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六章 大戦編
百四十 集いし者達だよね
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ルミアは走った俺の願いを聞いてくれて、その甲斐あって1時間たらずでセントラル王国の入口まで来ていた。
「これは.......セレナがまたやっちゃったのかな? セレナはセントラルに怨みでもあるのかな?」
そこで目にした光景は、呪茨の国となったセントラルの姿だった。というか数年前のセレナ暴走事件より酷い状態だ。
人々がまだ意識があるせいか茨に身体を捕られた物が皆苦痛の声をあげているので阿鼻叫喚の地獄絵図になっている。
「まあ、セレナは後々、先ずはアルランからだ」
この世界でこんなことが出来る奴は一人しか知らないって言い切れるほど俺はこの世界についてよく知らないが確信出来た。これはセレナだと。
大方、アルランにキレたのだろう。セレナは怒ると国一つ普通に滅ぼしはじめるから取り扱い注意なのに馬鹿な奴だ。
「クゥーン.......」
全力疾走をしてくれたルミアが舌を出して疲労を隠せていない。
それ程までに急いでくれたルミアに感謝が止まらない。
「ありがとうルミア、後は俺がやるからここで休んでて」
「クゥーン」
それでも足をガクガクさせながら立ち上がろうとするルミアの綺麗な毛並みを撫でながらルミアの大きい額にキスをして頭を両手で抱きしめる。
「ルミア、やっぱりルミアの事好きだわ。俺。もうガチの狐でも何でも良いや。だからここで頑張らなくてももう大丈夫だから、俺を信じて後は俺に任せてくれない?」
「ぐるる」
「うん。大丈夫、アルランの事も俺がやるから」
「ぐるる」
「うん。ありがとう。ルミア、行ってくるよ」
ルミアが足を力を抜いて俺に任せてくれたのでルミアから離れてセントラルの中に向かう。そんな俺の後ろをついて来ているデリカが聞いてくる。
「光は狐の言葉が分かるの?」
「ん? 狐の言葉はわからないけど。ルミアの言葉は何と無く分かるよ。「頑張ってっ」だって.......あ! デリカも居残りね。ルミアを守ってて」
足を止めてついて来ているデリカに疲れ果てたルミアの警護を依頼する。
するとデリカは首を横に振った。
「ワタシもアルランに用があるわぁ。だから光といく」
「いやさぁ~。デリカ。そんなこと言い出したらルミアにとっては実の.......では無いのか、何でも良いけど、一応兄だよ。そんなルミアが我慢してるんだからデリカも我慢して待っててよ」
我が儘めって感じにデリカの顔を押し返すとデリカが黒いオーラを漂わせて暗い声で言った。
「ワタシがアルランと何をしたかわかってるわよね? ワタシはもう、アイツを殺してやらないと気が済まないの」
今のデリカの目には色が無く混沌としている。言葉を間違えればデリカは今すぐにでもアルランを殺しにいくだろう。
でも俺はそんなことをデリカにしてほしくない。
「デリカが気が済まないなら後でそれをすれば良いよ。だけど今はルミアを守ってよ。デリカは自分の復讐とルミアの安全どっちが大切なの?」
だから俺はデリカに対して酷い選択を迫る。
デリカは一瞬良い淀んでから、ルミアをチラリと見てから疲れたように笑った。
「ふん。わかったわぁ。ルミアの方が大事ね」
「うん。ルミアを任せたよ」
「任されたわぁ」
復讐とルミア、その二つをはかりにかけて、ルミアを選んだデリカを誇りに思う。
俺ならどうしたか? ルミアを選ぶ事が出来るか?
