メサイアの灯火

ハイパーキャノン

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ガリア帝国編

祭りの後

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 蒼太君の使った神威、“神風迅雷”は星一個を丸々破壊、蒸発させる事が出来るだけの威力があります(それもその世界軸線のモノみならず、平行世界に同時多重的に存在している“それら”もです)。

 ただでさえ、対象を単に“破壊”するだけで無く“蒸発までさせてしまうエネルギー”と言うのはそれだけでも相当過ぎるモノがありますけれども(詳しくは調べていただければ解ります)特に、彼の場合は時空、次元をも超えて影響する(この場合は“穿ち抜く”)威力があるので、使う際は本当に、慎重な判断を要します(それに使用した直後は蒼太君はその持てる“次元波動エネルギー”の凡そ七割強~八割弱を一辺に消費してしまうため、そう言った意味でも無駄撃ちは出来ないのです←ただし“神人化”している最中は、自身の身体及び法力に対する強力な自己修復再生能力、要するに“回復能力”を有しますので、もし“なっていられるのならば”一時間ほどで第二斉射が可能となります)。

 ちなみに蒼太君は通常の状態でも“オーバードライヴ”を使用すれば“擬似的な神風迅雷”を放つことが出来ますがただし、その威力は正規のそれと比較しますと100000分の一以下にまで落ちる上に影響を及ぼせるのも5次元までに留まります(それでも秒速20キロ前後の速さで突入してくる500メートルクラスの隕石を迎撃する事ならば充分に可能です)。

 また“ハイラート・ミラクル”を使った場合も同様ですが、この場合ですと威力は100分の一程度で7次元にまで影響を及ぼせます(ちなみに“ハイラート・ミラクル”状態は慣れれば20分程の維持が可能です)。

 “神人化”の場合は、顕現している最中においては宇宙空間だろうとマグマの中だろうと深海だろうと生きて行けますが、ただしどんなに頑張ってもなっていられるのは10分間が限度です(つまりは事実上、蒼太君は“神風迅雷”を一発しか撃てない事になります←ちなみに影響を及ぼせるのは8次元の表層までです)。

 ちなみにこの“8次元”とはどのような次元なのか、と言えばそれは神々の住まう世界、所謂(いわゆる)“神界”なのです。

 まずは私達の住む現実世界、即ち“3次元世界”がありますが、そのすぐ上には所謂(いわゆる)“幽霊”や“妖怪”の住む“4次元世界”(“幽界”と言う)が存在している、とされています(前に蒼太君達が入り込んだ“トワイライトゾーン”もここに当たります)。

 ここ(4次元世界)は所謂(いわゆる)“低次元”な世界でして、救いが無い、愛を忘れてしまった存在が住む世界とされていますが、それとは別に私達の3次元に直結している世界があります。

 それが“5次元世界”でありここは“霊界”と呼ばれる、キチンと成仏された方々の赴く事になる世界です(ですので大半の方々は此方へ来るそうです←当たり前と言えば当たり前なのですが)、ここは波動レベルの高い“霊人”の方々の住む世界だそうでして気象は温暖で非常に穏やか、心地好くて平和で光に満ち満ちた世界だそうです(ただし例えば理不尽に人を苛めたりだとか、貶めたりした方々の行き着く先と言うモノは、必ずしもその限りでは無いそうですが)。

 皆様は“守護霊”と言われる存在を御存知ですよね?あの方々もここからやって来ては私達を守って下さっておられるそうです。

 そしてその上にあるのが6次元でここも霊界の続きなのですが、此方には特に“聖人”や“天使”と言った存在が住んでおり、そしてここを卒業しますと、いよいよ7次元に入って行く訳です(これを“神上がり”と言います)。

 そうです、7次元から先が神様の住まう世界である、所謂(いわゆる)“神界”となるのですが、この神界にも“格”があるのだそうです。

 一番最初の神界が“精妙界”と呼ばれており、次が(即ち8次元が)“白雲界”(“白山界”とも呼ばれる)、その上の9次元が“無明界”で、そこから上が(つまりは10次元から上の世界が)所謂(いわゆる)“高天原”と言われる世界となるそうです(“記紀神話”や神社の祝詞で出て来る世界ですね)。

