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六章 大戦編
百三十八 赤色の少女だよね
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ルミア快速列車.......狐に乗りながら砂漠を横断し、夜には密林地帯に突入していた。
ルミアの背中は俺とヒムートで乗っても大きく、更にふあふあで、乗り心地はかなり良い。最初こそ揺れがちょっとアレだったが慣れればどうと言うことない。
というか、ヒムートが酔ってルミアの背中に黄色い液体を吐き出してから、ルミアの走りが丁寧になってあまり揺れなくなった。
「ヒムート。大丈夫?」
「魔王様。見ないで欲しいです」
ということで、まだグロッキー状態のヒムートの肩を抱き起こして水を飲ませてあげている。
ヒムート自身は、自分の不始末に珍しく顔を赤くしているが俺にとっては。
「ヒムート。俺はヒムートが大好きなんだよ。酔って吐く事は恥ずかしい事なんかじゃない。むしろ気持ち悪いのに吐くまで我慢しちゃったら駄目だよ。分かった?」
そう、俺にとってはそんなことどうでもいいのだ。ただヒムートが健康で何時もみたいに笑ってほしい。それだけなのだ。
「魔王様.......恥ずかしいです」
俺がヒムートを見つめているとヒムートが顔を背けた。
それが微笑ましくて優しくヒムートの背中をさすってあげていた。
「クゥーン」
すると、ルミアが困った泣き声を出すのでルミアにも声をかける。
「ルミアも落ち込まないで、俺の為に頑張ってくれたんだからさ。大好きだよルミア」
「クゥーン!」
少しだけ元気な声で返事をしてくれたルミアの背中とヒムートの背中を撫でながら快適に進んでいると突然、ルミアが止まった。
四本の足で地面を削りながら、自動車の急ブレーキのように足を止める。
そのまま、数メートル後ろにバックステップ。
「グルルルルルルッ!!」
そしてルミアは牙を出して威嚇の声をあげた。
柔らかい筈の尻尾も固く尖らせて七本全てを何時でも動かせるようにしている。
「ルミア!? どうしたの?」
「グルルルルルルッ!! グルルルルルルッ!!」
その動きに驚きながら、ルミアが一心に見つめている暗闇に目を懲らすと、赤髪の少女が透明の水晶と、赤色の杖を持って浮いていた。
その少女を見た瞬間、俺の心臓がドクリと鼓動した。
背中に嫌な汗をかきまくる。
だってその少女は、
「デリカ.......」
俺の元妻の一人、赤魔女デリカだったから。
俺が一度は捨てた少女だったから。罪悪感が込み上げて来る。
デリカは遠めに距離をとりながら口を開いた。
「光。全部わかっているわぁ。ワタシを助けに来たのよね? ワタシも貴方に協力しに来たのよぉ」
辺りが暗くてデリカの表情が良く見えないが、デリカは、水晶と杖から手を離して俺に両手を広げた。
「待っていたのよぉ。ワタシずっとこの時をね」
「グルルルルルルッ!!」
話ながら近付いて来るデリカに対してルミアが唸る。その声に俺は全てを理解したが.......
「ルミア、何もしないで。デリカは俺の大切な人だってしってるでしょ?」
「クゥーン」
「大丈夫。大丈夫だから、デリカに何もしちゃ駄目だよ俺に任せて」
「グルル」
それを、理解したうえで、デリカが俺に悪意を持っていることを理解したうえで、デリカを受け入れる。
「魔王様!」
「ヒムートも、デリカはヒムートと同じくらい大切なんだよ」
だからルミアとヒムートの頭と背中を一なでしてから俺もデリカに両手を広げた。
そのまま、向かって来る、デリカを抱きしめた。
ブス。
腹部に鈍い痛み、見ると小型の果物ナイフが刺さっていた。じわじわと出てはいけないのであろう、赤色の体液が流れでいる。
「ふん! 天野光! アルランからあんたは殺していいって言われてるの。ワタシを洗脳して色々していた様だけそれもどここまでね、死んで貰うわぁあんた邪魔なの」
耳元で囁かれるデリカの声に、俺の腹の痛みを度外視して、デリカを抱きしめた。
腹に刺さっているナイフがデリカを抱くことで更に奥に食い込むが、デリカを抱けている幸せに比べたら擦り傷のようなものだ。俺は一度これを捨てた痛みを知っているのだから。
「ちょっ! 何!? ーー」
「デリカ!!」
暴れるデリカを更に強く抱きしめて、喚くデリカを大声で一喝。
腹に刺さっているナイフがまた奥に食い込む。
「今は、状況も、意思も、都合も全て忘れて俺の言葉を聞け」
「何.......何なの!?」
「.......ごほっ.......ごほっ。.......デリカ。..............ごほっごほっ」
言葉を続けようとしても口から血の咳が出て声が出せない。
身体も寒くなってきた.......この世界で沢山死にかけて分かるようになった。
それは、俺はもう通常の方法じゃ助からないということだ。
でも! それでも!
