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5 It might be MY turn
「貴方はいまでも」
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久しぶりに訪れる王宮は豪華絢爛であった。
アウグスト家嫡男の婚約者という立場でいた頃は頻繁に訪れる機会があったが、この6年ずっと辺境の森近くの屋敷で静かに暮らしていたのもあって、この華やかさは目の毒でもあった。
贅を尽くした内装に、響き渡る上級な宮廷音楽。
広々した大広間の中央では正装した貴族たちがくるくるとダンスを舞い、そこここで人々がさざめき笑っている。数年前までは当たり前だった日常の光景だが、今の私にはただただ空虚に見える。
「ーーーユーリャ、行くよ」
私だけに見せる柔らかい表情を隠して立派な紳士然としたテオが私に囁き、私をエスコートしながら中央に連れて行く。久しぶりに私の姿を見た貴族たちに驚愕が静かに広がっていくのを肌で感じながらテオにエスコートされるままに王と王妃の前に進み出た。テオが低く低く頭を垂れ、私もそれに倣い貴婦人の最上級の礼をする。
「テオドール・シュナイダーと…」
王が私を見た。
かつてはアウグストの婚約者として何度も会話を交わしたことがある賢明な我が国の王。
「ユリアーナ・ラムスドルフ…久しいな、ユリアーナ。そなたの美しい顔を見れて嬉しく思う」
「我が君ーーー勿体ないお言葉、痛みいります」
「今宵は我が息子の婚約者を選定するパーティだが、無礼講でもある。気張らず楽しんでいくが良い」
私は再び深く深く腰をかがめて、感謝の意を表した。
王が私を受け入れてくれたということは、社交界が再び私を受け入れるということと同義だ。
でも何故だろう、私はちっとも嬉しくなかった。
私は今ほど、辺境の森近くの屋敷の静寂を恋しく思ったことはない。
_______________________________________
「テオ!」
人気のある独身貴族男性のテオは夜会でも引っ張りだこだ。彼が友達の公爵嫡男に呼ばれたが無視しようとするので、私は慌ててそちらに行くように促した。テオは相当嫌がっていたが、自分も公爵家の一員だという立場を思い出したのか渋々足を向けた。その先にテオと話したいと目をキラキラさせている若い貴族令嬢たちの姿が見えた。胸がもやもやするのを感じたが、私にはどうすることもできないことだ。
王に受け入れられたとはいえ、私に話しかけてくる貴族令嬢など誰もいない。ちらほら昔から知った顔を見かけたがみな結婚していてご主人とみられる方といたり、そうでなければ露骨に無視をされたりした。婚約破棄をされたあと神経衰弱となり伏せっていた、という噂持ちの私と親しくしたい人なんか誰もいないのだろう。分かってはいたことだが私は静かに傷つき、壁の花となるべく壁際まで下がり、なんとはなしに大広間の貴族たちを眺めていた。
きゃあと複数の貴族令嬢たちの黄色い歓声が上がり、思わず視線をそちらに向けると、そこには6年ぶりの元婚約者ーーアウグスト・オイレンブルグの姿があった。
彼と再会するのが恐ろしいと思っていた時もあったが、実際彼を目の当たりにすると浮かび上がるのは、何ということだろうーー懐かしさだけだった。
(ますます立派になられた)
アウグスト・オイレンブルグを一言で表すとなると、それにつきる。
彼は立派な尊敬されるべき人物だ。
自身の立場をよく理解し、周りの人たちへの感謝も忘れない聡明さも併せ持っている。
(だからこそ彼はいつも1人だったーー)
上に立つべきものとして、彼は常に孤高であった。私は彼と婚約者としての時間を過ごすうち、そのことを段々理解していき、厳しすぎる花嫁修行に耐えれたのも彼への尊敬の念があったからだ。彼が抱える孤独を少しでも共有できるような人になりたかったから。
アウグストは誰もエスコートせず会場を訪れたようで、従者らしき人物と何か会話を交わしたのち、さっと大広間に視線を走らせーー壁の花になっている私を見つけた。
一瞬、私たちの視線が交差した。
(あ…)
その視線はすぐに逸らされたのだが、私には永遠にも感じた。
(貴方は…まだ1人なんですね…)
胸が締めつけられるような悲しみに満ちた時、かつんとヒールの音が響いて、鈴が鳴るような可憐な声がした。
「お久しぶりです、ユリアーナ様。私を覚えていらっしゃいますか?」