そう考えながら今度こそセントラルへ向かおうとして気付く。
「ヒムート! 起きてよ! ヒムートは一緒に来てよ」
まだルミアの背ですやすや吐息を発てているヒムートがついて来て無いことに。
■■■■■■■■■■■■■■■■
アルランを茨に絡めとったセレナは、遂に目的を無くした。
アルランへの復讐それを果たしたセレナには行くべき場所もするべき事も無かった。
「違ったわ.......」
復讐を遂げれば全てが上手く行くとどこかで思っていたセレナはアルランを倒しても何も変わらない現実に絶望した。
求めていたものが違った。復讐する相手が違った。意味が無かった。
セレナは視界に映る全ての人物が同じに見えた。その全てが愛する者を奪った憎い者に見えていた。
セレナには何が違うのかわからないままただ違うことを理解した。
だからセレナは視界に映る全ての憎い者に復讐する。呪いの茨をけしかけてこの世のありとあらゆる苦痛を与える。
そんなセレナの目に映ったのはアレスだった。
が。
セレナにはそれがアレスだと認識出来ない。ただの憎い者としか見えなかった。
だからセレナはアレスに茨を向けた。
アレスは頼りになると思ったアルランがあっさりとセレナに倒された事に驚きつつ、息を呑んでアレスはセレナを見る。全身から血を流すセレナを助けたいそう思った。
だからアレスはセレナの前に姿を現した。
その瞬間アレスはセレナと目があった。あれ程優しかった。セレナの目には憎悪しかなかった。向けられた事の無い感情の篭った視線を受けアレスは後悔した。
自分ならセレナを救えると思っていた。自分の声だけはセレナに届くと思っていた。
何年もセレナと暮らして、セレナの事を母親以上に好きなった。明るく優しかったセレナを自分なら救えると思っていた。だが目を見ただけで理解した。
アレはもう無理だと。
直後アレスの身体に大量の茨が絡まりそして、アレスが感じたことある苦痛の中で一番苦痛だったことすら天国に思えるほどの苦痛が襲い掛かった。
アレスの絶叫が響いた。
そんなアレスの姿を、ロニエが見つけたとき、既にアレスはセレナの前に姿を晒していた。
セレナと唯一同じ目線で過ごしたロニエには今のセレナの気持ちがよくわかっていた。
そしてロニエは知っていた。セレナが魔王に墜ちていることを、そして一度魔王化してしまえば本人の意思を消してただ一つの感情を優先させる。セレナの場合は復讐。
この世の全てに死ぬまで復讐し続ける事が今のセレナだ。
だから、セレナがアレスを関係なくその手にかけることをわかった。だがロニエは動かなかった。別にアレスを見捨てた訳ではない。
もし、その人が来なければロニエは全力でアレスの茨を取りに走っただろう。だがその人はそこにいた。ロニエが一番信頼している人がそこに.......
「へい! ヘワタです」
ロニエは全力でヘワタから目を反らした。
そして、後ろにいるシズクに声をかける。
「シズク。気づかれてはいけませんよ。あの人はちょっと五月蝿いですから」
「母様.......アレスは?」
「五月蝿いですが。それなりに役に立ちます。アレスの身を任せられるくらいは」
シズクとロニエの会話を余所に、ヘワタはアレスの身に絡まる茨を剣で切り落としてアレスを茨から解放した。
「大丈夫ですか? アレスボス」
「だ、誰?」
「へい! ヘワタです。ボスの息子のピンチとあったら見過ごせないッス」
ヘワタは、光においてけぼりを喰らってから今日まで身を隠していた。
いつか戻ってくる筈の光を信じて。
というか、アルランがヘワタ達を指名手配にしたから身動きが取れなかっただけなのだが。
「へい! ささっと逃げるっーーー」
ヘワタがアレスの無事を確認して油断した一瞬の隙にセレナは容赦無く茨を放った、今度こそロニエは走った。
時間がゆっくりと流れた。
ヘワタは茨が回避不能だと分かるとアレスを抱き背を盾にした。
アレスには迫り来る恐怖の茨が見えていた。
だが突如、アレスの視界を何かが遮った。
茨はそれに絡み付いた。
ヘワタは来る前に軽く茨に触れていたので茨の脅威を肌で知っていた。だから来るであろう苦痛に身構えていたが、苦痛も茨も襲って来なかった。恐る恐るヘワタは振り返った。そこには.......