「デリカ.......に殺されるなら.......それは俺の天命だよ。嫁に刺されて死ねるねるなら.......」
幸せだ。その言葉を発することは出来なかった。
出来なかったけど.......俺は満足した。
やり残した事は沢山ある。ロニエと仲直りしたかった.......セレナの事をもう一度抱きしめてあげたかった。感謝の気持ちを伝えたかった。でも.......
「って痛くない」
その事実に気づき思い出す。俺って痛みを感じない体質だったと。
腹をナイフで刺された程度でショック死する事は無いことを。
俺は、デリカの手を握ってナイフを腹部から抜く。赤色の血液がナイフにドロッと付着しているが痛くないし。
腹に有るはずの傷が既に消えていた。
変わりに、背後でバタリと倒れるヒムートがいた。
「魔王様.......死なないで」
「ヒムート!! 痛覚共有!」
そこで思い出した。ヒムートは俺の痛みを肩代わりする力を持っている。もともと痛みを感じない俺に対して使っても無駄なだけだがそこはそこでヒムートらしい。が!
ヒムートのお腹から赤い液体が流れでているのを見てすぐにデリカを離して昏倒しているヒムートのお腹の服をペロリとめくる。
綺麗な白い肌に似つかわしくない残酷な深い刺し傷.......その傷は明らかに俺の腹にあったものだ。
つまり。痛覚共有では無く。更に上の、傷害共有.......俺の傷をそのままヒムートが肩代わりしたと言うことだ。
ヒムートの流れでる血は既に致死量を超えているのでは? と思うほどドクドク流れでてくる。
奴隷時代の知識と現代医学の浅い知識を総動員して、たどり着いたのはとにかく血を止めるということだ。
「ヒムート! ヒムート!」
ヒムートの傷口を手でぺチャリと押さえ付ける。ばい菌が! なんて言っている場合も、感染病とかを気にしてる余裕も無かった。ただひたすらヒムートのお腹の傷を押さえた。
「ヒムート! ヒムート!!」
呼んでも反応が無い。傷口も押さえているのに血が止まらない。
脳裏に浮かぶ『死』の文字。
と、同時に思い出す。ヒムートとの全て。奴隷だったヒムート。成長して結婚したヒムート。更に成長したヒムート。お腹を膨らませたヒムート。そして俺の心の氷を溶かしてくれたヒムート!!
「死なせるかよ! ふざけんな! ふざけんな!!」
怒鳴りながらヒムートを助ける方法を模索する。今までで一番頭が回転している。
一秒で何通りもの考えをだしそれを、破棄していく。どれもこれも無謀なことばかりだ。
「セレナ!! 頼む! 頼むから! セレナたすけて! セレナ!! ヒムートが!!」
結局たどり着いたのはセレナだった。だが。
こんな時でもセレナは来てくれなかった.......セレナに頼れない.......どうすれば!?
俺はどうすれば!?
ヒムートと同じく傷を俺に移せば?
それは無理だ。俺には付与や増幅させる力はあっても受取る力は無い。
なら次は? どうすればヒムートは助かる? セレナなら.......呼べない.......
