メサイアの灯火

ハイパーキャノン

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夫婦の絆と子供への思い

夢魔との戦い・後日談

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 今回のお話しは第二部前半に書いてあります、“真摯な思いと愛情と”を読んでいただけてから御覧になられますとより理解が深まるかと存じます。
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「有り難う、蒼太さん」

 アダンとアリスが婚約した後、本格的に彼等と蒼太一家との交流がスタートしたのだがその何度目かの遊興時にアリスが再び蒼太に述べて来た。

「私ね?正直に言って最初はインキュバスに犯されていた事をアダンにだけは黙っておこうと思っていたの、だってそれは凄く恥ずかしくて悲しくて、とっても痛い事だったから。それに何より汚らわしくて悍ましくて、思い出したくも無い事だったから!!!絶対に彼にだけは知られたくなかったんだもの。だから自分だけで抱え込んで一生を過ごして行くしかないと思ってたの。だけどね?時間が経つに連れて漸く少しずつ自分と向き合う事が出来るようになっていって、そしてその結果分かったの。それでは結局は自分の殻に閉じ篭もって見て見ぬふりをしているだけで何の解決にもならないんだって、それに私達は二人で一つの筈なのに痛みを分かち合う事も何にもなっていないんだって・・・」

「君に辛い思いをさせる位なら、別に無理して話さなくても良かったんだよ?アリス・・・」

 そんな事を恋人に告げて手に手をソッと重ね合わせて来たアダンに対してアリスが首を振って応えた。

「ううん、それじゃダメ。ダメなのよアダン、それじゃあ結局は私はインキュバスに負けたのと同じになってしまうの、だってずっとヤツの汚らわしい快楽や魅了の魔力を自分一人の心に留め続けなくてはならなくなるし。それに何より、あなたに対して後ろめたさを抱えて生きて行かなくてはならないんだもの。それではとてもではないけれど、あなたに対して胸を張って“愛してる”とは言えないわ?例え口が裂けたとしてもね」

「・・・アリスさん、アダンはね?あなたの為に」

「知っています、蒼太さん」

 そこまで彼女が言葉を紡いだ時に、今度は蒼太が口を開き掛けたがそれをまたもやアリスは制して続けた。

「アダンが言ってくれたわ?“あなたに祈ると言う事を教えてもらった”と。真心を尽くせば必ず思いは伝わり願いは叶うんだって、とてもステキな事だと思う」

「アダンはね、あなたを救うために、立ち直らせる為だけに毎日二時間ずつ、この数年の間中ずっと祈りを捧げ続けていたんだよ?いつまで掛かるか解らない、そもそもあなたが自分の元に帰って来てくれると言う保証も無いのに、ただただひたすら“いつか必ずあなたが救われる”と信じて誠意を尽くしていったんだ。インキュバスの穢れや呪いが祓われて、元のあなたに戻れるように、とね?何の見返りも求めない、極めて純化された愛の光り輝きをずっとあなたに届け続けていたんだよ」

「・・・そっか」

 それを聞いたアリスはアダンに改めて向き直った。

「それじゃあやっぱり、私があんなにも早くに立ち直れたのも、自分自身と向き合う勇気を持てたのもアダンのお陰なのね?有り難う、アダン。やっぱりあなたはステキなダーリンだわ?」

「そんなこと。君が少しでも救われてくれたのならば、僕はそれで・・・」

 そう言って照れたように俯いてしまう恋人の仕草に堪らなくなってアリスは頬に“チュ・・・ッ!!!”と口付けをした。

「愛してるわ?アダン。誰よりも何よりも愛してる、それに私も・・・」

「・・・・・?」

「結局はあなたを、忘れられなかったの。インキュバスに犯されている間も、ずっとあなたの事だけを考えて耐えていたわ?それにあなたと離れてからも、事ある毎にあなたの事が胸の中に思い返されて来て。寂しくて寂しくて、悲しくて悲しくて心細くてどうにもならなかったのよ?本当に辛かったわ!!!」