 ちなみに宇宙は全体で、13次元以上もあるそうです、まだまだ遠いですね(ちなみに人の魂が、最も深くて始原なる神である“創造”の領域に到達するまでは、どんなに素質のある方が頑張っても最短で“108兆5000億年”は掛かるそうです←一体、何度転生すれば良いんでしょうかね?)、皆様共に完成目指して頑張りましょう!!!

                 敬具。

           ハイパーキャノン。



        追伸です。

 最後に恐いことを言ってしまって申し訳ないのですが、所謂(いわゆる)“鬼”や“悪魔”と呼ばれる存在は“5次元”や“6次元”の存在と同レベルのエネルギー量、つまり鬼力や呪力を持つそうです(だから彼等は“幽霊”や“魔物”なんかとは比べ物にならない位に強いんですね、人を呪い殺す事もあるほどに性質の悪い悪霊が、100体前後で束になって掛かっていっても、平然と“返り討ち”にされてしまうそうです)←だから昔の神官、僧侶、修験者、陰陽師の方々は、こう言った連中に打ち勝ち、消滅させたり調伏させたりするために、それこそ命懸けの、本当に厳しい修行を積んだそうです(それも単に精神を鍛えるのみならず、肉体もうんと鍛えたそうですよ。そうやって総合的な霊力、生命力を高めてああ言った連中に立ち向かっていったそうです)。

 そしてこう言った方々の活躍のお陰で(命懸けの戦いの結果、彼等が勝利を収めて来た結果として)今では人に悪さをする鬼や悪魔が皆打ち破られたり調伏されたり封印されたりした為に、現代社会ではそう言った存在を見る事は無くなったのだ、と言われています(折角なのでもう一つだけ、お伝えさせて下さい。皆様方におかれましては例えば山の中等で由緒が不明な祠などには絶対に近付かないようにして下さい。それは神様をお祭りしている物等ではなく、そう言った戦いの末に神官や僧侶、陰陽師達が鬼や悪魔を封じた場所である可能性が高いのだそうです)。

 長文、駄文、失礼致しました。
ーーーーーーーーーーーーーー
 ギュオオオオオォォォォォォォ・・・・・ッッッッッ!!!!!!!!!

「・・・・・」

 僅か一瞬にも満たない時間の事だったとは言えども虚空へと飛翔して行く超光速の奔流を眺めつつ、蒼太は悟った、“全てが終わったのだ”と。

 手応えはあった、それにあれ程ハッキリと感じていた宇宙の慟哭はなりを潜めて星々の悲鳴も地球の叫びも今は全く静かに落ち着いてしまっていた上、それに加えて。

 あの隕石の迫り来る圧迫感も、それに纏わり付いていたドロドロとした怨念、魔力の禍々しさも綺麗さっぱり消えて無くなってしまっている、“もう大丈夫だ”と彼は、それ故に確信していたのである。

 何よりもそう言った“世界の緊迫感”と言うかやや踏ん張りを効かせている力みのようなモノが和らいでおり、穏やかな空気が漂い始めていた為に、蒼太は間違いなく事は済んだのだと理解したのだ。

「ふうぅぅぅ、はっ、はっ。はああぁぁぁ・・・っ!!!」

 独自の呼吸法を行って力を抜くと“神人化”を解除して蒼太はゆっくりと辺りを見渡したが目下の所、“エネルギー輻射熱”と“衝撃波”による地上への影響は殆どと言って良い程無いようだ、これならば特に問題はない。

「もしもし?僕だよ、メリー・・・!!」

「あなたっ!!?」

 自身の役割の全てが恙無(つつがな)く完了した事を、改めて確認するとスマートフォンを耳に当てて愛妻へと語り掛けるが、すると電話口の向こうからは嬉しそうに弾んでいる、華やかな声が聞こえて来た。