そこで。たまたま顔を青くさせているデリカが視界に映った。
デリカなら! そう思ったのは仕方の無い事だろう。
俺は最後の希望を込めて泣きながらデリカに頼み込む。
「デリカ! 頼むよ! ヒムートは何もしてない。頼むよ。たすけて! ヒムートをたすけて!」
肩を揺すり、デリカに懇願する。ヒムートを助けるためなら何だってする。
死ねと言うのなら死んでやる。
「ワタシ.......は.......なんで.......ワタシは.......なんで? 光を?」
だが、デリカの様子が明らかにおかしかった。
頭を抱えて、目の焦点を合わず、ブヅブツ言いつづける。
そんなデリカの頬を平手打ちした。
「!」
軽快な音が響いた。
デリカも突然の事で驚愕していた。それに俺は畳みかける。
「デリカ! 今大事なのは! 何だよ! ヒムートを助ける事だろ! 何も考えず! ただヒムートを助けてよ! 俺には.......出来ないんだよ!」
「! ワタシは.......デリカ.......ワタシの好きな人はアルラン? なんで? ワタシは! .......! ワタシは! .......!」
だが、デリカはデリカで更に混乱していた。
光の声が聞こえていなかった。それほどまでに混乱していた。
自分の中の違和感に気付いてしまった。
奇しくも目の前で血を流しているヒムートと光を見てデリカは奇跡的にアルランの呪縛を解けそうになっていた。
デリカの脳裏に浮かぶ、微かに覚え有る全く知らないはずの光景。光とデリカが抱き合い愛を囁きあっている光景。様々な光景が一気にデリカの脳内を駆け巡り、繋がった。
その瞬間、デリカの身体から黒いもや外に出て霧消した。
「ワタシは! デリカだわぁ! 光! ワタシは貴方の.......ワタシは!」
デリカは全てを思い出した。遂にアルランの呪縛を自力で解いたのだ。
だがそこで更にデリカは思い出す。
自分がアルランに操られていたとはいえ、アルランと何をしたのか! 光に捧げた身体をアルランに.......
だから、デリカは罪悪感に潰された。
「! ワタシは光を.......裏切った.......また貴方を! ワタシはぁアルランとっああああ! ああああ!! あああああああああぁ.......」
デリカの突然の発狂。
それを見て俺は咄嗟にデリカの身体に手を回していた。
「大丈夫! 信じてデリカ、大丈夫だから、デリカは俺の大切な家族の一人だよ」
「光ぅ.......ワタシはアルランと.......また光を.......光.......ワタシ光の事を裏切って傷つけてああううう.......いやぁぁ.......光..............」
涙を流すデリカの唇を無理矢理奪う。
そして付加する。最大限に増幅して付加する。ヒムートを助けたいその気持ちを。
「!」
目を見開いてデリカはヒムートに焦点を合わせた。そして。
涙を拭いて立ち上がった。
「今は、そう。ヒムートを.......ね。光」
「デリカ.......思い詰めないで。何度も言うよ。デリカは大切な家族の人なんだよ?」
「そう。.......」
唇を噛み切るほど強く噛んで言葉を飲み込んだデリカは何も言わずにヒムートの治療を始めた。
だけどデリカの目から拭いたはずの涙が溢れていた。
そのデリカの涙を止める事が俺には出来なかった。
「クゥーン」
「うん。そうだよ。デリカは悪く無い」
切なそうな声で泣いたルミアが尻尾で、デリカの身体を撫でいた。
程なくしてヒムートの出血が止まり、表情も軽くなった。
そんな時、デリカはヒムートからで手を離して止まらない涙を何度も拭いて俺を見た。
一度息を呑んでから口を開いた。
「光ーー」
「デリカ、おいで」
そんなデリカが声を発する前にデリカの頭を抱いた。
「光聞いて! ワタシは! アルランとーー」
「デリカ、セレナがさぁ。昔俺以外の人と俺の目の前でエッチしたこと有るんだよ」
「!」
トントンとデリカの後頭部を優しく指で叩きながら安心感を与えるように話す。
今のデリカに言葉をはっせさせない。
ロニエが良く俺に使った方法だ。
「その時セレナ酷かったんだよ。知らない奴に肉棒捩込まれてるのにさぁ。気持ち良さそうに喘いじゃって、竿があればいいのかって話だよね」
「!」
ビクリと震え上がるデリカの反応に失言したことを悟りつつ続ける。
ロニエみたく上手くいかないものだ。
「それでもさ、俺は今でも心からセレナを愛してるって言えるんだよ。いまはちょっとすれ違っちゃったけど。今度こそ抱きしめて離さないってきめたんだ。知らない奴に捩込まれていたセレナをだよ?」