「アリス・・・」

 そんな恋人の胸の内を聞くに及んでアダンはギュッと彼女を抱き寄せた。

「もう、何処にも行かせやしないよ?アリス。本当に辛かったね・・・」

「・・・・・っ。うん、アダン。暖かいわ!!!」

 そう言って涙ぐみながら彼氏にしがみ付くアリスの姿に、蒼太は彼女が着実に立ち直りの道を歩んでいるのだと感じて安心した、彼が見る限りに於いてインキュバスの魔力はもうアリスの中や周囲には残っていなかったし其れ処かそう言った“魔の気配”の影も微塵も無い。

「・・・こんな事ならば、もっと早くにあなたに正直に話して助けを求めれば良かった。私は一人で抱え込もうとしていたけれどそれは却ってインキュバスの思う壺だったのね?」

「そうですね、その通りですよアリスさん。性的な暴行を受けられた方の中にはその際の精神的なショックと“思い出したくもない”と言う心理が働いて誰にも何にも言えなくなってしまう人が居られるそうなのですが、やはり気負けずにダメージを解き放たなければなりませんから。況してや相手が魔物ならば尚更です」

 “あなたはインキュバスに勝ったんです”、“大した女性ひとです”と蒼太は続けた、何れにせよアダンとアリスは夢魔の穢れと魔力を撥ね除けて本来の自分達と、そしてお互いへの愛と絆とを取り戻した訳である、二人の深い思いの結実が引き起こした奇跡と言う他無かった。

「そっか、アリスさんがそんな事を言っていたのね・・・?」

「うん。とっても辛くて怖かったけれど、やっぱりちゃんと自分自身に向き合って彼にも事実を伝えなきゃって。そうじゃないと結局私は苦しみと悲しみに押し潰されてしまっていただろうから、と
・・・」

 アリスとアダンが帰宅した後で自身の書斎のソファに腰を降ろしながら、机を挟んで向かい合う形でメリアリアと歓談していた蒼太は彼女にアリスの話を語って聞かせていた。

「でもアリスさんの気持ちは解るわ?女の子って誰でも皆そうだもの。“自分の一番大好きな人には自分の一番キレイな部分を見ていて欲しい”、“自分の一番キレイだった時の事を覚えておいて欲しい”、“自分が大切な人の一番でいたい”、“大切な人に余計な心配を掛けさせたくない”、“その人に幻滅されたくない”、“拒絶されるのが怖い”。でもね?でもなんだけれどももし本当に、何かあったとしたのなら“キツく抱き締めて怖くて汚らわしかった時の事を、何もかも全て忘れさせて欲しい”。きっと皆そう思うモノだから・・・」

「うん、それはとても良く解るよ?だけど今回、アダンが恋人だった事がアリスさんにはある意味では幸いし、またある意味では災いしたんだ。彼はセラフィムやセイレーン、そして一時はミラベルにも入隊していた事があったからね。だからインキュバスの事を話した時に、それと同時に恋人がヤツに何をされていたのかも察してしまっていたんだな。どう足搔いても隠しおおせる訳が無かったんだよ・・・」

「・・・・・」

 そんな夫の言葉に“ハァ・・・”と溜息を付いてからメリアリアは言葉を紡いだ。

「“淫魔対策”や“夢魔対策”はセラフィムやセイレーンではかなり初期の段階で習うモノだからね。多分遅かれ早かれアダンさんも気が付いてしまっていたとは思うけれども・・・」

「君なら、どうした?」

 そこまで話し終わった愛妻に蒼太が尋ねて来た。

「ゴメンね?メリー。本当はこんな事聞きたくない、と言うよりも夫が妻に聞いちゃいけない事なんだろうけれども・・・。まず有り得ない事だけど、それでも君がもし“夢魔”か何かに襲われてしまったなら、君はどうした?やっぱり僕に隠したかい?」