「隕石は、撃墜した。もう地球にやって来る事は無いよ・・・!!!」

「あなた・・・っ!!!!!」

 “ありがとうっ!!!”と告げるとメリアリアは続けて言った、“迎えに行くわ!!”と。

「ああ、いやいや。大丈夫だよ、こっちから合流するから・・・!!」

「ううん。オリヴィアも“もう一度屋敷に戻って現場検証をしなければならない”って言ってるし、私達がそこに行きます。あなたはそこで待っててね!!」

「ああ、うん。解ったよ、じゃあ僕はここで待っているから!!」

「10分くらいで到着するから。それじゃあね!!」

 そう言って電話を切ってからしかし、彼女達がやって来るまでモノの五分と掛からなかった。

「あなたっ!!!」

 そう叫んで蒼太に堪らず抱き着くとメリアリアは愛おしそうに頬擦りをして、その直後に。

「ん、んむっ!?んむ、ちゅむっ。ちゅうぅぅぅっ、ちゅぷ、ぶちゅっ。ちゅぷぷぷ、じゅるるる~っ!!!」

「んむむむっ、んむ、ちゅむっ。ちゅるるる、ぢゅるるる~っ♪♪♪♪♪ちゅ、ちゅぷっ。ぶちゅううぅぅぅ~っっ!!!!!レロレロ、クチュクチュクチュクチュ・・・ッ!!!ちゅ、ちゅぱっ。じゅるるるっ、じゅるるるるるるるる~~~っっっ❤❤❤❤❤❤❤」

 熱くて深い口付けを交わすが強がってはいたモノの、彼女だって本当は恐くて仕方が無かったのでありそれが何事も無く済んだ事に加えて、それをやってくれたのが、自身の最愛の夫であり永遠の恋人である蒼太だった事に、心底感動してしまい、嬉しくて嬉しくてどうにもならなくなってしまっていたのだ。

 考えてみるまでも無く、いつだっていつだってそうだった、自分が寂しい時、悲しい時などは、蒼太はいつもソッと側に寄り添っては慰め暖めてくれていたし、また何かある時等は当たり前のように颯爽と駆け付けては、何の打算も裏表も無いひたすら眩しい真心のままに彼女を助けて守り支え、導き続けてくれていたのであり、そう言った事等も相俟って彼女の喜びは頂点に達してしまっていたのである。

(絶対に間違いない。蒼太はやっぱり私のっ、私だけのヒーローだもん、王子様なんだもんっっっ!!!!!)

 “ずっとずっと信じていたんだから、思ってたんだからっ!!!”と心の中でそう告げると、メリアリアは堪らなくなってまたもや激しい接吻を開始するモノの、しかし。

「ああっ!!?」

「な、何をしているっ!!?」

 それを見ていたアウロラとオリヴィアがそれぞれ、驚愕と同時に嫉妬の憤怒を露わにして詰め寄って来た。

「んむちゅむっ、んむむむっ!!?ぷはぁっ。はあはあっ!!!な、何をするのよっ、貴女達は!!?」

「それはこっちの台詞ですっ、一体何をしてるんですかっ!!?」

「メリアリアッ、君はそれでも女王かっ!!?恥を知りたまえっ!!!」

「そんなの全然関係ないでしょっ!!?いいから離しなさいっ。離しなさいったらっっっ!!!!!」

 必死にしがみ付こうとするメリアリアと、それを何とか振り解こうとするアウロラ、オリヴィアの連合軍との間で熾烈な戦いが繰り広げられつつあるモノの、メリアリアは蒼太に確りと掻き抱かれている為に、二人掛かりでもビクともしなかった。