視線を上げると、そこにはにっこりと微笑んだラウラ・ミュラー男爵令嬢が立っていた。
アウグスト家嫡男の婚約者という立場でいた頃は頻繁に訪れる機会があったが、この6年ずっと辺境の森近くの屋敷で静かに暮らしていたのもあって、この華やかさは目の毒でもあった。
贅を尽くした内装に、響き渡る上級な宮廷音楽。
広々した大広間の中央では正装した貴族たちがくるくるとダンスを舞い、そこここで人々がさざめき笑っている。数年前までは当たり前だった日常の光景だが、今の私にはただただ空虚に見える。
「ーーーユーリャ、行くよ」
私だけに見せる柔らかい表情を隠して立派な紳士然としたテオが私に囁き、私をエスコートしながら中央に連れて行く。久しぶりに私の姿を見た貴族たちに驚愕が静かに広がっていくのを肌で感じながらテオにエスコートされるままに王と王妃の前に進み出た。テオが低く低く頭を垂れ、私もそれに倣い貴婦人の最上級の礼をする。
「テオドール・シュナイダーと…」
王が私を見た。
かつてはアウグストの婚約者として何度も会話を交わしたことがある賢明な我が国の王。
「ユリアーナ・ラムスドルフ…久しいな、ユリアーナ。そなたの美しい顔を見れて嬉しく思う」
「我が君ーーー勿体ないお言葉、痛みいります」
「今宵は我が息子の婚約者を選定するパーティだが、無礼講でもある。気張らず楽しんでいくが良い」
私は再び深く深く腰をかがめて、感謝の意を表した。
王が私を受け入れてくれたということは、社交界が再び私を受け入れるということと同義だ。
でも何故だろう、私はちっとも嬉しくなかった。
私は今ほど、辺境の森近くの屋敷の静寂を恋しく思ったことはない。
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「テオ!」
人気のある独身貴族男性のテオは夜会でも引っ張りだこだ。彼が友達の公爵嫡男に呼ばれたが無視しようとするので、私は慌ててそちらに行くように促した。テオは相当嫌がっていたが、自分も公爵家の一員だという立場を思い出したのか渋々足を向けた。その先にテオと話したいと目をキラキラさせている若い貴族令嬢たちの姿が見えた。胸がもやもやするのを感じたが、私にはどうすることもできないことだ。
王に受け入れられたとはいえ、私に話しかけてくる貴族令嬢など誰もいない。ちらほら昔から知った顔を見かけたがみな結婚していてご主人とみられる方といたり、そうでなければ露骨に無視をされたりした。婚約破棄をされたあと神経衰弱となり伏せっていた、という噂持ちの私と親しくしたい人なんか誰もいないのだろう。分かってはいたことだが私は静かに傷つき、壁の花となるべく壁際まで下がり、なんとはなしに大広間の貴族たちを眺めていた。
きゃあと複数の貴族令嬢たちの黄色い歓声が上がり、思わず視線をそちらに向けると、そこには6年ぶりの元婚約者ーーアウグスト・オイレンブルグの姿があった。
彼と再会するのが恐ろしいと思っていた時もあったが、実際彼を目の当たりにすると浮かび上がるのは、何ということだろうーー懐かしさだけだった。
(ますます立派になられた)
アウグスト・オイレンブルグを一言で表すとなると、それにつきる。
彼は立派な尊敬されるべき人物だ。
自身の立場をよく理解し、周りの人たちへの感謝も忘れない聡明さも併せ持っている。
(だからこそ彼はいつも1人だったーー)
上に立つべきものとして、彼は常に孤高であった。私は彼と婚約者としての時間を過ごすうち、そのことを段々理解していき、厳しすぎる花嫁修行に耐えれたのも彼への尊敬の念があったからだ。彼が抱える孤独を少しでも共有できるような人になりたかったから。
アウグストは誰もエスコートせず会場を訪れたようで、従者らしき人物と何か会話を交わしたのち、さっと大広間に視線を走らせーー壁の花になっている私を見つけた。
一瞬、私たちの視線が交差した。
(あ…)
その視線はすぐに逸らされたのだが、私には永遠にも感じた。
(貴方は…まだ1人なんですね…)
胸が締めつけられるような悲しみに満ちた時、かつんとヒールの音が響いて、鈴が鳴るような可憐な声がした。
「お久しぶりです、ユリアーナ様。私を覚えていらっしゃいますか?」
視線を上げると、そこにはにっこりと微笑んだラウラ・ミュラー男爵令嬢が立っていた。
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