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六章 大戦編

百三十七 白い狐だよね

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 ヒーストランドから真東に位置するセントラルに向かうために、ヒムートと東に一週間ほど足を進めて、広大な砂漠を歩いていた。
 照り付ける太陽が大量に体力を奪う、更にカラカラの砂が足を取り鈍らせる。
 それなりに準備してきた、食料や水が底を尽きはじめた。
 隣を歩くヒムートの息が上がっている。

 「ヒムート、おんぶしようか?」
 「魔王様.......昨日の続きをしたいです」
 「いや.......夜まで待って、流石に水も食料も底を付いた砂漠のど真ん中で真昼間からエッチにしゃれこんだら死んじゃうよ」

 確かに昨日の夜は最高だった。簡易のベッドを広げ、ヒムートのまたも拡げ、その肉を貪る。お互いがお互いを求め合。疲れ果ていつの間にかに眠りに落ちていた。
 起きたときに、ヒムートを抱きしめて汗だくになっていたのは言うまでもないが。

 「夜が早くきてほしいです」
 「そだね。でもその前に力尽きない様にヒムートをおんぶするよ」
 「むーっ。魔王様! ヒムートは大丈夫です。魔王様こそヒムートがおんぶしたいです」
 「ハハハ。ヒムート。男が女の子を抱くのは自然の摂理だよ。ヒムートは俺の上に乗るのが好きなんだろ?」
 「魔王様エッチです」

 照れる、ヒムートを後ろから持ち上げて抱きしめる。
 照り付ける灼熱の太陽の中でヒムートを抱きしめながら、砂漠をただひたすら東に進む。

 「熱いです.......」
 「熱いね」

 黄色い砂の山を上りながらただひたすら歩く。

 グラグラグラグラ

 その時、砂漠の地面が揺れた。
 ヒムートを落とさないようにしっかりと抱き直して様子を伺っていると地面が割れて、中から巨大なミミズが現れた。
 
 「王様のより大きいです!」
 「ナニと比べてるの!? ナニと? 俺のナニとなの?」

 全長、見えているだけで十メートルを軽く越えているミミズと比べられても困る。
 というか大きければ良いという物じゃない。いや小さいブツより大きい方が気持ちいのかも知れないが、アレは入らないと思う。というかガバガバになっちゃうと思う。

 「って馬鹿なこと言っている間に何か増えてるよ」
 
 更に後から巨大なミミズが四体、空にグリフォンが数十体。牙を出して飛んでいる。
 
 「アレって魔物だよね?」
 「鳥肉.......魔王様.......お腹減りました」
 「今なの!? 今の今まで三日三晩飲まず食わずだった時は何も言わなかったのに! アレを狩れと?」
 
 流石はヒムート。無茶振りが命懸けだ。というかこの世界の魔物ってどういう生態何だっけ?
 ファンタジー世界に転移してるのに全く魔物と戦った事無いから魔物が肉食なのかどうかすら知らないんだけど。でもノートン達がよく襲われてたし、きっとそういう事なんだろうけど。

 「まあ、魔物程度、遊び人からジョブチェンジして魔王になった俺には余裕で勝てるんだけどね」

 『絶望付与』黒いモヤモヤが魔物達を包み込む。これで魔物達は死をも越える絶望を感じて倒れるだろう。後は倒れている間に逃げれば良いだけだ。

 黒いモヤモヤに取り付かれたグリフォンの一匹が奇声を発して.......普通に爪で攻撃してきた。

 「.......」

 それを、たまたま腰が引けた事で回避した俺は、思考が固まる。

 人間に使った時はほぼノータイムで倒れたのに.......

 他の魔物達も意に返して無いようだ。
 ミミズの口がパカリと開きグロい口内の刺々している細かい牙で飲み込もうとしてきた。

 我に返って、咄嗟に回避。砂の中に消えていくミミズの頭を見ながら結論を出した。

 「口内は人じゃなくて男の性器を入れて優しくナメる場所だぞ! この野郎」

 きっと、魔物に感情というものは無いだろう。食欲、性欲.......はないと繁殖できないから性欲はあるだろう。あのミミズ実はヒムートの事を孕ませようと!? 