 それをー。

「いっやー、やっぱすげぇわっ!!!」

 またしても親衛隊の面々が茶化し始めて来た、彼女達からしてみれば、自分達の話のネタになるのであれば別段、なんでも良かったのである。

「なになに?四角関係のもつれ!?」

「一人の男を、三人の女が取り合ってるって図だよな!?」

「とんでもねぇクソ野郎っす、蒼太さんパネェっすよ!!!」

「ちょ、ちょっと君達煽らないで!!!ってか止めろ止めろっ、なに写真撮ってるんだよっ!!!」

 蒼太がヤケクソになって絶叫するモノの何と親衛隊の面々は蒼太を中心とした修羅場のドタバタを面白半分にスマートフォンのカメラで写真に収めては保存しており、しかもそれを眺めては心底嬉しそうな顔をしていた、当分これで退屈はしない、とでも言うような心の声が、ハッキリと漏れ聞こえて来そうな勢いである。

「あ、あのね?君達。人のことを玩具にするのは良くないよ!!第一ね、ヴィクトー氏や“カインの子供達”の尋問だってしなけりゃならない筈なんだ、写真なんて撮っている場合では間違っても無いんだよっ!!?」

「えっ、大丈夫っすよ?別に・・・」

「へ・・・?」

「ヴィクトーさん達はもう、応援の人達に渡しましたから!!!」

「今頃本部に連行されて行ってる最中ですかね?私達は歩いて行ったんですけど、普通は車でこっから20分くらいで行けますからね、手配して途中で乗り込んだとすれば、あともう少しで到着して捜査官に引き渡し。んで速ければ明日明後日ぐらいから取り調べが始まるんじゃないですか?」

 尚も修羅場っている蒼太に対して親衛隊の面々は、どこ吹く風でそう告げるモノの確かに計算してみると、ここから本部までは凡そ7、8キロの距離であり一旦、メリアリア達が退避してからここに戻って来るまでの間に、大体15分弱が経過していたのであってもし、彼女達の言うように途中から自動車に乗り換えたとするのならば、もうそろそろ到着していても良い頃である。

「私達はこの屋敷の現場検証をしなくちゃなんで、戻って来る事にしたんですけど・・・。いやー、帰ってきて正解だったなぁ、マジ儲け儲け!!!」

「もうっ、ちょっと止めなさいっ。いい加減にあっちに行ってよ、退いてなさいったらっっっ!!!!!!!」

「何を言っているんですか、メリアリアさんこそ離れて下さいっ、蒼太さんは私の夫になる人なんですよっっっ!!!!!!!」

「いい加減にしないか、君達っ。いつまで抱き締め合っているんだ、速く離れたまえ、離れるんだっっっ!!!!!!!」

「・・・・・」

 怒り狂うメリアリアとアウロラとオリヴィアに、燥ぎまくる親衛隊の面々。

 余人は一切、誰もおらずにただただ木々と草花の間とを駆け抜けて行く風の音だけが、夜の静寂(しじま)に響き渡っていた。

 蒼太はどうして良いか解らずに、ただただひたすら、メリアリアを抱き締めるだけであり、そしてそんな夫の態度をメリアリアは心底喜び自身も一層、強く激しくしがみ付く。

「あ、あのね君達、取り敢えず落ち着いて。ほら、早く現場検証を終わらせないと、時間がドンドン遅くなるし・・・。そうすると証拠や波動や動作形跡が、滅茶苦茶に乱されて風化してしまうよ?」

「む、むうううぅぅぅぅぅ~・・・・・っっっっっ!!!!!!!」

「や、やむを得んっ、そう言うことなら・・・・・っっっっっ!!!!!!!」

 蒼太の言葉にアウロラもオリヴィアも、渋々取っ組み合いを解くと、それでも全然、納得していない顔をして自分とメリアリアの事を見つめ続けていた(と言うよりも睨み付けていた)、それが恐くて蒼太はますますメリアリアにしがみ付くようにするモノの、そんな夫の態度が嬉しいメリアリアは顔を赤らめたまま、ウットリとしながらその抱擁を満喫していた。