「ボス!!」
光がいた。ヘワタと茨の間に身を入れてヘワタを茨から守ったのだ。
ヘワタは久しぶりの再開と尊敬する光に護られたことに喜び叫んだ.......が。
「いや、ヘワタ! 何でヘワタをヒロインぽく守った見たいになってるんだよ! お前じゃないよ! 俺はアレスを守ったの!」
「ボス! 一生付いていきます」
光にはヘワタのそんな心情はどうでもよかった。
というか何でヘワタがいるのかわからない。
ヒムートと一緒に城を目指していた途中の大通りで何故か悪趣味な茨のドレスをきた血だらけのセレナがアレスを襲っているのを見付けたので取り合えず間に入って助けたのだが。
「ヘワタ! これヤバい。助けて」
「へい!」
思ったより、茨の苦痛が強力なので辛かった。
身体に巻き付いた茨をヘワタに切り落として貰っていると、声が聞こえた。
「ヒカルさ.......ヒカルさん」
視線を向けるとそこにはロニエが嬉しそうに飛びつこうとして、喧嘩したのを思い出したのか気まずそうに足を止めたロニエがいた。
「ロニエ.......取り敢えず。全部後にしない? 謝るから許して」
「嫌です。.......が。そうですね。分かりました。絶対に許しませんが今は後にします。一度身を隠しましょう」
「ん? .......いや.......セレナを」
「助けたいなら尚更です」
セレナの状態を見るまではアルランを先に片すと決めていたが、血だらけのセレナを見てはそうはいかない。
が.......ロニエの芯の篭った声と瞳に断腸の思いでロニエを抱き上げて
「ヘワタはアレスを!」
「へい!」
その場を後にした。
セレナは追っては来ないようでその場に留まり茨を増やしている。
俺とヘワタとロニエ、アレスは少し離れた石屋を背に向かい合っていた。
「それで? ロニエどういうこと?」
「その前にヒカル様.......いえヒカルさんの目的は何ですか?」
ロニエの言い回しに言いたいことはあるがセレナの姿を思い出して素直に答える。
「目的は三つ。一つ。アルランに奪われたものを取り返す。二つセレナをもう一度抱く。三つ。ロニエと.......ロニエさんと仲直りする」
「.......『さん』?.......馬鹿」
「ん?」
ロニエが俺の答を聞いてゴニョゴニョ言ったので良く聞こえなかったが.......いや本当は聞こえたが取り敢えず流す。
「いえ。馬鹿と言ったんです。バカルさん」
「ちょっ! こっちが流してるのに何なの!? 喧嘩したいの!?」
「誰が流して欲しいと言いましたか? ロニエですか? ロニエが言いましたか? バカルさん」
「ああ! そうかよ! ロニエさんがそのつもりなら俺は俺で勝手にやるからな! 馬鹿ロニエさん」
「良いですよ! バカルさんは好きにしてください。ロニエもロニエで勝手にやらせて頂きます」
せっかく謝ろうと思ったのに、仲直りしようと思ってたのにこれは酷い。トゲトゲし過ぎで取り付く島も無いとはこの事だし、そもそもセレナが大変なときに何をしてるのか。
「ロニエ母さん.......それとお父さんも今はセレナが大変なんだよ!」
と、何故か息子に諭された。
「ん? アレスお前。駄目だろう。流石にセレナを呼び捨てにするなよ。母親だぞ」
「お父さんには言われたくない! セレナ見たいな可愛い.......小さい子を無理矢理めかけにしてたお父さんには言われたくない! セレナは俺が守るんだ! もうお父さんの好きにさせない!」
ん? んん? んー。!
「何まさか? アレス。セレナを好きになっちゃったの? しかも俺が嫌がるセレナを無理矢理抱き抱えたと思ってるの?」
セレナは可愛いからなアレスが好きになるのも仕方が無い。だからセレナに三人プレイしようと言ったのに.......まあ、アレスがセレナを好きなのは倫理的にアウトだけど。
ちゃんと道徳という洗脳をして置くんだった。
「俺はセレナが何時も泣いていたのを知ってるんだ!」
「!」
「アレス! いい加減にしなさい! ロニエも怒りますよ!」
アレスの言葉に俺は、ここに来てようやく、ふざけていた事を反省した。
アレスが嘘を着く必要は無い。だとしたらセレナは俺に隠れて泣いていた.......
それは何を思って?
