メサイアの灯火

ハイパーキャノン

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神世への追憶編

ルクレールの告発

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 レウルーラの襲撃から3ヶ月が過ぎようとしていたがこの間、蒼太は通常の任務とは別に“神人化”の奥義極意を更にもう一歩、踏み込んだモノにする為に修業の日々を送っていたのだ。

 あれ以来、外国勢力やハウシェプスト協会の暗躍や気配はなりを潜めておりそれはそれで不気味ではあったモノの、この状況を利用して蒼太は鍛錬に勤しんでいた、と言う次第であったのである。

 しかし。

「はあはあ、はあはあ・・・っ!!!」

(ふうぅぅ・・・っ。参ったな、どうにも“超神化”への道筋が見えて来ないぞ?どんなに波動を高めて自分を神だと認識しても通常の“神人化”しか成し得ない。僕の限界はここまでなのか・・・)

 そんな考えが頭を過るがしかし、それを即座に振り払って彼は今一度精神を集中させる。

(前に1度だけ、アウディミアと戦った際にメリー達は“準超神化”が出来ていた。だけどあの子達に話しを聞いても今一ハッキリしないんだよなぁ・・・!!!)

 意識と感覚とを研ぎ澄まさせつつも、頭の片隅でそう思うモノのあの時、メリアリア達は蒼太に対する偽りなき真心、それのみの存在となり尽くしており、そこに彼の持つ神威の神力が合わさった結果奇跡が起きた、と言う次第であったのである。

(誰かの為に何かを為せる。それはあの子達が本当に僕を愛してくれている証拠でもある、僕にも果たして出来るだろうか・・・?)

 様々な雑念が飛来しては消えて行くモノの蒼太はこの時、先の見えない闇の中にいた、一方で。

 そんな彼の事を心配しながら見つめる目があった、メリアリアとアウロラとオリヴィアであるモノの彼女達も彼女達で珍しく答えが掴めずに先に進むことが出来ないでいる、苦悩している彼の姿に心を痛めていたのだ。

「・・・あなた」

「ん・・・?」

 折を見て青年に近付いて来たメリアリアが“はいこれ”と彼にバスケットを渡すがその中には豪華なサンドイッチが入っていた、“自分達に出来る事はこんな事位しか無いから・・・”と言ってメリアリアとアウロラとオリヴィアは毎日のように三人で手作りしていた昼食を夫に届けるようにしていたのであった。

「どうなの?調子は。何か掴めた?」

「それが全然、ダメなんだ。自分でも出来る限りの事をやってみたつもりなんだけれども、今一感覚が掴めないって言うか・・・」

「ふうん、そっか・・・」

 蒼太の横にちょこんと座って愛妻淑女が呟いてみせる。

「でも私達の時は完全では無かったにせよ、その“超神”と言うのになれていたんでしょ?だったら何かしら方法はある筈よ?」

「・・・うん。それはよく解っているんだけれども」

 そんな事を話しつつも蒼太はお弁当に入っていたサンドイッチを口に運んだ、タップリのハムとレタスとチーズの風味が口の中いっぱいに広がって、少しだけだけれども元気が出て来る。

 そこへ。

「蒼太さん、頑張って下さい!!!」

「私達も応援している、出来る事があったら何でもするぞ!!!」

「有り難う、皆。本当に助かるよ・・・!!!」

 アウロラとオリヴィアも合流してその瞬間だけ空気が緩んだ、和やかな時間が彼等を満たして風が優しくその身を包み込んで行くモノの現状、蒼太達を取り巻く事態は中々に深刻なモノだったのだ。

 半壊してしまった本部の修復工事を始め、レウルーラを取り逃がした事等がミラベル上層部の激怒を買い、マイナス点となって蒼太の経歴に傷が付いてしまったのである。

 もっとも彼等もバカでは無いから蒼太達に対する責任追及は叱責だけに止め置いた、と言うよりもそうせざるを得なかった、何故かと言えばそれは相次ぐ諸外国との抗争でセイレーンやミラベルは慢性的な人手不足に陥ってしまっており、優秀な人材である彼等を処断する事等到底出来る事では無かったからに他ならない。

 それに何より蒼太やメリアリア達は伯爵家と縁がある者達であり大賢者団ハイ・ウィザードの長、アルヴィン・ノアの覚えが目出度い存在でもある、彼等に対する忖度も加わって事実上のお咎め無し状態となっていたのだ。