「と、とにかく。急ごうっ、僕達は屋敷の外を回るから、オリヴィアとアウロラは屋敷の中を・・・っ!!!」

「いいえ、ダメですっっっ!!!!!」

「いいや、ダメだなっっっ!!!!!」

「ひっ!!!」

 物凄い剣幕で迫るアウロラとオリヴィア両名を目の前にして、蒼太は思わず怯えて“ビクッ!!”となってしまった、其程までにこの時の両名の気迫は鬼気迫るモノがあったのである。

「蒼太さんは私と屋敷の中を回っていただきますっ。フォンティーヌの事はフォンティーヌが一番良く解っておりますからっっっ!!!!!それに蒼太さんは感性の鋭いお方です、何か解ることもあるかも知れませんっっっ!!!!!」

「何を言っているんだ、君はっ!!!」

 するとそんなアウロラからの提案に対してオリヴィアが猛然と噛み付いた。

「いい加減にしたまえっ!!!今回はヴィクトー氏の嫌疑以外にも“カインの子供達”と言う謎の敵の正体の解明も掛かっているんだ、それならば蒼太は私と共に屋敷の外で現場検証を行うべきだ。屋敷の中は君とメリアリアで行けっ、これは命令だっっっ!!!!!」

「なにそれ、そんなの絶対にいやっっっ!!!!!」

「絶対に認められませんっ。何ですか、それはっっっ!!!!!」

 すると今度は揃いも揃ってメリアリアとアウロラとが猛反発して抗議するモノのそもそもが、彼女達からしてみればそんな話等は間違っても受け入れられる事案では無かった上に、そこへ持ってきて。

 オリヴィアが蒼太を独占したいが為に、立場を利用して強権を発動させたようにも見受けられたため(そしてそれは決して間違いでは無かったのだが・・・)、それに対する反発も加わって、その語調は余計に厳しく鋭いモノへと変わって行ってしまっていたのである。

「この人は私のモノなのよっ!!?引っ込んでなさいよ、貴女達は!!!第一ね、現場検証なら私と蒼太でやるからいいのっ。貴女達は別にお呼びじゃないのよ、いい加減にしてよっ。本当にもうっっっ!!!!!!!」

「何ですか、その言い方っ!!!メリアリアさんこそいい加減にして下さいっ、蒼太さんは私の夫になる人なんですっ。何をいつまでもいつまでも抱き締め合っているんですかっっっ!!!!!!!」

「二人ともいい加減にしたまえっ、それでも栄えある女王位のつもりか!?恥を知りたまえ、恥を!!!第一さっきから何なのだ?メリアリアも、アウロラもっ。これが任務だと言うことを忘れるなっ。そんな事すら解らない君達等に、蒼太を渡すわけにはいかない。蒼太は私と一緒に回ってもらうっっっ!!!!!!!」

「何ですってっっっ!!!!!!?」

「何ですかっっっ!!!!!!?」

「何なのだっっっ!!!!!!?」

「あ、あのね皆、もう落ち着こう?ね?ほら、もう喧嘩なんかしないで?もうちょっとこう、なんて言うか・・・!!!!!」

「さあさあさあさあっ!!!」

「盛り上がって参りましたっ!!!」

 最早暴発寸前な挙げ句に三者とも一歩も引かない構えを見せるメリアリアとアウロラとオリヴィアを目の前にして、蒼太はもういっそ悲痛かつ悲惨な顔を覗かせながらも、それでも何とか皆を落ち着かせては事態を沈静化させようと必死になって試みるが、しかし。

「え~、ルテティアの皆様、こんばんわっ。アンニュイな夜をどうやってお過ごしでしょうか。こちら第4環状区画にあります、ヴィクトー邸からの映像です!!」

 そんな蒼太の心情なんぞどこ吹く風な親衛隊の面々は、何処から取り出したのかバンダナとマスクを使い、自分達だけ正体を解らなくさせた上で、なんとまさに修羅場っている真っ最中の現場をスマートフォンで生中継し始めたのだ!!!