「アレス。ありがとう。知らなかった。いやあの時の俺は何も見てなかった。セレナの気持ちなんて気にもしなかった」
立ち上がりアレスの頭を撫でる。
「! 何処へ行くんですか!?」
「セレナが泣いてたの知ってて隠してたの?」
「それは! .......」
「いや、俺が悪いのは分かってるよ。でもさぁ.......知りたかったよ」
やっぱりロニエとはもう相いれないかもしれない。
許せない。セレナが悲しんでいたのを知ってて隠してた事がどうしても許せない。
「ロニエだって! .......いえ。ではバカルさんはどうぞセレナを助けてください。ロニエはロニエで勝手にやります」
「ああ.......好きにしてくれ.......ヘワタ」
「へい! ロニエちゃんを守ります!」
「そんなこと言ってない! が好きにしてくれ」
「へい!」
ロニエに背を向けて、セレナのもとに向かう。
その光の後ろ姿を見ながらロニエはアレスに声をかける。
「アレス君もセレナの方に言っていいですよ。今のヒカル様はアレス君の知っているヒカル様とは違いますよ。まあロニエはそれでも絶対に許しませんが」
「うん。俺何が出来るか分からないけどお父さんと行くよ。セレナを助けるんだ!」
「そうですか.......アレス君の方がヒカル様よりいい男ですね。.......一つ伝言を、今のセレナは全てが憎しみ対象にしか見えてない、と、伝えてください。それと.......いえ何でもありません。いってください」
アレスに伝言を頼んでロニエはロニエで行動する。
そのロニエに付いているヘワタがロニエに聞く。
「ロニエボス。最後なんて言おうとしたんですか?」
「ヘワタさん.......ロニエの事は.......いえ。まあ自分で思い出してください」
光の記憶を持つロニエにはヘワタの呼び方に違和感を感じるが、それを直させるのもロニエは嫌だったので指摘するのを辞める。
そしてアレスに言いかけた言葉を言った。
「フフフ。ロニエは信じています。ヒカル様なら救えると全てを解決できると。でもロニエは許しませんが、だからヒカル様には後悔して貰います。ヘワタさん。行きますよ」
「へい!」
ヘワタは見た。ロニエがへら~っと笑っているのを。
一方。シズクは、ふらふら歩いていたヒムートを保護していた。
綺麗な銀色の髪に見とれつつシズクはヒムートを押さえている。
そう押さえているのだ。今にもセレナの前に飛びだそうとするヒムートを。
「危ないですよ! 何してるですか?」
「アル君がいます。ヒムートはアル君に言わなければいけないんです、魔王様と結婚するって」
「アルくん? 魔王様.......! とにかく母様が戻って来るまで待ってください。父様.......その魔王様もすぐ来ます」
ヒムートの言葉の断片とシズクの持っている情報を繋ぎ合わせてシズクは魔王様が光であると看板した。ならば光の関係者だろうということも当たりをつける。
「! 魔王様が来るなら待ちます」
「そ、そうですか.......早く行く戻って来て下さい。母様.......そして父様」
シズクの疲労した声が静かに響いていた。
「これは.......セレナがまたやっちゃったのかな? セレナはセントラルに怨みでもあるのかな?」
そこで目にした光景は、呪茨の国となったセントラルの姿だった。というか数年前のセレナ暴走事件より酷い状態だ。
人々がまだ意識があるせいか茨に身体を捕られた物が皆苦痛の声をあげているので阿鼻叫喚の地獄絵図になっている。
「まあ、セレナは後々、先ずはアルランからだ」
この世界でこんなことが出来る奴は一人しか知らないって言い切れるほど俺はこの世界についてよく知らないが確信出来た。これはセレナだと。
大方、アルランにキレたのだろう。セレナは怒ると国一つ普通に滅ぼしはじめるから取り扱い注意なのに馬鹿な奴だ。
「クゥーン.......」
全力疾走をしてくれたルミアが舌を出して疲労を隠せていない。
それ程までに急いでくれたルミアに感謝が止まらない。
「ありがとうルミア、後は俺がやるからここで休んでて」
「クゥーン」
それでも足をガクガクさせながら立ち上がろうとするルミアの綺麗な毛並みを撫でながらルミアの大きい額にキスをして頭を両手で抱きしめる。
「ルミア、やっぱりルミアの事好きだわ。俺。もうガチの狐でも何でも良いや。だからここで頑張らなくてももう大丈夫だから、俺を信じて後は俺に任せてくれない?」
「ぐるる」
「うん。大丈夫、アルランの事も俺がやるから」
「ぐるる」
「うん。ありがとう。ルミア、行ってくるよ」
ルミアが足を力を抜いて俺に任せてくれたのでルミアから離れてセントラルの中に向かう。そんな俺の後ろをついて来ているデリカが聞いてくる。
「光は狐の言葉が分かるの?」
「ん? 狐の言葉はわからないけど。ルミアの言葉は何と無く分かるよ。「頑張ってっ」だって.......あ! デリカも居残りね。ルミアを守ってて」
足を止めてついて来ているデリカに疲れ果てたルミアの警護を依頼する。
するとデリカは首を横に振った。
「ワタシもアルランに用があるわぁ。だから光といく」
「いやさぁ~。デリカ。そんなこと言い出したらルミアにとっては実の.......では無いのか、何でも良いけど、一応兄だよ。そんなルミアが我慢してるんだからデリカも我慢して待っててよ」
我が儘めって感じにデリカの顔を押し返すとデリカが黒いオーラを漂わせて暗い声で言った。
「ワタシがアルランと何をしたかわかってるわよね? ワタシはもう、アイツを殺してやらないと気が済まないの」
今のデリカの目には色が無く混沌としている。言葉を間違えればデリカは今すぐにでもアルランを殺しにいくだろう。
でも俺はそんなことをデリカにしてほしくない。
「デリカが気が済まないなら後でそれをすれば良いよ。だけど今はルミアを守ってよ。デリカは自分の復讐とルミアの安全どっちが大切なの?」
だから俺はデリカに対して酷い選択を迫る。
デリカは一瞬良い淀んでから、ルミアをチラリと見てから疲れたように笑った。
「ふん。わかったわぁ。ルミアの方が大事ね」
「うん。ルミアを任せたよ」
「任されたわぁ」
復讐とルミア、その二つをはかりにかけて、ルミアを選んだデリカを誇りに思う。
俺ならどうしたか? ルミアを選ぶ事が出来るか?