「光ワタシはぁ.......」
「デリカ、言わなくて良いよ。どうしても何か言いたいならさ、デリカが俺のこと好きか嫌いか教えてよ、ね」
燃える火のように赤い髪を撫でながら抱きしめながら、空を見上げる。
「光.......ワタシは! 光が好きだわぁ」
「なら、それでそれだけで良いんだよ」
煌めく星を見ながらそういった。しばらくデリカの嗚咽が鳴り響いた。
俺の胸を濡らすデリカを見ながら一つだけ聞いてみる。
「デリカは俺といる時とアルランと居るときどっちの方がよかった?」
それは俺の弱さだと知りつつ聞いていた。
デリカの気持ちなど関係なく俺が一緒に居たいならいれば良い、そうロニエなら言うだろう。俺もそう思う。デリカに与える幸せ全て俺があげれば良い。そうすれば良いのだから。でも俺はそれでも分かっていても比べてしまう、アルランがデリカに与えた二年間と俺がデリカに与えた二年間を。
どちらの方がデリカにとって幸福だったのかを。
「ワタシは今が良いわぁ」
「ありがとう。デリカ、そしてゴメン遅くなって」
デリカの答は俺の望む答では無かったがそれでも俺を選んだ事だけは分かった。
誰かに選らばれる事の嬉しさだけは、どんなに体験しても色あせない美しい物だ。
そう心から思える。夜空に浮かぶ星よりも綺麗な物だ。
両手一杯にデリカを抱きながら、ルミアの背中をタップして移動を再開する。
いかなければ行けない。合わなければ行けない。全てを終わらせるために。全てを始めるために、俺の罪を償うために。何より先に俺が奪ったアルランと向き合わなければ行けない。
しがみつくデリカと、安らかに眠るヒムートそして異形の姿となっても俺の元に戻ったルミア、三人の想いに応える為に、遠い地平線の先を見つめてもう逃げないことを心に誓った。
ルミアの背中は俺とヒムートで乗っても大きく、更にふあふあで、乗り心地はかなり良い。最初こそ揺れがちょっとアレだったが慣れればどうと言うことない。
というか、ヒムートが酔ってルミアの背中に黄色い液体を吐き出してから、ルミアの走りが丁寧になってあまり揺れなくなった。
「ヒムート。大丈夫?」
「魔王様。見ないで欲しいです」
ということで、まだグロッキー状態のヒムートの肩を抱き起こして水を飲ませてあげている。
ヒムート自身は、自分の不始末に珍しく顔を赤くしているが俺にとっては。
「ヒムート。俺はヒムートが大好きなんだよ。酔って吐く事は恥ずかしい事なんかじゃない。むしろ気持ち悪いのに吐くまで我慢しちゃったら駄目だよ。分かった?」
そう、俺にとってはそんなことどうでもいいのだ。ただヒムートが健康で何時もみたいに笑ってほしい。それだけなのだ。
「魔王様.......恥ずかしいです」
俺がヒムートを見つめているとヒムートが顔を背けた。
それが微笑ましくて優しくヒムートの背中をさすってあげていた。
「クゥーン」
すると、ルミアが困った泣き声を出すのでルミアにも声をかける。
「ルミアも落ち込まないで、俺の為に頑張ってくれたんだからさ。大好きだよルミア」
「クゥーン!」
少しだけ元気な声で返事をしてくれたルミアの背中とヒムートの背中を撫でながら快適に進んでいると突然、ルミアが止まった。
四本の足で地面を削りながら、自動車の急ブレーキのように足を止める。
そのまま、数メートル後ろにバックステップ。
「グルルルルルルッ!!」
そしてルミアは牙を出して威嚇の声をあげた。
柔らかい筈の尻尾も固く尖らせて七本全てを何時でも動かせるようにしている。
「ルミア!? どうしたの?」
「グルルルルルルッ!! グルルルルルルッ!!」
その動きに驚きながら、ルミアが一心に見つめている暗闇に目を懲らすと、赤髪の少女が透明の水晶と、赤色の杖を持って浮いていた。
その少女を見た瞬間、俺の心臓がドクリと鼓動した。
背中に嫌な汗をかきまくる。
だってその少女は、
「デリカ.......」
俺の元妻の一人、赤魔女デリカだったから。
俺が一度は捨てた少女だったから。罪悪感が込み上げて来る。
デリカは遠めに距離をとりながら口を開いた。
「光。全部わかっているわぁ。ワタシを助けに来たのよね? ワタシも貴方に協力しに来たのよぉ」
辺りが暗くてデリカの表情が良く見えないが、デリカは、水晶と杖から手を離して俺に両手を広げた。
「待っていたのよぉ。ワタシずっとこの時をね」
「グルルルルルルッ!!」
話ながら近付いて来るデリカに対してルミアが唸る。その声に俺は全てを理解したが.......
