シンデレラ、ではありません。

椎名さえら

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13 向き合う

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「田中のお姉さんなら美人と言われても、驚かない」

雄大が重ねられた手を恋人つなぎにしながらそう答える。

それから彼が呟く。

こうやって田中に触れてもいいなんて、夢のようだ。

彼の口調に込められた喜びに、勇気をもらって優実は先を続けた。

「…すっごく美人でね、性格も明るいの。勉強もできて、本当にパーフェクト。私にも優しかったし、私いつもお姉ちゃんが憧れで、羨ましくって…」

「うん」

優実は一瞬だけごくりと小さく空気をのみこみ、それから続けた。


「だけど、昔から家族は誰も私の顔が可愛いねって言ってくれなかった――みんな、お姉ちゃんが美人だねってそればかりで」

何とかその言葉を呟く。何かを感じたのか雄大の手にゆっくりと力がこめられた。

「お姉ちゃんが美人なのは私もよく分かってるの…だから私は…お姉ちゃんより可愛いって言って欲しかったわけではなくて…ただ…私は私で可愛いって認めて欲しかったの」

彼の手にすがるように、優実も力をこめた。雄大が彼女の頭の上にもう一度そっと顎をのせて、ふっと息を吐く。

「…うん、そうだな」

「みんながお姉ちゃんのことしか見ていないように感じて、いつの間にか自分に自信がなくって…それから大事にもできなかった、だから化粧とかもいつも適当で」

彼が優しく手を解くと、今度は彼女を近くに引き寄せてくれる。

「他人から見たらたいしたことないってわかってるの。きっと井上くんからしたら、本当に…甘えたことを言ってるとも思ってる。子供みたいに駄々をこねてる感じがするでしょ?だけど…」

「自分ではどうしようもなかったんだろ?」

続けようと思っていたことを雄大にはっきり言われて、優実は目を瞬いた。

「誰が何を言おうがそんなの関係ない。田中が辛かったなら、辛かった、それだけだ。自分の心を隠す必要なんてないよ」

頑張ってきたんだな、ともう一度、雄大がぎゅっと後ろから抱きしめてくれる。彼の腕に手を添わせながら、優実はまたも涙があふれだしてくるのを止めることが出来なかった。この2日間、自分は泣いてばかりだ。

「井上くん…ありがとう」

「…ん」




それから2人は過去のことから、お互いをどう思っていたのかまで、いろんな話をした。優実は生まれて初めて姉の話を他人にしたこともあって、ずっと胸の奥につかえていたものが何処かに流れていくような、そんな不思議な気持ちになった。

話は尽きなかったが、ふと気づけばもう夜になっていて、雄大が弟に車を返さなきゃいけないな、と立ち上がった。

「明日、彼女とデートに行くらしいからさ」

「弟さんにありがとうって伝えておいて」

優実は玄関まで雄大を見送った。優実を見下ろした彼はそっと手を彼女の頬に寄せると、そのまま顔を傾け、近づけてきた。キスをされるのだと分かったから、素直に目を閉じた。ちゅっと軽いリップ音がして、そのまま雄大は何回も唇を合わせてくる。彼の動きはぎこちなく本当に経験がないことが分かって、それがまた愛しさを増す。それでも何回かしているうちにスムーズになっていく。

「ごめん…止まらない…」

キスの切れ目で自制心を働かせた雄大が顔を離すと、今度はぎゅっと優実を抱きしめた。

「…戻ってきていい?翔多に車返したら」

今夜はずっと一緒にいたい、という彼の言葉に、顔を赤らめながらも優実は頷いた。



優実の家から車では15分、車なしでは40分くらいだと思うと言っていた彼は、最速だと思われる1時間ちょっとで戻ってきた。しかもコンビニの袋までぶら下げていたから、車をよほど飛ばしたのか、走ってきたのか。

「ただいま!」

微かに息を弾ませ、ぎゅっと優実を抱き寄せる彼が愛しい。一旦気持ちを告げてしまえば、普段クールな彼から想像がつかないほど、スキンシップが多かった。何を買ってきたのかを尋ねると、雄大はひかないでほしいんだけど、さっと顔に朱を走らせる。

「俺、初めてだから…ゴムとか持ってなくて、コンビニで買ってきた」

「――ッ」

「もしかしたら田中は持ってるかもと思ったんだけど、前の奴のを使うのは癪で…」

優実の顔もつられて真っ赤になった。
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