「私は・・・」

 とその問い掛けに、ちょっと考える素振りを見せつつメリアリアは夫に向き直って答えた。

「・・・やっぱり、その場であなたにちゃんと言ったと思う。本当はそんなあって欲しくは無いし、それにあったとしたなら思い返すのも汚らわしくておぞましくて嫌なのだけど。それでもあなたにはちゃんと伝えたと思うわ?だってアリスさんではないけれど、さもないと私は何時までも夢魔との思い出を一人で抱えて生きていかなきゃならなくなるし。それにその状態と言うのは、私とあなたの間に夢魔がいるのと同じ事だわ?そんなの絶対に嫌だもの!!!」

「・・・・・」

「あなたにはちゃんと正直に話してその上で“愛してる”って言って欲しい。そしてキツく抱き締めて、いっぱいいっぱい愛して欲しい。それだけが唯一、夢魔に汚されてしまった心と体をキレイにして、あなただけのモノに戻して。痛くて悲しい思い出を上書き出来る方法だと思うから・・・!!!」

「・・・そっか」

「ううん、それだけじゃないわ?あなたに知ってもらう事で二人で悲しみを共有して、お互いにその事実に向き合う事にも繋がるし。なによりそれを知った上で尚、あなたがそれを忘れさせてくれたのならばそれが本当の意味で“二人で乗り越える”って事になるんじゃないかしら?」

 “あなたには”とメリアリアは尚も続けた、“隠し事無く正直でいたいわ?”とそう言って。

「何かあったらそれをちゃんと話して、打ち明けて。そしてあなたに受け止めて欲しいの、それでもあなたに“愛してる”って言って欲しいのよ。それが何よりの慰めになるから、癒しになるから。あなたが私を抱き締めてくれたなら、私はどんな事でも忘れる事が出来るわ?」

「勿論だよ、メリー。僕は・・・!!!」

「知っているわ?」

 何事かを言い掛けた蒼太の言葉をメリアリアが遮った。

「あなたは以前、私に言ってくれたわ?“何かあったのならばちゃんと言って欲しい”って、“僕が忘れさせてやる”って。正直に言って凄く嬉しかった、頼もしかった。暖かかった!!!私ね?あの時に改めて思ったのよ、“例えこの先何があってもこの人に付いて行こう”って。“この人と共に有ろう”って!!!」

「・・・・・」

「あなたなら、どんなに穢れたとしても必ず私を受け止めてくれる。愛してくれる!!!そしてその穢れを、傷の痛みを祓って、癒して、忘れさせてくれるって。今ならそれが間違いないって思える、解る。感じる!!!だからこそ私も何の気兼ねもなく、気後れする事もなく何があってもあなたに“愛してる”って言えるんだよ?本心を堂々と伝えられるんだもの・・・」

 “それに”とメリアリアは更に続けた、“アリスさんでは無いけれども心に穢れを隠し持ったままでは、心に後ろめたさを抱えたままではとてもの事あなたに向かって「愛してる」とは口が裂けても言えないもの”とそう言って。

「あなたにはいつも、いつでも、どんな時でも“そのままの私”を見て欲しいの。だって隠し事をしている状態でいくら“愛してる”と言ったとしてもそれは完璧な愛を、純真さを体現した言葉には絶対にならないわ?自分に何の後ろめたさの無い、心に何のしこりもてらいも無い本心からの言葉としてあなたに伝えなければ。伝わらなければ意味が無いもの・・・!!!」

「・・・メリー」

 それを聞いた蒼太は優しい笑顔を浮かべて言った、“おいで?”とそう告げて、すると。

「・・・・・っ。えへへへっ!!!」

 メリアリアは少し照れたようにはにかみながら、夫へと歩み寄るとその膝の上にチョンと腰を降ろした、そして。

 その逞しい肉体に自らの肢体を寄り添わせるとホウッと頬を赤らめさせたままウットリとした視線を送り、上目遣いで彼を見つめる。

「ねえあなた、お願い。私は何があってもあなたと一緒にいるから、これからもずっと私と一緒にいて?それでもし、私に何かあったなら・・・。その時はいっぱいギュッてして?私の事を抱き締めて?そしていっぱい愛して欲しいの・・・」