「ルミア、何もしないで。デリカは俺の大切な人だってしってるでしょ?」
「クゥーン」
「大丈夫。大丈夫だから、デリカに何もしちゃ駄目だよ俺に任せて」
「グルル」
それを、理解したうえで、デリカが俺に悪意を持っていることを理解したうえで、デリカを受け入れる。
「魔王様!」
「ヒムートも、デリカはヒムートと同じくらい大切なんだよ」
だからルミアとヒムートの頭と背中を一なでしてから俺もデリカに両手を広げた。
そのまま、向かって来る、デリカを抱きしめた。
ブス。
腹部に鈍い痛み、見ると小型の果物ナイフが刺さっていた。じわじわと出てはいけないのであろう、赤色の体液が流れでいる。
「ふん! 天野光! アルランからあんたは殺していいって言われてるの。ワタシを洗脳して色々していた様だけそれもどここまでね、死んで貰うわぁあんた邪魔なの」
耳元で囁かれるデリカの声に、俺の腹の痛みを度外視して、デリカを抱きしめた。
腹に刺さっているナイフがデリカを抱くことで更に奥に食い込むが、デリカを抱けている幸せに比べたら擦り傷のようなものだ。俺は一度これを捨てた痛みを知っているのだから。
「ちょっ! 何!? ーー」
「デリカ!!」
暴れるデリカを更に強く抱きしめて、喚くデリカを大声で一喝。
腹に刺さっているナイフがまた奥に食い込む。
「今は、状況も、意思も、都合も全て忘れて俺の言葉を聞け」
「何.......何なの!?」
「.......ごほっ.......ごほっ。.......デリカ。..............ごほっごほっ」
言葉を続けようとしても口から血の咳が出て声が出せない。
身体も寒くなってきた.......この世界で沢山死にかけて分かるようになった。
それは、俺はもう通常の方法じゃ助からないということだ。
でも! それでも!
「デリカ.......に殺されるなら.......それは俺の天命だよ。嫁に刺されて死ねるねるなら.......」
幸せだ。その言葉を発することは出来なかった。
出来なかったけど.......俺は満足した。
やり残した事は沢山ある。ロニエと仲直りしたかった.......セレナの事をもう一度抱きしめてあげたかった。感謝の気持ちを伝えたかった。でも.......
「って痛くない」
その事実に気づき思い出す。俺って痛みを感じない体質だったと。
腹をナイフで刺された程度でショック死する事は無いことを。
俺は、デリカの手を握ってナイフを腹部から抜く。赤色の血液がナイフにドロッと付着しているが痛くないし。
腹に有るはずの傷が既に消えていた。
変わりに、背後でバタリと倒れるヒムートがいた。
「魔王様.......死なないで」
「ヒムート!! 痛覚共有!」
そこで思い出した。ヒムートは俺の痛みを肩代わりする力を持っている。もともと痛みを感じない俺に対して使っても無駄なだけだがそこはそこでヒムートらしい。が!
