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本編
14. 街へ
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今日はよく晴れていた。
「これを持てばいいのか?」
「うん、あとこれも」
「多いな……」
「久しぶりだからね」
沢山の瓶を敷き詰めた袋を男に渡し、自分も一つ担ぐ。忘れ物はないだろうか。多分大丈夫。
「じゃあ、行こう」
戸を開けると、眩しい日射しに一瞬目が眩んだ。
雪解けの露を湛えた常緑樹がきらめいている。瞬きして目を慣らして、私と男は歩き出した。
最近はずっと家の近くしか歩いていなかったが、進めば大分春を感じる。あちこちに地面が見えていて、気の早い植物なんかは木の根の隙間から芽を生やしている。流石に動物は見当たらないが……冬眠しない魔物や狼なんかもいるしあまり能天気に浮かれるわけにもいかない。
とはいえ、少しくらい目移りするのはいいだろう。
「あっ」
「どうした?」
「この新芽、柔らかくて美味しいの」
「そうなのか……帰りに採っていくか?」
「うん。獣に食べられないといいな」
肉厚でバターと一緒に炒めると美味いんだ。私ができる数少ない調理の中で最高の一品である。もしかしたら男ならもっといい使い方がわかるかもしれない。
脳内で妄想すると涎が出てきたので、これは早く用事を済ませなければと足を早めた。
冬ごもりを終え、作り溜めた薬の売却と日用品の買い出し、そして男の髪紐を買うという目的で街に向かっている私たち。元々は私一人で行く筈だったんだが、男がそれなら私の分も買えと言ってきた。そんなのいらないと返せば、選んでやるから買えと言われ、流れで男も同行することに。
私の稼ぐ金なのに、何故こいつに口出しされなければならないのかと思わなくもなかったが……髪紐一つくらいの大したものではないし、荷物運びも楽だし、まあいいかと承諾した。
いつもの倍以上の荷物を男と分けて担ぎ、しばらく歩けば森の出口が見えてくる。木々の隙間に街を囲む壁が見えるようになったところで、一度立ち止まった。
わくわくした顔で見上げる私と対照的に男はちょっと嫌そうだ。
「早く」
「わかったから、そんなにきらきらした目で見るな」
男は私から視線を逸らし、小声で何か呟いた。魔族しか理解できない古い言葉だろう。
と――男の頭が、ぐにゃりと歪んだ。
「!」
思わず何度も瞬きをする。物理的に歪んでいるのではなく、こう……眩暈がしたときのように、私の頭がその辺りの光景だけ巧く捉えられないような、不思議な感覚に襲われた。
本当に眩暈がしたわけではないのでよろけることはなかったが、その分とんでもなく妙な心地だ。戸惑っているうちに男の頭は普通に見られるようになっていた。
小麦色のくすんだ髪と瞳に、お世辞を言えば二枚目と表せなくもない特徴のない平凡顔。
「おおっ」
「こんなものを見て面白いのか?」
「うん、うん! だって幻覚とはまた違うんでしょ。仮面というわけでもないんでしょ? 凄いなあ、骨格まで違う。筋組織も」
「……」
私が背伸びしてペタペタと顔を触るのを、男は何とも言えない顔で耐えてくれた。
「これなら騎士がいてもバレないね。うん、凄い」
「……満足したなら行くぞ」
「うん! あ」
「?」
「人間だらけの街は不安でしょう。手を繋ぐ?」
にししっ、とからかってやるつもりで手を差し出すと、はっと鼻を鳴らされた。
「迷子の子どもと思われたくないならやめておけ」
「あっ! ちょっと、今バカにしたでしょ」
「もう少し背が伸びてからにするんだな」
「ぐっ……自分がのっぽだからって!」
「はいはい」
「足が長い!」
男がすたすた歩いてしまえば歩幅の差であっという間に距離ができてしまう。小走りで追いかけて背中をどつくと、これ見よがしにため息をついて速度を緩めやがったから腹立たしい。