 裏を返せばそうで無ければとてものこと、これだけの損害と失態は上層部が納得出来るモノでは無くて彼は下手をすれば左遷、ないしは責任をとって処刑されるかも知れない所だったのである。

 要するにラッキーだったのだが、当の本人はそれを知ってか知らずか来る日も来る日も修業に明け暮れていた、と言う訳だった、そんなある日。

 いつも通りに蒼太や花嫁達が訓練場と化している、ルテティア郊外の森にまでやって来ると、そこには思い掛けない人物が、予想もしない姿でしゃがみ込んでいた、その人物とは。

「・・・・・っ!!?」

「ルクレール・・・ッ!!!」

 蒼太やメリアリア達が思わずそう言って身構えるが彼等の目の前にいたのは確かに、ほんの3ヶ月前に激闘を繰り広げて来たレウルーラの“黄昏のルクレール”その人だったのである。

 問題はその格好だった、着ているモノは煤だらけな上に所々擦り切れており、本人もかなりのダメージを負っているようで全体的に生命力が弱くなっていた、そこかしこから出血もしている。

「・・・・・!!!」

「・・・・・!!?」

(酷い怪我・・・!!!)

「・・・ソウタ・アヤカベ」

 “一体何があったのだろう”とその場にいた全員が固唾を飲んで見守っているとー。

 ルクレール本人が掠れた声で喋り始めた。

貴男あなたの言っていた事は本当だったわ?ガーター騎士団は、もう・・・っ!!!」

「・・・・・っ!!!」

「ルクレール・・・?」

「ハウシェプスト協会に、乗っ取られてしまっていた・・・。首領の名前はリサ・メイヤーズ、通称“キング・カイザーリン”。それが今現在のガーター騎士団総長の正体よ・・・?」

「・・・“キング・カイザーリン”だって!!?」

「この事を知った仲間達は皆、捕らえられて地下牢に入れられたわ?私だけは何とか隙を突いて逃げ出す事が出来たけれども。ロバートが・・・」

 そう言ってルクレールは泣き咽ぶが話しによればロバートはルクレールと親しくしていた関係を取り沙汰されて捕縛され、同じく地下牢に放り込まれたらしかった、ルクレールは最初、皆を助けようとしたモノの衆寡敵せず、また彼我の実力差も圧倒的でありここまで逃げて来るので精一杯だったそうだ。

「お願いよ、ソウタ・アヤカベ。どうかロバートを、そして皆を助けて欲しいの、本当はこんな事を頼める義理では間違っても無いのだけれど。それでも奴等の魔力を討ち破れる者がいるとすれば貴男(あなた)以外にはいないわ・・・?」

 “それに”とルクレールは尚も続けた、“奴等は貴男あなたを殊の外警戒しているみたいなのよ”とそう述べて。

貴男あなただったら奴等に必ず一矢報いる事が出来るはず。お願いだから、どうか・・・!!!」

「・・・・・」

 蒼太は暫しの間逡巡してしまっていた、まさかエイジャックス連合王国の背後に居座る王室騎士団に、レプティリアンの総元締めが取り憑いていたなんて!!!

 “だけど”と彼は更に考える、“色々と考えてそれならこれまでの事態にも納得が行く”と。

(ノア博士が言っていた、“そう遠くない北の地”と言うのはエイジャックスの首都ロンディニウムの事だったのか。それにどうしてエイジャックスがレウルーラを使ってまで僕を抹殺しに掛かって来たのかも納得が行く。それにしても・・・)

 “まさか敵の首領がこんなにも近くにいたなんて!!!”と内心で驚愕するモノの、取り敢えず蒼太はこの事をメリアリア達に相談した結果、まずはノア博士に会うべきだ、と言う結論に達したのである、“ルクレールの話しに対する答えを出すのはそれからでも遅くは無い”と。

「ルクレール、取り敢えず動けるか?まずは君のことを治療しなければ。病院に行きたくは無いだろうけれどもとにかくルテティア総合病院まで連れて行くからね?」

 “本当は回復魔法を使えば早いんだけれども”と青年は考えるモノの、まだ十全にはルクレールの事を信用する事は出来なかった、彼女の人柄や様子から察するに嘘を付いているとは思えないがそれでも一応、念には念を入れる事にしたのである。