そう考えながら今度こそセントラルへ向かおうとして気付く。
「ヒムート! 起きてよ! ヒムートは一緒に来てよ」
まだルミアの背ですやすや吐息を発てているヒムートがついて来て無いことに。
■■■■■■■■■■■■■■■■
アルランを茨に絡めとったセレナは、遂に目的を無くした。
アルランへの復讐それを果たしたセレナには行くべき場所もするべき事も無かった。
「違ったわ.......」
復讐を遂げれば全てが上手く行くとどこかで思っていたセレナはアルランを倒しても何も変わらない現実に絶望した。
求めていたものが違った。復讐する相手が違った。意味が無かった。
セレナは視界に映る全ての人物が同じに見えた。その全てが愛する者を奪った憎い者に見えていた。
セレナには何が違うのかわからないままただ違うことを理解した。
だからセレナは視界に映る全ての憎い者に復讐する。呪いの茨をけしかけてこの世のありとあらゆる苦痛を与える。
そんなセレナの目に映ったのはアレスだった。
が。
セレナにはそれがアレスだと認識出来ない。ただの憎い者としか見えなかった。
だからセレナはアレスに茨を向けた。
アレスは頼りになると思ったアルランがあっさりとセレナに倒された事に驚きつつ、息を呑んでアレスはセレナを見る。全身から血を流すセレナを助けたいそう思った。
だからアレスはセレナの前に姿を現した。
その瞬間アレスはセレナと目があった。あれ程優しかった。セレナの目には憎悪しかなかった。向けられた事の無い感情の篭った視線を受けアレスは後悔した。
自分ならセレナを救えると思っていた。自分の声だけはセレナに届くと思っていた。
何年もセレナと暮らして、セレナの事を母親以上に好きなった。明るく優しかったセレナを自分なら救えると思っていた。だが目を見ただけで理解した。
アレはもう無理だと。
直後アレスの身体に大量の茨が絡まりそして、アレスが感じたことある苦痛の中で一番苦痛だったことすら天国に思えるほどの苦痛が襲い掛かった。
アレスの絶叫が響いた。
そんなアレスの姿を、ロニエが見つけたとき、既にアレスはセレナの前に姿を晒していた。
セレナと唯一同じ目線で過ごしたロニエには今のセレナの気持ちがよくわかっていた。
そしてロニエは知っていた。セレナが魔王に墜ちていることを、そして一度魔王化してしまえば本人の意思を消してただ一つの感情を優先させる。セレナの場合は復讐。
この世の全てに死ぬまで復讐し続ける事が今のセレナだ。
だから、セレナがアレスを関係なくその手にかけることをわかった。だがロニエは動かなかった。別にアレスを見捨てた訳ではない。
もし、その人が来なければロニエは全力でアレスの茨を取りに走っただろう。だがその人はそこにいた。ロニエが一番信頼している人がそこに.......
