婚約破棄から始まる私の悪役令嬢物語

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広がる悪行(デマ)

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これから一体どうしたものかと考えていると、私の背後にいたアイリーンが震える声で話す。

「申し訳ありません、アミーリア様!私が十分な説明を行わなかったばかりにこのような事態に陥ってしまい、一体どうしたら良いのか…」

私の顔が落ち込んでいるように見えたのか、頭を直角に下げて私に必死に謝ってくる。

「気にしないでいいわよアイリーン。勘違いであのような暴言を吐くような相手なんてこちらから願い下げよ」

そう言って気さくに笑いかけているというのに、アイリーンは尚も顔を上げてはくれない。

「私のことを気遣って、そのようなお優しい言葉をかけてくださるなんて、ありがとうございます…」

そう言ってホロリと涙を流すアイリーン。

「もういいから、さぁ席に座って食事を続けましょう?もちろん先ほどと同じく、食事マナーは厳しくチェックしてあげるからね」

「はい!よろしくお願いします」

そしていつものように厳しい指導の元で、礼儀作法が未熟なアイリーンの食事が再開される。


翌日になると私が婚約破棄されたという情報が学園全体に広まっていた。

しかも実際よりも大袈裟にだ。


「アミーリア様!」

そう言って私のことを呼ぶのは、不幸にも昨日の婚約破棄の現場に立ち会ってしまったアイリーンである。

「一体どうしたの?そんなに大きな声をあげて」

どうせ昨日の婚約破棄のことだろうと思い、淡々と聞き返す。

「どうしたのではありません!今日はいろんな人から話を聞かれたんです、何を聞かれたと思いますか!?」

やけに興奮した様子である。

「う~ん、婚約破棄されたのはなんでとか、何をやらかしたのとかかな?」

恐らく遠からず近からずといったところだろう。

「そんなものではありませんでした!皆さんの第一声は『あんな人に近づくのはやめた方がいい』でした!」

予想よりも大分ひどい言われようであった。

辛抱ならない様子のアイリーンは、そう言いながらも私の隣の席に座り話を続ける。

「どうして?って聞き返すと『だって殴られそうになったんでしょ?』とか『ラルフ様に助けられたんでしょ?』とか意味のわからないことを言ってるんですよ!」

はぁ~。

私のため息を勘違いしたアイリーンが怒涛の勢いで感情を表に出す。

「そうですよね!ため息ついちゃいますよね!?だから私が渾身の力で否定したんですよ!そうしたら、『嘘なんかつかなくったって告げ口なんかしないよ?』って言われたんですよ!どうしてここまで信じてくれないんでしょうか!?」

ヒートアップしているアイリーンを落ち着かせるために、声をかける。

「私がため息をついたのは、朝から聞こえてくる噂と一緒だったからよ。別にそういう噂自体は好きに言えばいいと思うわ。ただ…」

「ただ?」

これを今のアイリーンに言うのは火に油だと思うが、どうせわかることなら初めから教えておいた方がまだマシだろう。

「この国では私の結婚相手はもう、まともな人は見つかりそうにはないなぁって思っただけ」

それも当然だろう、この学園はアスカイア王国全土の領主の子供たちが、未来の王国を作り上げるために集められている。

そんな学園内でここまでの悪評が轟いたら、余程の物好きでない限りは私と結婚をしようと思わないだろう。

なにせ私の噂ときたら、

暴力を振るう凶暴な女、身分差を利用して思うがままに振る舞う、公衆の面前でも容赦なく泣かせる

などなど、自分からしてもこんな人間とは関わり合いになりたくないという人物像が広まっていた。

「そんな事はありません!きっとアミーリア様のいいところをちゃんとわかってくれる人が現れるはずです!」

入学してからずっと私と一緒にいてくれたアイリーンだからそんなことを言えるんだろう。

しかし、私をよく知らない人は噂を多少なりとも信じてしまうだろう。

そう思うと、本心が口からこぼれ落ちた。

「…もういいや」

「何がでしょうか?」

アイリーンの質問に、一呼吸置いてちゃんと考えてから答える。

「これまでは、ずっと将来のことを考えてなるべく自分を抑えてきたの」

私の家族構成は、両親と私の3人であり、今後も子供を作る予定はないと言われている。

子供が私しかいない。そのことが意味するのは、ゆくゆくは婚約者であったラルフが領主として我が領地を管理しないといけないと言うことだった。

だが、

「ここまで私の評判が血に落ちたら、これ以上落ちるところなんてないわよね?」」

そう言って思わず笑みを浮かべてしまう。
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