「こちら御覧下さい。麗しの美女三人が、救いようのないクソ野郎、蒼太を取り合って、互いに火花を散らしております!!!」

「誰がクソ野郎だ、誰が!!!」

 流石の蒼太もいよいよ堪りかねてキレた。

「君達ね、さっきから聞いていれば好き勝手な事ばかり言いやがって。少しは現場を和ませるような機転の利かせ方でも、示してみたらどうなんだ!!!」

「えええっ!?嫌ですよ、そんなの!!!」

「はああぁぁぁっ!!?」

 蒼太の必死の呼び掛けはしかし、見事なまでの肩透かしを食らって雲散霧消してしまった、いやそもそもそれ以前の段階として、彼女達は人の話を真面目に聞こうともしていない所か、却って“何言ってんだ?コイツ”みたいな不可解なモノを見るような視線を蒼太に向けて投げ掛けて来る。

「いや、いや、いや。“嫌ですよっ”て何なのよ!?」

「いや、だから“嫌なんです”ってば。なんでそんな事をしなければならないんですか?」

「なんでって・・・。いや、あのね?君達何を言っているんだ?こう言う場合は場を和ませて喧嘩を収めさせようとするのが普通の人の心得だろ!?人としての当然の有り様だろうが!!!」

「嫌っす!!」

「・・・・・」

 そんな蒼太の言葉に対して親衛隊の面々は平然とそう言い放った。

「私達、あれっすもん。火事を見付けたら水を掛ける振りしてガソリン掛けます!!!」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

 “お前らの方がよっぽどクソじゃね?”と蒼太は誰もが思い浮かべるであろう、極々当たり前の感想を口にした、それと同時に“よく分かった”と思った、“コイツらは世の中を舐め切っている奴らなんだ”と。

 先の戦闘を見る限りにおいては一応、ギリギリ極限状態における、良識と良心とは持ち合わせているモノの、それ以外に関しては自分達のノリと愉悦心とを何よりも優先する存在なのだと言う事を、蒼太は嫌でも理解しなければならなかったのである。

「大体さ。それあれだろ、“尾崎ン家のババア”だろ?随分と古いな、おい!!」

「んほぉ~っ、たまんねぇ~っ!!!」

「それ、どっかのプロデューサーな!?」

「ギャップギャップ。クソワロタ!!!」

「オタクスラングを使うなっ!!!」

「草草草っ、草生える!!思いっ切り修羅場ってて草ぁっ!!!」

「それ“なんJ”だろ!?ろくなもんじゃねーぞ?アイツらっ!!!」

 ネットスラングを連発してくる親衛隊の面々を振り払うと、蒼太は結局は全員で先ずは庭園を中心とした、“カインの子供達”との戦場跡地を見て回り、次いで邸宅内部の波動を精査する事にした、とにかくこれらは時間との勝負である、少しの後れが取り返しの付かない状況を、生み出してしまう可能性があったからだった。

「アウロラ!!」

「はいっ、蒼太さん!!」

「石は大丈夫かい?」

「はいっ。ちゃんと持っていますっ!!」

「良かったね、これでエリオット伯爵も心安んじられる事だろう!!」

「・・・・・っ!!!」

 仲間達と共に任務に精を出しながらも、その途上で足を止めては特に何事も無かったかのように、それでも何だかホッとしたかのようにそう告げる蒼太の横顔を見つめつつも、アウロラは思わずドキッとしてしまっていた、この人はいつもそうだった、真面目で熱くて優しくて。

 でもやはりクールで何処か超然としていて、決める時には迷わずビシッと決めてくれる、そんな彼の雰囲気、仕草が彼女は大好きだったのだ。

 それは今に始まった事では決して無かった、幼い頃から彼はそうだったのであり、いつもは何処か他人事みたいな呈をしていて、それでも何かあった時には凄く親身に熱心に、自分に寄り添ってくれたのである。

 そんな彼の純粋にして本質的な暖かさに、アウロラはいつしか心惹かれていったのであり気が付いた時には自分でも最早、どうにもならない位にまで彼への思いが燃え上がってしまっていたのだ。