「メリー・・・」

「ねえ蒼太、覚えてる?子供の頃にあなたが谷底に落ちてしまってから、私達6年間も離れ離れになってしまったのよ?あの時凄く辛かった、悲しかった、苦しかった。本当に寂しかったわ?もう、絶対に何処にも行かないでね?絶対に私を離さないで・・・?」

 それだけ告げるとメリアリアはまるで誓いを立てるかのように最愛の夫の唇に自らのそれをソッと重ねた、彼が今の思いを、気持ちを、言葉を忘れないようにするために。

 そしてこの一瞬が確かに、永遠の刻と繋がるようにと祈りを込めて。

 対して一方の蒼太はと言えば、こちらもその温もりと肌の感触とを全身で感じ取りながらも、これからも一層メリアリアに対する愛を深めて行く事を誓ったのである、それと同時に。

 今の話を聞いて“メリーらしいな”とも思ったのであるモノのそうなのだ、メリアリアはそこら辺、物凄く不器用で真面目で一本気で、誰よりも純情で一途な女の子なのである、仮に何かあったとしたなら間違っても自分自身を誤魔化せるような女性では決して無いのである。

 一見、いつも強気で活発で、お転婆なモノのその癖かなりの怖がりで。

 だけどとっても優しくて暖かくて、曲がった事が大嫌いで、何より自分を偽ったりは絶対にしない子だ、常に自分自身と向き合う強さを、向き合える強さを持っている子なのである、・・・仮にそれがギリギリのラインのモノであったとしても。

(そうだ、迷いながらも傷付きながらも。それでも大事なモノを抱えて、譲れない思いを抱き締めて。メリーだってメリーなりに、不器用なりに毎日を一生懸命に生きているんだ。生き抜いているんだ・・・!!!)

 “メリーのこと、これからもちゃんと守ってあげなきゃな・・・!!!”等と人知れずに思いを新たにすると蒼太は自らも誓いを込める意味で愛妻の事を強く抱擁し、その甘い香りの中に埋もれていった。
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 読者の皆様方こんにちは、ハイパーキャノンと申します。

 改めまして“夢魔との戦い・後日談”を完璧な形で書き終えましたが正直に申し上げさせていただきまして自分の思いや考えを、皆様方に正確に伝える事がこんなにも難しい事だとは思ってもみませんでした、今回の事で改めて思い知らされました。

 私の言葉が足りなかった為に、要らぬ心配や不安、下手をすると絶望までをも皆様方に与えてしまったのでは無いか?と大変申し訳なく思っています(正直に申し上げて“もしそうだったら”と考えると気が気じゃありませんでした、間違ってもそれは本意ではありません←私自身は“あの時”に彼女に何も無かったと確信しております、主人公達が必死になって追い掛けて来た結果としてそんな時間的余裕は全くありませんでしたしそれに彼女の魂の輝きも失われてはいませんでしたから←また仮に何かあったとしても“彼”はちゃんと“彼女”を抱き締めて愛して癒してあげたでしょうし、“彼女”も“彼女”で“彼”にちゃんと伝えたでしょうから←少なくとも私の知っている“彼”と“彼女”ならばこのお話しで書いてある、蒼太君とメリアリアちゃんの言葉通りの事をしたと思います←そう言う強さと確かなる愛情を互いに抱き合い、それらで結ばれている存在なんですあの二人は)。

 なのでこの度は言葉に直せる限りで私の気持ちを説明させていただきました、上手く伝われば良いと思います(ちなみに、なのですけれどもイラストの方は今現在進行中でございますが正直に申し上げて想像以上に予算と時間が掛かるため、半年~1年位は蒼太君とメリアリアちゃんの超絶純愛ラブ陵辱なお話しを投稿する事が出来ない可能性があります。皆様方には本当に申し訳無いのですが、それまでお待ちいただきますように、伏してお願い申し上げます)。

                敬具。

          ハイパーキャノン。
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