「これを持てばいいのか?」
「うん、あとこれも」
「多いな……」
「久しぶりだからね」
沢山の瓶を敷き詰めた袋を男に渡し、自分も一つ担ぐ。忘れ物はないだろうか。多分大丈夫。
「じゃあ、行こう」
戸を開けると、眩しい日射しに一瞬目が眩んだ。
雪解けの露を湛えた常緑樹がきらめいている。瞬きして目を慣らして、私と男は歩き出した。
最近はずっと家の近くしか歩いていなかったが、進めば大分春を感じる。あちこちに地面が見えていて、気の早い植物なんかは木の根の隙間から芽を生やしている。流石に動物は見当たらないが……冬眠しない魔物や狼なんかもいるしあまり能天気に浮かれるわけにもいかない。
とはいえ、少しくらい目移りするのはいいだろう。
「あっ」
「どうした?」
「この新芽、柔らかくて美味しいの」
「そうなのか……帰りに採っていくか?」
「うん。獣に食べられないといいな」
肉厚でバターと一緒に炒めると美味いんだ。私ができる数少ない調理の中で最高の一品である。もしかしたら男ならもっといい使い方がわかるかもしれない。
脳内で妄想すると涎が出てきたので、これは早く用事を済ませなければと足を早めた。
冬ごもりを終え、作り溜めた薬の売却と日用品の買い出し、そして男の髪紐を買うという目的で街に向かっている私たち。元々は私一人で行く筈だったんだが、男がそれなら私の分も買えと言ってきた。そんなのいらないと返せば、選んでやるから買えと言われ、流れで男も同行することに。
私の稼ぐ金なのに、何故こいつに口出しされなければならないのかと思わなくもなかったが……髪紐一つくらいの大したものではないし、荷物運びも楽だし、まあいいかと承諾した。
いつもの倍以上の荷物を男と分けて担ぎ、しばらく歩けば森の出口が見えてくる。木々の隙間に街を囲む壁が見えるようになったところで、一度立ち止まった。
わくわくした顔で見上げる私と対照的に男はちょっと嫌そうだ。
「早く」
「わかったから、そんなにきらきらした目で見るな」
男は私から視線を逸らし、小声で何か呟いた。魔族しか理解できない古い言葉だろう。
と――男の頭が、ぐにゃりと歪んだ。
「!」
思わず何度も瞬きをする。物理的に歪んでいるのではなく、こう……眩暈がしたときのように、私の頭がその辺りの光景だけ巧く捉えられないような、不思議な感覚に襲われた。
本当に眩暈がしたわけではないのでよろけることはなかったが、その分とんでもなく妙な心地だ。戸惑っているうちに男の頭は普通に見られるようになっていた。
小麦色のくすんだ髪と瞳に、お世辞を言えば二枚目と表せなくもない特徴のない平凡顔。
「おおっ」
「こんなものを見て面白いのか?」
「うん、うん! だって幻覚とはまた違うんでしょ。仮面というわけでもないんでしょ? 凄いなあ、骨格まで違う。筋組織も」
「……」
私が背伸びしてペタペタと顔を触るのを、男は何とも言えない顔で耐えてくれた。
「これなら騎士がいてもバレないね。うん、凄い」
「……満足したなら行くぞ」
「うん! あ」
「?」
「人間だらけの街は不安でしょう。手を繋ぐ?」
にししっ、とからかってやるつもりで手を差し出すと、はっと鼻を鳴らされた。
「迷子の子どもと思われたくないならやめておけ」
「あっ! ちょっと、今バカにしたでしょ」
「もう少し背が伸びてからにするんだな」
「ぐっ……自分がのっぽだからって!」
「はいはい」
「足が長い!」
男がすたすた歩いてしまえば歩幅の差であっという間に距離ができてしまう。小走りで追いかけて背中をどつくと、これ見よがしにため息をついて速度を緩めやがったから腹立たしい。
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