時、メリアリアの感性や運動能力(と言うよりもより正確に言うのならば“意識力”)は現実世界にいた時よりもむしろ、極限にまで研ぎ澄まされていた、何しろここは“イメージ”こそが全てを決めてしまう世界だ、現実世界にいる時のような、種々様々な法則やら肉体の持つ縛りが無い分自由に己が持つ能力と法力との煌めきを、思う存分発揮する事が出来たのである。

(体が、軽い・・・っ!!)

 メリアリアは思うが正直、最初に蒼太から“エルヴスヘイムの冒険の一端”として“トワイライトゾーン”の話を聞いた時には“ちょっと恐いかも”と思う反面、“面白そうな話だな”とも思った、そう言った世界があること自体は知ってはいたし、また確かにイメージを強く持つことで(即ち自分の意識力を働かせる事で)魔法の威力や発動における正確さ、精密さに影響が出ることも実体験として理解出来ていたモノのしかし、その一方で“世界を飛び回るイメージ”と言うのが中々、難解に感じられた、否、もっとハッキリと言ってしまえば“億劫だな”と思っていたのだ。

「うわ~、なんか難しそうだね・・・」

「えっとね、なんて言えば良いのかな。とにかく“行けっ”て思えば良いんだよ、“前に出るイメージ”をすれば良いんだ」

 その時蒼太はそう教えてくれていたモノの、あの少年の日に彼が言ってくれた事が、今ならば確かに理解できる。

 それは決して頭で考えるモノでは無くて、むしろ実際に体験する事で体で覚える事だったのであり、とどのつまりはやりたいことをイメージして意識を行きたい方向へと向ける、ただそれだけの事であったのだ。

 結果。

 メリアリアは息つく間もなく次々と、モンスター達を壊滅させていった、ただでさえ、優れた法力の腕前と魔法操作能力を持っている彼女はその意識力を遺憾なく発揮しては本来であれば不自由するはずのトワイライトゾーンの只中にあって、縦横無尽に暴れ回り、その時も5分と経たずに魔物の群れを全滅させてしまったのだ。

「・・・ふうぅぅ!!」

「・・・・・っ!!!?」

「ち、ちく・・・っ!!」

 それを見たカインとメイルは尚も亜空間内に充満している妖気、障気を己の体内へと向けて取り込み、召喚の術式を発動させては三度魔物の群れを呼び寄せるモノの、しかし。

「ハアッ、ハアッ、ハアッ、ハア・・・ッ!!あ、あああっ。あ・・・っ!!?」

「はあっ、はあ・・・っ!!お、おい。マジかよ・・・っ!?」

 その時はもう、メリアリアは黙って待ってはいなかった、むしろ自分から出現したばかりの敵集団へと向けて突っ込んで行くとこの時もまた、当たるを幸いにモンスター達を薙ぎ倒していった、イメージさえすれば身体がどこまでも高速かつ勝手に素早く動き回ってくれるために(と言うよりもこの空間の中を自由に飛び回る事が出来ていた為に)、現実世界のそれよりも幾分、体力の消費が抑えられておりその事が彼女をして、攻撃への積極性と連続性を生み出させていた。

 しかし。

「ふうぅぅぅ・・・っ。ハアハア、ハアハア・・・ッ!!」

「・・・ふ、ふふふふっ!!!」

「あははははははっ!!!」

 流石に肩で息を付き始めたメリアリアの姿を目撃した時には、カインとメイルから笑みが溢れるモノのそれまでに合わせて十二分、都合12000匹の魔物の群れを屠って来たメリアリアも些か消耗していた、確かにこの空間の空気は重くてまるで纏わり付いてくるかのようなしつこさがあり、現実世界に比して動きやすい分、法力の精製が思うように捗らなかった。

 それに対して。

「ふあああぁぁぁぁぁ・・・っ!!!」

「ぬうううぅぅぅぅぅ・・・っ!!!」

 妖気や障気をその力の源においているカインとメイルは回復や発現が素早い上に使える妖力も無尽蔵と来ている、このまま事態が進んだ場合は如何に“光輝玉のいばら姫”たる彼女をもってしてもしかし、押し切られてしまう事は明白であったのだ。

 それでも。

「ハアハア、ハアハア・・・ッ!!!」

(・・・まだだ!!)

 “まだやれる”と、彼女は自分に言い聞かせていた、蒼太は“託す”と言ってくれた、自分の命を、その命運を恋人たる彼女に賭けて、全て纏めて預けてくれたのだ。

(絶対に、諦めない!!)