 そうだ、メリアリアがそうであったように、この青髪の少女もまた蒼太の事を心の底から、魂の底の底からずっとずっと一途なまでに愛し続けていたのであり、そしてそれはあの時に、倒れ伏したる蒼太を見てしまった時に、遂にその限界を超えて遥かに溢れ出してしまっていったのであるモノの、それはー。

 蒼太へ対する曇り無き祈りであり彼への秘めたる純粋さへの、確かなる迸りの発露であった、それが彼女の“霊性なる根源”の、その琴線の央芯に触れた時にー。

 奇跡は現実のモノとして顕現されて来たのであり、それがしてメリアリアと共に彼を立ち直らせるに至ったのである。

「・・・・・」

(我ながら信じられません、あんな事が起きるだなんて。一体あれは何だったのでしょうか、そして・・・)

 とそこまで考えた時に、アウロラはふとメリアリアの方へと視線を向けるがあの時、確かに彼女もまた同じ光を発現させていたのであり、そしてそれを浴びた蒼太は瀕死の淵から見事に立ち直ったのである。

(メリアリアさんも、私と同じ。同じ光を宿している、と言うのでしょうか。だとしてもそれは一体・・・)

 “私達は、何者なのでしょうか?”、“どこから来てどこに行くのでしょうか?”と言う疑問を抱きつつも、アウロラは蒼太達と共に現場検証に勤しみながらも、証拠品の数々や敵のモノと思しき波動を調査、摘出して行った。

 それだけが今の彼女に出来る、唯一にして無二なる行動であった、そうだ、今はまだ、考えている時では無い。

 アウロラは思った、先ずは自身の役割をしっかりと熟して果たし、蒼太が命懸けで取り返してくれた“ガイアの青石”を実家であるフォンティーヌ家の当主にして父であるエリオットへと、確実に渡さなくてはならないのである。

(そうだ、今は自分のやるべき事をやるんだ。だけど・・・)

 とアウロラはどうしても考える、蒼太の事、自分の事、メリアリアの事等を。

 どうしてもそれらの思いが頭の中に浮かんできては消えて行かないのである。

(メリアリアさんはこの事を、どう思っているんだろう。何かを知っているのかな・・・?)

 アウロラの思想は尽きなかったモノの、一方で。

 メリアリアもまたこの青髪の少女と同様の事を、必死になって考え倦ねていた、蒼太の事、自分の事、そしてアウロラの事等を。

 “自分は一体、何者なのか”、“自分とは一体、何なのか”、“何処から来て何処へ行くのか”、これらの疑問が頭から離れずに、ずっと答を探し求めていたのであったのだが、切っ掛けとなったのはアウロラと同じ、蒼太を助けた自らの放った、そしてアウロラの放ったあの光だ。

(あれって一体、何なのかしら?どうして私に・・・。ううん私だけじゃない、アウロラにまで顕現していったのかしら・・・!?)

「・・・リー、メリーッ!!」

「ええ・・・っ!?は、はいっ!!」

 そこまで思考を進めていた時に、すぐ隣から愛しい人に名前を呼ばれて思わずドキリとなるモノの、慌ててそちらを向いた彼女を蒼太はどこか不思議そうな、それでいてとても心配そうな面持ちで見詰め返しては、優しく気配りの言葉を掛けた。

「大丈夫かい?メリー。疲れちゃったのかな・・・」

「う、ううんっ、何でも無いのっ。ごめんなさい・・・!!!」

 自身の伴侶の気遣いに感謝しつつも改めて気合いを入れ直した彼女はそのまま任務に邁進して行くモノのそれでも、どうしてもあの光の事が頭から離れて行かずに再び思考の海へと埋没して行った、あの時自分は蒼太の事を思っていた、深く深く思っていた。

 そして心で彼を感じて全身が、蒼太の事でいっぱいいっぱいに満たされた時に。

 気が付くと、あの光が顕現していたのであり、そしてそれ以外の事についてはまるで解ってはいなかった、彼女が特に何かした訳でも何でも無くて、ただただひたすら蒼太の無事を祈っては頭の中が真っ白くなるまでそれに集中して行ったのだ。

(蒼太が無事で、本当に良かったのだけれども・・・。だけどあれは何なのかしら、どうして私に、ううん、私だけじゃないわね、アウロラにまでも発現して行ったのかしら・・・?)