ヒムートのお腹から赤い液体が流れでているのを見てすぐにデリカを離して昏倒しているヒムートのお腹の服をペロリとめくる。
綺麗な白い肌に似つかわしくない残酷な深い刺し傷.......その傷は明らかに俺の腹にあったものだ。
つまり。痛覚共有では無く。更に上の、傷害共有.......俺の傷をそのままヒムートが肩代わりしたと言うことだ。
ヒムートの流れでる血は既に致死量を超えているのでは? と思うほどドクドク流れでてくる。
奴隷時代の知識と現代医学の浅い知識を総動員して、たどり着いたのはとにかく血を止めるということだ。
「ヒムート! ヒムート!」
ヒムートの傷口を手でぺチャリと押さえ付ける。ばい菌が! なんて言っている場合も、感染病とかを気にしてる余裕も無かった。ただひたすらヒムートのお腹の傷を押さえた。
「ヒムート! ヒムート!!」
呼んでも反応が無い。傷口も押さえているのに血が止まらない。
脳裏に浮かぶ『死』の文字。
と、同時に思い出す。ヒムートとの全て。奴隷だったヒムート。成長して結婚したヒムート。更に成長したヒムート。お腹を膨らませたヒムート。そして俺の心の氷を溶かしてくれたヒムート!!
「死なせるかよ! ふざけんな! ふざけんな!!」
怒鳴りながらヒムートを助ける方法を模索する。今までで一番頭が回転している。
一秒で何通りもの考えをだしそれを、破棄していく。どれもこれも無謀なことばかりだ。
「セレナ!! 頼む! 頼むから! セレナたすけて! セレナ!! ヒムートが!!」
結局たどり着いたのはセレナだった。だが。
こんな時でもセレナは来てくれなかった.......セレナに頼れない.......どうすれば!?
俺はどうすれば!?
ヒムートと同じく傷を俺に移せば?
それは無理だ。俺には付与や増幅させる力はあっても受取る力は無い。
なら次は? どうすればヒムートは助かる? セレナなら.......呼べない.......
そこで。たまたま顔を青くさせているデリカが視界に映った。
デリカなら! そう思ったのは仕方の無い事だろう。
俺は最後の希望を込めて泣きながらデリカに頼み込む。
「デリカ! 頼むよ! ヒムートは何もしてない。頼むよ。たすけて! ヒムートをたすけて!」
肩を揺すり、デリカに懇願する。ヒムートを助けるためなら何だってする。
死ねと言うのなら死んでやる。
「ワタシ.......は.......なんで.......ワタシは.......なんで? 光を?」
だが、デリカの様子が明らかにおかしかった。
頭を抱えて、目の焦点を合わず、ブヅブツ言いつづける。
そんなデリカの頬を平手打ちした。
「!」
軽快な音が響いた。
デリカも突然の事で驚愕していた。それに俺は畳みかける。
「デリカ! 今大事なのは! 何だよ! ヒムートを助ける事だろ! 何も考えず! ただヒムートを助けてよ! 俺には.......出来ないんだよ!」
「! ワタシは.......デリカ.......ワタシの好きな人はアルラン? なんで? ワタシは! .......! ワタシは! .......!」
だが、デリカはデリカで更に混乱していた。
光の声が聞こえていなかった。それほどまでに混乱していた。
自分の中の違和感に気付いてしまった。
奇しくも目の前で血を流しているヒムートと光を見てデリカは奇跡的にアルランの呪縛を解けそうになっていた。
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その瞬間、デリカの身体から黒いもや外に出て霧消した。
「ワタシは! デリカだわぁ! 光! ワタシは貴方の.......ワタシは!」
デリカは全てを思い出した。遂にアルランの呪縛を自力で解いたのだ。
だがそこで更にデリカは思い出す。
自分がアルランに操られていたとはいえ、アルランと何をしたのか! 光に捧げた身体をアルランに.......