 自らに気合いを入れ直すとメリアリアはまなじりを決して尚も二人を睨み付けた、その瞳の輝きは些かも衰えてはおらずに、表情も全くもって揺るがぬ決意に満ち溢れていた。

 それはメリアリアの気構えであり彼女の持ち合わせたる矜持の発露に他ならなかった、全ては蒼太の為に、自分を信じて任せると言ってくれた、あの最愛の彼氏にして魂の伴侶の為に、自分は何ら躊躇うこと無く全力を尽くすのである。

 そうだ、メリアリアと言う女性(ひと)は、蒼太の為ならば当たり前のようにそれが出来る人だったのであり、そしてそれがメリアリアと言う人の全てだった、と言って良い。

 蒼太に対する愛こそが、思いこそが彼女のプライドであり、生き甲斐であり、存在し続ける目的であり価値そのものであったのだ。

 少なくとも彼女はそう思っていたし、感じてもいたのであって、そしてそれが少しも間違いであるとな思っていなかった、そしてそれは蒼太もまた同様であって、二人はそれだけ一途で真摯で確かな愛情を、純粋なる思いをお互いに向けて抱き合っていたのである。

 だからこそー。

「ハアハア、ハアハア・・・ッ!!!」

(ここは、通させないっ!!)

 “一歩も!!”と意を決してメリアリアが再び法力を練り直し、鞭を構えようとした、その瞬間だった。

 不意に背後に居るはずの蒼太から猛烈な、それでいてとてもとても安らぎに満ちた波動が迸り始めるモノの、それは彼女を優しく包み込んでくれるように暖かくて、尚かつ天空を走る稲妻のようなビリビリとしたモノだったのだ。

 見るとー。

 蒼太の姿形もまた、変わっていた、髪の毛を頭部の左右で結わき、首からは三つの翡翠で出来た勾玉の付いている首飾りを下げており、腰には剣を差していた。

 メリアリアは知らなかったけれどもそれは、遙かなる神話の時代にこの地に顕現し給うた、日本の神々の姿そのものであり、彼の魂の奥底に宿っていた、“真の真なる神性”の発露そのものに他ならなかったのだ。

「・・・・・っ!!!」

(す、凄い蒼太っ。なんて暖かくて柔らかくて、光に満ちた波動だろう、なんて確かさと優しさとに満ち溢れたエネルギーなんだろう・・・っ!!)

 メリアリアが思わず驚愕してしまうがそれほどその時の蒼太から溢れ出る波動は高次的で素晴らしいモノだったのであり、しかもそれは彼と彼女の周囲に充満していた“トワイライトゾーン”の罪穢れを、重苦しい妖気の流れを完全に圧して吹き飛ばしてしまったのであり、変わりに爽やかで清々しくて慈愛に満ち溢れたエネルギーの奔流が四方に瞬時に駆け抜けて行き、周囲に充満していった。

 この時。

 蒼太は極限を遥かに超えた、所謂(いわゆる)超越的なトランス状態の只中にあった、そこは意識と無意識の境目であり人としての常識が極度に曖昧になる領域でもあった、そこをー。

 更に突破して行くともう、それさえも置き去りとなるのであり本当に、余計な事は何一つとして考えられなくなるのだ。

 ただただただただ自らに眠る神の部分を感じ取り、そこへと向けてひたすらひたすら集中して行き、一心不乱に祈りを捧げるのである。

「・・・・・」

(我が身は即ち“六根清浄”なり、“六根清浄”なるが故に天地の神と“同魂”なり、天地の神と“同魂”なるが故に為すところの願いとして成就せずと言うこと無し。我は天地の神と一体なり、我は神と一つとなれり。我は“神”なり!!)

「・・・・・っ!!!!?」

「うおおおぉぉぉぉぉっ!!!!?」

(う、嘘だろ、おいっ!!俺達の世界が、“意思”がっ。押し退けられて行く・・・!!)

 一方のカイン達は、それを受けて驚愕すると同時に今、目の前で展開されて行る景色と事象とに仰天してしまっていた、こんな事は初めてだった、この“疑似トワイライトゾーン”とでも言うべき空間は、彼等の妖力の創り出した、所謂(いわゆる)一つの“絶対空間”であってここに居る以上、本来であるならば彼等は“無敵”になれる筈であり、“不死身”で居られる場所だったのだ、それなのに。

 その世界そのものが逆に書き換えられて行くモノのそれは彼等の妖力が根本的に通用しない事を意味しており、“絶対空間”が“絶対空間”として機能しない事を示していた。

「あ、あうぅぅ・・・っ!!!」

「・・・・・っ!!!!?」

(な、何なんだよ、アイツは・・・っ!!)