 自らに与えられた役割を完璧に熟(こな)しつつも、それでも尚もメリアリアは己についての理解と認識とを、徐々に深めて行くモノのその最中において彼女の精神の央芯からは、ある閃きが沸き起こって来た、即ち。

 “夫はどう思っているんだろう”と言うそれであり、“蒼太ならば、何かを知っているかも知れない”と考えたのだ。

(例え答を知らなくても良いっ。そのものズバリじゃ無かったとしても、何某かのヒントになるような考察を、この人は持っているかも知れない!!!)

 そう考えると急に勇気が湧いてきた、不思議なモノでそうすると気分が高揚すると同時に集中力も増して来て、仕事もスムーズに捗るようになって行く。

(夫に、蒼太に思い切って聞いてみよう。何か解ることがあるかも知れないし。それにそうじゃなかったとしても、二人で同じ事を考えるって、凄く大事な事だもんね!!!)

 “考えてみれば”とメリアリアは更に思った、“いつまでもクヨクヨ悩んでいるなんて私らしく無かったわ!!!”と。

(蒼太に、聞いてみよう。この人ならばきっと何かを教えてくれるし、そうじゃなかったとしてもきっと一緒になって考えてくれる筈だもの!!!)

 そう結論を導き出すと。

 メリアリアは夫と共に、現場検証を注意深く、そして素早く進めて行った。

 まだ庭園の一部が終了しただけであり、急がないと本当に、明日の朝まで掛かってしまいそうな勢いである。

「もしあれならば、今日の所は庭だけにしておこうか?皆疲れているだろうし、アウロラもアウロラで家宝を家に返して来なければならないしね・・・。いいでしょ?オリヴィア」

「うむ。正直に言って、ここまで証拠、形跡が残されているとは思ってはいなかったからな。これならば後は増援にでも任せて、我々は下がっても問題は無いだろうよ、今回、捕縛した連中も充分、訴追出来る筈だ!!」

 自身の妻を気遣うと同時にアウロラにも忖度しつつ、更にはオリヴィアの立場をも考慮する、と言った離れ業をやってのけた蒼太はしかし、その直後にメリアリアを見て“もう少しだよ”と小声で告げた、もっとも。

「・・・・・っ!!!!!?」

 メリアリアは見逃さなかった、蒼太の瞳が一瞬だけだがギラリと光り、男の顔になったのを。

 自分を見詰めるその眼差しにいやらしさと同時に“絶対に逃がさない”と言う意志が籠もるのを。

「・・・・・っ!!!」

(もうっ!!本当は今日は、話しに乗って欲しかったのだけれども・・・。しょうが無いわね!!!)

 そう思うとメリアリアは、自身も少し顔を赤らめつつもそれでも、“コクン❤❤❤”と強く頷いた、その表情にはしかし、何かを期待しているかのような妖艶なる笑みが浮かんでおり、ゆっくりと開かれた眼には、愛欲の光が混じっていた、その双眸と面持ちとで。

 彼女は夫の自身に対する愛慕と欲望とを真正面から受け止めては、ドキドキと胸を高鳴らせていた。

「うふふっ。仲良くしようね、あなた❤❤❤」

「ああ、うんと仲良くしよう・・・!!!」

 妻からの熱い言葉にそう答えると、蒼太はソッと彼女の腰に手を回しては自身に引き寄せ、一方のメリアリアもまた、甘えるかのように蒼太の肉体へと自らの肢体を連続で擦り付け返しては、その匂いと温もりとに包まれ、魂の底の底から満たされ尽くして行ったのだった。
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