だから、デリカは罪悪感に潰された。
「! ワタシは光を.......裏切った.......また貴方を! ワタシはぁアルランとっああああ! ああああ!! あああああああああぁ.......」
デリカの突然の発狂。
それを見て俺は咄嗟にデリカの身体に手を回していた。
「大丈夫! 信じてデリカ、大丈夫だから、デリカは俺の大切な家族の一人だよ」
「光ぅ.......ワタシはアルランと.......また光を.......光.......ワタシ光の事を裏切って傷つけてああううう.......いやぁぁ.......光..............」
涙を流すデリカの唇を無理矢理奪う。
そして付加する。最大限に増幅して付加する。ヒムートを助けたいその気持ちを。
「!」
目を見開いてデリカはヒムートに焦点を合わせた。そして。
涙を拭いて立ち上がった。
「今は、そう。ヒムートを.......ね。光」
「デリカ.......思い詰めないで。何度も言うよ。デリカは大切な家族の人なんだよ?」
「そう。.......」
唇を噛み切るほど強く噛んで言葉を飲み込んだデリカは何も言わずにヒムートの治療を始めた。
だけどデリカの目から拭いたはずの涙が溢れていた。
そのデリカの涙を止める事が俺には出来なかった。
「クゥーン」
「うん。そうだよ。デリカは悪く無い」
切なそうな声で泣いたルミアが尻尾で、デリカの身体を撫でいた。
程なくしてヒムートの出血が止まり、表情も軽くなった。
そんな時、デリカはヒムートからで手を離して止まらない涙を何度も拭いて俺を見た。
一度息を呑んでから口を開いた。
「光ーー」
「デリカ、おいで」
そんなデリカが声を発する前にデリカの頭を抱いた。
「光聞いて! ワタシは! アルランとーー」
「デリカ、セレナがさぁ。昔俺以外の人と俺の目の前でエッチしたこと有るんだよ」
「!」
トントンとデリカの後頭部を優しく指で叩きながら安心感を与えるように話す。
今のデリカに言葉をはっせさせない。
ロニエが良く俺に使った方法だ。
「その時セレナ酷かったんだよ。知らない奴に肉棒捩込まれてるのにさぁ。気持ち良さそうに喘いじゃって、竿があればいいのかって話だよね」
「!」
ビクリと震え上がるデリカの反応に失言したことを悟りつつ続ける。
ロニエみたく上手くいかないものだ。
「それでもさ、俺は今でも心からセレナを愛してるって言えるんだよ。いまはちょっとすれ違っちゃったけど。今度こそ抱きしめて離さないってきめたんだ。知らない奴に捩込まれていたセレナをだよ?」
「光ワタシはぁ.......」
「デリカ、言わなくて良いよ。どうしても何か言いたいならさ、デリカが俺のこと好きか嫌いか教えてよ、ね」
燃える火のように赤い髪を撫でながら抱きしめながら、空を見上げる。
「光.......ワタシは! 光が好きだわぁ」
「なら、それでそれだけで良いんだよ」
煌めく星を見ながらそういった。しばらくデリカの嗚咽が鳴り響いた。
俺の胸を濡らすデリカを見ながら一つだけ聞いてみる。
「デリカは俺といる時とアルランと居るときどっちの方がよかった?」
それは俺の弱さだと知りつつ聞いていた。
デリカの気持ちなど関係なく俺が一緒に居たいならいれば良い、そうロニエなら言うだろう。俺もそう思う。デリカに与える幸せ全て俺があげれば良い。そうすれば良いのだから。でも俺はそれでも分かっていても比べてしまう、アルランがデリカに与えた二年間と俺がデリカに与えた二年間を。
どちらの方がデリカにとって幸福だったのかを。
「ワタシは今が良いわぁ」
「ありがとう。デリカ、そしてゴメン遅くなって」
デリカの答は俺の望む答では無かったがそれでも俺を選んだ事だけは分かった。
誰かに選らばれる事の嬉しさだけは、どんなに体験しても色あせない美しい物だ。
そう心から思える。夜空に浮かぶ星よりも綺麗な物だ。
両手一杯にデリカを抱きながら、ルミアの背中をタップして移動を再開する。
いかなければ行けない。合わなければ行けない。全てを終わらせるために。全てを始めるために、俺の罪を償うために。何より先に俺が奪ったアルランと向き合わなければ行けない。
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「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
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五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました
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そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
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