「へい! ヘワタです」
ロニエは全力でヘワタから目を反らした。
そして、後ろにいるシズクに声をかける。
「シズク。気づかれてはいけませんよ。あの人はちょっと五月蝿いですから」
「母様.......アレスは?」
「五月蝿いですが。それなりに役に立ちます。アレスの身を任せられるくらいは」
シズクとロニエの会話を余所に、ヘワタはアレスの身に絡まる茨を剣で切り落としてアレスを茨から解放した。
「大丈夫ですか? アレスボス」
「だ、誰?」
「へい! ヘワタです。ボスの息子のピンチとあったら見過ごせないッス」
ヘワタは、光においてけぼりを喰らってから今日まで身を隠していた。
いつか戻ってくる筈の光を信じて。
というか、アルランがヘワタ達を指名手配にしたから身動きが取れなかっただけなのだが。
「へい! ささっと逃げるっーーー」
ヘワタがアレスの無事を確認して油断した一瞬の隙にセレナは容赦無く茨を放った、今度こそロニエは走った。
時間がゆっくりと流れた。
ヘワタは茨が回避不能だと分かるとアレスを抱き背を盾にした。
アレスには迫り来る恐怖の茨が見えていた。
だが突如、アレスの視界を何かが遮った。
茨はそれに絡み付いた。
ヘワタは来る前に軽く茨に触れていたので茨の脅威を肌で知っていた。だから来るであろう苦痛に身構えていたが、苦痛も茨も襲って来なかった。恐る恐るヘワタは振り返った。そこには.......
「ボス!!」
光がいた。ヘワタと茨の間に身を入れてヘワタを茨から守ったのだ。
ヘワタは久しぶりの再開と尊敬する光に護られたことに喜び叫んだ.......が。
「いや、ヘワタ! 何でヘワタをヒロインぽく守った見たいになってるんだよ! お前じゃないよ! 俺はアレスを守ったの!」
「ボス! 一生付いていきます」
光にはヘワタのそんな心情はどうでもよかった。
というか何でヘワタがいるのかわからない。
ヒムートと一緒に城を目指していた途中の大通りで何故か悪趣味な茨のドレスをきた血だらけのセレナがアレスを襲っているのを見付けたので取り合えず間に入って助けたのだが。
「ヘワタ! これヤバい。助けて」
「へい!」
思ったより、茨の苦痛が強力なので辛かった。
身体に巻き付いた茨をヘワタに切り落として貰っていると、声が聞こえた。
「ヒカルさ.......ヒカルさん」
視線を向けるとそこにはロニエが嬉しそうに飛びつこうとして、喧嘩したのを思い出したのか気まずそうに足を止めたロニエがいた。
「ロニエ.......取り敢えず。全部後にしない? 謝るから許して」
「嫌です。.......が。そうですね。分かりました。絶対に許しませんが今は後にします。一度身を隠しましょう」
「ん? .......いや.......セレナを」
「助けたいなら尚更です」
セレナの状態を見るまではアルランを先に片すと決めていたが、血だらけのセレナを見てはそうはいかない。
が.......ロニエの芯の篭った声と瞳に断腸の思いでロニエを抱き上げて
「ヘワタはアレスを!」
「へい!」
その場を後にした。
セレナは追っては来ないようでその場に留まり茨を増やしている。
俺とヘワタとロニエ、アレスは少し離れた石屋を背に向かい合っていた。
「それで? ロニエどういうこと?」
「その前にヒカル様.......いえヒカルさんの目的は何ですか?」
ロニエの言い回しに言いたいことはあるがセレナの姿を思い出して素直に答える。
「目的は三つ。一つ。アルランに奪われたものを取り返す。二つセレナをもう一度抱く。三つ。ロニエと.......ロニエさんと仲直りする」
「.......『さん』?.......馬鹿」
「ん?」
ロニエが俺の答を聞いてゴニョゴニョ言ったので良く聞こえなかったが.......いや本当は聞こえたが取り敢えず流す。
「いえ。馬鹿と言ったんです。バカルさん」
「ちょっ! こっちが流してるのに何なの!? 喧嘩したいの!?」
「誰が流して欲しいと言いましたか? ロニエですか? ロニエが言いましたか? バカルさん」
「ああ! そうかよ! ロニエさんがそのつもりなら俺は俺で勝手にやるからな! 馬鹿ロニエさん」
「良いですよ! バカルさんは好きにしてください。ロニエもロニエで勝手にやらせて頂きます」
せっかく謝ろうと思ったのに、仲直りしようと思ってたのにこれは酷い。トゲトゲし過ぎで取り付く島も無いとはこの事だし、そもそもセレナが大変なときに何をしてるのか。
「ロニエ母さん.......それとお父さんも今はセレナが大変なんだよ!」
と、何故か息子に諭された。
「ん? アレスお前。駄目だろう。流石にセレナを呼び捨てにするなよ。母親だぞ」
「お父さんには言われたくない! セレナ見たいな可愛い.......小さい子を無理矢理めかけにしてたお父さんには言われたくない! セレナは俺が守るんだ! もうお父さんの好きにさせない!」
ん? んん? んー。!
