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12 近づく
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優実は涙を拭うと、自分もご飯を食べ始める。雄大は旺盛な食欲を見せ、本当に美味しそうに全てを平らげてくれた。会話は少なかったが2人の間に漂う空気はあたたかく、そんな満ち足りた時間のあと、食器を片付け始めると彼が手伝うよと立ち上がった。
「いいよ、座っててくれて」
「2人でやった方が早い」
優実に流しを使っていいか確認した後、彼が手馴れた仕草で食器を洗いだしたので、その言葉に甘えて、洗い終わりの食器を受けとり乾いたふきんで拭くことに専念した。そして備え付けの食器棚にしまっていく。身体の大きい雄大が隣に立っていると、キッチンがいつも以上に狭く感じたがその圧迫感も今は心地よい。
「うちさ、両親ともに駄目人間でさ、」
何気なく先ほどの会話が再開されたので、はっとして雄大を見上げる。彼の横顔からは何の感情も窺えなかった。
「親父の思い出はほとんどないし、お袋は夜の仕事をしていて男が入れ代わり立ち代わり…俺が中学になってからは若い男とべったりだったから…他にも昔から色々あって…俺、ちょっとおかしかったんだよな」
「おかしかった?」
「…人を好きになるとか…そういう感覚がどっかぶっ壊れて、麻痺しちゃってたみたいで」
洗剤の泡を流す水音をBGMに彼が淡々と話す。彼の食器の洗い方は仕事ぶりと同じく丁寧だった。
「今まで誰も好きになったことなかったんだ」
(…本当だったんだ…)
半ば呆然と優実はその言葉を反芻する。
「でも田中に会ったとき、なんていうか…すごく気になって…」
最後の皿を洗い終わって、彼が蛇口をひねる。水音がとまり、静寂がやってきた。
「誰かのことが気になる自体が初めてで。それからはずっと田中のことを見てた。初めて、ああ人を好きになるってこういうことなんだな、って思ってた――拒否られたら、と思うと怖すぎて、田中には言えなかったけど」
「井上くん…」
皿を受け取って機械的に拭きあげた。雄大は優実を黙って見下ろしている。彼女が食器をしまい終えると、静かに、迷惑じゃない?と尋ねてきた。
「迷惑だなんて…」
「俺、田中が気持ちを受け入れてくれたらすごく依存すると思う」
これだけ素直に自分の気持ちを話してくれた雄大に、自分も同じように気持ちを返すべきだと思った。
「私も井上くんのこと…ずっと好きだったし…それから…私も多分、重いよ」
こんなに人を好きになったのは、貴方が初めてだから。
紅茶かコーヒーでもいれようかという優実に雄大がそんなことよりと彼女の手をひっぱって、ローテーブルのところに戻ると自分が先に座ってから、優実を後ろから抱きこんだ。
「嫌じゃない?こうして話してもいい?」
「うん」
優実の返事に、雄大は嬉しそうにぎゅっと抱きしめる腕に力をこめた。
「田中も俺のこと好きだったの?いつから?」
「…初めて会ったときから」
優実は正直に話した。初めて瞳を覗き込んだ時に、どこか自分に似ていると思ったこと。それからは一緒に仕事をしていくうちに彼の性格にどんどん惹かれていったこと、モテることもよく分かっていたから自分なんかと思いを閉じ込めていたこと。
たどたどしいながらも一生懸命話すと、余計な相槌は打たずに最後まで黙って聞いていた雄大が嘘だろと嘆息した。
「田中も俺のことを想ってくれてたなんて、全然気づかなかった…俺、どんだけ余裕なかったんだろ…」
「でも…それは私も同じだから…思いもしなかった、井上くんがそうやって想ってくれてたなんて」