「ハアハア、ハアハアッ!!・・・そ、蒼太、蒼太なのっ!?」

「・・・ああ」

 “そうだよメリー”と駆け寄ってきた恋人をしっかりと受け止めながら、“神上がり”した蒼太は頷くモノのそこには物凄く落ち着いた雰囲気の、しかし圧倒的なまでの存在感とエネルギーとを周囲に向けて撃ち放つ、一柱の“神”の姿があった。

「よくやってくれたね、メリー・・・」

「蒼太・・・っ!!う、うん。うんっ!!私、頑張ったよっ!?」

 “ありがとう”と告げる彼氏に“褒めてくれる?”と尋ねると、そんな彼女のハチミツ色の髪の毛を、蒼太は優しく撫でてくれた。

「本当に、ありがとう。よく頑張ってくれたね、メリー・・・」

「う、うん。えへへっ、嬉しいのっ。蒼太に褒めてもらえて、メリー、とっても嬉しいの・・・っ!!」

 そう言って喜びの余りに彼氏に抱き着く恋人の体を、蒼太はソッと抱き締めて応えた、そのままー。

 暫くの間、抱き合っていた二人だったがやがて蒼太は彼女を離すと落ち着いた口調で呼び掛ける。

「メリー、離れて見ているんだよ?良いね・・・」

「うん・・・」

 “解ったの”と応えるとメリアリアは恋人の唇に唇をチュッと重ねて無事を祈る、お呪いのキスを交わすとそれでも尚も心配そうに青年の事を見つめていたがー。

 やがては自身もまた彼から離れて後方へと大きく“跳躍”し(あくまでもイメージ的な跳躍だ)、言われた通りに戦闘圏外へとその身を置いて安全を確保する、そこへー。

「はあ・・・っ!!」

「・・・っ!?」

 蒼太は更に、地中を含めた彼女の周囲数メートルの範囲に強力な“超時空間結界”を施すとようやく安心したかのように、カインとメイルへと向き直る。

「・・・・・っ!!!」

「な、なんだよ・・・っ!!?」

「・・・カイン、メイル」

 とその時蒼太は凜とした声で、真面目に二人の真名を呼んだ。

「もし罪を認めて跪くなら、この場はここまでで見逃してやろう」

「はあぁぁ・・・っ?」

「なんだと・・・っ!!」

 蒼太から放たれた言葉にメイルは一瞬、呆けた表情を浮かべたのに対してそれとは対照的にカインは“跪けだとっ!?”と心の底から激昂した、彼からしてみれば絶対に、認められる言葉では無かった、元々気位の高い方だった彼は今の今までの人生においておよそ“負けを認める”だとか“降伏をする”、等と言うことをした事が無かったのである。

 そしてそれは、己が悪事を働いた場合でも些かも揺らぐ事は無かったのであり彼から言わせれば自分が悪事を働いたのが悪いのでは無くてそもそも、“悪事を働かれた方が悪い”のであった、何故ならばそれは、自分はあくまでも、生きるのに一生懸命だっただけでありむしろ悪事を為された方にこそ、“隙があった”と言うべきである、との考え方の持ち主であったからだ。

 “第一”とカインは思うが“この世は全て勝負が基本”の彼からしてみればだから、つけ込まれる、と言うこと自体がソイツに“つけ込まれるだけの力しか無かった”、要するに“生きるだけの力が無かった”と言う事になる訳であって、“誰もが皆、その人なりに一生懸命に生きているのだ”と言う価値観を持つに至る事は、遂に出来なかったのであった、従って。

 自らの過ちを省みる、それらを認めて頭を下げる、等と言う行為は彼からしてみれば何の得になる事も無い、信じられない愚か者のする事であって、もっとハッキリと言ってしまえば“屈辱”以外の何物でも無かったのだ。

「巫山戯(ふざけ)るな小僧っ、貴様誰に向かって口きいてやがるっ!!!」

「舐めるのもいい加減にしときなよ!?」

 とカインに続いてメイルもまた、蒼太への敵意を露わにするモノの恋人に比べればまだ高次元への感性と、冷静さの余地はあった、とは言えども基本的には五十歩百歩な間柄である二人の前にはだから、蒼太の見せた“慈悲”の言葉も反省を促す心配りも全くの徒労に終わってしまった。

「小僧、ここからは全力で行くっ!!」

「私達の妖力大精、見せてあげるわっ!!」

「・・・仕方が無いな」

 “王の力を思い知れっ!!”とすっかり頭に血を昇らせつつ、それでも尚も自分達へと向けて迫るカインとメイルへと向けて、蒼太は決然と言い放った、“今からお前達に”、と。

「“神業”を見せてやる。成仏しろ、カイン、メイル。その魂を、悪逆と暴力とに塗れた人生から解き放ってやろう!!」
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