 それに。

 魔法の中には相手から何某かの術式を掛けられた際に発動するカウンタートラップの類いも存在していてそれらを警戒しての事だったのだ。

「ガリア帝国の健康保険証は無いか?こっちのを偽造して持って来ているんだろう・・・?」

 蒼太が言う通り、ルクレールは万一に備えて必須アイテムを自身の財布やバッグの中に携帯して常に持ち歩いていたから、偽造とは言えどもパスポートやビザ、健康保険証等が存在していた、それらを使って彼はまずはルテティア総合病院まで彼女を送り届けて入院させるとその足で宮廷に赴き、大賢者団ハイ・ウィザードの長であるアルヴィン・ノアに面会を求めた。

「ノア博士!!!」

 出会い頭に開口一番、蒼太は彼の名を呼んだ、事態が切迫していた事もあるモノの、軽い興奮状態に陥ってしまっていたのである。

「敵の親玉の居場所が判りました!!!」

「本当かね?相手は何しろ大魔王だぞ、慎重を期すべきでは無いのかな・・・?」

 そう言いつつもノア博士は蒼太達の発言に耳を傾けていた、エイジャックス連合王国の背後を固めるガーター騎士団の存在や、その総長にレプティリアンの大ボスが取り憑いていた事などを聞いた際には流石の彼も驚きを隠せなかったが何やら気になる事があったようで、今回は本格的な占いを用いて相手の探索を試みようとした、その時だ。

 バアアァァァンッ!!!と言う爆音と同時にノア博士が手を伸ばし掛けた水晶玉が粉々に砕け散り破片が辺りに散乱する、どうやら極めて強力な対魔法遮蔽呪文が発動されていた様子であったがノア博士は流石に冷静に対抗術式の言霊を口にすると法力を練り込み、それを発動させた、すると。

「・・・此奴は!!!」

「・・・ノア博士?」

「間違いない、ゾルデニールとその奥方じゃ。奴等はエイジャックスにいる!!!」

 そこまで告げたアルヴィン・ノアは直ちに探索を終了させて浄化魔法を口にする、これは悪の悪たる者を覗き見してしまった際に降り掛かって来る呪いや穢れを払う為の術式であり、それを本格的に用いる、と言う事はそれ即ち、それだけの魔力をアルヴィンが瞬間的に浴びてしまった、と言う事に他ならなかった。

 しかもアルヴィンは光のオーラを身に纏っているのであるが、敵はそれを突破して彼に災いの波動をもたらした、と言う事になる、まさに恐るべき呪力と言うしかない。

「蒼太よ、奴等は危険だ。正直今の君達には万に一つの勝ち目も無いぞ?今は力を蓄えるんじゃ。雌雄を決するのはそれからでも遅くは無い・・・」

「・・・・・」

 “正直に言って”と蒼太は告げた、“ちょっとスランプに陥ってまして”とそう述べて。

「奴等を討ち破る術も無いし、何よりかにより僕の修業はまだ完了していません。だけど壁にぶつかってしまっていて・・・」

「・・・妻達に心を尽くす事だ、蒼太よ」

 するとそう言って肩を落とし、些か項垂れてしまう青年に対してノア博士はアドバイスを送る。

「この者達に真心を尽くせよ?蒼太。ただしそれは決して生易しい事ではない、もしかしたなら君の命や魂そのものを賭ける事になるかも知れん・・・」

「・・・・・」

「しかしそうすれば必ずや道は開かれるだろう。この者達と九つの宝玉が君の未来を握っている、既に君はその内の5つは持っている。あと4つを集める事だ」

「・・・その4つとは?」

「もう既に君は出会っている筈だ、その加護を受けなさい。そして君の修業が完成した折には君はそれらと同調する事が出来るようになるだろう、例えどれ程距離が離れていようともな・・・」

 “そのルクレールとか言う女性は此方で面倒を見よう”、“彼女は信用して良い存在だ”と、それだけ言うとアルヴィンは再び目を閉じて何やらまじないの言葉を唱え、瞑想に耽り始めた、彼との面会時間が終了となってしまったのである。

「ノア博士。彼女は今、ルテティア総合病院の502号室にいます。体の彼方此方に傷を負っている為に入院中です、どうかよろしくお願い致します・・・!!!」

「ノア博士、どうかよろしくお願い申し上げます!!!」

 その事を失念せずに伝えると、蒼太達は彼の執務室を後にした。
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