優実は自分のお腹あたりにある雄大の骨ばった手の上に自分の手をそっと重ねた。彼が自分の顎を優実の頭の上にそっとのせた。雄大の暖かさに勇気をもらって、優実は今まで誰にも話したことがなかったことを言葉にしようとしていた。
「私ね、お姉ちゃんがいるんだ…すごく美人の」
「いいよ、座っててくれて」
「2人でやった方が早い」
優実に流しを使っていいか確認した後、彼が手馴れた仕草で食器を洗いだしたので、その言葉に甘えて、洗い終わりの食器を受けとり乾いたふきんで拭くことに専念した。そして備え付けの食器棚にしまっていく。身体の大きい雄大が隣に立っていると、キッチンがいつも以上に狭く感じたがその圧迫感も今は心地よい。
「うちさ、両親ともに駄目人間でさ、」
何気なく先ほどの会話が再開されたので、はっとして雄大を見上げる。彼の横顔からは何の感情も窺えなかった。
「親父の思い出はほとんどないし、お袋は夜の仕事をしていて男が入れ代わり立ち代わり…俺が中学になってからは若い男とべったりだったから…他にも昔から色々あって…俺、ちょっとおかしかったんだよな」
「おかしかった?」
「…人を好きになるとか…そういう感覚がどっかぶっ壊れて、麻痺しちゃってたみたいで」
洗剤の泡を流す水音をBGMに彼が淡々と話す。彼の食器の洗い方は仕事ぶりと同じく丁寧だった。
「今まで誰も好きになったことなかったんだ」
(…本当だったんだ…)
半ば呆然と優実はその言葉を反芻する。
「でも田中に会ったとき、なんていうか…すごく気になって…」
最後の皿を洗い終わって、彼が蛇口をひねる。水音がとまり、静寂がやってきた。
「誰かのことが気になる自体が初めてで。それからはずっと田中のことを見てた。初めて、ああ人を好きになるってこういうことなんだな、って思ってた――拒否られたら、と思うと怖すぎて、田中には言えなかったけど」
「井上くん…」
皿を受け取って機械的に拭きあげた。雄大は優実を黙って見下ろしている。彼女が食器をしまい終えると、静かに、迷惑じゃない?と尋ねてきた。
「迷惑だなんて…」
「俺、田中が気持ちを受け入れてくれたらすごく依存すると思う」
これだけ素直に自分の気持ちを話してくれた雄大に、自分も同じように気持ちを返すべきだと思った。
「私も井上くんのこと…ずっと好きだったし…それから…私も多分、重いよ」
こんなに人を好きになったのは、貴方が初めてだから。
紅茶かコーヒーでもいれようかという優実に雄大がそんなことよりと彼女の手をひっぱって、ローテーブルのところに戻ると自分が先に座ってから、優実を後ろから抱きこんだ。
「嫌じゃない?こうして話してもいい?」
「うん」
優実の返事に、雄大は嬉しそうにぎゅっと抱きしめる腕に力をこめた。
「田中も俺のこと好きだったの?いつから?」
「…初めて会ったときから」
優実は正直に話した。初めて瞳を覗き込んだ時に、どこか自分に似ていると思ったこと。それからは一緒に仕事をしていくうちに彼の性格にどんどん惹かれていったこと、モテることもよく分かっていたから自分なんかと思いを閉じ込めていたこと。
たどたどしいながらも一生懸命話すと、余計な相槌は打たずに最後まで黙って聞いていた雄大が嘘だろと嘆息した。
「田中も俺のことを想ってくれてたなんて、全然気づかなかった…俺、どんだけ余裕なかったんだろ…」
「でも…それは私も同じだから…思いもしなかった、井上くんがそうやって想ってくれてたなんて」
優実は自分のお腹あたりにある雄大の骨ばった手の上に自分の手をそっと重ねた。彼が自分の顎を優実の頭の上にそっとのせた。雄大の暖かさに勇気をもらって、優実は今まで誰にも話したことがなかったことを言葉にしようとしていた。
「私ね、お姉ちゃんがいるんだ…すごく美人の」
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