「何まさか? アレス。セレナを好きになっちゃったの? しかも俺が嫌がるセレナを無理矢理抱き抱えたと思ってるの?」
セレナは可愛いからなアレスが好きになるのも仕方が無い。だからセレナに三人プレイしようと言ったのに.......まあ、アレスがセレナを好きなのは倫理的にアウトだけど。
ちゃんと道徳という洗脳をして置くんだった。
「俺はセレナが何時も泣いていたのを知ってるんだ!」
「!」
「アレス! いい加減にしなさい! ロニエも怒りますよ!」
アレスの言葉に俺は、ここに来てようやく、ふざけていた事を反省した。
アレスが嘘を着く必要は無い。だとしたらセレナは俺に隠れて泣いていた.......
それは何を思って?
「アレス。ありがとう。知らなかった。いやあの時の俺は何も見てなかった。セレナの気持ちなんて気にもしなかった」
立ち上がりアレスの頭を撫でる。
「! 何処へ行くんですか!?」
「セレナが泣いてたの知ってて隠してたの?」
「それは! .......」
「いや、俺が悪いのは分かってるよ。でもさぁ.......知りたかったよ」
やっぱりロニエとはもう相いれないかもしれない。
許せない。セレナが悲しんでいたのを知ってて隠してた事がどうしても許せない。
「ロニエだって! .......いえ。ではバカルさんはどうぞセレナを助けてください。ロニエはロニエで勝手にやります」
「ああ.......好きにしてくれ.......ヘワタ」
「へい! ロニエちゃんを守ります!」
「そんなこと言ってない! が好きにしてくれ」
「へい!」
ロニエに背を向けて、セレナのもとに向かう。
その光の後ろ姿を見ながらロニエはアレスに声をかける。
「アレス君もセレナの方に言っていいですよ。今のヒカル様はアレス君の知っているヒカル様とは違いますよ。まあロニエはそれでも絶対に許しませんが」
「うん。俺何が出来るか分からないけどお父さんと行くよ。セレナを助けるんだ!」
「そうですか.......アレス君の方がヒカル様よりいい男ですね。.......一つ伝言を、今のセレナは全てが憎しみ対象にしか見えてない、と、伝えてください。それと.......いえ何でもありません。いってください」
アレスに伝言を頼んでロニエはロニエで行動する。
そのロニエに付いているヘワタがロニエに聞く。
「ロニエボス。最後なんて言おうとしたんですか?」
「ヘワタさん.......ロニエの事は.......いえ。まあ自分で思い出してください」
光の記憶を持つロニエにはヘワタの呼び方に違和感を感じるが、それを直させるのもロニエは嫌だったので指摘するのを辞める。
そしてアレスに言いかけた言葉を言った。
「フフフ。ロニエは信じています。ヒカル様なら救えると全てを解決できると。でもロニエは許しませんが、だからヒカル様には後悔して貰います。ヘワタさん。行きますよ」
「へい!」
ヘワタは見た。ロニエがへら~っと笑っているのを。
一方。シズクは、ふらふら歩いていたヒムートを保護していた。
綺麗な銀色の髪に見とれつつシズクはヒムートを押さえている。
そう押さえているのだ。今にもセレナの前に飛びだそうとするヒムートを。
「危ないですよ! 何してるですか?」
「アル君がいます。ヒムートはアル君に言わなければいけないんです、魔王様と結婚するって」
「アルくん? 魔王様.......! とにかく母様が戻って来るまで待ってください。父様.......その魔王様もすぐ来ます」
ヒムートの言葉の断片とシズクの持っている情報を繋ぎ合わせてシズクは魔王様が光であると看板した。ならば光の関係者だろうということも当たりをつける。
「! 魔王様が来るなら待ちます」
「そ、そうですか.......早く行く戻って来て下さい。母様.......そして父様」
シズクの疲労した声が静かに響いていた。
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ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。
絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。
伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進!
迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る!
これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー!
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◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
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