 「魔王様! 下です」
 「おっおう!」

 ヒムートの声に左に横飛びすると、地面から一瞬前に俺が居た場所にミミズが口を開いて飛び出してきた。
 穴を掘る攻撃だ。穴は突っ込むものなに! くそ。
 
 「やばい。マジやばい。戦闘とか世界観は正しいけど、お話的には間違ってるよ!」

 ボヤいても、アダルトな事言ってもツッコミ役も乗ってくれる人もいない場所では体力を消費するだけだったりする。
 
 「ちょ.......助けてセレナ!」

 魔法の呪文を唱えればどんな時でも駆け付けてくれたセレナが現れない。まあセレナと仲直りしないとダメなんだろうけど。する前に死んじゃうよ!
 セレナまだ怒ってるかな? 謝ったら許してくれるかな? 大好きなんだけどな。
 アルランにセレナを探すのを手伝って貰わないと。
 セレナ。今度あったら問答無用で抱きしめて押し倒して俺のものにするつもりだよ。会いたいなセレナ。

 勿論、ロニエにも好きじゃないなんて酷いこと言ったけど、それは前の天野ロニエと比べたからの話で、俺がどうかしてたからあんなこと口ばしちゃったけど。もう一度話して感謝の気持ちだけは伝えないといけない。そのあとロニエがそれでもまだ怒るなら、俺は.......

 って、これが走馬灯かな?
 ミミズに食われる時間がやけに長く感じる。

 ミミズの牙がゆっくりと俺の体を砕こうと近付いて来ている。
 態勢が崩れてるからいくらゆっくりでもかわせない。この状況でヒムートを離したくないのは俺のエゴか、ヒムートには悪いけど死ぬなら一緒が良い。

 折角ヒムートのおかげて冷静になれたんだからこのままでいたい。もう二度とセレナとロニエを必要ないなんて思いたくない。

 グルルルルルルッ!!

 突如、獣の咆哮と共にミミズの頭に白い何かが直撃して、地面に落ちた。
 白い獣は長くふあふあしている数本の尻尾で掴みミミズの体を掴み引きちぎった。

 グルルルルルル。

 更にふあふあの尻尾を鋼の様に固く変化させて、上空にいるグリフォンに向かって凄まじい速度で尻尾を槍のように突き刺した。
 グリフォンの体を貫いた尻尾は異常な程長かった。
 その尻尾がゴムのように縮みまたふあふあな状態に戻る。

 グルルルルルル。

 威嚇と同時に、獣が跳んだ。垂直数十メートル上空まで飛んで、計九本の尻尾で上空のグリフォンを串刺しにして行く、貫かれたグリフォンが力尽き地面に落ちていく。
 上空に居た全てのグリフォンを撃墜した獣は着地してもう一度威嚇した。

 グルルルルルルッ!!

 すると、残っていたミミズが一斉に逃げ出した。
 それを、獣は見てから、逆立てていた毛を降ろして倒れる俺達を見た。

 獣が現れてからそこまでの時間は数秒。
 獣は俺を見て更に唸った。

 グルルルルルル!

 とてつもない巨体の犬? そんな体つきの獣が俺に襲いかかった。
 尻尾で体を捕まれ、口元に運ばれる。そのまま舌を出して顔をペロリ。
 味を確かめて居るのか何度もペロリペロリと舐める。

 食われる!! しかも焦らされてる!

 尻尾に捕まれたときにヒムートを離してしまったのは逆に良かった。
 そう思って天命に任せていたら、獣がついに舐めるのをやめた。
 尻尾を動かして獣の胸の辺りに抱えられた。そのままふさふさの毛とプニプニの肉球でゴシゴシされている時。
 鼻をかすめる香に覚えがあった。

 「まさか? ルミア!?」
 「グルル! グルル」

 俺の記憶は金色の人間サイズの狐だった気がするが、その四倍以上に膨れ上がり純白の毛並みに変わったのだろう。
 嬉しそうに喉を鳴らしている様に思えるので多分ルミアだろう。尻尾が増えてるのは気になるが、この状況も食べる為ではなく甘える為なのだろう。

 「ってそんなわけ無いか」
 「グルルルルルルッ!!」

 あ! ちょっと怒った。

 「やっぱりルミアなの?」
 「グルル」
 「やっぱり違うか」
 「グルルルルルル!!」
 「..............」
 「..............」

 白ギツネと静かに見つめ合っていると、ヒムートが目を擦りながら白ギツネの背中に抱き着いた。

 「狐さんだ~! 魔王様の下僕の狐だ!」
 「クゥーン.......」

 背中に乗られた白ギツネが困ったように泣くので鼻を撫でてあげる。
 というか、もうルミアだな。これで人違い.......じゃないか、狐違いだったらルミアに怒られるけど。

 「うん。この毛並み多分ルミアだな。そういういえばルミアはセレナに追い払われたんだっけ? 俺のことわかるの?」
 「グルルッ」
 「.......狐語はわからないよ.......この世界の言葉みたいに聞いてればわかるようになるかな? というかルミアは人間に戻れないの?」
 「クゥーン」

 俺の言葉は分かってるのだと思う。多分、そんな気がする。
 
 「ルミア。助けてくれたんだよね。ありがとう。助かったよ」
 「グルル」

 嬉しそうに七本ある尻尾をブンブン振りまくるルミア。
 ルミアは俺の事を覚えているようだから、ルミアにはアルランの力は通じなかったのか?
 でも、セレナ達はルミアの事をあっさり忘れてたからきくのか?
 それともやっぱりルミアじゃない狐なのか?

 「グルルルルルル。グルルルルルル」
 「うーん。よくわからないけど、私はルミアだよっ! って感じ?」
 「グルル」

 俺の通訳が正しいと言いたいのか首を縦に振る狐。
 その狐を見ながら良いことを思いついた。

 「あ! ルミア。足で地面に文字書いてみてよ。できるでしょ?」
 「グルル」

 ルミアは俺の言った通り前足で文字を書き出した。
 が.......書いてある謎の文字を見てから、ルミアの背中に乗って居る。ヒムートに頼んで読んで貰う。

 「こんな姿でもお兄ちゃんと結婚できるっ?」
 
 ヒムートの通訳にこの狐はルミアだと確信する。
 だから安心してルミアの毛並みを撫でてあげる。
 そして。

 「流石にガチ獣は無理じゃね? アブノーマル過ぎるよ。獣人位なら平気だけど今のルミア、ガチで狐だよ、いや。.......狐のお婿さん探してあげるよ」
 「グルルルルルルグルルルルルルグルルルルルル」
 「う、嘘だよ。だ、大丈夫。俺の守備範囲は白ギツネでもイケる! うんイケるよ、ルミア安心してよ。というかね。その巨体でのしかかられたら死んじゃうよ」

 ルミアがどんどん人間から遠くなってヒロイン枠から離れて行くことに驚愕しつつ、哺乳類同士だからぎりぎりイケる筈と覚悟を決める。
 そういえば。ロニエがゴキブリになったら愛せるかどうかって話したことあったけど、本当にゴキブリにだけはならないで欲しい。うん。

 「そうだ。ルミア。俺達、砂漠ナメてたんだよ。助けて。ルミアの背中に俺とヒムートを乗せてくれる?」
 
 俺が聞くとルミアは、尻尾で俺を掴んでルミアの背中に乗せてくれた。
 ふあふあしてて気持ちいのだが.......砂漠でもふもふするのは自殺行為だったりする。

 とかなとか考えている内に、ルミアがとてつもない速度で駆け出した。
 俺とヒムートの事はしっかりと尻尾で落ちないように押さえてくれてるし、風が当たって気持ちいし意外と快適な背中だった。

 途中の魔物とのエンカウントはルミアが尻尾で瞬殺していくので本当に楽チンだったりする。
 でも背中は揺れるので、次の町についたら馬車でも購入しようと心に決めた。

 ルミアの背中で砂漠を三時間程で駆けると、途中に砂漠の国を発見した。
 石の町と言ったところだ。
 国の面積はぱっと見、半径二、三キロの円状に見える。

 「ルミア。ちょっと寄っていこう。食料はともかく水分が無いとそろそろやばい」
 「グルル」

 ヒムートは俺に気を使って居るのか、わがままを言わないが、既に三日何も口にしていない。
 流石にそろそろ限界は近い。あと馬車が欲しい。

 そういう理由で砂漠の国に立ち寄ることになった。
 だが、ルミアと共に、砂漠の国に入ろうとしたところで、国の出入口に居た兵士に止められた。

 「グルルルルルルグルルルルルルグルルルルルル」
 「な! 化け物!? 」

 槍向けられたルミアが唸る。まあ自己防衛なのだが。

 「ルミア。大丈夫だよ。相手が人なら俺無敵だから」
 「クゥーン」

 ルミアの頭を撫でながらルミアに槍を向ける、兵士に黒いモヤモヤをつける。
 すると絶叫し狂い出したように、倒れた。
 ので、普通に入国した。その後も兵士達に襲われそうになったが、黒いモヤモヤを出せば皆静かにおねんねするので、水分や食料を補給した。

 ついでに砂漠の国で水分を独り占めしていた、貴族や王族達には更に深い眠りについてもらったのは言うまでもない。弱者から貴重な水を取り上げるなんて正気の沙汰じゃない。
 この世界に来て初めて良いことをしたと思っていたが、水を独占され虐げられていた人達が皆口を揃えて、ルミアを化け物と呼び、ヒムートを悪魔と呼んで感謝の一言すら無かった。
 俺も、色々言われた。

 これは? アルランが相当俺を嫌われ者にしたのだろう。
 すっかり嫌われ者になってしまったので、水分だけ補給してすぐに国を出ることにした。
 ルミアとヒムートに対して酷いことを言った群衆にはそれ相応の絶望を見せてあげた。殺してはいない。
 
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